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「フェイク査読」が発覚したジャーナルは編集委員もフェイク!?

本誌では以前、「偽装査読」あるいは「フェイク査読」と呼ばれる不正行為の実例を紹介しました。そのなかで今年4月、大手学術出版シュプリンガー社が、同社が発行するジャーナル(学術雑誌)の1つ『腫瘍生物学(Tumor Biology)』に掲載された論文107件を、 フェイク査読 を理由に撤回したこと、そのことにはフェイク査読をコントロールしている業者が関係しているらしいことを紹介しました。

学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』によれば、『腫瘍生物学』は、論文の撤回数が最も多いとされている学術ジャーナルであり、しかも今回の撤回は、2015年、2016年に行われた大規模な論文撤回に続く3回目です。『腫瘍生物学』は、腫瘍・バイオマーカー国際学会(International Society of Oncology and BioMarkers : ISOBM)のジャーナルで、去年(2016年)まではシュプリンガー社が発行していましたが、現在は、SAGE社が発行しています。

しかしながら、『サイエンス』誌のニュースブログ『サイエンスインサイダー』によれば、『腫瘍生物学』の問題は論文撤回だけではなかったといいます。

このときに撤回された107本の論文はすべて、中国の研究者たちによるものでした。同誌は、研究者の論文発表を支援する専門業者がある役割を果たしているという「いくつかの証拠」がある、というシュプリンガー社の説明を紹介しています。ただ、撤回された論文の著者たちがそのことを認識していたかどうかはわからない、とのこと。

また、少なくとも1つのケースでは、撤回された論文の著者はそうした業者を利用していないし、「偽装査読者」を提案してもいない、と主張しているといいます。編集者が「偽装査読者」の連絡先情報をデータベースに保存していたため、このようなことが起こった可能性が指摘されています。

そして『サイエンスインサイダー』は、オンラインで公開されている同誌の編集委員会には、「同誌とは何の関係もない」と言う科学者数名の名前が含まれていたことを明らかにしました。そのなかにはドイツの著名なウイルス学者で、ノーベル賞受賞者であるハラルド・ツア・ハウゼン(Harald zur Hausen)も含まれていました。

2016年12月に『腫瘍生物学』の発刊がSAGE社に移行する前後に同誌が『腫瘍生物学』の編集委員としてリストアップされていた研究者すべてに、メールや電話で連絡を取ったところ、少なくとも5人は、何年も前から同ジャーナルに関与していないか、同学会を退会していることがわかりました。たとえば、前述のツア・ハウゼンは、自分が編集委員のリストに載っていることを知らなかったし、『腫瘍生物学』の論文を査読したことは一度もない、と答えました。米国ヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのアイゼア・ファイドラー(Isaiah Fidler)は、自分は『腫瘍生物学』とは「関係ない」と語り、名前をすぐに取り除くよう、編集委員長であるスウェーデンのウメオ(Umeå)大学のトーグニー・ステグブランド(Torgny Stigbrand)に依頼したといいます。

編集委員のうち7人とは連絡が取れませんでした。なかには、同ジャーナルのウェブサイトに掲載されていた研究機関には勤務していない人や、4年前に亡くなっていた人の名前までありました。

また、ステグブランド編集委員長も含めて、編集委員16人は『サイエンスインサイダー』からの質問に答えませんでした。ISOBMの理事の何名かも同様でした。

現在の発刊元であるSAGE社とISOBMは現在、理事会を再編中で、査読プロセスを見直しています。シュプリンガー社は、『腫瘍生物学』以外のジャーナルについても査読プロセスをより堅固なものとし、査読者の身元を検証するツールを開発する予定であることが伝えられています。

『腫瘍生物学』の編集委員会は、少なくともある時期までは、「フェイク編集委員」で構成されていたことになります。大手学術出版社が、がんという重要な病気の研究を発表するジャーナルでこのような事態を放置していたことは、たとえケアレスミスであったとしても、とても残念です。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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