研究者も無視できないFacebookの情報流出

全世界のユーザー数が20億を超えるFacebookをどのような目的で利用していますか?研究を広めるためや、研究者仲間とのコミュニケーションのためというのが一般的でしょうか。今、そのFacebookは個人データの不正流用をめぐる国際的なスキャンダルの渦中にあり、世界中が注目しています。事の発端が研究者によるFacebookを利用した個人データの収集であったことに目を向ければ、Facebookによる個人データの流出と不正利用疑惑問題は、研究者にとっても他人事とは言いきれません。Facebookの問題は、倫理問題をより深刻に捉えるべきであることを再認識させるものだとする記事がnatureに掲載されました。
 個人データの流出と不正疑惑
英ケンブリッジ大学の心理学者・神経科学者であるアレクサンダー・コーガン氏がFacebookの性格診断アプリを開発。この性格診断を受けるためにアプリをダウンロードしたユーザーのデータ、約5000万人分がコーガン氏によって、イギリスのデータ分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)」に売却されました。そして、この個人データが2016年のアメリカ大統領選挙やイギリスのEU脱退を決めた国民投票など、極めて政治的な事象に不正利用されたのでは、と物議をかもしているのです。2016年の米大統領選のコンサルティングに関わっていたケンブリッジ・アナリティカが、このデータをトランプ陣営の心理戦や有権者の絞り込み等に利用したと報じられ、大きな問題となっています。個人データはコーガン氏が開発した性格診断アプリを通して合法的に集められたものでしたが、アプリ開発者が、収集したデータをユーザーに通知することも同意を得ることもなく第三者に譲渡することは規約違反になります。Facebookは、2014年に個人データの不正利用を防ぐための対策を導入していますし、問題発覚後には対策を講じると発表しています。ケンブリッジ・アナリティカとFacebookは両社とも不正を否定していますが、米国議会はFacebookのCEOザッカーバーグ氏に議会での証言を要請しており、欧州議会もケンブリッジ・アナリティカのデータ悪用につき調査を進めています。
 個人データの不正利用
研究者と企業がユーザーの同意を得ずに個人データを利用した――このことによって生じた不信感や疑惑は、学術研究にとっても痛手となります。利用者の多いオンラインプラットフォームをから得られるデータは、研究にとって非常に有用な情報源でもありますが、それはあくまでもデータを正しく扱うことが前提です。取扱い方に関わらず、インターネット調査の利用に制限がかけられることもあります。倫理保護が重要視される医薬や心理学研究といった人の命に関わるような研究では、インターネット調査を対象外にすると明文化されています。
今回の問題で特徴的だったのは、心理学者であるコーガン氏が研究の一環として行った調査の結果得られた個人データを、Facebookの利用規約に反して第三者(データ分析企業)に譲渡したことです。結果、個人データが、当事者であるユーザーがまったく予期しなかった、あるいは意図しなかった使われ方をしました。データがまとめられ、アルゴリズムにかけられたことで、当たり障りのなかったデータが意味を持ち、ユーザーが非公開としておくことが妥当と考える個人情報が不当に使われたり、不本意な使われ方をしたりすることとなりました。
もちろん、研究におけるデータの収集・利用方法に関してはガイドラインが定められているので、ほとんどの研究プロジェクトは、データを倫理的に利用しています。欧米の研究助成団体はデータの倫理的利用を推進しており、「公開」データの定義を再考するよう推奨し、研究が社会および個人に害をおよぼす可能性を検討する必要性について言及しています。今後も研究者の知識をより深めるように、研究助成団体がこの取り組みを強化していくことが期待されます。
 Facebookのデータ不正利用疑惑から見えること
今回の個人データの不正利用疑惑から見えてきたのは、多くの学術分野で、革新的な技術の急速な変化に応じた利用への注意を規定に盛り込むことが追い付いていないという現実です。いまやデータ収集方法は多岐にわたり、入手できるデータ数は増大し、データ収集に要する時間と手間も大きく様変わりしてきました。研究倫理やインターネット・プラットフォームなどにおける個人データ利用に関する規約を理解しておくことは必須ですが、全てを理解するのは大変な状況です。また、研究分野によってオンラインデータに対する見解が異なることも、問題を複雑にしている一因です。例えば、心理学や社会学のような人文系の研究では、今回問題の発端になったような診断アプリやテストを通して集めたデータが研究に役立つことがある一方、コンピューター科学のような技術系の研究では、アプリのプログラムやアルゴリズムの開発を進めることが重視されるでしょう。データを利用する側だけでなく、データを作成する側にも、双方の状況に応じた研究倫理トレーニングを実施する必要があるのかもしれません。研究者は、技術革新が規定の枠を超えていることを十分に理解し、法の制限や規定に書かれていることに従っているだけでは研究倫理を順守するためには不十分なこともあると認識しておく必要があるのです。
一方、Facebookが問われているのは、個人情報を流出させた責任と個人情報の扱いに関する倫理です。確かにFacebookには個人データの不正利用を禁ずる規約がありましたが、同時に、アプリ開発者などがこの規約に違反しないように管理監督し、違反があった場合には対策をとるべき責任があったにも関わらず、今回のような社会的問題が生じたことがFacebookへの批判となっています。そのため、一部のスポンサーや広告主によるFacebookからの撤退や、ユーザーからのボイコットの動きが出ており、株価が暴落しています。さらに、当事者である英米だけでなく他国の個人情報保護を管轄する規制当局も、調査に動き出すなど、すっかり世界を巻き込んだ大事件となっています。
とはいえ、Facebookで起きた個人データの取り扱い問題は、ネットにつながっている以上、どのソーシャルネットワーク(SNS)でも起こり得るものです。どのSNSを、どのような立場で使うのであっても、メリットとデメリット、セキュリティなどさまざまな点に注意しつつ利用する必要があります。さらに、個人ユーザーとして利用する場合には、SNS上でそのネットワーク提供企業以外の第三者(企業)に自分のデータが利用されることから自分のデータを守らなければなりません。SNSは便利な反面、面倒なものでもあるのです。

Facebookは3月19日に、コンピューターなどに残る記録を収集・分析して、その法的な証拠性を明らかにすることを専門的に行うデジタルフォレンジック企業のStroz Friedbergにケンブリッジ・アナリティカの包括的監査を依頼したと表明しています。しかし、3月26日には米連邦取引委員会(FTC)がFacebookのプライバシー管理につき調査を行っていると発表され、4月5日には不正に個人データが取得されていたユーザー数は最大で8700万人にのぼると発表されるなど、当分騒動は続きそうです。

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