研究データの公開について考える
オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、研究データの公開を考えたことがありますか?という題目です。
研究データを公開・共有することで大きな影響を与えることができますが、そのためにはしっかりとデータ管理をしておく必要があります。まだ周りのPhD(博士課程)の学生があまりやっていないこと、つまり研究論文を出版するのと同様にデータを公開すること―に挑戦してみませんか。データの公開について、オーストラリア国立データサービスのリチャード・フェラーズ(Richard Ferrars)とアミール・アリヤニ(Amir Aryani)に話を聞いてみました。
貴重な研究データを公開・共有することが、新しい共同研究や、新規出版、さらには研究資金獲得につながる可能性を秘めています。ここでは、データを公開する際の5つの手順を書き出してみます。
1.データの共有:データを共有することで引用数を増やす
インターネットの普及により、研究者はかつてないほど簡単にデータの検索、抽出、分析、そして共有までできるようになりました。この「オープンデータ」化の動きは政府機関と研究者の両方に影響を及ぼしていますが、双方にとってメリットは若干異なります。政府機関にとってデータの共有は、「情報公開」に必要な費用の削減につながります。一方の研究者にとっては、国際的な研究者間のコミュニケーションを促進し、引用数の増加につながります。
データの共有が引用数に影響を及ぼすことをまとめた調査報告書があるので参照してみてください。
Sharing Detailed Research Data Is Associated with Increased Citation Rate
Data reuse and the open data citation advantage
データの共有には、学術界以外に研究成果を伝えることにも役立つなど様々なメリットがあります。しかし、データの共有は、論理的、法的、文化的な面を配慮して慎重に行われるべきことなので、研究の進捗に合わせて段階的に進めることも可能です。
2.オープンデータ:データを公開する
データを公開する際は、他の研究者にも役立つようにしておかなければ意味がありません。よって、方法、実験プロセス、略語なども含めた細かい説明などを文書化しておく必要があります。
研究者は、学術雑誌(ジャーナル)での出版論文、会議論文、その他の発表と同様にデータが重要な研究成果であるとの認識を持っていますが、データの扱い方についての認識は、若手研究者と査読者、教授など世代や立場によって多少異なるかもしれません。
研究倫理および知的財産権の適正を考慮した上で、figShare、zenodo、Australian Data Archiveなどのサービスを利用してデータを公開・共有することにより、他者がデータに自由にアクセスできるようにします。DOI(DataCiteのデジタルオブジェクト識別子)を付けてデータを公開しておけば、自分が発表した他の論文などと共に引用される機会を増やすことができます。
3.データの出版:データを出版物として扱う
データが公開されて引用されるようになれば、発表論文や会議の発表資料と同様にデータを正式な研究成果のひとつとして扱うことができるようになります。
公開されることによってデータは研究成果を示す出版物となるため、データのリストを職務経歴書(CV)、LinkedIn、応募書類、助成金申請書、所属機関や個人のホームページの自己紹介に記載することも可能です。
4.学術コミュニティへの貢献:データについて世界の研究者と議論する
インターネットは、他者の研究を知るだけでなく、自分の研究成果を伝え、議論する場でもあります。あなたは、研究者であると同時に論文発表者であり、また情報の検索者であり、閲覧者・読者でもあるわけです。あなたが多くの公開された論文から知見を享受できるのと同じように、あなたも論文を公開することで学術コミュニティに貢献することができます。
今や、インターネットを使って簡単に研究成果を世界に広め、議論することができるようになりました。データを共有することで他の研究者からも一目置かれる存在となれるかもしれません。
5. 2014年以降、ARC助成金申請の際はデータ管理計画の立案を
2014年の早い時期に、オーストラリア研究会議(Australian Research Council: ARC)は、世界の研究者会合において研究データの重要性の認識について踏み込みました。ARCは、研究者がDiscovery Grant(研究助成金) とFellowship(研究奨励金)に申請する場合、研究課程で作成されるデータの管理計画を含めるように求めています。ARCが特筆して求めているのは「該当の研究の結果として得られたデータの管理方法、そこには保管方法に限らずアクセスの確保および再利用の手続きも含める」に関する計画の作成です(ANDS Funders guidelinesを参照)。
PhDの学生の頭にはまだ助成金申請はないかもしれませんが、データの扱いにつき計画し、効果的に管理、共有する方法を考えておくことは、助成金申請を行うときに役立つでしょう。
データを共有・公開し、データについて議論したり計画を立てたりすることは、研究者にとって有益なことです。このようなことを準備し、行動に移すことは、キャリアパスの中で若手研究者が同僚よりも一歩先にベテラン研究者に向けて踏み出すことにつながります。また、データを共有することによって引用が増え、助成金申請が強化され、研究者が世界の研究者と議論を行う新たなチャンスを生み出すこととなるでしょう。
ここでご自分の状態を振り返ってみてください。データ管理計画を作ってありますか?データを簡単に共有できるように、データを意識的に管理し、フォーマットを整え、保存または準備してありますか?以下にデータの共有にも役立つ情報へのリンクを書き出しておくので参考にしてください。
データ共有と引用に関するお役立ち情報へのリンク
Does sharing your data increase citation rates? [ Sharing Detailed Research Data Is Associated with Increased Citation Rate]
Data re-use and citation rates [Data reuse and the open data citation advantage]
How to create a citation for data [Why is it so important to cite data?]
The Australian Data Archive
Figshare(フィグシェア) – cloud service to upload and share data(データをアップロードおよび共有するクラウドサービス)
Zenodo – cloud service to upload and share data(データをアップロードおよび共有するクラウドサービス)
原文を読む: https://thesiswhisperer.com/2014/12/03/ever-thought-of-publishing-your-data/