small talk:料理の話題と研究者

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる研究者交流です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―今回はシリーズ第7回目です。

small talk: 料理の話題と研究者

大学でそれなりの地位についているヨーロッパの知識人の中には、料理やお酒について相応の見識(あるいは一家言)を持っている人が多いというのが私の見解です。日本の大学からは想像しにくいかもしれませんが、オックスフォード大学では、美しい庭園を持っているか、という基準とともに、腕の良いシェフがいておいしい料理を提供しているかどうかが、各コレッジの一つの評価基準になってきました。19世紀半ばまでは聖職者の養成機関としての機能が主だったことから、地味な研究生活の中で独身の学究たちが楽しみにしていたのが料理でありワインだったのでしょう。

フランス料理, ワイン、シェリー、etc.

欧米圏での研究者交流の場面を考える時、料理はもちろん、社交の場で出されるお酒(wine, champagne, sherry, punch, vermouth など)の知識は、ある程度必要ではないかと考えます。ただ、私には一つ失敗談があります。何十年も前、イギリスのバースという古風な町で、全くの偶然から、初対面の老夫婦と2時間ほど話しをしたことがあります。私がついうっかり、ワインが好きだ、という意味のことを伝えたところ、老齢のイギリス紳士は、「ワインが好きなのか、それならどこのどのワインがおいしいか、一緒に今から議論しよう」と挑発されました。グウの音も出ませんでした。知ったかぶりをするものではない、と反省しました。あとでわかったことですがその老紳士は、Sir Stanley Tomlinsonという当時すでに引退していた著名な外交官で、戦前の日本を含めて世界中を飛び回っていた連戦練磨のワイン通だったのです。

さて日本でも最近は、世界的水準のフレンチレストランもあり優れたソムリエもいて、相当な味覚と知識を備えた人も多いでしょうが、なじみが薄いのはシェリーです(sherry: スペインのJerezへレスに由来)。ところがヨーロッパでは、食前酒でシェリーが出てくることがあります。luncheonやdinner の集合時間は30分ほど幅をとって設定されており、ぽつりぽつり到着するゲストにシェリーがふるまわれます。若い頃、シェリーを一度も飲んだことがなかった私は、シェリーのボトルを見せられ、”dry or sweet?”と聞かれてまごつき、訳が分からず “Dry, please.”などと口走ったことがありました。


崎村 耕二  (さきむら こうじ) 

日本医科大学 武蔵境校舎 外国語教室 教授。1957年生まれ。オックスフォード大学ウルフソン・コレッジ客員研究員、高知大学教授,京都工芸繊維大学教授を経て2013年より現職。一般社団法人 学術英語学会 代表理事なども務める。専門は、テクスト分析,言語表現論。現在、医学部で、医学英語の語源と語形成などを講義。英語コーパス学会会員、医学英語教育学会会員、Oxford Union Society (弁論部)終身会員等。著書に、『最新 英語論文によく使う表現 基本編』(25年以上のロングセラー改訂版)、『英語で明確に表現する』 、『英語で論理的に表現する』(以上、創元社)、『論理的な英語が書ける本』(大修館書店)などがある。

 

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