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新型コロナウイルスワクチン の動向

世界中で新型コロナウイルスワクチンの開発が待たれる中、主要国間の開発競争が激しさを増していると聞こえてはくるものの、分からないことだらけです。ワクチン開発はどこまで進んでいるのか、供給されるようになるのはいつなのか?ヒトへの臨床試験は安全なのか?現在もワクチン試験が進められているが、その効果と安全性は?どのように供給されるのか?供給は公平に行われるのか?多くの人が不安を抱えている状況です。今回は、現時点までにわかっているワクチンの開発情報と公平な供給を確保するための取り組みについてまとめてみました。

新型コロナウイルスワクチンの開発状況

一般的に、ワクチンの開発には4年から10年、状況によっては年十年も要すると言われています。例えば、エボラ出血熱ワクチンの開発には約5年、ポリオワクチンの開発には約40年を要しました。史上最速で承認されたと言われるおたふくかぜのワクチンでさえ、臨床段階から認可されるまでに4年を要しています。ワクチンは、前臨床試験および臨床病期を含めた数々の段階的な試験を経て認証されるのが理想的です。通常、それぞれの段階で約2年もしくはそれ以上の年数が費やされるのですが、新型コロナウイルスワクチンの開発競争に勝つために、製薬会社は幾つかの段階をスキップあるいは複数段階を組み合わせた試験を行うことで開発スピードを上げています。

研究者はこの状況に慎重に対応する必要があります。ワクチン開発競争に参戦したいという誘惑と参戦しろというプレッシャーが、ワクチンの安全性と有効性に支障を来すものであってはなりません。公衆衛生の専門家は、十分な分析と試験が行われることなくワクチンが早々に承認され、市場に投入されることを懸念しています。ワクチンを早期展開することは、ワクチンの有効性を的確に判断するための科学的な厳密さを損なう可能性があるだけでなく、予期しない副作用を確認する時間的・臨床件数的な余裕が少なくなる危険性も捨てきれません。当局は、ワクチンを承認する前に、そのワクチンのリスク・ベネフィット比(副作用対効果の比較)を慎重に検討する必要があります。

ヒト感染試験への参加

ワクチン開発の段階試験として、意図的にそのウイルスに感染させる試験も行われます。金銭的報酬が示された場合、あなたはこのヒト感染試験の被験者になりますか?世界各国で行われている新型コロナウイルスのヒトでのチャレンジ試験(曝露試験)のボランティアになると手を挙げた人の数は、3万8千人を超えています (11月9日時点)。

コロナウイルスワクチンの試験として、ヒト感染試験あるいは曝露試験と呼ばれる試験の実施に向けた準備が進められています。ヒトでの曝露試験とは、臨床試験の手法のひとつで、ワクチンを接種した後、あえて実際の病原体である新型コロナウイルスに被験者をさらすことでワクチンの安全性や有効性を評価する試験です。リスクが高いように見えますが、世界中で感染者が増え続けている状況下での選択肢は限られています。すでに各国でランダム(無作為)にワクチンまたはプラセボ(偽薬)を投与して安全性や有効性を比較する第3相臨床試験が大規模に実施されていますが、これだけでは実際の有効性を評価できるまでに時間がかかります。ヒトでの曝露試験が実現すれば、臨床試験に要する期間を短縮させ、ワクチン開発が促進されることになるので、結果として何百万人もの命を救い、生活を守ることができるとの信念に基づいて計画が進められています。致命的な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への意図的な感染には不安が伴うものの、安全かつ倫理的に行うことは可能だとされており、実行されればこの感染症に関する膨大かつ重要なデータを得るために役に立つことでしょう。

新型コロナワクチン開発情報

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム配列とその他の関連情報がNCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)の運営するGenBankから公開されるやいなや、世界中の研究者が効果的なワクチンを開発すべく猛スピードで研究を進めています。24時間体制で取り組んでいる研究グループもいるほどです。現在、180以上の候補が挙げられており、世界保健機構(WHO)の11月3日時点のまとめによれば、臨床試験に入っている新型コロナウイルスワクチンの候補として47種類がリストされているほか、155種類が前臨床の段階にあります。ワクチン開発で先行している(第3相臨床試験段階、フェーズ3にある)のは、イギリスのアストラゼネカ(オックスフォード大との共同開発)、アメリカのモデルナ、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、シババックス、中国のシノバック、カンシノ、シノファーム、ドイツのビオンテック、ロシアのガマレヤ国立疫学微生物研究所などです。

これらの試験が進む中、重篤な有害事象が起きたことにより試験が中断されるケースも出ているほか、ロシア政府がガマレヤの開発したワクチンのフェーズ3試験の結果を待たずに承認薬として登録した ことなどが話題になっています。ワクチン開発動向や治療薬の開発については、関連情報をまとめたサイトなどもあるので参考にするとよいでしょう。研究者らは、2021年初めにワクチンの提供が開始できるようになることを期待していますが、時期についてはまだまだ予断を許さない状況です。

ワクチンの信頼性を確保するために

熾烈な競争が繰り広げられている新型コロナウイルスワクチンの開発競争。イソップ寓話の「ウサギとカメ」では、ゆっくりでも着実に進むことが勝利につながることが示されています。ワクチン開発も同じで、開発が速い企業が勝者になるとは限りません 。長期的な安全性、総合的な有効性に関する十分かつ信頼できるデータが確認されることなく早々に承認されたワクチンが最適なものではないと判明した場合はどうなるのでしょうか。ワクチン開発における不手際やミスがひとつでもあれば、新型コロナウイルスワクチンの接種に対する不信感を高めてしまう恐れ があることからも慎重さが必要です。この状況を踏まえ、アメリカ食品医薬品局(FDA)はワクチンの承認要件を、病気の発生率もしくは重症化率を50%以上削減すること、と高めに設定しています。その上で、リアルタイムでデータを更新し、定期的に医薬品の副作用評価報告(pharmacovigilance assessment report)を公開することで、一般の人が状況を判断できるようにする必要があるとしています。

公正かつ公平な提供は可能か

早くも新型コロナウイルスワクチンを開発する製薬会社とワクチン供給契約を結ぶ国が出ています。日本政府も、 7月末にアメリカのファイザーが開発中の新型コロナウイルスのワクチン6千万人分の供給を受けることで基本合意し、10月末には2500万人分のワクチンを供給する契約を同じくアメリカのモデルナと結んだと発表しました。該当ワクチンのヒトへの試験が最終段階に至っていない、あるいは規制承認が得られていない状態にもかかわらずこのような動きが進んでいるということは注目に値します。というのは、一部の国が供給契約を先んじて進めている裏で、低開発国あるいは恵まれない国々にワクチンを妥当な価格で提供することが危ぶまれるとの懸念が高まっているからです。

WHOは、特定の国々が新型コロナウイルスのワクチンを買い占めてしまうことは、パンデミックを深刻化させる恐れがあると警告しています。ワクチンは有限なので、すべての国がその恩恵を得られるように戦略的かつ公正な分配が行われることを求めています。WHOは、世界連携でワクチン開発を促進するための官民連携パートナーシップである感染症流行対策イノベーション連合(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:CEPI)と子どもの予防接種プログラムの拡大を図るGAVIアライアンス (GAVI, Vaccine Alliance)と連携し、ワクチンを共同購入する仕組みであるCOVAXファシリティを立ち上げました。新型コロナウイルスワクチンの国際的な調達・分配に関するこの取り組みは、低所得・中所得国への新型コロナウイルスの公正かつ公平な分配を保証することを目的としており、現在、9種類のワクチンと、世界172カ国が参加しています。

ワクチン需要は増大する一方なのに対し、供給は限られているため、物流における不正行為や違法な取引が生じる可能性が高いことも懸念されています。ユニセフ(UNICEF)は、医療品の不正な流通と改ざんに対処すべく、ワクチンの輸送にトレーサビリティと可視化を高めるためのバーコードとGS1規格を採用するよう推奨 しています。

新型コロナウイルスワクチンについては課題山積です。ワクチンの入手の可能性に続いて、その割り当てが課題 となることでしょう。もちろん、パンデミックをコントロールできるようになることが最重要課題です。そのためのワクチン接種において誰を優先すべきかを、各国政府や行政当局が決めるべきなのでしょうか?WHOは、医療やヘルスケア関連の従事者、抵抗力の弱い人たち、年配者、人口の集中する都市部に居住する人たちに配慮するよう推奨しています。

新型コロナウイルスワクチンがいつ実用化され、接種できるようになるかはまだ分かりません。日本はこれから冬になって換気しにくくなるうえ、インフルエンザの同時流行も心配されています。厚労省 も新型コロナウイルスのワクチンに関する情報を発信しているので、参照にしつつ個人にできる対策を怠らないようにしましょう。

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