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再現性確保のため、研究不正に対する取り組みを

ある研究結果について、「再現性があるかないか?」ということと、「研究不正があるかないか?」ということは、まったく別のことです。再現性がなくても、そのことは必ずしもその研究に不正(捏造、改ざん、盗用など)があることを意味しません。単に確認が不十分であったからだとも考えられます。
しかしながら、「再現性のなさ(irreproducibility)」の原因として、研究不正は無視できない一因であるということを、コロンビア大学の名誉教授で精神医学を専門とするドナルド・S・コーンフェルドらは今年8月31日付の『ネイチャー』に寄稿した「研究不正を無視するのをやめよう」という論評で強調します。

再現性のなさは、2つの要因の産物である。1つは不完全な研究行為であり、もう1つは研究不正である。われわれの見解では、科学を向上させるために現在行われている取り組みは、2つめの要因を軽視している。

たとえば、2014年、アメリカ国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)のフランシス・コリンズ所長は、「わずかな例外を除いて、再現性のなさの原因が研究不正であることを示唆するエビデンスはない」と同じ『ネイチャー』誌上で述べました。
アメリカの政府機関で、研究不正を取り締まる役割を持つ「研究公正局(ORI: the Office of Research Integrity)」によって、再現性のなさが問題となったケースで、研究不正を行ったと認定される研究者は年間わずか10〜12人です。しかし、

研究不正の果たしている役割を軽視することは、誤りであり、残念なことだ。最善の場合でも、 再現性 を高める努力において意図的な不正行為を無視することは無駄なことであり、岩を取り除かないで畑を耕すようなものである。最悪の場合、破壊的な行為を持続させ、広めてしまう。

とコーンフェルドらは厳しく批判し、具体的なデータを提示する文献を参照します。
1973年から2012年にかけて撤回された生命科学分野の論文2047本を調べたあるレビューによると、そのうち約43パーセントは、不正もしくは不正の疑いが理由でした。またある匿名の意識調査では、科学者や学生の2パーセントが、データを捏造したり改ざんしたり改変したりしたことがあると認めました。そしてポスドク1000人を対象にした1999年のある調査では、4分の1以上が、助成金を受け取るチャンスを高めるためにはデータを選択したり削除したりするだろう、と答えています。
コーンフェルドらは「不正行為が科学や科学者、社会にもたらすおそれを減らすために」、以下のような5つのアプローチを提案しています。

・ 関係当局は、意図的な不正行為が再現性のなさの重要な原因であることを認識すべきである。
・ 指導者(mentor)は、質を高めるために評価されるべきである。不正行為の一因となる者は処罰されるべき
である。
・ 研究機関や政府機関は、公益通報者(whistle-blower)を報復から守る方法を持つべきである。
・ 研究不正を確認された年長の教員は、重い処罰に直面するべきである。
・ 研究不正を防ぐための方針や行程をつくらなかったり実施しなかったりする研究機関は、処罰を受けるべきで
ある。

コーンフェルドらは、科学研究における職位に応じて、人を研究不正へ導いてしまう心理的因子に取り組むことを提案します。
たとえば「学生(trainee)」については、学生を指導する指導者(mentor)や、予算支出機関、研究機関の責任が強調されます。研究不正が明らかになった学生たちを調査したところ、彼らの指導者たちのうち62パーセントは、データの所有権や記録、安全性、材料の移転、定期的な会議の実施といった、研究室として不可欠な手続きを行なっていないこと、また、73パーセントは学生の生データを精査していないことがわかりました。また、がんの研究所で行われたある調査では、学生140人のうち3分の1近くが、指導者の仮説を「証明」しなくてはならないというプレッシャーを感じていることがわかりました。「たとえ(実験や調査の)結果が仮説をサポートしなくても」、です。コーンフェルドらは、学生たちに匿名のアンケート調査を行い、指導者たちを評価させて、その結果を学部長だけでなく予算支出機関にも知らせることなどを提案します。
また、ORIによって研究不正を行ったと認定された者のうち3分の1は、テクニシャン(実験技術者)や採血者、データ収集係といった「サポートスタッフ」だといいます。「彼らは、研究者の非現実的な生産目標に応じて、自分たちの収入を増やしたり、仕事量を減らしたりするためにデータを改ざんしてきた」ようです。コーンフェルドは、彼らを研究チームの大切な一員として扱うことを推奨します。
また、「年長の研究者(senior researcher)」は、研究不正にかかわることは多くはないが、その責任の取り方に問題があることが指摘されています。たとえば、教員の80パーセント以上は、追放されたり評判が傷ついたりすることを恐れて、研究不正の可能性を報告することをしぶる、といいます。実際のところORIのある調査では、研究不正を報告した者68人中47人が「悪い影響(adverse consequence)」を経験したことがわかりました。したがって、公益通報者を手助けするための方針と、よく訓練された研究公正管理官(RIO: Research Integrity Officer)の存在が重要です。RIOには公益通報者を報復から守る義務が求められます。
そして「研究機関(institution)」は「公正さ(integrity)を育む文化やインフラを構築しなければならない」とコーンフェルドらは主張します。「公正さを確約する方針を確立・実行することに失敗した研究機関は、研究不正が発生したときには責任を取る必要がある」。たとえば2014年には、アイオワ州立大学は1人の研究者の不正が明らかになったため、49万6000ドルもの助成金を返還したといいます。
コーンフェルドらは、こうした多方面からの対策こそが、研究不正を原因とする再現性のなさを改善するためには重要である、と考えています。
NIHのコリンズらも、再現性のなさの主な原因が研究不正であることには賛成しないかもしれませんが、研究不正を防ぐために対策が必要であることには同意するでしょう。
日本でも研究不正は相次いで発覚しており、他人事ではないはずです。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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