影響力のある関連団体による編集介入は許容されるのか

2018年もさまざまな研究不正が発覚し、研究界を揺さぶり続けました。データのねつ造、収集データの意図的な虚偽表示、画像の改ざんなどは露呈した研究不正のほんの一例ですが、12月になって、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)の諮問委員会のトップが、資金援助を受けている業界団体に対して、発表前に研究論文の編集介入を許容していたという倫理的に問題視される事態が判明して話題となりました。

背景には、資金提供者と研究者とのつながりは見つけにくいという問題があります。しかし、利害関係のある外部団体が発表前の論文を編集するのを認めるということは、学術的に許されるものなのでしょうか。

 政府機関におよぶ業界団体の影響

この話は学術界に留まりません。米国における大気汚染基準の大幅な見直しを行うEPAの委員会を率いているのは、規制強化に反対する団体から資金提供を受けていた研究者です。しかも、この研究者、トニー・コックス(Tony Cox)が業界団体に自身の研究成果の編集を許容したことを認めたことが論議の的となっているのです。研究成果に何らかの影響をおよぼしかねない研究の資金提供者に、発表前の論文への編集介入を認めることは異例です。まして、該当論文が政策決定に関連するとなれば、なおのことその影響は重大です。

そもそも、なぜ業界団体からの資金援助を受けていたコックスが国の環境政策に助言を行う立場にある大気清浄化科学諮問委員会(Clean Air Scientific Advisory Committee: CASAC)の委員長になったのかと言えば、非常に政治的な裏があります。コックスを任命したのは、元EPA長官スコット・プルーイット(Scott Pruitt)です。プルーイットは、EPAの助成金や資金提供を得ている研究者は、科学諮問委員会の委員として偏見(バイアス)があるという理由で多くの委員を解任し、逆に業界団体から資金援助を受けている研究者を諮問機関に参加させようとの動きの一環でコックスを任命しました。プルーイットは地球温暖化対策に批判的な姿勢を示しており、EPA科学諮問委員会の透明性と委員の独立性を高めることを目指したとされています。しかし、長官就任以来、プルーイット自身に対する職務倫理違反などの疑惑をめぐる調査が進み、2018年7月に辞任しました。

■ コックスの論文と石油協会のつながり

問題となったコックスの論文は、2017年にエルゼビアが出版するToxicologyの評論(Critical Reviews)に掲載されました。この学術雑誌(ジャーナル)は、業界団体の出資のもと行われた研究成果が掲載されることでも知られており、掲載された論文が政府による規制に反論するため引用されることもあります。コックスが発表したのは、大気汚染と人体の健康との因果関係を検証した論文でしたが、この研究は米国石油協会(American Petroleum Institute:API)による資金援助を受けていました。APIとは、米国内の石油・天然ガス産業の保護と繁栄を目的として設立された業界団体で、大気を汚染するとされる粒子状物質(PM)が公衆衛生への脅威になるという証拠に対し、数百万ドルをかけて反論を展開しています。つまり、大気汚染の防止策とは相反する動きをしている団体です。にもかかわらず、コックスはこのAPIが掲載前の論文の校正と校閲を行ったと記しています。

■ 不正行為に該当するか?

コックスは、APIは研究の実質的な中身を書き換えてはいないし、APIのフィードバックを取り込むかどうかは自分で判断したと主張しています。資金援助をしている団体による研究成果への影響はない、という立場を維持しているのです。

研究の資金援助をしている組織が論文の編集を行うことは研究不正にあたるのでしょうか?また、影響がないという主張は信じることができるのでしょうか?

こうした行為を極めて異例だという人たちは多数います。科学の悪用を防ぐことを目的に設立された米国の科学者団体「憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)」のCenter for Science and Democracyの研究部長であるグレッチェン・ゴールドマン(Gretchen Goldman)は、コックスの主張は重視すべきではない、と力説しています。些細な変更であっても、業界団体のメッセージを伝えるために研究論文を都合のよい媒体に変えてしまうことは起こり得ると言うのです。より重大な問題は、研究者と資金提供者が何らかのつながりを持っているかは分かりにくい上、こうしたことが起これば研究自体への信頼性に疑問が生じることにもなりかねないことです。そして、このEPAの事例のように、政策に影響をおよぼすことすら懸念されます。

■ 関連団体や資金援助者からの影響と研究の信頼性

研究への資金援助をしている組織が研究論文を編集するという行為自体は、本来、不正にはあたらないかもしれませんが、利益相反にあたる可能性はあります。結果として研究の信頼性が損なわれる危険は拭えません。研究者は、本当に資金提供者の影響を受けずに研究を行うことができるのでしょうか?そして、資金援助している団体が研究の内容に関係していることが明らかな場合、発表前の論文を編集することを認めることは妥当なのでしょうか?

この問題は、産学官の連携の増加や資金提供団体の多様化などと関連し、今後も増えることでしょう。いずれにせよ、研究結果に経済的な利害関係を持つ人たちは、結果に影響をおよぼすことに関心があるのは明らかなようです。学術界は、以前にもましてさらに多くの問題に直面することになりそうです。

 

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