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第6回 学術界における カラーユニバーサルデザイン

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。


正確性の求められる学術界において、聴衆100人のうち5〜10人に情報が正しく伝わらなかったら――それは情報の送り手にとっても受け手にとっても、大きな損失ではないでしょうか。まずは問題の存在に目を向けましょう。

    1. PowerPointが変えた色の世界

「次のスライドお願いします」―カシャ、という学会風景は21世紀に入ってからほぼ姿を消しました。スライドはかつて外部の制作会社に依頼して作るのが一般的で、デザインは写真部分を除いて基本的にブルーバックに白文字、あるいは白バックに黒文字といったごくシンプルなものでした。色による表現が少なかった分、色に頼りすぎない表現方法をとっていたため、ある意味ではCUDの考え方に近いものだったと言えます。
それを変えたのはPowerPointの登場で、誰もが簡単に色を多用できるようになりました。背景、文字、グラフなど、色の必要性を考えるまでもなく、用意されたテンプレートを駆使してカラフルなスライドを作るようになりました。大多数を占める一般色覚型のC型の人にとっては、見た目に楽しく、また、わかりやすくなる場合もありますが、色の使い過ぎや組み合わせの悪さによって見づらくなる場合もあります。ましてや、P型、D型などの人にとっては情報が伝わらないものが増えてしまいました。しかし、色弱者がそれを声高に訴えるケースが少ないため、問題はまだ広く認識されていません。

    1. 『Nature』誌も注目

そのような学術界で早くから声を挙げ続けているのが、第1回でも触れた2人の日本人科学者、伊藤啓氏(東京大学分子生物学研究所)と岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学解剖学講座)です。
近年、各種のアカデミックジャーナルも一気にカラー化が進みました。しかし、世界のトップジャーナルにおいても色覚の多様性への特別な配慮は見受けられません。そのような中、『Nature』誌においては、2007年に同誌ウェブサイトのブログ記事において編集者が、色弱者に配慮した図版の色使いについて取り上げ、素晴らしいウェブサイトとして伊藤氏、岡部氏が2002年に英語で発信した情報ページを紹介しています。

    1. 色弱者のレフェリーに査読される可能性は22%!

CUDへの配慮は、読者や聴衆のためだけに行うものではありません。研究成果を一人でも多くの人に伝えるのは研究者の使命であり、研究者自身の利益にもつながります。伊藤氏、岡部氏による科学者向けの記事「医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法」に掲載された興味深い試算を紹介します。
海外ジャーナルで白人男性3人がレフェリーだと仮定した場合、1人のレフェリーが色弱者でない確率は92%(1−0.08=0.92)、3人とも色弱者でない確率はその3乗で78%(0.923)となり、「色弱者のレフェリーに審査される可能性は22%である」というわけです。
これは論文投稿に限りません。学会発表においても、聴衆の中のあなたにとってのキーパーソンが色弱者である可能性は看過できないものです。そして、CUDに配慮した情報発信は、このあとに紹介するようなポイントさえつかめば、容易に行うことができます!


参考資料:
Nature誌ウェブサイト内ブログ記事 Making figures comprehensible for colour-blind readers
岡部正隆、伊藤啓(2005)医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法
カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『 カラーユニバーサルデザイン 』ハート出版

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