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臨床試験の結果をシェアしていないのは誰だ?

以前、本誌「臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開」でも紹介したように、実施されたはずの臨床試験の結果のうち約半数ないし半数以上が公開されていないことが問題になり続けています。2016年8月には、子どもを対象にした臨床試験のうち半数近くが、途中で中止されたか、完了しても公表されていないことが新たに明らかになりました。
「臨床試験」とは、被験者、つまり生きている人間を使って、新薬や医療機器の有効性や安全性を検証することです。したがって、その結果が公開されていないということは、医師や患者が治療方法を決定する際に参考になる情報があるにもかかわらず、それらを参照できないことを意味します。
2016年11月、臨床試験のデータを開示するよう製薬業界を促している研究者や医学ジャーナルのグループ「オールトライアルズ(AllTrials)」は、「誰が臨床試験の結果をシェア(共有)しないのか?(Who’s not sharing their trial results?)」というウェブツールを制作・公開して、臨床試験の結果の公開状況を可視化しました。
オールトライアルズは、臨床試験のデータベース「ClinicalTrials.gov」に登録されている臨床試験すべての詳細を定期的にダウンロードし、臨床試験の結果がジャーナル(学術雑誌)に発表、または「ClinicalTrials.gov」に報告されているかを調べ、いずれにも公開されていない場合には、該当の臨床試験データが「欠落(missing)」しているものとしてカウントするよう、ツールを設計しました。
その集計によれば、2006年1月以降、臨床試験の主なスポンサーは、2万5927件の臨床試験を完了したのですが、そのうち1万1714件の結果が公開されていません。「このことは、臨床試験の45.2%の結果が欠落していることを意味します」とオールトライアルは記しています。
スポンサー別に見ると、「結果が欠落している臨床試験」が最も多かったのは、製薬大手サノフィ(Sanofi)です。同社は正式な臨床試験435件を実施しましたが、285件(65.5%)の結果は公開されていません。同社は生物医学のニュースサイト『STAT』の取材に対し、自分たちは「規制要件と自主的開示に関する業界の勧告」に従って、「ClinicalTrials.gov」や「EU-Clinical Trial Register」といったデータベースやジャーナル、学会などで結果を公表している、と反論しています。
2位以下には、ノバルティス ファーマ(Novartis Pharmaceticals)の201件(37.6%)、国立がんセンター(NCI)の194件(34.8%)が続きます。「この問題は製薬会社に限らない」という『STAT』の指摘は重要です。製薬企業だけでなく、公的な機関がスポンサーとなった臨床試験でも、「結果が欠落している臨床試験」が多いことが目立つのです。
また、件数ではなく非公開率で見ると、1位はインドの製薬企業ランバクシー・ラボラトリーズ(Ranbaxy Laboratories Limited)で、35件の臨床試験すべての結果を公開していません。一方、アイルランドの製薬企業シャイアー(Shire)は、96件すべての結果を公開していることもわかりました。
オールトライアルズは、このウェブツールで臨床試験のスポンサーたちにこう呼びかけています。

臨床試験のスポンサーのみなさま。 臨床試験公開ランキングのスコアを向上させたければ、要約結果を「ClinicalTrials.gov」に投稿するか、公表された結果を記したPubMedのエントリーに臨床試験のNCT IDを追加するよう出版社に依頼してください。直ちにデータを更新します。

2017年1月現在、上述の数字は変わっていないようです。臨床試験に参加した被験者や、社会に対する責任が果たされることを期待します。

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