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中国、学術研究のリーダーに?

1970年代後半に始まった「改革開放政策」以降、中国の経済成長には目を見張るものがあります。世界銀行によれば、中国は経済史の中でも記録的な速さで成長を遂げ、8億人以上が貧困から脱出し、今や名目GDPでは世界2位の経済大国となりました。13億の人民を抱える中国は、一人当たりの国民所得から見ればいまだに開発途上国に分類されるものの、経済的には高中所得国となっています。近年は経済成長率が鈍化しているとはいえ、その勢いは経済以外の分野にも波及しています。

■ 広がる各国とのコラボレーション

中国学術界も勢いを増すものの一つです。大手学術出版社のSpringer Natureが発行した”Nature Index 2017”には、2012年以降、中国の研究論文の総数が増え続けていることが示されました。国際的な共同研究の比率も年々、増え続けています。2016年には、Nature Indexに掲載された中国人研究者による論文の50%以上が、国際的な共同研究によるものでした。国内のみならず、国外在住の中国系の研究者も活躍の場を世界中に広げており、自国や他国の研究者とネットワークを広げていることがわかります。実際、米国の研究者の25%以上が外国から来ており、その多くが中国系となっています。

国の政策も一役買っています。中国政府は、さまざまなプログラムを通して、自国の研究者が国境を越えて研究をするための金銭的支援を行いつつ、外国に出ている中国生まれの研究者に、研究成果と共に戻ってくるよう強く働きかけています。政府間のぎくしゃくとは関係なく、米中間では多くの共同研究が進められているのです。

中国は「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年発表)」を掲げ、国を挙げて研究人材資源強化に乗り出し、Thousand Talents ProgramやWorld Class 2.0などの学術教育プログラムを実施しています。積極的に海外に優秀な人材を派遣する反面、海外の優秀な研究者を招聘する「海外人材呼び戻し政策」を設けて、研究者の囲い込みを図っています。

各国との研究協力を見ていきましょう。

  • 米国:
    共同研究が最も多い国。前述の通り、米国内で研究を行う科学者の25%以上が国外からの人材であり、多くを中国人が占めていることが影響している。
  • ドイツ:
    中国内で国際的2国間共同研究を進める団体/組織のトップ10のうち、5つがマックス・プランク学術振興協会(ドイツ最高の研究機関)の研究機関となっている。
  • 英国:
    オックスフォード大学のCTI(Centre for Translational Immunology)との研究協力や、中国医学科学院とオックスフォード大学間の共同研究、その他2つの中国の研究機関との共同研究などが進められている。
  • イタリア:
    2016年、イタリアの国立核物理研究所(National Institute for Nuclear Physics)と中国科学院 高能物理研究所(Institute of High Energy Physics, Chinese Academy of CAS)が協力関係を構築。
  • シンガポール:
    2012年以降、特に中国とシンガポールの共同研究および香港科技大学(HKUST)とシンガポール国立大学(NUS)間の協定により、Nature Indexに化学分野の研究論文掲載数が増加している。
  • ■ 課題はやはり……

    目覚ましい進歩を遂げる中国学術界ですが、世界を席巻する存在になれるかは不透明です。Nature Indexによれば、中国で行われるトップレベルの研究の多くは国際研究であるにも関わらず、それらの研究論文のすべてが中国で出版されているわけではないようです。オンライン学術データベースであるWeb of Scienceの中国版で共有される国際共同研究は、全体の25%に留まっています。国外での急速な進展に、国内における情報共有が追いついていない状況です。その理由として、言語の壁が挙げられます。急速な経済成長により中国の貧困率は改善されているものの、外国語の読み書きをできる人はまだ限られています。そのため、研究を進めるための人材の確保や資金の調達に頭を悩ませる研究機関が少なくないのも現状です。

    中国人研究者の知的所有権侵害、ネットモラルも問題になっています。功績と利益を追い求めた結果、米国内で農業技術や軍事技術に関する情報を中国人研究者が盗み、有罪判決が下されるという事例すら発生しています。世界の学術研究市場で競争に打ち勝ちたいとのプレッシャーが共同研究を促進するものの、モラルに反してでも国家に利益をもたらさなければ、とのプレッシャーは、マイナスに働きかねません。

    ■ ケンブリッジ大学出版局に見る中国市場の価値

    中国政府による情報統制、つまり「検閲」は有名ですが、2017年6月1日に「サイバーセキュリティ法」が施行されました。これは、情報ネットワークの利用に際し、本人の実名登録の義務づけや安全保障をはじめとする重要情報の流布の禁止を謳うもので、企業に対しても、個人情報や業務データの持ち出しの禁止や犯罪捜査に対する技術的支援を求めています。

    これには、言論と思想の統制を強化することが目的だ、との批判が出ていますが、そんな中、ケンブリッジ大学出版局(英国)が8月、中国内で問題視された論文や書評などのコンテンツについて中国からのアクセスをブロックしたことが話題になりました。名門大学の出版社が中国政府の圧力に屈したとされたこの処置。すぐに撤回されたものの、学問の自由を損なうとの批判が、世界中から殺到しました。ケンブリッジ大学は、この遮断が中国からの要求であったことを明確にしています。これは、中国の経済力が一段と強まったことを間接的に示しています。「検閲」への批判はあれど、出版社が中国政府の要求を無視できなくなるほど、中国市場が彼らにとって経営上、大きな存在になりつつあるのです。

    「自国こそがグローバル経済のリーダー」と自負する中国。経済活動だけでなく、学術分野においても、その存在感が高まっています。今後も国際共同研究は増え続けるのか。研究モラルや言論統制の問題は解決されるのか。急激な成長に課題の解決が追いつかない現状はどう変わるのか。中国の動向から目が離せません。

     


    参考
    Enago academy掲載の英文はこちら:Chinese Scientists Increase Global Research Collaboration

     

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