中国のアフリカ諸国への600億ドルの支援 その狙いは

中国が改革開放政策を実行してから丸40年。中国経済は急成長を遂げ、学術分野での存在感も大きく増してきました。研究および教育への集中的な投資も奏功し、今や科学・工学分野の論文発表数は世界首位です。

勢いは国内にとどまりません。中国は、開発途上国同士が2国間、あるいは多国間で自律発展のためにお互いの技術などを活用して開発に役立てようとする「南南協力」を促進しています。近年は「一帯一路」構想のもと、発展途上国に対する技術支援、資金援助を行っていますが、特に南アジアおよび南アフリカの発展に向けた協力に力を入れています。2018年9月に開催された「中国アフリカ協力フォーラム((FOCAC, Forum of China-Africa Cooperation)北京サミット」では、アフリカ諸国に600億ドル(約6兆6千億円)の経済協力を行うと表明し、世界を驚かせました。はたして、中国の思惑はどこにあるのでしょう。

■ アフリカの次世代研究者の育成に貢献?

600億ドルの資金拠出の内訳には、無償資金協力や無利子融資、中国企業による対アフリカ投資の推進などが含まれており、500億ドルは中国政府、残りの100億ドルは民間企業による投資とされています。習近平国家主席はフォーラムの基調演説で、アフリカ諸国と密接に協力し、今後3年間および一定期間において「8大行動」を重点的に実施すると表明しました。「8大行動」とは、2015年のヨハネスブルグ・サミットで確定した中国・アフリカ「10大協力計画」の推進を踏まえたプログラムで、(1)産業促進、(2)インフラの相互接続、(3)貿易円滑化、(4)グリーン発展、(5)能力開発、(6)健康・衛生、(7)人的・文化的交流、(8)平和・安全保障という8つの項目を実施すべく、中国が政府援助、投融資などを通じてアフリカ諸国との協力を図るものです。

中国は、この一貫としてアフリカ諸国の人材育成、援助、雇用増に力を入れています。アフリカの研究者の科学技術の知識レベルを引き上げるプログラムにおいて、教育は重要な位置に置かれており、アフリカの若者に教育を受ける機会が提供されるだけでなく、Young Scientists Exchange Program(若手研究者交流プログラム)を利用して、最大1年間中国で学ぶこともできるようになっています。

「8大行動」の「社会開発分野」には、アフリカ諸国の1000人の優秀な人材に研究の機会を提供し、5万人に中国政府の奨学金を授与し、さらに5万人にワークショップやセミナーなど短期の教育機会を提供する計画があると記されています。特に、アフリカの農業近代化に向けた協力を拡大したいと考えている中国は、既にアフリカ14カ国に農業技術普及のためのモデルセンターを建設していますが、さらなる農業技術者の育成に向け、博士課程修了者が、中国あるいはケニアのジュジャにある農業技術のジョモ・ケニヤッタ大学などのアフリカの研究機関で学ぶための奨学金に応募することができるようにする予定です。アフリカの農業を積極的に支援するだけでなく、「8大行動」を通して中国・アフリカの関係を強化し、米国との貿易戦争が泥沼と化している中でも大国中国および中国企業の影響力を強めたいとの思惑が見て取れます。

■ 中国の発表への反応は

この中国の発表に、世界中の研究関係者からはさまざまな声が上がっています。大半はこれを好意的に受け止めているようです。例えば、ガーナの研究者は、海外だけでなく、国内での教育への資金援助も含まれていることが喜ばしいことだと言っています。アフリカでの人材流出が深刻な問題だと考えている彼は、この資金援助が、国内での奨学金や教育の機会が人材流出を止めることにつながると期待しているのです。また、南アフリカの大統領であるシリル・ラマフォサ(Cyril Ramaphosa)も、アフリカ全体の教育と雇用の機会を増やすことにつながるだろうと述べ、強い関心を示しています。さらに、中国のアフリカ政策を研究するアメリカの研究者は、中国が一帯一路構想にアフリカの研究者を取り込んでいくことを重視していると感じたとのことです。同時に、能力開発が大きく強調されるようになったことは、アフリカにとって重要な成果だとも言っています。

一方で、懐疑的な見方もあります。持続可能な開発を研究している研究者は、中国がアフリカに建設している農業技術普及モデルセンターは中国の商業利益の象徴だと言います。つまり、この新たな開発計画によって中国企業がアフリカの労働力をさらに利用しやすくなるのではないかと考えているのです。しかし、国際的な食料不足が懸念される時代にあって、農業開発は中国・アフリカ双方にとって関心が高い分野と認識されているのは確かです。

■  日本の対アフリカ政策

実は、対アフリカ支援においては、米中ではなく日中が鎬(しのぎ)を削っています。今回の中国支援が発表されたFOCACは中国が主導して設立されたものですが、日本も長年、同様のプラットフォーラムを主導してきました。アフリカ開発会議(TICAD, Tokyo International Conference on African Development)です。TICADは1993年に第1回目が「アフリカの自主性尊重」を前提にアフリカ地域の開発に協力することを目的に開催されて以降、5年ごとに開催され、日本はアフリカ支援の先頭に立ってきました。しかし、TICADの取り組みが進むにつれ、アフリカの抱える困難かつ複雑な問題が明らかにされることとなってしまっています。そこに目覚しい進出をしてきた中国。欧米諸国に「中国新植民地主義」と批判されつつも、アフリカ諸国が中国のアプローチ(資金援助)を積極的に受け入れているのが現実です。中国は、内政不干渉原則を掲げ、アフリカの資源と市場の確保・拡大に向け、FOCACにおいてアフリカ諸国との関係強化を図っています。既に、FOCACは開催頻度(3年ごと)と投資額でTICAD(2016年からの3年間で総額300億ドル投資)を上回っているのです。

近年、中国の開発援助を受けたアフリカの発展途上国が、償還が困難な負債を抱える「債務のわな」の問題が顕在化しています。中国マネーへの依存が懸念されているとはいえ、民生分野での協力、人材支援なども含む多面的支援を表明した「8大行動」への期待が寄せられているのは事実であり、アフリカの研究者が、今後国際共同研究の新たな機会を得られるであろうことは希望です。学術知識の蓄積に国際的な共同研究がもたらす恩恵はだれもが認めるところです。今後、アフリカ支援において日本と中国が協力していく可能性もあるでしょう。アフリカの資源開発だけでなく、人材開発や交流プログラムへの投資が成果につながることが期待されます。

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