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論文執筆 人工知能(AI)はここまで進歩している

この10年の間に、人工知能(AI))と機械学習は、いくつもの業界に変化をもたらしてきました。AIという革新的な技術によって、さまざまな作業が自動化され、より簡単かつ迅速に行われるようになっています。その影響は学術出版界にも表れており、論文執筆者と出版社の双方を支援するために、AIベースの技術が開発・導入されつつあります。これらの技術は、査読、出版物の検索、剽窃・盗用の検出、および捏造データの特定など、学術出版に関する諸問題に取り組む助けとなっています。しかも、科学コミュニケーションの促進に役立つだけでなく、人間が関与しない分、バイアス問題の削減にも役立つと期待されています。

研究におけるAIの活用も飛躍的に進んできました。そこで注目されているのは、仮説の形成から実験の遂行までの研究手法を自動化することです。実際、研究者はAIを使って、生物医学、複合製剤、および病気予測に関する複雑な諸問題に取り組んでいます。

論文執筆のためのAIツール

AIベースのツールの中には、論文を執筆できるツールがあります。電子研究ノートサービスSciNoteに付加された「Manuscript Writer」というツールは、先進的な機械学習・AI技術を使って、科学論文を準備する過程を大幅に簡素化する能力を備えています。このツールは、世界中の研究者による科学的発見を速やかに公開することの重要性が高まるにつれ、論文草稿を作成するために必要な時間を大幅に短縮することを目指すものです。電子研究ノートSciNoteに 入っているデータと、オープンアクセスの学術雑誌(ジャーナル)データから利用できる資料に依拠して、草稿を作成します。Manuscript Writerのページにもこの草稿はすぐに提出できるものではないとの注意書きがあるように、見直しを前提としたものではありますが、著者はこの草稿を元に編集、加筆することができます。

草稿作成において、AIはどのように剽窃・盗用を回避するのか?

Manuscript Writerは、選択された資料からデータを引き出すとともに、関連キーワードに基づいてオープンアクセス文献を自動検索してイントロダクション(序論)部分の草稿を作成します。他の文献から取ってきたテキストはそのままでは文章として問題なので、著者による確認は必要です。当然、他の文献から自動で拾ってきたものなので,作成された文章は他者の資料のコピペ、剽窃・盗用、さらに著作権侵害になる場合があります。では、どのようにこの問題を回避するのでしょうか。

Manuscript Writerで序論を作成すると、各段落の後に該当部分のテキストを抜き出した資料の番号と、元の資料との類似度(パーセント)が示されます。つまり、該当部分がどこから取ってきているのか、元の資料の文章とどの程度同じなのか(類似しているのか)が数字(%)で表示されます。人間が論文を執筆する際にも編集が必要なのと同様、ツールが作成した文章も確認と編集が必要となりますが、類似度の表示は明確な指標となります。作成された文章をどのように修正するか、あるいはそのままにしておくかは、著者次第です。Manuscript Writerはあくまでもツールなので、責任は負いません。

Manuscript Writerを使う主な利点は、その論文のテーマに関する興味深い文章を序論に含め、幸先良く論文執筆を始められるようにすることです。目的は、著者の論文執筆の力となることであり、代わりに論文を書き上げることではありません。ですので、「考察」のようにオリジナリティが必要な部分は、著者自身が書く必要があり、Manuscript Writerが作成できるのは、研究ノートやデータから機械的に生成できるのは「方法」や「材料」と、オープンアクセス文献などの情報を検索してまとめることで作成できる「序論」の部分のみとなります。「考察」は、論文の中で最も独創性が求められる部分であり、著者の考え方によって大きく変わってきます。また、著者は文章全体にわたって、自身の経験と専門知識を書き加えていく必要があります。

AIが研究者に代わって論文を書くことを 研究者はどう思うのか

この問いに対する答えは、研究者の中でも分かれているようです。すでに述べた通り、Manuscript Writerは、利用者が蓄積したデータだけでなく、関連キーワードに基づく文献検索とオープンアクセスの資料(論文)からテキストを集めます。AIは人間のように文章を理解することはできないので、Manuscript Writerが、矛盾や剽窃・盗用の懸念がない文章を作成することは困難です。この点については、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生が作った論文をランダム生成するSCIgenのような自動論文作成ソフトとManuscript Writerを比較したディスカッションがResearchGateに掲載されているので、こちらも参考にしてみてください。

とはいえ、研究者とAIツールの開発者は、AIツールについて楽観的なように見えます。かつてAIツールは検索エンジンとして有用なものでした。例えば、AIを組み込んでいる検索サービスのひとつとしてYewnoが挙げられます。日本での認知度はあまりありませんが、幅広い分野の出版物の検索が可能です。無料の論文検索サービスとしては米国のアレン人工知能研究所(A12)が開発したSemantic Scholarも有用で、PubMedやarXivなどから取得した論文を解析した情報も提示してくれます。

このように、検索エンジンから論文作成支援ツールなど、今後もさまざまなAIツールが登場し、研究活動を促進することが期待されます。

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