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冠詞用法I: 量を表す名詞はその値によって 一意に特定されない

私が読んできた論文からすると、日本人が書く英文における問題点は3〜5割が冠詞用法に関わるものです。誤った冠詞用法がよく見られる名詞の中でも量を表す名詞は特別です。量を表す名詞で見られる誤った冠詞用法は、誤りの多さおよび誤りが引き起こす意味上の問題の深刻さによって、特に顕著な誤用です。ここでは、その典型的な誤用の一つを考察します。
冠詞の誤用を引き起こす原因に、量を表す名詞独特の誤解が幾つか存在します。その一つは以下の誤用例で見られます。
[誤] (1) This circle has the radius 3 mm.
この文の書き手は、名詞「radius」がその修飾語である「3 mm」によって一意に特定されると勘違いしたようです。この勘違いは、ある量の可能な実現とその可能な実現値とが一対一の関係にあるという誤解に起因するものだと思われます。実際は、(英語に内在するロジックでは)ある量が考察される個別のケースにおいて、たとえそれぞれのケースにおける量の実現値が全く同じだとしても、それぞれのケースにおける量の実現は個別の存在として解釈されます。3 mmの値を持つ半径というものが様々存在するわけです。従って、上述の例文中の名詞「radius」が表すものは唯一ではありません。よって、「the」は削除すべきとなります。


[誤] (1)の訂正文としては、以下が挙げられます。
[正] (1’) This circle has a radius of 3 mm.
[正] (1’’) This circle has radius 3 mm.
[正] (1’’’) This circle is of radius 3 mm.
[正] (1’’’’) The radius of this circle is 3 mm.
以下に同様の誤りとその修正方法を示します。
[誤] (2) These particles emerge with the velocity 0.19 c.
[正] (2’) These particles emerge with a velocity of 0.19 c.
[正] (2’’) These particles emerge with velocity 0.19 c.
[誤] (3) These two events occur in the ratio 3 to 1.
[正] (3’) These two events occur in a ratio of 3 to 1.
[正] (3’’) These two events occur in a 3 to 1 ratio.
[誤] (4) The second term is larger by the factor 3.
[正] (4’) The second term is larger by a factor of 3.
詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

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