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助成金の申請書は「技術文書」ではなく、「セールス文書」のつもりで!

どんな研究を行うにせよ、そのためには予算が必要です。昨今ではどの分野でも、所属する研究機関に頼ることなく、自分で研究費を獲得することが求められています。いや、研究費を獲得する能力もまた、研究者としての能力の一部だという認識も広がっています。読者のなかにも、各種助成金を求めて申請書を書いたことがある人もいるでしょう。英語エディターのウィリアム・スティーブンソンとリサーチクライマーズ通信編集部が申請書を書くさいのヒントを提案します。

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研究への助成金をめぐる競争は熾烈です。出資者を説得し、助成金を勝ち取るためには、研究者はありとあらゆる手を尽くす必要があります。このことについて、私が今までに聞いたアドバイスのなかでベストだったのは、助成金申請書の作成で大きく成功を収めてきた、ある研究ディレクターによるものでした。
「助成金の申請書を技術文書(technical document)だと考えている人が多いようですが、そうではありません。セールス文書(sales document)なのです」
助成金をもらえる申請書を書くためには、単に学術的に健全なアイデアを提示するだけではダメなのです。助成金を出した見返りに出資者は何を得るか? その研究が成功すれば、出資者のどのような問題を解決できるか?――といった観点から、自身の研究に資金を出してくれれば、出資者にとってどのような利益があるのかを明記しなくてはなりません。助成金申請書には、その研究を実用的な目標に結びつける「セールス」の側面が必要なのです。
そのため多くの場合、基礎研究は応用研究に組み立て直されています。一例を挙げましょう。化合物にフッ素を選択的に添加する新しい手法を開発することは、理論的、メカニズム的には研究者にとって興味深いものでしょう。しかし、出資機関にとってはあまり関心のない目標かもしれません。ところが、選択的にフッ素を添加した「医薬品(pharmaceuticals)」をつくる新しい方法を開発する、ということであれば、出資者にとって大きな魅力になり得ます。とくに、その研究によって開発できる新薬が抗がん剤のようなものであれば、強い関心を引くでしょう。
アインシュタインといえども、抽象的なコンセプトだけで一般相対性理論の研究に助成を求めていたなら、資金が得られず苦労したことでしょう。しかし、金星の「歳差運動〔訳注:自転する物体の回転軸が変化する運動〕」など天文学における未解明な現実問題を相対性理論が説明できる、と主張していれば、注目を集めたはずです。
また、資金拠出をする諸機関には、その時点で話題になっている研究分野との関連を訴える申請書が多く集まる点も覚えておきたいところです。たとえば日本政府は内閣府に設置した総合科学技術会議の決定により、「ライフサイエンス」、「情報通信」、「環境」、「ナノテクノロジー・材料」を「重点推進4分野」として、予算などを優先的に配分する分野であることを明言しています。その前提に加えて、東日本大震災・原発事故といった社会的な出来事やiPS細胞など世間の注目を集め続けている研究成果を踏まえれば、助成金の出資においても、再生可能エネルギー分野や再生医療分野に注目が集まるのは必然です。たとえば2014年には、横浜市がヒトiPS細胞由来の心筋細胞の大量製造システム開発を手がけるバイオベンチャーのリプロセル(同市港北区)と東京女子医科大学のグループへの助成金交付を決めています。こういった時流を掴むことも大切な要素のひとつです。
したがって助成金の申請書を書く人は、実際に資金を獲得している研究がどのようなものなのか、申請書のどのような面が選考委員の関心を引き付けているのかを、自覚しておく必要があります。
一方で、セールス面を意識しすぎた申請書のなかには、助成金欲しさに人気トピックと自身の研究を無理やりこじつけたようなものもあります。以前、ある選考委員が「申請書のなかには、まったくわけのわからないものもありますよ」と苦笑いしながら私に語ってくれたことがあります。自身の研究課題が出資者にとってどように有益なのかを訴求するには、当然ながらその理由を科学的な根拠を持って示すことが求められます。
最後に、私が申請書作成時に経験した苦い失敗談をひとつ。私の研究は、ある種の化合物を合成して高エネルギー燃料として役立たせることを目的としたもので、申請書では主に実在する化合物の合成に言及しました。私は信頼性の高さを観点に置き、自身の方法論から導き出した燃料のエネルギーや密度などの推定値を記載したのですが、当事の出資者は“いかにコンピューターを駆使するか”を重要視しており、私の研究には助成金が降りませんでした。このとき私は、コンピューターを使ってアピールすることの必要性をあらかじめ認識しておくべきだったのです。
もし、コンピューターでのモデル作成の専門家と組み、有望な候補合成化合物だけでなくコンピューターによるモデルも用いた申請書を作成しておけば、実際の合成とコンピューターのモデルという2つの世界のベストを融合させた申請書ができ、助成金を得られたかもしれません。
研究をより高みに仕上げるために必要な助成金。その申請書は「セールス文書」のつもりで書くことをおすすめします。出資者たちの興味をひきつけるためのリサーチや見せ方が必要のです。

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