「学術起業」という選択を考える 

大学発ベンチャーの活躍が話題となることが増えきました。産学連携や大学による起業支援などが後押しとなっているようですが、それでも日本の学生のほとんどは、大学あるいは大学院を卒業後に一般企業に就職しているのが現実です。在学中にビジネスの着想を得たら、どうやって起業につなげればよいのでしょうか?学術研究を上手に事業化することはできるのでしょうか?研究者が学術起業を目指す上でチェックすべきポイントを挙げてみます。

■ 学術研究と起業の共通点

実は、博士号を取得するまで研究に従事した学生は、起業に必要な考え方を既に学んでいると言えます。研究デザインを起草してから実験を行い、論文にまとめて発表するまで、限られた予算内でいかに自分の研究を進め、成果を出すかを自発的に考えるプロセスは、ビジネスでも同様に求められるからです。スペインのアリカンテ大学の教授であるJavier Garcia-Martinez氏が「私は、学問と起業活動が両立しないと思ったことはない。実際、それらは密接に関連している」と述べているように、学術研究と起業活動にはつながりがあります。もう少し具体的に共通点を見てみましょう。

・リサーチクエスチョン(研究課題):既存の知識と解決すべき問題の間のギャップを特定することは、研究でもビジネスでも必要な作業です。

・文献調査:ビジネスにおける市場調査に当たります。問題を解決する、あるいは知識のギャップを埋めるための方法を調査することは、研究・ビジネスいずれの最終目的でもある社会貢献につながります。

・研究提案:問題の解決策を提案し、統計や関連する調査で裏付けをしていきます。事業の達成に向けて包括的なビジネスプランを作成するのと同じです。

・講演/会議参加:ビジネスで言うネットワーク作りです。会議に参加して研究を公表し、同じ分野の研究者とのネットワークを構築するのが自身のキャリア形成に役立つのは、学術研究でもビジネスでも同じです。

・資金調達:研究を成功させるためには、助成金を申請して資金援助を求めなければなりません。起業で言うスタートアップ資金の調達です。自身のアイデアを売り込む力は、研究でもビジネスでも求められます。

・時間、エネルギー、情熱:学位(博士号)を取得するのに不可欠なこれらの要素は、ビジネス(起業)においても重要です。研究も事業も、成功と失敗は表裏一体。限られたチャンスをつかむには情熱と覚悟、そしてそれなりの時間とエネルギーが必要です。

■ 学術起業を目指す時にチェックすべきポイント

面白いアイデアが浮かんでも、実務的な行動ができなければ起業は困難です。学術起業を目指す上で欠かせないポイントをチェックしましょう。

1 製品またはサービスを特定する:起業するに当たっての大前提です。

2 アイデアを守る:必要に応じて特許(知的財産権)を申請し、自分のアイデアを守ります。所属機関で特許申請(研究成果の技術移転など)を担当する部署に相談するとよいでしょう。

3 的確な状況判断を行う:自身のアイデアに起業する価値があるかを慎重に判断するため、必要な情報を収集します。例えば市場調査を行うことや、起業する上で不足している知識やスキルを理解することは、判断材料として有用です。

4 信念を持って臨む:起業当初は市場調査やウェブデザイン、広報やコンテンツ制作などあらゆる作業を1人でやらなければならないかもしれません。事業に否定的な意見が出てくるかもしれません。必ずビジネスを成功させるという強い信念を持って取り組むことが大切です。

5 徹底的にテストする:製品またはサービスのテストを十分に重ね、品質を保証しましょう。

6 失敗から学ぶ:信念を持って臨むのと同様、失敗しても挫けないことが肝心です。失敗を失敗のままにするか、新たな気づきを得る機会とするかは、あなた次第。根気よく取り組みましょう。

7 サポートシステムを築く:指導者(メンター)をはじめ、起業に賛同してサポートしてくれる人とのつながりを密接にしておくとよいでしょう。

8 広報する:ウェブサイト、ソーシャルメディア、ニュースリリース……。さまざまなプラットフォームを利用して、自身のビジネスについて広報活動を行いましょう。学術界には「発表しないなら去れ(Publish or Perish)」という風潮がありますが、ビジネスにおいても同じです。成果を周知することが重要です。

9 スピード:学術研究においては、類似の研究に先を越されないように発表を急ぐことがありますが、ビジネスにおいても同じことが言えます。競合に負けないためには、製品やサービスをスピーディーかつタイムリーに送り出すための策が必要です。

10 PDCA:ビジネスプランを立案し(Plan)、それに従って実行(Do)し、見直しと修正を行い(Check)、さらによい案を練り上げて(Action)成功を目指していきましょう。

カナダのバイオテクノロジー企業Encycle Therapeutics, Inc.の最高経営責任者(CEO)であるDr. Coullは「実際に起業家になってみる以上の起業家トレーニングはない。そして、今こそ始める時なのだ」と発言していますが、多様な分野で数多くの研究者が、自身の学術研究を生かしたビジネスを起業し、成功を収めています。そもそも大学とは、社会に役立つ人材を育成する場所です。起業家予備軍も多数存在するのです。

近年では日本でも、新しい事業に挑戦する学生・院生や卒業生を積極的に支援する大学も出てきています。起業が卒業後の進路の選択肢として普通になる日は、そう遠くないのかもしれません。

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