研究職の面接対策~よく聞かれる21の質問と回答アドバイス~
オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。大学院卒業後、学術関連の仕事あるいは研究職に付きたいと思っている人にとって、面接(インタビュー)は難関のひとつですよね。今回は、ミューバーン教授が面接でよく聞かれる21の質問と回答時の注意を解説してくれています。
英国ロンドン大学ゴールドスミス校の社会学教授であるレ・バック(Les Back)(が著書『Academic Diary』で指摘しているように、学術生活にも季節(シーズン)があって、今は就職面接シーズンのようです。私自身、求職や面接の準備を手伝いながらさまざまな業務(困難でもやりがいがあるとはいえ、感情的になってしまう仕事)に関わってきましたが、そのたびにPhD課程の後半がどれほどストレスの多い時期であるか(!)と思わずにはいられません。就職試験もハードルのひとつです。ただでさえ就職活動はそれまでやってきたこととはまったく異なるのに、試験の結果を待ちつつ、同時に他の仕事も探すなんて……誰にとっても精神的に厳しいことです。私は別のブログに、PhDの卒業生が偏見を持たれている中で選考に残ることの難しさや、雇用主となるかもしれない人に印象を残す方法ついて書いていますが、実際の就職面接ではどんなことを聞かれるのでしょうか。
実は、私自身が就職面接で成功した経験がないので、この記事を書くには適任とは言えません。私の場合、すでに採用前提で面接に臨めたのでうまくいったというのが正直なところです。それでも、アカデミックな環境では面接官の立場に長年立ってきたので、この記事を書くのにふさわしいと言ってくれる人もいます。長い経験の中で、面接を行い、採用に関わってきた経験から、学術系の就職面接でやってしまいがちなミスや、質問に対する良い回答と悪い回答を知っているからでしょう。
事前に質問に備えておけば、落ち着いて面接に臨むこともできるはずです。とは言っても、学術系の就職面接で聞かれることって?私が知っている学生は、翌週の面接に備えて、オーストラリア国立大学(ANU)のDECRA(Discovery Early Career Researcher Award)フェローであるラリッサ・シュナイダー(Larissa Schneider)博士が実際のポスドクの就職面接で聞かれた60以上に及ぶ質問をまとめたリストで準備していました。DECRAとは、教職および研究職に就いたキャリアの浅い研究者を支援することに重点をおいたプログラムです。シュナイダー博士は、自分の就職面接についてメモを作成した卒業生から質問を集めてまとめたのです。科学における情報共有の素晴らしい一例ですね!私がブログを書こうとしていることを知った彼女が貴重な情報を共有してくれたので、彼女のリストからいくつかを抜粋して、より一般的な質問を21に絞ってリストアップしました。
この質問リストと回答を考えるのに留意すべき点を以下に記します。ただし、これらは科学分野の卒業生が1年あるいはそれ以上のポスドク研究プロジェクトに挑戦するとき面接を想定したリストです。教職や人文系の研究職に就きたいと考えている人の場合、質問は多少変わってきます。その場合は、質疑応答を考えるきっかけとしてこのリストを活用してください。
質問1 このプロジェクトのデータを収集する際、どのように集めますか?
卒業生のメモからは、面接官がかなり詳細な答えを期待していることが察せられます。データ収集にともなうリスクを特定し、それらのリスク軽減のための策を複数立てられる人が望まれます。
質問2 データの分析方法は?
分析方法に関する質問は、研究におけるあなたの能力を直接的に問うものです。事前に研究計画を立て、研究をどのように進めるかきちんとアイデアをまとめておくことを強くお勧めします。研究計画について詳細な計画を立てていない場合は、ある程度考えておく必要があるでしょう。心配しすぎる必要はありませんが、プロセスを考えておくことは大切です。
質問3 〇〇(関連する解析ソフト)を使えますか?
質問された特定のソフトが分からなかったとしても、慌てなくて大丈夫。他のソフトや類似のソフトを使用したことがあると説明し、YouTubeやマニュアルを参照すればすぐに習得できることを伝えればいいのです。
質問4 あなたなら、この研究にどのような創造性を加えられますか?
面接の場で即答するのは難しい質問です。研究計画を立てる際に、「さらなる研究(今後の研究)」を含めておけば、事前にいくつかの考えをまとめておくことができるでしょう。
質問5 短期的、あるいは長期的な目標は?
嫌な質問です。私は、多くの人と同じように、チャンスの都度、それを掴むことで自分のキャリアを重ねてきました。自分のキャリアについて明確な考えがない場合は、もっともらしい回答を準備しておくと良いでしょう。例えば、長期的には「研究室のディレクターになる」のを目指すのも良し、短期的には「研究の継続と教育の機会を得る」というものでも十分でしょう。もちろん、もっと具体的な回答ができればその方が良いです。
質問6 この職に就きたい理由は?キャリアプランにおいてこの職はどのような位置づけになりますか?
この質問への回答は、思っているほど簡単ではありません。考えてみてください。人は就業場所や給料で有利な仕事に応募しがちです。それはそれで問題ありませんが、採用する側にしてみれば自分たちが最優先の就職希望先でないと思われる可能性もあります。その研究職のポジションが、どのようにあなたのスキルを高め、やりたいと思っていることにマッチしているかに焦点を当てた回答を準備しておきましょう。
質問7 あなたの出版経験について教えてください。
この質問は、論文を発表するための知識があるか、さらにあなたがどのように査読に向き合い、共著者への対応をするかを問うものです。他の形での出版経験があれば、それも漏らさずに伝えましょう。とは言っても、通常の科学出版プロセスの問題に対処できることを伝えずに他の形での出版経験を主張する必要はありません。現代の科学コミュニケーションはとても進んでいるとはいえ、研究者は実際に活動しているコミュニティー内でのコミュニケーションに専心する必要があります。学術界と外部のステークホルダーや一般社会のコミュニケーションとは異なる「慣習」があることを覚えておきましょう。
質問8 学術界外のステークホルダーとどのように協業しますか?
これは、いい質問です。と同時に、産業界などの外部の人と仕事をしたことがない人には難しい質問でもあります。実際に外部関係者への対応をしたことがなくても、交渉事は双方の興味と明白なコミュニケーションの上に成り立つものであることを理解しているとはっきり伝えましょう。基本を理解するための入門書としてはハーバード大学の交渉プログラム共同設立者であるウィリアム・ユーリー(William Ury)著の『Getting to Yes with Yourself: And Other Worthy Opponents』、利害関係者と仕事をする際のプロジェクト管理については(Kogon Kory)らによる『Franklin Covey Project Management for The Unofficial Project Manager Paperback』などがお勧めです。
質問9 対人関係で困難に直面したときどのように対処しましたか?
これもまた、いい質問です。幸か不幸か学術界には気難しい人があふれているので、この問いに該当するような「困難な状況」を容易に想像することができるでしょう。状況を概説し、あなたの優れた交渉スキルを持ってどのように問題を解決したかを説明します。ただし、自分の指導教員をよく思っていなかったとしても、指導教員への対応を例に挙げるのは避けた方がいいです。それが正当な評価だったとしても、普通は自分の上司に辛口の評をする人を雇うのは躊躇してしまうので。
質問10 プロジェクトで難しい状況に陥った時、どのように対処しましたか?
ひとつ前の質問のバリエーションですね。あなたが危機的状況において適切な対処を行った経験、事前に問題を予測する能力、問題解決のスキルなどをアピールできる具体的な経験を紹介してください。一緒に仕事をする人の考え方を把握するのに役立つので、よくあるトラブルへの対処についての話をするのも喜ばれます。
質問11 どのように物事を進めていますか?
タスク管理アプリ「Omnifocus」のようなアプリやソフトを使用しているなら、それに言及することもできますが、何を使っているにせよ、そのソフトやアプリがいかに優れているかを説明することで聞き手を退屈させることはNGです。質問を通して一緒に研究に従事できる人物かどうかを判断されていることを忘れずに。誰も作業の進め方を指図するような人を求めていません。
質問12どうやって新規/追加資金を獲得しますか?
研究における資金調達がどうやって行われているかの知識を問う質問です。資金調達のスキーム(仕組み)を完全に把握していないのであれば、このブログと同じぐらい長い歴史がある(ほぼ10年)別のブログ「Research Whisperer」を読んでみてください。
質問13 研究生活で最も心躍った出来事は何ですか?/今までに書いた論文の中で最高の出来と思えるものはどれですか?/最も誇りに思うことは何ですか?
自身の良さを引き立たせ、自分と自分の研究について話を伝えるチャンスにつながる質問です。この質問への答えが簡単に出てこない人は、自らをふりかえって自信をつけることに何かひっかかる問題があるかもしれないので、事前に準備をしておくとよいでしょう。
質問14 研究分野以外ではどんなものを読んでいますか?
好奇心からと同時に、あなたの研究者としての「見えない部分」の特性を探る質問です。私たちは皆、創造性を養うことにつながる副次的な研究に興味を持っています。なので、この質問は研究者としての多様性を示す良い機会です。カリキュラム以外で得た経験や知識が現在の研究の方法、理論、研究へのアプローチあるいは手順のどれかにでも反映されていることが伝えられれば、なお良いでしょう。
質問15 職務経歴書(CV)に書き切れていないことがありますか?
心の準備もないまま聞かれると嫌な質問ですが、あなたのクリエイティブな一面や分析能力、いかに早く情報を読み取って消化できるかなどを示す良い機会でもあります。具体的な経験から例を挙げれば実績をアピールすることもできます。この答えを準備しておけば、オーソドックスな「あなたの長所と短所はなんですか?」という類似の質問にも対応できます。
質問16 チームワークに対するアプローチは?
PhD課程で在籍した研究室の状況によっては、チームワークについての話があまりないかもしれませんが、他の仕事(小売業やファーストフード点でのバイトなど)でチームワークが求められる経験があれば、言及しておくのを忘れないようにしましょう。得てしてチームワークの下での業務遂行には大きなプレッシャーがかかるので、そこで培ったスキルは役に立ちます。
質問17 職場での平等についてどのように考えますか?直接的な経験についても聞かせてください。
この質問を受けたのが女性であれば、質問の意図に確信が持てません。面接官は彼女が不満を口にすることを期待していたのでしょうか?この質問を、受講した付随的トレーニングや、それまでに関わってきた価値ある目的を目指したイニシアチブについて話す良い機会と捉えてしまうこともできるでしょう。そうでも取らないと意味が分かりません。
質問18 この職(ポスドク研究職)の詳細を確認して、どんな研究課題(リサーチクエスチョン)を考えていますか?
ポスドクとして行いたい研究計画が具体化できていれば、即答できる質問のひとつでしょう。もし、具体的になっていなかったら――その場で回答するのは無理です。そんな場合、明瞭なリサーチクエスチョンを作成するためにお勧めの書籍は、シカゴ大学出版局が編集した『The Craft of Research (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing)』です。この本には、研究テーマの発見、研究結果の提示、参考文献の引用、論文の執筆といった一連の作業の心得やコツを網羅的にまとめられています。
質問19 産業界との連携について知っていることは?
それまでに産業界と連携したことがない場合には、知識不足を認めるしかありません。研究途中の場合は、研究の影響力や、時として産業界主導の研究の実施をポスドク志願者に依頼することがあることを頭に留めておくとよいでしょう。多くの大学は「イノベーショントレーニング」あるいは類する名前を付けたトレーニングを設置しているので、何かしらに参加したことがあると言えるように、それらのトレーニングのうちの1つにでも参加しておくのを検討してみてもよいでしょう。
質問20 オーサーシップ(著者資格)について理解していること、論文著者がどのような順番で記載されるかを説明してください。
既に論文執筆に関わった経験があって、オーサーシップについての知識があれば答えやすい質問でしょう。問題は、「ベストプラクティス(最善慣行)」として教えられていることが、実施されていないということが現実ではよくあることです。参考文献などの引用方法を記したバンクーバー方式(referencing system。訳者注:現在は米国国立医学図書館『生医学雑誌への投稿のための統一規定(The NLM Style Guide for Authors, Editors, and Publishers)』に収録)などの書式を無視して共著者を明記しないしない不届きが横行しています。複数の研究者が論文執筆に関わったときのオーサーシップの順番の付け方について書かれたブログがありますので、オーサーシップの問題や質問への回答に役立ちそうな情報として参考にしてみてください。
質問21 PhD課程での研究について話してください。
つい色々話したくなりそうですが、ダラダラ話してはいけません。面接官は、簡単には説明できない情報を、あなたがいかに簡潔に伝えられるかを評価しようとしているのです。これに役立つのが、3分コミュニケーション(3MT)です。3分以内にスピーチ/プレゼンを行う訓練は、面接での質疑応答にもとても役立ちます。研究の概要をまとめて、重要なポイントは1-2文で説明できるように面接の前に準備すれば、言いたいことをうまくまとめておけます。
ここに書いた質問リストがポスドク面接での質疑応答に役立つことを祈っています。もしくは、学術関係の他の仕事への応募を考えるきっかけになれば幸いです。元となったリストを提供してくれたシュナイダー博士に感謝です。
さて、あなたの状況は?既にポスドク面接や他の仕事の面接を受けたなら、そこでどんな質問をされましたか?想定外の質問は?そんな話や研究職での面接の経験、コメントなどあれば是非共有してください。