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2030年の査読はどうなるか?

研究成果を論文にして発表し、成果を示したい研究者にとって、論文の査読は避けられない関門です。しかし、査読システムはスピード(時間がかかる)、公平性(専門分野が同じ競合相手の審査へのバイアス)、信頼性(捏造や剽窃などの不正を見抜けない)などの問題を抱えています。最近ではオープンアクセスの拡大に伴い、査読前の原稿(プレプリント)を公開する研究者が増えているものの、査読の必要性は広く認識されており、査読システムの改善が求められています。実際、近年の学術出版界は大きな変革の波にさらされています。そんな中、査読システムはどのように変わっていくのか?5月にBioMed Central社とDigital Science社が発表した、将来の査読の方向性を論じた報告を紹介します。


■ 査読システムの問題
「半年近く前に投稿した論文の査読結果がやっと返ってきたと思ったら修正を求められまして、公開には至りませんでした。指摘された修正を加えている間に、競合の研究所の研究者が類似の内容を発表してしまい、よく見たらその著者は、自分の論文の査読者の一人だったのです」
査読者が、自身が執筆した論文を先に出版するために意図的に査読を長引かせた上に修正を求めたのだとしたら、研究倫理にもとる上、査読規定にも反する話です。発表前の研究論文を審査する査読には、内容を判断する専門知識とは別に、厳しい倫理感と公平性が求められるのです。
さらに、査読プロセスにも問題があるようです。人より早くよい成果を発表する必要に迫られている多くの研究者は、査読に時間がかかることを不満に思っています。また、インターネット検索が一般化し、画像も含む論文のデジタル化が進む近年は、未許可のコピー&ペーストによる盗用・剽窃などを査読段階で見つけきれないことも問題視されています。
これらの査読システムの問題は今後どう改善されていくのか、また、研究者はどうすれば確かな公平性のもとで査読を受けることができるのかが注目されています。
■ 査読の今後を探る
BioMed Central社Digital Science社は2017年5月に、将来の査読の方向性を示した報告書「2030年の査読はどうなるか?(仮題、原題:What might peer review look like in 2030?)」を発表しました。この報告書は、査読プロセスを業界全体で改善するためには、出版社、研究者、助成機関および研究機関が、さまざまなモデルの施行、査読者の多様性の奨励、人工知能(AI)の活用、査読者へのトレーニングや人材育成を支援する必要がある、と結論付けています。
この報告書は、2016年11月にロンドンでBioMed Central、Digital Science、Wellcome Trust社の共催により「What might peer review look like in 2030?」(2030年にピアレビューはどうなっているか?)をテーマとして開催された『SpotOn 2016』での議論に基づいて作成されました。SpotOn 2016で出された査読プロセスに対する不満や問題を踏まえ、急激に変化している学術界における最近の査読の進歩を足がかりとして、いかに実現可能かつ革新的な方法で査読を改善していくかについて、BioMed Centralから学術コミュニティへの提案が記されています。
BioMed Centralの提案

    • 今までとは異なる新しい査読モデル、特に透明性を高めるモデルを試す。
    • 人材を発掘し、査読者になってもらうための新たな方法を発見・考案する。この際、査読対象の研究とその人材の専門分野が密接に適合することを重視する。この目的において人工知能(AI)は有効なツールとして利用できる可能性がある。
    • すべての関係者にとって効率が改善され、便益をもたらすような、出版業界全体に関わる改善策(ソリューション)に取り組む。ポータブル査読(論文にあらかじめ査読結果を付け. 複数の出版社に打診して出版できるようにする試み)の普及はまったく進んでいないが、関係者にとって出版プロセスを効率化することに役立つ可能性がある。
    • 若手研究者、さまざまな地域の研究者、女性研究者などを含む多様な人材に査読者の候補となってもらうようにする。特に出版社は認知度を高めることができ、女性査読者を集めるための新たな方法を探ることができる。
    • 査読者用トレーニングプログラムに投資し、次世代の査読者が、広く承認されているガイドラインに従って貴重な意見を提供(フィードバック)できるような体制を整える。
    • 査読者の作業を評価するために、資金提供者、研究機関や出版社が協業する方法を探る。
    • 査読者が見つけにくい矛盾点を自動的に特定する方法を探ることなども含めた、査読プロセスを支援・強化する技術を活用する。

最近は、Publons社のように査読者の貢献度を評価しようとするサイトも登場しています。新しいツールの利用や出版プロセスの改善に向けたさまざまな取り組みによって、査読の透明性が高まることは研究者にとって有益ですが、信頼性と公平性についてはまだ課題が残ります。2030年に向けて査読がどう変わっていくのかはまだ不透明ですが、AIを含めた技術革新が査読プロセスの効率化を加速させるのは間違いなさそうです。学術界は、純粋な科学研究とは別ながらも、科学研究に影響を及ぼす技術革新などを取り込みつつ改善を進める必要に迫られるでしょう。いずれにしても、査読プロセスにおける昨今の変化が、研究および学術出版のすべての関係者にとって有意義な改善をもたらすことが期待されます。


参考
Digital Science, New Blog
The Future Of Peer Review – New Report by BioMed Central and Digital Science (2017/5/2)
What might peer review look like in 2030? (2017/5/2)byBioMed Central
エナゴ学術英語アカデミー 学術出版界と研究者をつなぐ – エキスパートインタビュー
Publons CEO アンドリュー・プレストン氏へのインタビュー

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