広大な海が蝕まれている?世界中の海で進む海洋汚染―世界で今起きていること<気候変動編>後編

公開日:
Jun 19, 2024
この記事を読むのにかかる時間:
11 minutes

人間の生活が直接的な原因でもある海洋汚染、特に海洋プラスチック汚染について取り上げる世界で今起きていること<気候変動編>第3弾。前編では、海洋汚染の原因や海洋プラスチックが地球環境そして人間を含む生態系に与える影響をまとめました。後編では、汚染から海を守る世界の取り組みと、持続可能な開発目標「海の豊かさを守ろう(目標14)」をふまえ個人単位できること、そして海洋汚染に関する研究や海洋汚染について学べる動画をご紹介します。

※本記事は、2024年6月20日にエナゴ学術英語アカデミーに掲載された記事の転載です。

海を守る世界の取り組み

海洋環境を守るためにさまざまな国際条約によって海洋汚染を防止する対策がとられています。国連海洋法条約は、海洋に関する包括的な規定ですが、その他にも、先述した「マンポール条約」、廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する「ロンドン条約」、油汚染緊急計画の準備と対応への協力に関する国際条約である「OPRC条約」、プラスチックゴミを含む有害廃棄物の国境を超えた移動と処分を規制する「バーゼル条約」などに加入しています。日本としても、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」によって海洋への廃棄物の投機を原則的に禁止し、「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」を制定するなどして海洋汚染を防ぐ処置を講じています。

こうした国際的な条約や法整備以外にも、世界でさまざまな対策が行われています。

日本の環境省は2019年に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し、具体的な海洋プラスチックごみ対策を取りまとめました。

EU(欧州連合)では、2019年5月に使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する「DIRECTIVE (EU) 2019/904 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 5 June 2019 on the reduction of the impact of certain plastic products on the environment(特定プラスチック製品の環境負荷低減に関する指令)」が可決され、2021年7月からカトラリー(スプーン・フォークなど)、ストロー、コップ、発泡スチロール製食品容器などを対象に流通禁止措置が取られています。EU加盟国は法令に基づき、国内法を整備することになっていることに加え、2029年までにプラスチックボトルの回収率を90%とすることにも合意しています。

同じ年、G20大阪サミットに先立って開催された環境閣僚会議では「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」が策定され、海洋プラスチックごみの削減を目的に、流出の防止から、流出してしまったごみの回収、海洋生分解性プラスチックの開発までをも含む、包括的な取り組みが進められています。

アメリカでは、2021年11月に米国環境保護庁(EPA)が、2030年に向けたリサイクル率50%達成を目指す「国家リサイクル戦略」を発表し、国全体としてリサイクル可能な商品の増加や、リサイクル過程での環境負荷の軽減に取り組んでいます。

そして、2023年5月のG7広島サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを前倒しにして、2040年の達成を目指すことが確認されました。

また、翌6月には、国連の193の加盟国が公海の環境保護と生物多様性保護を明記した法的拘束力のある協定を初めて採択したと発表しています。この条約では海洋プラスチック汚染にも言及し、締約国は環境に与える潜在的な負荷を評価しなければならないとしています。

他にも、NPOオーシャン・クリーンアップによる海洋プラスチックの回収や、オーストラリア発の海洋浮遊ごみを自動回収する「Seabin」プロジェクト(Seabinは東京オリンピックのセーリング会場にも設置されていた)、東京大学が日本財団から未来社会協創基金(FSI基金)の助成を受けて進めている「FSI海洋ごみ対策プロジェクト」など、世界中で海洋プラスチックへの取り組みが行われています。

海洋汚染とSDGs

地球温暖化の対策として何ができるのかも含めて考え出された世界共通の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDG)のひとつとしても、「海の豊かさを守ろう」(目標14)が掲げられており、世界の海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用することを目指しています。この目標14は、人間が出した大量のごみや排水が海を汚すことや、魚のとりすぎによる海洋資源問題について触れ、海洋汚染の解決と計画的な漁獲量の管理を求めています。

こうした状況を踏まえ、個人で何ができるかを考えてみましょう。

最も簡単なことは「ポイ捨てをしない」ということです。そして、プラスチックごみを出すのを減らすことです。

2020年7月1日からプラスチック袋が有料化されたことでマイバックを購入した方も多いことでしょう。その後、プラスチックストローが廃止されました。2022年4月1日からは「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法/プラスチック新法)」が施行され、今までは無償で提供されていたプラスチックストローを含むプラスチック製品12が指定されています。この新プラ法施行に基づき、コンビニなどのプラスチック製スプーンなどが有料化になったのです。

もうひとつ、地道なことですが、プラスチックごみを見つけたら拾うということも大切です。ビーチクリーンや河原清掃活動に参加するのも貢献のひとつの形でしょう。

さらにもう一歩進めるのであれば、「サステナブル・シーフード」という概念のもと、持続可能な漁業によって提供された水産物であることを示すMSC(海洋管理協議会)の認証システム「海のエコラベル」や、ASC(水産養殖管理協議会)による認証マークのついた商品を選択することもできます。

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海洋汚染というと遠いところで起きていると錯覚しがちですが、「海の豊かさ」は世界有数の魚介類の消費国である日本人の食卓にも大きな影響を及ぼします。地形的にも海に囲まれた日本は海洋汚染の影響を受けやすい環境下にあるとも言えますし、どこにいてもマイクロプラスチックの影響からは逃れられません。海洋汚染の問題から目を背けず、持続可能な社会に向けた取り組みを進めていく必要があるのです。

What really happens to the plastic you throw away – Emma Bryce

海洋汚染に関する研究紹介

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