オープンアクセス

「ミラージャーナル」はプランS対策になるのか

従来の出版ビジネスモデルからオープンアクセス(OA)モデルへの以降が急速に広がりつつありますが、学術コミュニティと出版社の攻防は尽きません。そこに登場したのが「ミラージャーナル」なる出版形態。OA出版をめぐる論争の解決策になるのでは――と考える出版社もいるようですが、その実態はどうなのでしょうか。 ミラージャーナルとは ミラージャーナルとは、既存の購読しなければ読めない学術雑誌(ジャーナル)の完全に同一な内容ながら別モノとして公開されるOAジャーナルです。オリジナルなジャーナルにとっては鏡に映したように同一の内容であるため「ミラー」と表現されているもので、既存のジャーナルに別のISSNを持たせてOAで提供されます。タイトルはもちろん、出版に至る投稿、編集、査読の一連の流れはまったく同じものです。このミラージャーナルが、評判のよいOAジャーナルでの論文出版を望む研究者にとって、解決策となるかもしれないとの意見がある一方、反対意見もあり、賛否両論です。 サブスクリプション・モデルvsオープンアクセス・モデル 近年、インターネットの利用拡大や、科学研究の透明性向上と論文を利用しやすい環境整備に向けた後押しなどにより、OAジャーナルの数は増加の一途をたどっています。OAジャーナルでは、購読料を支払うことなく論文の閲覧が可能になることから、読者を広げ、引用数を増やすといった効果にもつながっています。 とはいえ、まだまだ多くの著名かつ需要の高いジャーナルが購読料を払った人だけが読める「サブスクリプション・モデル」の上に成り立っており、これに依存している学術出版社がOAへの完全な移行を渋っているのが現実です。科学雑誌「サイエンス」を出版するアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science: AAAS)の最高責任者であるRush Holtのように、出版社は各種事業の運営を収益で賄っているため、購読契約に基づくビジネスモデルがなければ事業の継続は難しいと考える人は少なからず存在します。誰もが購読料を支払うことなく論文を読める「オープンアクセス・モデル」に反対する人は、当然ながら2020年以降、論文を即座に無料で公表することを義務づけるという構想「プランS(Plan S)」にも反対しています。…

DOAJオープンアクセスに関する2018年調査結果

オープンアクセスが実現可能なモデルとして注目されながらも、エルゼビア社と欧州の研究機関の抗争がこう着状態に陥るなど、学術出版の問題はまだまだ解決しそうにありません。このような状況の中、2019年1月9日にオープンアクセスジャーナルのディレクトリであるDOAJ(Directory of Open Access Journals)が2018年に行ったオープンアクセス(OA)に関するアンケート調査の結果を発表しました。 DOAJのアンケート調査 まず、DOAJとは何かに触れておきます。DOAJは2003年にOpen Society InstituteとSPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)の支援の下、スウェーデンのルンド大学図書館がOAジャーナルの包括的なデータベースの構築と利用拡大を図ることを目指して設立したOAのディレクトリです。登録されているOAジャーナルは多分野にわたり、12000誌に達しています。登録に厳格な基準を設けることで信頼性を確保するとともに、キーワードやタグ検索を可能にするなど研究者にとって利便性の高いデータベースを提供しています。 1月に結果が発表されたアンケート調査は、DOAJが2018年夏、登録している6000を超える出版団体/組織を対象に行ったものです。出版団体/組織のタイプ、地理的分布、DOI(デジタルオブジェクト識別子)の利用、論文のメタデータなどについての質問に対し、回答が寄せられました。複数の学術雑誌(ジャーナル)を所有していても1団体/組織につき1回答として得られた1065の結果から、世界のOA出版の傾向が見えてきました。…

A Researcher’s Guide to Preprints—Importance & Benefits to Authors

History of Preprints Benefits of Preprints Preprint Policies Future of Preprints

Plan S: A Revolution in Open Access Publishing

Open Access Publishing Introduction to cOAlition S and Plan S Principles, Aims, and Scope of…

著名な学術雑誌は絶対か~ビジネスモデルの変化

京都大学高等研究院の本庶佑特別教授が、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞された明るいニュースが大きな話題となりました。しかし、10月1日に京都大学で開催された記者会見では、受賞の喜びとともに、日本の科学研究の現状に対する懸念を表明されています。他のノーベル賞受賞者がそろって日本の学術研究、特に基礎研究の弱体化を心配していたのと同様、本庶教授も基礎研究への支援が重要であるとして、多額の研究費用を基礎研究に投資する必要があると訴えました。 研究成果を利用する企業(製薬会社)にリターンを求めたことも含め、大変示唆に富む会見でしたが、その中の一部を抜粋します。 よくマスコミの人は、ネイチャー、サイエンスに出てるからどうだ、という話をされるけども、僕はいつも、ネイチャー、サイエンスに出てるものの9割はウソで、10年経ったら、まあ、残って1割だというふうに言ってますし、だいたいそうだと思ってますから。まず、論文とか書いてあることを信じない、自分の目で、確信ができるまでやる、それが僕のサイエンスに対する基本的なやりかた……(後略) 自分の目で確信できるまでやる――というのはサイエンスにとってとても重要です。しかし、頭に残ったのは「ネイチャー、サイエンスに出てるからどうだ……」という部分でした。というのは、日本のメディアおよび日本人研究者は著名な学術雑誌(ジャーナル)の権威を絶対視する風潮があるのを指摘されたように思えたからです。もちろん、ネイチャーやサイエンスは素晴らしい学術ジャーナルで、世界中の研究者のみならず学術研究に関心のある多くの読者に読まれていますが、世界で新しい論文発表および共有の方法を探る動きが広がっているのも事実です。 欧州各国では、大学あるいは大学連盟がジャーナル購読料の高騰に反発し、大手出版社との交渉の末に購読契約を打ち切る事態が起こっています。にもかかわらず、日本の大学ではこのような動きは出てきていません。研究費が減ったと研究者が嘆く中、日本の大学は高額な学術ジャーナルの購読料を言われた通りに支払い続けているのでしょうか。また、大手学術ジャーナルが刊行を発表した新しいジャーナルへの投稿を、その分野の研究者がボイコットする動きも出ていますが、日本でそのような抗議が拡大しているとも聞きません。多くの日本人研究者は、研究成果を論文にして著名な学術ジャーナルで発表すべく、日々努力しています。しかし、学術ジャーナルに論文を発表することは本来の目的ではないので、研究成果の発表方法、その後の活用法など、自分が確信できるやり方を考えることが求められているのではないでしょうか。 ■ オープンアクセス(OA)への動きが欧州で加速 研究者である以上、自分の研究成果をより多くの人に読んでもらい、評価してもらうことは重要です。そのための一つの手段が著名な学術ジャーナルに論文を発表することですが、当然ながらそれらの学術ジャーナルに論文を掲載するのは簡単ではありません。そんな中、オープンアクセス(OA)の流れが加速しています。無料で論文が閲覧できるOAジャーナルが台頭してきたこともあり、より多くの人に読んでもらうために著名な学術ジャーナルに論文を発表することが、絶対的な手段ではなくなってきているのです。 9月4日、Science Europe(欧州の研究助成財団および研究実施期間が加盟する組織)は、欧州委員会(EC)の支援のもと、欧州11の公的研究助成機関が支援した研究者の論文を出版日に無料で読めるようにするためのイニシアチブ“cOAlition S”を発表しました。これは、2018年7月より議論されていた“Plan S”を達成するための協定です。“Plan S”とは、2020年以降に出版する公的資金を受けた研究に対し、OAジャーナルあるいはOAプラットフォームでの公開義務化を目指すもので、世界の研究助成機関に参加を呼びかけており(早くも27カ国から43機関が署名、2018年11月現)、オープンアクセスへの移行を確実に加速させています。 誰もが無料で論文を読めるようにする――従来は、読者が購読料を支払ってきましたが、その代わりに研究者が論文の公開料を支払うという ビジネスモデル への転換が進んでいるのです。論文への自由なアクセスを求める動きは、海賊サイト「Sci-Hub」を登場させたほか、学術ジャーナルの出版前にインターネットで論文を公開する動きにも広がっています。当然ながら、この協定およびイニシアチブに対し、学術ジャーナル各誌は反発を示していますが、研究者の中にも懸念を表明する動きが出てきています。…

AI研究者がSpringer Natureの新雑誌をボイコット

人工知能(AI)や機械学習(マシンラーニング)の研究が盛んです。機械が人間と同じように問題解決や学習などをするプログラムは近年、さまざまな分野において活用されており、今後この分野の研究はますます活発になることが予想されています。人工知能や機械学習の研究者は原則的に、オープンアクセスジャーナル上でその研究成果を発表してきました。そのような中、Springer Nature(シュプリンガー・ネイチャー)が2017年11月にNature Machine Intelligenceという新雑誌(ジャーナル)を発行すると発表したことが、思わぬ波紋を呼んでいます。 グーグル、インテル、アマゾン、マイクロソフト、IBMなどの大手IT企業をはじめ、人工知能(AI)研究者、コンピュータ科学を専攻する学生までも巻き込んだボイコット運動が起きており、学術界の枠を超えて、世界中の紙面をにぎわせているのです。 ■ 外れたSpringer Natureの思惑 新雑誌Nature Machine Intelligenceは、人工知能やロボット工学、機械学習などの分野における最新の研究成果を掲載することを目指す学術雑誌として考案され、第1巻の刊行が2019年1月に予定されています。版元のSpringer Natureは、人工知能が社会や産業などに与える影響についても議論を進めることを意図して、論文の投稿を呼びかけました。 しかし新雑誌刊行に対するIT業界、研究界、とりわけ機械学習分野の研究者からの反応は、同社の予想を超えたものでした。研究者たちは、Nature Machine Intelligenceへの投稿はもちろん、論文審査や編集への参加も拒んでいるのです。その理由は、同誌が、論文掲載費や論文購読料を請求する従来型のジャーナルであることです。購読料を支払うことのできない学生や研究者が最新の知見にアクセスできなくなることにより、分野全体の発展を妨げることになりかねない――。学術雑誌のオープンアクセス化の流れに逆行するとの意見に加え、この新しい分野ならではの懸念もあるようです。 人工知能や機械学習の分野では、論文やデータを誰でも閲覧することができ、その結果、新たな研究成果がもたらされるという風潮があります。当然、最新の研究内容にも自由にアクセスできるというのが、研究者たちの共通認識です。データやソースコードが公開されることで新たな技術の開発を後押しし、アイデアはもちろんアルゴリズムすら共有される世界。しかも、急速に発展しているIT技術を瞬時に取り入れ、さらにその成果が多方面に影響をおよぼす分野なだけに、開放的な環境を維持する必要があると研究者たちは訴えているのです。…

大学コンソーシアムVS出版社 オープンアクセス紛争

学術雑誌のオープンアクセス化に向けた利用者(研究者、大学など)と出版社との論争は、既に何度も記事にしている通りです。しかしここ数か月の間に、ヨーロッパの大学やコンソーシアムと出版社の紛争に、いくつかの進展が見られました。出版社と納得のいく契約を結べたコンソーシアムがある一方、交渉が膠着状態に陥っているところもあります。学術界の懸念事項である、オープンアクセスにまつわる紛争の状況について見ていきましょう。 ■ アクセスを確保したフィンランドと韓国 2018年1月17日、フィンランドの大学・研究機関・公共図書館からなるコンソーシアムFinELibが大手出版社エルゼビアと、3年間にわたり1850誌へのアクセスを可能とする契約を締結したと発表しました。FinFLibに登録している13の大学、11の研究機関、11の応用大学が、世界最大の論文データベースScience Directに収録されている1850誌に、3年間アクセスできるとする内容です。さらに、この契約にはフィンランドの研究者が、エルゼビアの学術雑誌に研究成果をオープンアクセスで公表する際のAPC(論文処理加工料)を半額にすることも含まれています。 また、2日違いの1月15日、韓国の大学コンソーシアムも長期交渉の末、エルゼビアと契約を締結するに至ったと報道されました。韓国の大学コンソーシアムは、最終的に契約料金の値上げで合意したと書かれており、Science Directへのアクセスが遮断される直前に、かけこみ合意で難を逃れたようです。 ■ オランダでの契約合意はオープンアクセスを加速させるか 2018年3月には、オランダの14の大学からなるコンソーシアム、オランダ大学協会(VSNU)とシュプリンガー・ネイチャー、オックスフォード大学出版局(Oxford Universities Press,OUP)、ワイリーなどの大手出版社との間で、購読およびオープンアクセス出版に関する契約の延長が合意されました。シュプリンガー・ネイチャーとの契約には、オランダの大学の研究者が研究成果をオープンアクセスで公表する際の出版費用(APC)を3年間(2018-2021年)無料(論文数で年間2080本分)とすることと、250誌以上の学術雑誌の購読を無料とすることが含まれています。年間発表数は、これまでの実績から割り出したとしていますが、この契約によって出版費用の負担が軽減されることから、オランダの研究者はより多くの論文をオープンアクセスで発表できるようになりました。 大手出版社によっては、コンソーシアムが支払う料金次第で、ジャーナルの100%のオープンアクセス化にも同意するとしています。VSUNが出版社と結んだ購読およびオープンアクセス出版に関する契約は、オープンアクセスの流れに一石を投じたとも言えそうです。 実際、シュプリンガー・ネイチャーとの契約は、2014年に結ばれたものの延長であり、2014年から2017年の間に同社の雑誌にオープンアクセスで公開されたオランダの論文の割合は、2014年の34%から2017年の84%に上昇したことも示されています。このことからも、今回の延長期間にも、オープンアクセスでの論文公開が増加することが期待できます。 ■ フランスでは契約打ち切りで紛争継続 他方、フランスでは雲行きが怪しくなっています。3月30日、フランスの250の学術機関からなるコンソーシアムCouperin.orgは、シュプリンガー・ネイチャーとの同社の学術雑誌購読に関する2018年の契約を打ち切りました。Couperinは、オープンアクセス論文の増加にともなうAPCの支払いが増加したことから、購読料とAPCの二重支払の解消、および購読料の減額を13か月にわたって交渉してきましたが、合意に至りませんでした。Couperin.orgが算出したところによると、購読料の値上げを譲らなかったシュプリンガー・ネイチャーは、これによって600万ドルの損失を被るとのことです。 シュプリンガー・ネイチャーは、今回の契約打ち切りは、同社の総2900以上の雑誌のうちの1185雑誌に過ぎないことなどをあげ、交渉を続ける姿勢を表明しています。また、…

オープンアクセスはフェイクニュースを打ち破れるか?

おそらく、誰もが一度は、フェイクニュース(偽りのニュース)の犠牲になったことがあるのではないでしょうか。たとえば、米大統領選挙戦の終盤3ヶ月、フェイスブックは、ニューヨークタイムズ、ハフィントンポスト、ワシントンポストなど他のニュースソースと比べて、かなり多くのフェイクニュース情報源となっていたといいます。この選挙の行方を決する重要な時期に、デマ情報サイトの選挙に関わる話が、8,711,000回もシェアされていたのです。 研究者にとっても、フェイクニュースは無関係ではありません。今、フェイクニュースは収束に向かうどころか、さらに読者の注目を集める方法を探ろうとしています。フェイクニュースは、たとえば新薬の開発や気候変動など、学術的な研究課題をも標的にし始め、すでに、膨大な回数、クリックされ、シェアされているのです。 また、偽りの情報を出版する捕食出版(著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載すること)が、近年増加しており、2016年の時点で学術ジャーナルの25%が捕食出版であったとみなされています。捕食ジャーナルも、一種のフェイクニュースです。 ■ フェイクニュースとの戦い フェイクニュースは単に厄介なだけでなく、科学に対する公共の信頼そのものを低下させます。これは、教育や科学リテラシーがいまだ低い発展途上国で、とくに顕著です。デジタル時代となり、ソーシャルメディアのプラットフォームを経て、ほとんどのニュースにアクセスできる今日、科学教育とメディアリテラシーが強く求められているといえます。 ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどの主要なソーシャルメディアにとって、フェイクニュースの蔓延に対処することは容易なことではありません。これらのプラットフォームを使ってニュースにアクセスする人は、とくに格別の注意を払い、情報の信憑性を疑ってかかる必要があります。 「Inoculating the Public against Misinformation about Climate Change(仮訳:気候変動に関する誤情報に対する予防対策)」と題された研究では、フェイクニュースや誤情報の広がりが、ウイルスにたとえられました。この研究においては、2つの現象が強調されています。参加者に、フェイクニュースと科学的情報を提示した場合、参加者はフェイクニュースの方を信じる傾向があること。次に、そのフェイクニュースに警告を付した場合、こちらを信じる確率が大きく減少したことです。…

「エルゼビア紛争」は続く

大手学術出版社エルゼビア社が発行するジャーナルの購読料をめぐる論争が、これまでにも何度か話題になってきました。2016年には、学術出版物のライセンス契約を取り扱っているドイツのDEALプロジェクトとエルゼビアとの契約交渉が決裂したのを皮切りに、同国の研究機関が同社の電子ジャーナルを見られなくなるという事態に発展しました(エルゼビアは2017年2月に、電子ジャーナルへのアクセス権を回復させると発表)。そして同様の問題は今回、韓国でも……。 ■ 韓国の大学コンソーシアムとの交渉 2017年5月、韓国の300を超える大学図書館がコンソーシアムを結成、42のデータベース・プロバイダーとの契約交渉を行ってきました。エルゼビアの科学・技術・医学・社会科学分野の3,500以上の電子ジャーナルと35,000タイトル以上の電子ブックを搭載するデータベース「ScienceDirect」へアクセスするための費用につき、エルゼビアは前年比4.5%の値上げを要求しました。それに対しコンソーシアム側は、購読料の高さと、パッケージ中にあまり読まれていないジャーナルが含まれていることを不服とし、譲歩を要求。何ヶ月も膠着状態が続きました。 エルゼビアは、交渉がまとまらなければ2018年1月12日からアクセスを遮断すると表明していましたが、最終的に契約は締結。3.5-3.9%の値上げ率で合意したとされています。この契約合意に基づき、韓国の個々の大学がエルゼビアと個別契約を締結することになりますが、一年更新の場合の値上げ率は3.9%、3年契約の場合は2017年を基準として毎年3.5%、3.6%、3.7%と段階的な値上げとなります。 ■ エルゼビアの高い購読料 エルゼビアのジャーナルの購読料は、韓国以外でも問題になっています。韓国のコンソーシアムは、エルゼビアは市場への影響力を濫用して購読料を引き上げようとしていると主張しています。韓国の大学はこれまで、エルゼビアの言う値上げ率を受け入れてきており、通年は12月に契約交渉をまとめていました。しかし、購読料の値上げが図書館の予算を圧迫し、ついに負担できないレベルに達したとして交渉に乗り出したのです。韓国の図書館協会に登録している123団体で、毎年計1億4000万ドルがデジタルデータベースの使用料として支払われており、このうち3300万ドルがScienceDirectに費やされ、最も大きな負担となっています。 同コンソーシアムはボイコットも辞さないという強い姿勢で出版社との交渉に臨み、エルゼビア以外の出版社にも、契約更新しない旨を通達。エルゼビアとの交渉は、同社が譲歩した形で決着しましたが、同様に購読料の値上げを要求してきた他のデータベース・プロバイダーとの契約更新は、いまだ滞っているようです。また西江(ソガン)大学の韓国大学教育協議会(KCUE)で研究分析チームのディレクターを努めるHwang氏は、今回合意した年間値上げ率3.5-3.9%は、国際標準の2%より高い水準にあると述べており、エルゼビアにさらなる引き下げを要望すると推測されます。 ■ 学術出版の将来は 韓国のコンソーシアムは、ScienceDirect へのアクセスにつきエルゼビアと合意に達したことで、アクセスの遮断を回避することができました。ただし、今回の合意はあくまで2020年までの使用についてであって、それ以降の使用については、交渉を続けている状況です。 エルゼビアとの交渉による結果は、国や機関によってさまざまです。韓国での合意から数日遅れの1月17日には、フィンランドの国立電子図書館しました。この契約は、13大学、11研究機関および11応用科学大学に、ScienceDirect収録のジャーナル1,850誌の購読を供与するものです。 購読を打ち切ることを検討している大学もあります。国立台湾大学(NTU)は、契約交渉の結果次第ではScienceDirect の購読を、2017年をもって打ち切る予定であると発表しました。 一昔前なら、提示される金額を支払ってジャーナルの購読をするのが当たり前だった学術界。オープンアクセスジャーナルの台頭により、学術出版社が将来にわたってジャーナル購読料を主たる収入源として確保できるかは不透明です。業界を席巻してきたビジネスモデルに、終わりが近づいているのかもしれません。 こんな記事もどうぞ…

ディエゴ・ゴメスの悲劇―著作権と学術発展の狭間で

著作権法とは「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」(著作権法第一章 総則、第一節 通則、第一条 目的より)として制定された法律です。内容は概ね多くの国で同じで、著作物および著作者の権利を守っています。 著作権の保護は著者および出版社にとって重要ですが、研究者の間では科学の発展への貢献ならびに後続の育成のために、データや研究論文を含めた情報の共有化が図られています。そんな中、コロンビアで「論文をインターネットに共有したことで投獄」という訴訟問題が起きたのです。 ■ コロンビアの大学生に起きた悲劇 コロンビアの大学院生(生物学部)のディエゴ・ゴメス(Diego Gomez)は、論文を「共有」したことにより、投獄されるかもしれない事態に陥りました。両生類(カエル)の生態学の研究を行っていたゴメスは、ある科学者の論文が保全生物学の研究に有用だと考え、インターネット上で文書を共有するサービスScribdにアップロードしたところ、2013年、論文の著者に著作権違反で訴えられていたことを知りました。有罪判決が出た場合、8年間の禁固刑と罰金が課せられるという裁判の始まりです。 コロンビアには学術情報を共有するシステムがないため、ゴメス自身、論文へのアクセスが難しいことを痛感しており、他の研究者にも情報を共有したいという思いからの行動でした。コロンビアには著者の権利に関する例外や出訴期限はあるものの、デジタル化に対応したものにはなっていませんでした。 悪意の有無と経済的損失が証明されれば、著作権侵害と判断されかねません。ゴメスの目的は学術情報の共有であったため悪意があったとは考えづらく、またゴメスが問題の論文をウェブに掲載した時点では無料ダウンロードが可能でしたが、後になってサービスが有料になっているのに気づき、掲載を取り下げているので、経済的利益を得ているとも思えません。 論文のオープンアクセスを推奨する研究者は増加しており、ゴメスの情報共有は犯罪ではないと見なす人が多いと考えられます。実際、コロンビアの人権団体であるKarisma財団と電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation: EFF)やクリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)は、ゴメスを擁護しています。EEFは、教育、イノベーション、世界の科学の発展のためにオープンアクセスは必須との前提に立ち、著作権法は知識と文化を広げる情報へのアクセスを促進するべきものであるため、そのような動きを阻害する状況にある国は法を改定すべきである、と述べています。…

オープンアクセス急拡大中―今後の動きは!?

ほんの十数年前まで、学術研究論文の出版は紙媒体が主で、デジタル化されたコンテンツを読むことなど想像すらできませんでした。しかし、近年のICT(情報通信技術)の急激な進歩により、私たちは世界のどこからでも学術情報を入手することが可能となり、それに伴って、学術論文のオープンアクセス化も急速に進んできました。 ■ 16年で世界に波及 オープンアクセス化とは、公開された学術研究論文をインターネット上で誰でも自由に、無料で閲覧できるようにすることです。オープンアクセスに向けた動きは、2001年にハンガリーで本格化しました。社会正義・教育・公衆衛生・メディアの独立を国際的に助成する組織であるオープン・ソサエティ財団(Open Society Foundations: OSF)が、ハンガリーで主催した会議でブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴ(Budapest Open Access Initiative: BOAI)を採択し、翌年にBOAIを文書化して公開したのです。これによりオープンアクセスの定義と方向性が示され、世界各国で拡大することとなりました。 ICT技術の進歩と利用者側の利便性向上とは別に、印刷費・運送費が増加して学術雑誌の価格も高騰するという出版業界側の事情もオープンアクセスの流れを加速させました。 学術界は基本的に、研究成果をオープンアクセス化することを推奨しています。学会や学術誌によってはオープンアクセスを義務化しているケースも見られるほどです。研究者は学会や所属する研究機関、投稿する学術誌の方針に従いつつオープンアクセスを検討し、適切な手段を選択することになります。オープンアクセス化によって情報伝達のスピードが格段に速くなり、世界中で研究成果の公開性が高まり、利便性も確実に向上しているのです。 ■ 中南米でも新たな動き 世界中で拡大中と言いつつ、ネット環境に大きく依存するという性質上、発展途上の国におけるオープンアクセスはあまり進んでいないと思われがちです。しかしブラジルではBOAIの前から、研究成果を共有する方法を模索していました。1997年にはScientific Electronic…

ビル&メリンダ・ゲイツ財団、オープンアクセス促進に注力

従来、学術研究論文を読むには購読料が必要でした。学術論文にアクセスしようとすれば、お金を払わねばなかったのです。また学術ジャーナルの中には、執筆者が自分の論文を公的にシェアするのを一定期間認めないものもあり、研究論文の共有を阻んできました。これは、多くの学術出版社側にとっては収益を生む重要なモデルですが、研究者側にとっては成果へのアクセスを妨げるものでした。特に資金不足に悩む研究者にとっては深刻な制約であり、先行する研究成果に基づいて進められるような研究においては、後進の研究活動の発展を妨げることになりかねません。 ■ 研究成果を制限なく公刊する 近年、前述の有料モデルとは正反対に、無料で学術論文を公開するモデルが普及してきました。オープンアクセス出版です。これはすべての研究者が生産性を上げられるよう、必要なデータへの公平なアクセスを確保するオンラインのジャーナルを指します。このオープンアクセスの流れを支える強力な支援者に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団も名を連ねています。この世界最大の慈善基金財団は、” All Lives Have Equal Value”(すべての生命の価値は等しい)との信念のもと、世界中の人々が健康で豊かな生活を送るための支援を行っています。活動の範囲は、世界の病気・貧困の撲滅への挑戦から教育やIT技術に関わるものまで幅広く、学術振興への支援の一環として、オープンアクセスの流れも後押ししています。 ゲイツ財団は2017年1月1日、財団の助成を受けたすべての研究成果が購読料や制約の壁に阻まれないようにとの方針”Bill&Melinda Gates Foundation Open Access Policy”を発表しました。この方針は米国国立衛生研究所(NIH)やWellcome Trust(イギリスに本拠地を置き医学研究支援などを行う団体)などのような学術支援団体の方針にも近いものですが、ゲイツ財団はさらに踏み込んで、研究成果をクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス:インターネット時代のための新しい著作権ルール)のもと、商業目的を含んだ再利用をも制限することなく、公刊することを求めています。この要求は、その公刊物に関わるすべてのデータにも適用されることになります(学術ジャーナルの中には同財団のオープンアクセス方針に対応していないものもあるため、財団の助成を受けた研究者は、それらの雑誌に論文が掲載できないことになります)。…

学術ジャーナルのオープン化への流れは止まらない

学術出版は今なお伝統と実績を有した学術ジャーナルの独擅場ですが、オープンアクセス化への流れが止まりません。これは決して一過性の動きではなく、デジタル化、ワイヤレス化、オンライン化の流れは勢いを増しており、続々とプレプリントサーバーが新設されています。 今回は、社会学・社会科学分野に特化したオープンアクセスリポジトリ*1の『SocArXiv』を紹介しながら、最近の動きを追います。 ■ 学術ジャーナルと研究者 言うまでもありませんが、研究者は、自分の論文が、品格と定評、そしてきちんとした査読システムを擁するジャーナルに掲載されてこそ得られる影響力を認識しています。論文が学術界で正当に評価されなければ、執筆者である自身に対して、ひいては所属する大学や研究機関への評価も得られません。研究内容および執筆者への評価は、そのまま職の確保、資金獲得、研究者としての立場にも大きく影響します。 論文の学術ジャーナルへの掲載は、長年、研究成果の評価の一つとして認識されてきましたが、デジタル化が進む昨今、研究者たちは「より開かれたアクセス」を欲しています。研究成果をよりオープンにするとともに、公開された論文を自由に利用できる場を求めているのです。そこで登場したのが、オープンアクセスな電子ジャーナルのプラットフォームであり、この動きはプレプリントジャーナルにまで広がっています。 ■ 新たな参入者『SocArXiv』 プレプリントサーバーは、正式な査読や出版に先立って投稿された論文の閲覧(共有)、探索を可能にします。以下にそのメリットをあげます。 ・学術論文を迅速に無料でアップロードし、誰もが閲覧できるオープンアクセスにする ・所属にかかわらず誰でも登録できる ・永続的ID(識別子)を付けることで論文の最新バージョンにリンクさせることができる(著者はどの出 版社であれ正式に発表したバージョンにリンク付けすることができる) ・Google Scholarなどの検索ツールからアクセスが可能になる ・クリエイティブ・コモンズのライセンスを付与することも可能 ・登録ユーザ同士が投稿論文にコメントをしたり、論議したりすることができる…

エルゼビアが浮き彫りにした学術誌出版のコスト問題

2017年に入って、ドイツ、ペルー、台湾の研究者たちが、複数のオンライン学術ジャーナルにアクセスできなくなりました。それらのサイトとオランダの大手学術出版社エルゼビアとの2017年度のライセンス契約交渉が決裂、無契約状態になったため、エルゼビアの管理する何千というジャーナルへのアクセスが遮断されたのです*1。どうしてこのような事態に至ったのでしょうか? 学術ジャーナルの歴史 学術ジャーナルの歴史は、1665年に遡ります。この年、フランスで Journal des sçavans、英国でPhilosophical Transactions of the Royal Socieryが、それぞれ初めて刊行されました。19世紀になると、数々の学会が各々の学術誌を刊行していきました。その支えとなったのは会員からの会費・購読費収入で、この形態は現代でもあまり変わりません。 1926年、生物学の分野ではBiological Abstractsが他に先駆けて公刊され、それまでやみくもに古い文献を探るしかなかった研究者たちは、特定のトピックの記事に容易にたどり着けるようになりました。しかし1970年代までには、学術ジャーナルの数は膨大なものになり、現代ではインターネットでの検索が主流になりました。 時間が経つにつれ、学会などの諸組織は、ジャーナルの公刊作業を出版社に委託するようになりました。関係者有志による査読と編集作業に頼るのではなく、プロのライターや編集者などに多くの仕事を任せるに至ったのです。そうして数多くの学術出版社が生まれ、多様なジャーナルを出版するようになりました。 学術ジャーナルの購読負担が増大…

オープンアクセス化の効用

学術論文の「オープンアクセス化」という潮流があります。 2000年秋、商業出版社が出版するジャーナルの購読費が高騰していることに対し、「Public Library of Science(PLoS)」という科学者グループが公開書簡を公表しました。彼らは出版社に対し、論文が公表されてから6カ月以内にそれを公共のアーカイブに提供することを要求し、それを受け入れられないのなら、購読や投稿をボイコットする、と主張しました。この書簡がどれほどの影響をもたらしかのかということについてはいろいろな評価があるのですが、その後の学術論文のオープンアクセス化を促進したことは間違いないでしょう。「PLoS」は財団からの助成を得て、2003年にオープンアクセスの学術雑誌『PLoS Biology』を、2004年には、『PLoS Medicine』を創刊しました。PLoSや同時期にスタートしたオープンアクセス専門の出版社BioMed Centralの活動が注目され、オープンアクセス・ジャーナルが次々発行され、既存の商業出版社までがオープンアクセスに参入するようになり、現在にいたります。 今回は、あらゆる分野の人々にとって以下のような利点があるということを、あらためて簡潔にまとめてみたいと思います。 アクセス(利用しやすさ) オープンアクセス化を進めているジャーナルや論文集の大半は、読者に利用料金を求めていません。つまり、論文を読むための料金という障壁が大幅に軽減されているか、あるいはまったく廃止されています。このことにより、論文の著者たちも今までより広範な読者に自分の論文を読んでもらうことができます。読者の経済状態や、どこにいるのかが問題にならないので、論文その他の文献の対象読者が格段に拡大します。 直接性 その研究分野のコミュニティだけでなく、研究者か一般読者かを問わず、広範囲の読者が研究成果を直接に読むことが可能になります。 各種の効果を推進 研究成果が広がりやすいので、同分野の研究が盛り上がるだけでなく、そこから新たな研究分野が発展すれば、それに取り組んでみようという刺激を受ける研究者も出てくるでしょう。…

「オープンアクセス」の“オープン度”の違い

オープンアクセスの種類 インターネット上で公表され、誰もが無料で読むことのできるオープンアクセス・ジャーナル。近年、その存在意義が注目され続けていますが、実は、その「オープン」度にはかなりの差がみられます。今回は、よくあるタイプをいくつかあげてみます。参考文献を探すとき、または自分の論文を発表するジャーナルを探すときに、参考にしてください。 1.完全にオープンなもの オープンアクセス・ジャーナルというと、多くの人が想像するのがこのタイプの雑誌ではないでしょうか? 実際に、近年創刊された新しいジャーナルには、雑誌の内容をその巻頭から巻末まで、すべてオンラインで閲覧できるようにしているものが少なくありません。PlosやBioMedCentralが発行するジャーナルのほとんどがこれに当たります。しかし雑誌発行のための運営費を確保することなどを理由に、オープンアクセス・ジャーナルといわれることはあるものの、以下のような制限を設けているケースもみられます。 2.投稿された研究論文のみオープンなもの 投稿された研究論文のみ閲覧でき、新しい出版物のレビューなど、論文以外の掲載記事へのアクセスを制限するタイプです。自分の研究に関係のある最新の研究結果を探すのには、これで十分でしょう。 3.投稿された研究論文の一部のみオープンで、他の論文にはアクセスできないもの 限られた研究論文のみオンラインで無料閲覧できるというタイプです。関心のある論文がたまたまオープンアクセスになっていればいいのですが、そうでなければ、今までどおりに雑誌を購入しなければ閲覧できません。どの論文がオープンアクセスになるかは、論文の筆者ではなく雑誌の編集者が決める場合が多いようですので、このような雑誌に投稿する場合は、オープンアクセスの選出方法を事前に編集者に確認したほうがよいかもしれません。 また、「オープンアクセス・オプション」といって、投稿者が1000ドルから3000ドル程度の掲載料を払うことによって、自分の論文をオープンアクセスにすることができるジャーナルもあります。 このように特定の論文だけがオープンアクセス化されているジャーナルを「ハイブリッド・オープンアクセス・ジャーナル」と呼ぶこともあります。 最近の傾向としては、社会的に関心が高い論文は、掲載誌がオープンアクセス・ジャーナルでなくても、オープンアクセス化されることが多いようです。京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作成成功を2006年に報告した論文は、『セル(cell)』で初めからオープンアクセス化されて公開されました。また、小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダー(当時)が「STAP細胞」の作成成功を2014年に『ネイチャー』で報告した論文は、当初は購読者しか読めませんでしたが、研究不正が疑われ、世間の注目が集まってからオープンアクセス化されました。 発行当初は投稿された研究論文の一部のみオープンで、後日、すべての論文にアクセスできるようになるもの 前述のタイプと似ていますが、雑誌の発行当時には自由に閲覧できなかった論文が、一定期間を経てすべて閲覧できるようになるという点が違います。このタイプのジャーナルでは、1年から数年以上経った古い号が公開対象となる場合が多いようです。どのくらいの期間を経てオープンになるかはジャーナルによって違いますので、最新の論文を探すときや自分の論文を投稿するさいには、その点に十分気をつける必要があります。 発行当初はオープンでないものの、少し遅れて雑誌全体がオープンになるもの 最新の論文は購読者しか読めなくても、一定の期間を経て、ジャーナル全体がすべて無料で閲覧できるようになるタイプで、長年にわたって発行を続けている学会誌に多く見られるようです。こちらも上述のタイプと同様に、どのくらいの期間を経てオープンになるかはジャーナルによって違います。…