「大学発ベンチャー」または「大学発スタートアップ」と称される、大学に所属する研究者が投資家から資金を調達して事業を立ち上げる動きが社会にイノベーションをもたらしています。広い意味では「スタートアップ(startup)」は「ベンチャー(venture)」に含まれるとも言えますが、この2つには成長戦略および成長速度に違いがあるとされています。とはいえ、日本政府は「大学発ベンチャー」および「スタートアップ」を厳密に区別することなく支援しています。本記事では、日本における大学発ベンチャーの状況を前編、事例などを後編に分けて紹介します。 大学発ベンチャーとは 「大学発ベンチャー」とは、新しい市場の創出を目指して大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い事業に反映させるべく設立されたベンチャー企業のことです。経済的なイノベーションをもたらすことが期待されており、今ではさまざまな分野や業種に広がっています。 大学発ベンチャーへの期待 「大学発ベンチャー」は、新しい技術や従来にない斬新なアイデアを事業として新しい製品やサービスを提供する企業で、大学と深い関係を持っています。近年はIT系に限らずさまざまな分野に登場しており、イノベーションの担い手として大きな期待が寄せられており、特に近年は、ディープテックと呼ばれるAI(人工知能)や量子コンピュータ、再生医療などに関連する最先端の研究成果を事業化する大学発ベンチャーが注目されています。文部科学省が、今までの常識を壊すような過去に事例の無いビジネスを生み出す「破壊的イノベーション」だと記していることにも期待の高さが垣間見えます。 出典:文部科学省「いま、大学発スタートアップが熱い」より 日本政府による支援 何といっても大学発ベンチャーの強みは大学における最先端の研究成果を事業に反映させることができることです。日本政府は、大学等が新規事業を創出するのを支えるエコシステムの仕組みを形成すべく、「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)」と「スタートアップ育成5カ年計画」を策定し、支援体制を整えています。 D-Globalは、大学等発の技術シーズを核にして、社会・経済に大きなインパクトを生み、国際展開を含め大きく事業成長するポテンシャルを有するディープテック・スタートアップの創出を目的とするもので、スタートアップ育成5カ年計画は、大学等発スタートアップの継続的な創出を支える人材・知・資金が循環するエコシステムを全国に形成することを目的とするものです。D-Globalは2025年5月13日を締め切りに第3回公募が行われていました。 文部科学省におけるスタートアップ支援施策を中心とした支援により大学発ベンチャーの数は年々増加してきています。2025年6月6日に発表された経済産業省の「令和6年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」によると大学発ベンチャーの数は、2014年度以降増加傾向にあり、2024年10月時点で5,074社と、2023年度(4,288社)からさらに786社増加し、企業数および増加数ともに過去最高を更新しました。政府は、2026年度の中間目標で累計4,000件、2027年度に5,000件の支援を行うことを目標としていましたが、この目標を前倒しで達成したことになります。 出典:令和6年度 産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書 *この調査の対象には、大学、高等専門学校の他、国内の特定非営利活動法人(NPO法人)、一般社団法人や個人事業主等も含まれている。 大学発ベンチャーとディープテック:期待の分野 大学発ベンチャーで特に注力分野とされているのが、世界的な経済社会課題を解決し、社会にインパクトを与える潜在力のあるディープテック、つまり人工知能(AI)、量子コンピュータ、宇宙、核融合、再生医療等の技術分野です。大学や研究機関で生まれた高度で先進的な研究結果がディープテック・スタートアップのシーズ(種)となることから、大学からの積極的な技術移転が期待されています。技術移転のひとつのやり方として大学発ベンチャーを立ち上げれば、その技術を社会実装するチャンスが広がるだけでなく、ライセンスを有する技術の移転が外部資金獲得につながる可能性も有しています。…
2025-06-13