オープンアクセスはフェイクニュースを打ち破れるか?
おそらく、誰もが一度は、フェイクニュース(偽りのニュース)の犠牲になったことがあるのではないでしょうか。たとえば、米大統領選挙戦の終盤3ヶ月、フェイスブックは、ニューヨークタイムズ、ハフィントンポスト、ワシントンポストなど他のニュースソースと比べて、かなり多くのフェイクニュース情報源となっていたといいます。この選挙の行方を決する重要な時期に、デマ情報サイトの選挙に関わる話が、8,711,000回もシェアされていたのです。
研究者にとっても、フェイクニュースは無関係ではありません。今、フェイクニュースは収束に向かうどころか、さらに読者の注目を集める方法を探ろうとしています。フェイクニュースは、たとえば新薬の開発や気候変動など、学術的な研究課題をも標的にし始め、すでに、膨大な回数、クリックされ、シェアされているのです。
また、偽りの情報を出版する捕食出版(著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載すること)が、近年増加しており、2016年の時点で学術ジャーナルの25%が捕食出版であったとみなされています。捕食ジャーナルも、一種のフェイクニュースです。
■ フェイクニュースとの戦い
フェイクニュースは単に厄介なだけでなく、科学に対する公共の信頼そのものを低下させます。これは、教育や科学リテラシーがいまだ低い発展途上国で、とくに顕著です。デジタル時代となり、ソーシャルメディアのプラットフォームを経て、ほとんどのニュースにアクセスできる今日、科学教育とメディアリテラシーが強く求められているといえます。
ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどの主要なソーシャルメディアにとって、フェイクニュースの蔓延に対処することは容易なことではありません。これらのプラットフォームを使ってニュースにアクセスする人は、とくに格別の注意を払い、情報の信憑性を疑ってかかる必要があります。
「Inoculating the Public against Misinformation about Climate Change(仮訳:気候変動に関する誤情報に対する予防対策)」と題された研究では、フェイクニュースや誤情報の広がりが、ウイルスにたとえられました。この研究においては、2つの現象が強調されています。参加者に、フェイクニュースと科学的情報を提示した場合、参加者はフェイクニュースの方を信じる傾向があること。次に、そのフェイクニュースに警告を付した場合、こちらを信じる確率が大きく減少したことです。
■ オープンアクセスはフェイク対策の解決策
問題の1つの解決策は、真の科学へのオープンアクセスを普及させることです。たとえば、2016年8月、NASAは、NASA PubSpaceと呼ばれる一般人のための論文ライブラリーを開設すると発表しました。このデータベースを利用すれば、第三者の介入なく、研究論文にアクセスすることが可能です。
ScienceMattersという出版社も、一般の人々が研究論文にアクセスするためのプラットフォームを構築しています。また、大手出版社Natureは、ほぼすべてのテーマをカバーし、各分野の専門家が主催するニュースセクションを運営しています。
オープンアクセスをポリシーとするビル&メリンダ・ゲイツ財団も、オープンアクセス運動を支援しています。オープンアクセス運動は、科学的知識は誰でもアクセス可能なものであるべきという信念に基づき、人々が、コストをかけず、できる限り多く真の研究論文にアクセスできることを目指すものです。
科学とジャーナリズムは、事実とフィクションを区別するという、同じゴールを目指しています。世界各国が推進している開かれた科学研究、すなわち「オープンサイエンス」は、フェイクニュース問題の有力な解決策となる可能性があります。
■ 研究者にできること
さらに、研究成果がオープンアクセスによってより広く公開されることを支援したいと望むなら、研究者個人としても、以下のようなことができます。
1.会話に積極的に参加し、オープンサイエンスを広める。
2.研究の再現性について基礎を固める。
実験データを公開することにより、科学への理解が広がり、信頼できる情報の普及が、より現実的なものとなる。
3.小さなことでもシェアする。
オープンアクセスは、大量のデータを公開することだけでなく、ツールや技術を共有することも含んでいる。
4.創造を促進する意識を持つ。
研究データは、人々や科学界に恩恵をもたらすはずであり、公費を投じて行われた研究結果であれば、一般の人に伝える必要がある。
5.常に最新の情報をキャッチアップしておく。
オープンデータの共有ツールとプラットフォームは日々進化しているので、常に最新情報を入手するよう努める。
フェイクニュースは、明らかに望ましくないものです。とはいえ、人々がフェイクニュースのわなに陥らないようにするのは、実際には容易ではありません。研究者も「私は大丈夫。だまされない」と思って何も行動しないでいるのではなく、オープンサイエンスの普及に積極的に関わり、一般の人が真の情報にアクセスしやすい環境づくりに貢献していきたいものです。
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