オープンアクセス

OA出版の論文掲載料の支払いは研究者だけの責任か?

もし、一般市民はおろか、政策決定者すら研究成果にアクセスできなければ、その研究が社会的インパクトをもたらすことを期待できるでしょうか。どのような研究であれ、有意な社会的インパクトを与えるためには、その研究成果を公開する必要があります。研究は、政策決定、技術の進歩、医療、教育、そして私たちを取り巻く世界に対する理解に影響を与えるものであり、世界と切っても切れない関係にあります。しかし、もし経済的な制約のために研究の大部分にアクセスできないままとなっていれば、研究の影響力は縮小されてしまうでしょう。 エナゴが最近実施した世界的な調査によると、研究者の82%が、自分の研究に誰もがアクセスできるようになることを望んでいることが明らかになりました。多くの人が研究成果にアクセスできるようになれば、気候変動や公衆衛生からテクノロジーや教育に至るさまざまな分野で一般市民が十分な情報に基づいた議論に参加できるようになります。しかし、79%の研究者は論文掲載料の高さからオープンアクセス(OA)プラットフォームでの出版に躊躇していることも示されています。学術研究と出版プロセスにおけるさまざまな利害関係者の 協調した取り組みがまだ十分ではないことが懸念されます。そして、OA出版のための資金獲得、つまり論文掲載料を支払う責任は誰が-研究者か研究機関か-負うべきなのかという問題も生じています。 研究者は、日々、実験を行い、データを分析し、飛躍的進歩を追求し続けています。多忙な研究生活の中で成果を出版するための費用を研究助成金の一部として申請していなかった場合、研究者は論文掲載料の支払いについても心配しなければならないのでしょうか。誰の責任となるのでしょう。 研究は、多大な献身と揺るぎない集中力を必要とする厳しい作業です。研究者は、プロジェクトの資金確保から実験計画の作成、データ分析に至るまで、責任を負うべき多数の作業を抱えています。大学など高等教育機関で学生を教育する立場にある場合、教育カリキュラムの組み立てや会議、学生のメンタリングなど研究以外の義務も発生することでしょう。この様に、研究者に課せられている苦難を考えれば、多くの研究者が論文掲載料について、または研究資金の申請方法や予算獲得のためのベストプラクティスについて学ぶために十分な時間を割けないのも無理はありません。しかしその結果として、OA出版の成功例に関する理解と認識にギャップが生じ、研究者と研究機関の双方に弊害をもたらしかねないのです。 知らないということの弊害を理解する 研究者たちは、研究成果の出版が非常に重要であると理解していますが、多くの場合、論文掲載料(それがOAジャーナルであろうとなかろうと)や学会参加費用などといったさまざまな出費を賄うために必要な助成金を確保するのに苦労しています。利用可能な助成金について知らないということは、研究者にとっての経済的なストレスや出版の遅れの原因となったり、さらには誰もが利用できる公有資産における価値ある研究を過小評価したりすることにつながる可能性もあります。 (出典:590 名の研究者を対象に行ったエナゴ学術英語アカデミーによるアンケート調査 2022年) 研究者は厳しい作業スケジュールに追われ、利用可能な助成金について把握する機会が十分ではないのかもしれません。よって、助成金に関する認知度を高めるため、研究機関は研究者を教育し、支援していくべきなのです。 研究機関の責任 研究を行う責任は個々の科学者や研究者にある一方で、研究発表や論文出版が円滑に進められるようにする責任は研究機関と共有されるべきです。この円滑化の支援には、研究者の成功を確実にするために必要なインフラ、各種リソース、ガイダンスの提供などが含まれます。この観点から、研究機関は、研究者に出版のための助成金について教育し、研究内容を世に広めるためのリソースを提供するといった責任を有しています。以下に、論文出版のための助成金に関して研究機関が研究者をサポートできる点をリストアップします。 1.認知向上 研究機関は、研究者が出版や論文投稿に利用できるさまざまな助成金について認識を高められるように尽力すべきです。定期的なワークショップや説明会の開催、明確で簡潔なコミュニケーションなどを通して、教員や学生に出版のための助成金の存在や資格基準について積極的に周知する必要があります。…

オープンアクセスと従来型の出版、どちらを選ぶか

多くの研究者は、研究発表の場といえば、長年にわたって学術界において一般的であった購読制のジャーナルを思い浮かべます。しかし、著者にとってのオープンアクセス(OA)出版の大きなメリットが知られるようになるにつれ、OAが急速に主流になりつつあります。 ふたつの出版形態には多くの共通点がありますが、その利点は明らかに異なります。どちらが自分に合っているかを判断するために、両方の出版スタイルについて見ていきましょう。 従来の学術出版とは 伝統的なジャーナルは、大学やその他の組織が出版物の購読料を支払い、それにより所属する人がアクセスして情報を閲覧できるものです。通常、大学などの図書館で雑誌の印刷版を探すか、大学や提携機関などを通じて電子版にアクセスします。従来の学術ジャーナルは長年にわたって学術界において唯一無二の存在であったため、現在でもオープンアクセス・ジャーナルよりも権威があると見なされることがあります。 オープンアクセス出版とは 購読制の出版モデルとは異なり、オープンアクセス・ジャーナルには、誰でも無料でアクセスできます。論文著者がOA出版に抱く最大の懸念は、伝統的なジャーナルでは読者の購読料で賄われる料金が、著者側の負担となることです。 両モデルの共通点は? 出版費用の負担という点以外では、OAジャーナルと従来の出版ジャーナルは、以下のような多くの共通点があります。 査読プロセス OA誌も従来のジャーナルも、同じ査読プロセスを採用しています。OA型・従来型に関わらず、定評のあるジャーナルは査読プロセスを明確に定義しており、査読者の名前や資格などの詳細な情報も開示しています。 ジャーナル・インパクト・ファクター(JIF) 従来の学術誌と同様に、OA出版物もインパクトファクター(IF)で評価されています。IFでジャーナルを相対的な重要性に応じてランク付けすることで、研究者はその出版物が自分の研究にどれだけ役に立つかを判断します。 倫理基準 OA誌も購読制学術誌も、利益相反、守秘義務、剽窃チェックなどの倫理に関わる明確な方針など、厳しい倫理基準に従うことが求められます。さらに、どちらのタイプのジャーナルも、出版倫理委員会(COPE)に加入できます。 品質管理…

オープンアクセス・ジャーナルの種類と選び方

論文を書き終えたら、出版するジャーナルを選び、研究を世界の人と共有する時です。投稿先ジャーナルの選択肢を絞る際、次の点が重要です。完成した研究論文に、誰もがアクセスできるようにしたいか否か。もし無料公開するなら、オープンアクセス・ジャーナルを選びます。 オープンアクセス(OA)出版を選んだ論文は、ほとんどの場合、無料で一般公開されます。これは、従来のクローズドアクセス方式(購読型)のジャーナル出版とはまったく対照的です。 ここでは、それぞれの研究発信に適したOAジャーナルの見つけ方をご紹介します。 OAジャーナル早わかり オープンアクセス方式は、当初は斬新な方式でしたが、今では主流の出版形態となり、学術研究界では当たり前とされています。かつてはクローズドアクセス出版が主流で、読みたい記事は大学図書館などで読む必要がありました。OAは、基本的にアクセスできる人を限定しないので、より多くの読者に素早く情報を届けることができます。 また、OAジャーナルはオンラインでの公開のため、雑誌の同じ号に掲載されるすべての論文の準備が整うまで出版できない紙媒体のジャーナルよりもはるかに迅速な出版が可能です。つまり、クローズドアクセス型の出版物よりも早く研究成果を読者に届けられるです。 オープンアクセス・ジャーナルの種類 オープンアクセス・ジャーナルが普及するにつれ、以下のようないくつかのタイプのOA出版が発展してきました。 メガジャーナル:最小限の論文掲載費(article processing fee)で全文無料公開が可能。査読付きのジャーナルで、扱う分野も広範囲にわたり、短期間で出版できる。 - ハイブリッド・ジャーナル:有料の購読サービスを提供し続ける一方で、著者が論文をオープンアクセスにするかを選択できる。OAを選択した場合、論文の掲載料を支払うケースが多い。 - 遅延型オープンアクセス:公開制限期間中は論文へのアクセスを有料とし、その後サイト上で無料公開する。…

プレプリントの役割-留意点と投稿ステップ

「君の研究は基礎研究を理解するうえで重要な関連性があるから、学術雑誌(ジャーナル)での公開に先だってプレプリントサーバーで発表した方がいいと思うよ。ジャーナルで論文が公開されるまでの従来のプロセスは時間がかかるので、先を越されるリスクが大きいからね。」と、言われたことがありますか?プレプリントに論文を公表したいけれど、どのようなことに注意すればよいのかと悩んだことのある人がいるかもしれません。ここでは、プレプリントを利用する際の留意点と、プレプリントに論文を投稿する際の手順(ステップ)を解説していきます。 プレプリント論文とは? 研究論文がジャーナルに公開されるまでには時間がかかります。一般的には、ジャーナルに投稿された論文は、編集委員(エディター)によるチェックを経てから分野を専門とする研究者に送られて査読(ピアレビュー)が行われるので、時間を要するのです。プレプリントとは、ジャーナルに掲載することを目的に書かれた論文を査読プロセス抜きにサーバーに掲載し、オープンアクセスで誰でも閲覧できるようにしたものです。著者最終版と呼ばれることもありますが、多くの著者はジャーナルに投稿するのと同じ版をプレプリントサーバーに掲載しています。昨今のコロナの治療法などの医学関連や急速に進歩する情報技術など、研究結果の共有が急がれる分野でプレプリントでの公開が進んでいます。論文著者は、信頼性を確保するためとは言っても時間のかかる査読プロセスを経てから公開されるジャーナルの出版を待つことなく、プレプリントサーバーに論文を公開することで、研究成果を共有し、認識してもらうことができるのです。プレプリントの論文は、査読を受けておらず、特定のジャーナルのフォーマットに合わせた体裁になっていない原稿ですが、投稿された論文にはDOIが割り当てられ、ユーザー独自の判断で引用することができるので、貴重な研究が学術コミュニティに素早く共有されることにつながります。 プレプリント論文の役割 プレプリントを利用した学術研究成果の共有が増え、知識の拡散が促進されています。さまざまな分野のプレプリントサーバーが誕生し、利用されることにより、プレプリントは学術研究において以下のような役割を果たしています。 研究成果を迅速に学術コミュニティで共有できる 読者は、プレプリントサーバーに公開された論文を評価することができる 著者は、ジャーナルで出版する前に、誤りを修正したり提案を組み込んだりすることができる 著書が研究の論点を強化するのに役立つ 著名なジャーナルでの論文掲載につながる協力関係の構築にも役立つ プレプリントサーバーと関連サイト プレプリントサーバーは、さまざまな学術論文のデータや情報を掲載したオンライン・リポジトリであり、そこに掲載されるのはジャーナルにアクセプト(受理)されていない段階の学術論文です。論文原稿がプレプリントサーバーにアップロードされると、基本的な審査と剽窃・盗用チェックが行われますが、査読は行われません。プレプリントサーバーおよび関連情報としては以下のようなものがあります。 1. BioRxiv 生物化学、医学、生物学分野のプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold…

グリーンOA(オープンアクセス)のメリットとデメリット

オープンアクセス(OA)は、学術出版に大革命をもたらしています。制限のない知識の共有という目的の上に構築されるOAとは、基本的に、誰もが出版物をオンライン経由で常時、購読料を支払うことなく利用できることを意味します。研究知識を制限なく共有することは、著者、読者、そして研究資金提供者にとって非常に重要なことです。OA化の手法は、ゴールドロード(ゴールドOA)とグリーンロード(グリーンOA)と呼ばれる二つに大別されます。 この記事では、グリーンOAの概要と、そのメリットとデメリットに焦点を当てて紹介します。 グリーンOAとは グリーンOAとは、論文の著者らが自ら自分のウェブサイトや所属する研究室や大学・研究機関のウェブサイト、あるいはリポジトリに論文をアーカイブし、誰もが自由に無料で読めるようにするものです。セルフアーカイブとも呼ばれます。購読型の学術雑誌(ジャーナル)がすべてセルフアーカイブを許可しているわけではないので、投稿先ジャーナルがセルフアーカイブを認めているのかを確認しておくことが必要です。さらに、著者がどの論文を外部に公開できるかは出版社/ジャーナルの規定によるので、セルフアーカイブされている論文が査読を経ていない場合もあります。査読の前後、それぞれプレプリント(査読前)またはポストプリント(査読と著者による修正が済んでいる論文)と呼ばれる―いずれの原稿をアクセス可能にできるかは論文の投稿先によります。 すべてのOAジャーナルまたは出版社は、セルフアーカイブ・ポリシーを作成し、論文のどの版を掲載し、リポジトリでアクセスできるようにしてよいかといった諸条件を定めています。購読型ジャーナルに投稿した論文でも公開版の論文をセルフアーカイブできるものもありますが、一定の期間を経過していることを条件としているものもあります。この期間は猶予期間(embargo period)と呼ばれており、数ヶ月から数年とジャーナルによって差があります。猶予期間を設けずに即時公開が選択できる場合もあるので、公開猶予期間に関しては、ジャーナルあるいは出版社の方針をよく確認しておきましょう。 また、OAジャーナルの中には、出版後の著作権を著者に付与しているものもあります。多くのOAジャーナルはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC licence)を採用していますが、著作権の扱いについてもジャーナルに確認しておくことが重要です。 ゴールドOAとグリーンOAの違い グリーンOAとゴールドOAはいずれも、誰もがアクセスできるオープンサイエンスを提供するための手段ですが、多くの点で異なっています。 ゴールドOAは、出版社などが運営するサイトに投稿論文の最終版(公開版)を掲載し、誰もが論文にアクセスすることができるようにしたものです。論文の投稿者から掲載料を取るので、読者は無料で全文を読むことができます。これに対し、グリーンOAは、購読型ジャーナルに掲載した論文を著者らが自分自身や所属機関のサイト、またはリポジトリにセルフアーカイブし、誰もが自由に読めるようにするものです。セルフアーカイブで公開される原稿は、最終的にジャーナルに掲載された公開版とは異なる完成版(著者が仕上げた版、著者最終稿)もしくは出版社が許可した版になります。 グリーンOAとゴールドOAの主な違い グリーンOA ゴールドOA 完成版(査読を経た公開版とは異なる)論文への自由なアクセス…

COVID-19が問いかける学術論文の在り方

中国の武漢に端を発すると言われている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年の終わり頃から瞬く間に世界中に広がり、その猛威は今も衰えていません。日本を含む世界各国の感染者数および死者数は日々増え続けており、ワクチン接種が進んでいる国がある一方で、感染拡大に歯止めがかからない国では深刻な状況が続いています。 COVID-19が論文のオープンアクセス化を加速 この状況に対処すべく世界中の研究者が新型コロナウイルスの研究とワクチン開発を進める中、一気に加速したのが関連研究成果の共有とオープンアクセス(OA)化です。 武漢でCOVID-19の症例が報告された後、中国疾病対策予防センタ-(CCDC)の科学者は、患者のデータを分析し、肺炎患者の検体のシークエンシングから今まで知られていなかったウイルスを発見し、そのゲノムを特定しました。中国の研究者らは、この新型コロナウイルスのゲノム配列に関する研究結果を暫定的な段階から世界中の科学者と共有したのです。各国の研究者が分析や調査研究を進める傍ら、Springer Nature、Elsevier、Wileyをはじめとした大手学術出版社は、COVID-19に関する論文をオープンアクセスで即時公開する取り組みを開始しました。今では多くの学会や機関・団体、出版社がCOVID-19に関連するデータや論文などをオープンアクセスで公開しています。また、より短時間で研究成果を共有できるようにとの目的から、論文の査読プロセスのスピードアップも進められています。 プレプリントサーバー利用の拡大 出版社らは、この非常事態に対応すべく大量に投稿されるCOVID-19関連の論文をできるだけ早く共有するために、査読を急ぎ、オープンアクセスで公開しています。これにより、COVID-19関連の情報の共有化が促進され、ワクチン開発や治療法の研究が進むことについて異論を唱える人はいないでしょう。しかし、論文のOA化に関しては、さまざまな議論が出ています。研究者が出版するすべての論文をOAにすることを義務付ける「プランS」には賛否両論あるものの、研究論文の公開をOA化することの必要性が高まるにつれ、大手出版社がプランSに賛同する動きも出てきていました。そこに突如起こったパンデミック。COVID-19による非常事態が、従来の出版モデルからOAモデルへの移行を大きく後押しすることとなりました。 それと同時に、査読前論文をOAで公開するプレプリントサーバーに公開される論文も増えてきました。医学論文のプレプリントサーバーの代表的なものとしてはmedRxivがあげられます。こうしたOAへの流れ、プレプリントサーバー利用の拡大は、論文公開までの時間を短縮し、治療に携わる医療従事者に役立つ有用な情報を迅速に提供できる意味で大きな利点があります。一方で、査読前論文である以上、後から誤りが見つかったり、撤回を余儀なくされたりすることも頭に入れておく必要があります。medRxivにも以下の注意書きが掲載されています。 Caution: Preprints are preliminary reports of work…

科学ジャーナルのオープンアクセス最新動向と留意点

2021年1月15日、Science各誌の発行元である米国科学振興協会(AAAS)が、一部の資金提供者が支援した研究の成果については直ちにかつ自由にアクセスできるようにするように公開することを求めていることに対し、論文著者が応じられる方法を提供すると発表しました。この新しい オープンアクセス (OA)方針に基づけば、著者は、ほぼ最終段階にある原稿、あるいは有料購読者しかアクセスできないScience誌に掲載された査読済の原稿であっても、誰もがアクセス可能なオンラインリポジトリに掲載することができることになります。 プランSオープンアクセス(OA)と出版社のせめぎ合い 新方針の下、Science各誌は「グリーンオープンアクセス(グリーンOA)」に踏み出した訳です。つまり、購読料を支払って購読する従来の学術雑誌(ジャーナル)に投稿された論文であっても、著者自身が機関リポジトリに並行してOAとして公開することができるようになります。著作権の条件が個々に異なるので、再利用および許諾申請については著者や著作権者への確認が必要ですが、読者側からのアクセスのチャンスが広がったと言えるでしょう。ただし「一部の資金提供者」となっている点に注意が必要です。OAの実現に向けたイニシアチブ「cOAlition S」からの資金援助を受けた論文著者が申請した場合のみとの制限が設けられているのです。よって、Science誌の現時点での新方針は、このOAイニシアチブの背後にいる欧州の資金提供者および「プランS」が資金を提供する論文著者のみに適用されるということになります。この新しい方針の下で公開される論文の著者は、プランSの原則に準じた著作権を有することになります。主要ジャーナルであるScienceとその他4つのScienceタイトルのジャーナルに掲載されている研究論文の多ければ31%がcOAlition Sによる資金援助を受けているとされていますが、cOAlition Sによる資金援助を受けていない著者の執筆した論文は、出版から数ヶ月から24ヶ月の期間(猶予期間/エンバーゴ)を経るのを待たなければ公開できません。AAASは、この新しい方針を1年間試験的に行い、収益性を判断するとしています。無料でアクセスできる論文が増えることによって大学や研究機関が購読契約をしなくなり、出版社としての収益が下がる可能性があることは否定できないからです。そしてAAASは、誰もが無料で発表論文を読み、使用することを可能とするゴールドオープンアクセス(ゴールドOA)の採用にまで拡大しなかった理由として、多くの著者、特に貧困国の著者にとって非常に高額な出版手数料を課すことになってしまうことへの懸念を述べています。ゴールドOAの論文は、誰もが無料で読むことができる反面、論文出版料金 (APC) やその他の出版に必要な全費用は著者が負担することになります。例えば、AAASジャーナルの一誌Science AdvancesにゴールドOAモデルで出版するためには、論文あたり4500ドルの出版手数料が著者に請求されることになります。Nature系のジャーナルにゴールドOAで出版する費用が、最高で論文あたり9,900ユーロ(約12,000ドル)となるよりは低いものの、研究者にとっては大きな負担です。とはいえ、出版社としては出版コストをカバーする必要があるのも否めませんし、研究論文以外のニュース、論評(Commentary)や総評(Review)を掲載するにあたってはNatureもScienceも出版費用を徴収していません。 OAの広がり AAASの新しい方針は、以前の方針から大きく逸脱するものではありません。今回の新方針発表以前から、論文著者は最終版が公開された時点で、ほぼ最終版(著者が最終的に承認した原稿、author-accepted manuscript)を個人のウェブサイトや大学や研究機関のリポジトリにアーカイブすることができました。新方針では、著者が米国国立衛生研究所のPubMed Centralなどの非営利団体が運営するリポジトリにも投稿できるように範囲が広がっています。 ここで、公開された論文=最終版(Version…

電子ジャーナルプラットフォームIOPscience

IOPscienceとは、英国物理学会(Institute of Physics: IOP)の出版部門IOP Publishingが提供する学術雑誌(ジャーナル)のオンラインサービスで、IOP発行のジャーナルの検索や論文へのアクセスを可能にするプラットフォームです。今回は、物理学分野において重要な論文公開と出版を支えるIOPscienceについてまとめてみました。 論文の出版 研究論文を出版することが、研究者のキャリア形成で非常に大切なことは言うまでもありません。所属先から論文出版が必須とされている人もいれば、学術界に研究成果を知らしめるために出版するという人もいますし、自分の研究分野において専門家としての地位を確立するために出版するという人もいるでしょう。いずれにしても、研究成果を論文として出版するまでが「研究」であるとも言われるほど論文の出版は重要視されています。成果を発表してこそ、該当分野の研究を促進し、科学の発展に寄与することができるのです。研究者としてのキャリアを積むのであれば、できるだけ早くから論文の執筆にチャレンジしてみることをお勧めします。 とはいえ、論文発表はキャリアのためだけではありません。有名な物理学者、スティーブン・ホーキング博士の言葉に、研究を行うことの原動力は発見の喜びであると表したものがありますが、その喜びを他者と共有するためにも論文を出版することは意義深いことです。 「No one undertakes research in physics with…

研究データ出版の動向

学術界では、科学研究の成果や関連するデータや情報を共有する「オープンサイエンス」の動きが強まっています。そこで登場したのが、データジャーナル。研究データについて詳細に記述し、公開することで他の研究者が再利用することを助けます。研究データを広く公開することで社会貢献するとともに、価値あるデータを他の研究者に再利用してもらうことで次の科学的発見につなげることができるのです。しかし、ほとんどの研究者は自身の研究成果を論文として発表することが学術界にとっても自身のキャリアにとっても良いと認識していながら、すべての研究データを論文と共に発表することに合意しているとは言えません。長年、研究当事者はデータを所有物と考え、他の研究者は方法と結論さえ明確に書かれていればデータを見る必要はないと考えていました。この考え方が変わりつつあります。再現性の危機が問題視され、オンラインアクセスが増加するに従ってデータの検索や閲覧が簡単にできるようになると、科学者や研究者たちの間でデータを共有する新しい動きが出てきたのです。データ・レポジトリ(またはデータリポジトリ)が構築されると、新たな論文の出版先としてデータジャーナルが浮上してきました。データジャーナルの動向を探ります。 データジャーナルと研究データ まず、日本学術会議情報学委員会から出された報告書によれば、データジャーナルとは「データ生産者が分野を超えて連携して、オリジナル論文に埋め込んだデータや論文投稿時に棄却した高品質のデータを学術の成果として集積するための新たな場」と記されています。データジャーナルは、データ自体を研究成果として発表する場です。多くのデータジャーナルはオープンアクセス(OA)誌の形で刊行されており、分野を超えて利用されています。ところが「データ」自体は特に定義されていないため、簡単に言えば、観察の結果および研究を進める間に研究題材に関連付けて研究者が集めた情報全般となります。ここには生データだけでなく、処理・較正された値、発表内容まで研究の過程で生じたすべての情報(未処理のデータファイル、ソフトウェア、ソースコード、プロトコル、方法、インタビュー記録、モデルなど)も含まれます。 従来の学術論文は、主な発見や興味深い結果を重視し、そこに至るデータにはあまり注意を払ってきませんでした。その理由としては、研究者が集めたデータが論文に書き込むには膨大だった、一般的に論文の中のデータの位置づけが研究の結論を補完するものだったなどが挙げられます。では、今まで発表してこなかったデータを発表することに、意味があるのでしょうか。 研究データは公開すべき? 研究成果たる論文の根拠となる情報である研究データの公開を検討すべき理由は複数ありますが、最初に挙げるべきは、再現性の危機(reproducibility crisis)対策でしょう。データを共有すれば、学術界(科学コミュニティ)は再現性の検証ができます。次に、データを公開すれば、他の研究者がデータだけでなく実験・分析方法などの詳細を確認し、新しい課題に取り込むことも可能です。もちろん、著者が新たな共同研究を立ち上げるにも、学術界で研究者として評価を高めることにも役立ちます。また、データを公開することは学術界のみならず、政策決定の際に参照されたり学術関係以外の研究者が入手できるようになったりするなどの便益が図られます。最後は、自分にとってのメリットです。データを公開することで論文の被引用数を増やすことができます。データを、データジャーナルやデータ・レポジトリに公開することによって、他者に適正に研究データを引用する機会を提供し、それによってデータ提供者はその功績を認められることになるのです。 データをどこに公開するか データの公開する方法としては、データジャーナルに出版するか、データ・レポジトリに保存するかの2通りがあります。データ・レポジトリは、研究データ(画像データや数値データなど)や研究に付随するプログラム等を収集・保管しておくことを目的としています。データ・レポジトリは研究者にとって既になじみのあるものですが、その利用は個々の大学や研究機関などに限られており、部外者が簡単に利用することはできない上、多くのデータ・レポジトリへのアクセスは有料です。とはいえ、European Open Science Cloud(EOSC) ポータルのように無料のデータ・レポジトリもあるので、参考にしてみましょう。 もうひとつの方法が、データジャーナルです。ほとんどの研究者は論文を出版し、原稿とは別にデータをデータ・レポジトリに保存していましたが、この方法では特定のデータを探し出すのが簡単とは言い難い状況でした。データジャーナルは、データセットを探しやすくするのと同時に、普及・引用しやすくすることを目的としています。データジャーナルには、データセットを説明する簡潔な文章とレポジトリに収納された全データへのリンクが示されるので、データの保存や再利用を促すために有効な手法と考えられています。ほとんどのデータジャーナルに書式があり、著者はこの書式に入力してデータ情報を提出するだけで投稿できるようになっています。データジャーナルはMEDLINE のように主要な医薬文献検索に収録されるので、従来の学術雑誌(ジャーナル)同様にインパクト・ファクター(IF)を取ることができます。…

世界的なパンデミック下でプレプリントの利用が急拡大

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大にともない、医学研究論文や関連記事の数が急増しています。ウイルス感染の急拡大は人々の命と健康にとって重大な問題ですが、学術出版界は思わぬ恩恵を受けることとなりました。ロックダウンや移動制限により、学術出版、特にバイオサイエンスや医学分野におけるオープンサイエンスの重要性が再認識されたのです。世界中の研究者が、ウイルスの遺伝配列、疫学的情報、投薬による症状の変化などのデータを共有するようになりました。必要性が革新的な変化を後押ししたのです。その結果、お互いの状況を確認し合い、手元にはない知識や情報にアクセスすることができるようになりました。効果的なワクチンや有効な治療法の開発を支援し、パンデミックの影響を理解するための急激な情報ニーズに対し、世界の学術界は驚くべきスピードで対応しました。例えば、新しいコロナウイルスの人への感染が確認されると、2020年1月10日には中国の研究者が、世界的なインフルエンザウイ ルスの共有データベースGISAID(Global initiative on sharing all influenza data)にこのウイルスのゲノム配列情報を公開し、そして1月中旬までには、ドイツと他のヨーロッパ諸国と香港の研究者が、新型コロナウイルスを検出するための診断テストの詳細を公開するに至りました。過去のインフルエンザやSARSの流行時には考えられなかったスピードです。 一気に進んだコロナ関連論文の共有化 このように、論文や情報が共有されるスピードは格段に進歩しました。学術雑誌(ジャーナル)のNatureは、コロナ関連のすべての研究論文を自由に利用できるように取り組むとともに、研究者には関連研究を迅速に公表し、共有することを推奨しています。論文公開に関して論争の的となっている学術出版社エルゼビアも「Novel Coronavirus Information Center」を開設しコロナウイルス関連の論文を無料公開しています。医学雑誌ランセット(Lancet)も「COVID-19 Resource Centre」を開設し、COVID-19でジャーナルに掲載された論文や記事を提供することで、医療従事者や研究者を支援しています。このサイトにはランセットジャーナルに掲載されているCOVID-19関連の論文がまとめられており、無料でアクセスすることができます。…

オープンアクセス論文の引用率は本当に高いのか

欧州の研究機関をはじめ、オープンアクセス(OA)出版を積極的に後押しする動きが高まる中、OAの普及が加速化していますが、その一方で、定期購読料につき大学などの研究機関と出版社との対立が膠着状態となっています。実際、OAに掲載された論文の方が、購読雑誌に掲載された場合よりも閲覧数・ダウンロード数ともに多くなることが判明しており、その傾向は一層強まると予想されています。 https://www.youtube.com/watch?v=10cfN0EvKh0   確実に読者を掴むOA出版 2014年にNature Communicationに掲載された研究情報ネットワークResearch Information Network (RIN)による調査の結果、OA方式の論文の方が従来の定期購読方式の論文よりも閲覧数、引用数ともに上回っていることが明らかにされました。例えば、2013年上半期にOA方式と定期購読方式の両方で提供するハイブリッド・タイプの学術雑誌であるNature Communicationsに掲載された722本の論文のトラフィックをRINが分析した結果、OA論文と定期購読方式の論文の閲覧数に明らかに有意な差が見られました。この6ヶ月のOA論文の閲覧数は非OA論文の2倍を上回っていました。さらに、2010年4月から2013年6月の間に同誌に掲載された2000本以上の論文の引用数を分析した結果には、購読のみの非OA論文とOA論文の被引用件数の比較において、第一四分位数(データを小さい準に並べたときの25%の位置にある数字)では非OA論文3に対しOA論文4、第三四分位数(同75%の位置にある数字)では15対21、中央値では7対11といずれの点でもOA論文の引用数が上回っていることが示されていました。 OAの影響は学術雑誌の枠を超える OAのプラスの影響は、学術雑誌に留まりません。ドイツのライデン大学の博士課程のRonald Snijderの調査によると、研究成果の書籍をOAで閲覧可能とした場合、OAで読めない(非OA)書籍よりも引用件数が10%程度高くなっていました。ここで注目すべき点は、書籍をOAで無料提供しても、紙媒体の書籍の売り上げにマイナスの影響がほとんど生じなかったことです。インド、中国、インドネシアなどの国々では、OA版のダウンロード数の方が非OA版を上回っていました。この傾向は、スウェーデンのルンド大学が運営するDirectory of Open…

オープンアクセスとプランSによる学術出版の改革を考える

プランSとcOAlition Sの概要 プランSの目的、範囲、原則 オープンアクセス オープンデータの重要性

オープンアクセスの動向と課題

オープンサイエンスが進展し、国際的にも広がるにつれ、研究の専門家に限らずあらゆる人が学術研究の成果や研究に関連する情報にアクセスできるようになってきていますが、同時に研究スタイルやデータ共有などに影響がおよんでいます。今回は、オープンサイエンスとは切っても切れないオープンアクセス(OA)の動向と課題について振り返ってみます。 https://www.youtube.com/watch?v=10cfN0EvKh0 オープンアクセスウィーク 毎年10月に、オープンアクセスに関連するイベント「オープンアクセスウィーク」が世界各地で開催されており、2019年は10月21日から27日に行われました。このイベントは、2008年に学術・研究図書館の国際連合であるSPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)と学生コミュニティが立ち上げたもので、以降、毎年開催されています。2019年のテーマは「Open for Whom? Equity in Open Knowledge(誰のためのオープン化?オープンな知識における平等を考えよう)」で、まさに研究活動を進める上での本質的な問題を突いているものでした。この質問を投げかけることで、既存のシステムがもたらしているとされる不平等性をオープンアクセスが解消できるかを議論しています。オープンアクセスウィークの詳細情報はwww.openaccessweek.orgで公開されているので、掲載されているブログなどを読んでみると興味深い見解を知ることができるでしょう。…

Everything You Need to Know about Open Access

With the advent of the internet and emergence of digital archiving, access to information has…

プランSの学術界への影響は⁈(2)

論文のオープンアクセス(OA)化に向けた公的助成機関によるイニシアチブ「cOAlition S」の開始と、OA推進の10の原則「 プランS 」についての概要、ならびに、このプランSへのフィードバック募集(期限:2019年2月8日)については別記事で紹介しました。学術研究者のみならず、出版界もこのプランSの動向に注目しており、600を超えるフィードバックが寄せられたそうです。それらの意見を踏まえてcOAlition Sが目指すOAの実現に向けた手引き「Guidance on the Implementation of Plan S(以下、手引書)」が改訂され、効力の発生時期を予定より1年遅れの2021年1月1日に延期するなどの変更が加えられました。この動きは学術界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 加速するオープンアクセス 2019年5月31日に発表された手引書の改訂版には、cOAlition S参加機関による研究助成を受けた研究成果(査読出版物)は、すべてOAジャーナルかOAプラットフォーム、またはOAリポジトリに即時発表しなければならないとされる日が、当初計画されていた2020年ではなく2021年1月1日となったことが記されています。OAへの移行には時間が必要であるとの指摘に対応し、出版社のビジネスをOAモデルにシフトする時間的猶予を与えるものと見られます。とはいえ、効力発生日までに学術界が適応しきれるのか疑問視する声は根強く残っており、さまざまな点で論議を呼んでいます。 改訂点…

プランSの学術界への影響は⁈(1)

近年、学術界は論文のオープンアクセス(OA)化も含めたさまざまな変化に直面しています。かつては、ほとんどの研究者が学会に所属しており、自らの研究成果を提示する機会を学会に依存していました。学会の会合で発表したり、出版の誘いを受けて論文を投稿したりしてきたのです。しかし近年は、OAビジネスモデルに代表されるデジタル化の波により、学会の支配力は揺らいでいます。研究者は、学会に頼ることなく、多種多様な学術雑誌(ジャーナル)にいつでも、どこからでもアクセスできるようになっているからです。 新たな取り組み:プランS 2018年9月4日、欧州委員会(EU)と欧州研究会議(ERC)の支援を受け、欧州の研究助成財団・研究実施機関が加盟するScience Europeは、11の研究助成機関が助成した研究成果を完全かつ即時(論文発表直後)にOAにするためのイニシアチブ「cOAlition S」を開始すると発表しました。 発表時に署名した研究助成機関と国名 Austrian Science Fund (オーストリア)、French National Research Agency(フランス)、Science Foundation Ireland(アイルランド)、National…