パケット道場 ~初級アカデミック英語講座~

非ネイティブの学術研究者にとって、国際舞台で自身の研究結果を発信するために英語は必要不可欠なツールのひとつ。しかし、学術研究者向けの英語を教えてくれる場はほとんどないのが実情です。本コラムでは、京都大学で長年にわたり英語指導を担当してきたパケット先生が、学術目的の英文執筆をイロハからやさしく伝授します。

カバーレター

カバーレターとは論文を投稿する際、原稿に添えて編集者宛に書く手紙のことです。カバーレターは編集者にその研究を紹介する役割を果たし、研究の重要性やそのジャーナルへの適合性を訴える機会となります。論文採用の成否に大きく影響を与えるものですので、軽い気持ちで書くべきものではなく、内容をよく考えたうえで、論文と同じくらい念入りに作成すべきです。

投稿規定、論文の様式

各学術ジャーナルには、それぞれ独自の 投稿規定 があります。大抵の場合、それらの規定はジャーナルのウェブページに「Instructions for Authors」、「Information for Authors」、「Instructions for Contributors」などのような表題で記載されています。論文を投稿する前には必ず一度確認してください。 通常は投稿規定の中に論文の書式についての指示があります。書式は分野によって大きく変わり、同じ専門分野の中でもジャーナル間に様式の多少の違いはあります。しかしそれでも、それぞれの分野の標準的な様式に従う場合が多いです。 以下のウェブサイトには主要な様式やスタイルのリストが記載され、役に立つウェブサイトへのリンクもさまざまな種類のものがあります。中にはそれぞれの様式のマニュアルへのリンクもあり、場合によっては無料でダウンロードできる、あるいはウェブ上でご覧になれるものもあります。 Know Which Style To…

論文英語の組み立て – 学術論文における 口語 の使用について

「 口語 」とは、日常生活における会話で用いられる言葉遣いのことです。英語の学術論文では口語を避けるべきだと言われますが、ここでその主な理由を説明します。 英語にもさまざまな口語と文語との違いがありますが、日本人学者が書いた論文における口語的な言葉遣いによる問題は、主に単語(多くの場合は動詞)の誤った選択に起因するものです。私が読んできた論文からすると、口語的な用法で用いられがちなものとして最も注意すべき単語や表現は以下を含みます。 動詞: give、take、put、keep、stay、do、make、look、call、remember、say、tell、ask、care、come、go、check、feel、happen、hit、touch、used to...、supposed to... 名詞: lot、way 形容詞: like、big、little、just、hard、easy、good、bad、great 前置詞: around、before、after 副詞:…

間違いやすい用語や表現 ー based

過去分詞「based」の誤用を度々見かけます。ここではその典型的なものを検討します。 過去分詞およびそれが導入する過去分詞句は、必ず形容詞の機能をもち、名詞とその相当語句のみを修飾しうる語句です。しかし、日本人学者による論文では過去分詞が副詞として用いられているという文法的な誤りをよく目にします。 以下を見てみましょう。 [誤] (1) We performed this experiment based on the method introduced in…

間違いやすい用語や表現 ー動詞「set」の誤用

「to be」との誤った併用 日本人学者が書いた論文において動詞「set」が誤用されていることを度々目にします。ここでは「set」の一つの典型的な誤用を考察します。 以下を見てみましょう。 [誤] (1) Here, x is set to be positive. [誤] (2)…

論文英語の組み立て-能動態と受動態 I

能動態と受動態I: 動詞の種類による3つのケース I. 概略 学術論文において受動態の間違った使い方が原因となっている誤りを度々目にします。ここでは、受動態文の作り方を検討します。 日本語と違って、英語では、受動態は他動詞の場合にのみ可能です。なお、他動詞にも数種類あり[1] 、受動態文の構造に関しては他動詞の種類によって3つのケースがあります。つまり、1)動詞が直接目的語しかとらない単一他動詞、2)直接目的語と間接目的語をとる二重他動詞、3)直接目的語と意味的間接目的語をとる二重他動詞となっている場合において受動態文の作り方はそれぞれ異なるわけです。以下で各ケースにおける構造を明らかにします。 II. 例文 IIa. 受動態文が能動態文と同じ状況を表す場合 まず、以下の例を見てみましょう。 1)単一他動詞 能動態: [正] (1a)…

論文英語の組み立て-自動詞と他動詞

I. 概要 一般的な言語学現象として、 動詞 は、表す動作や状態において異なった立場にある複数の参加者が存在するかどうかによって二種類に分かれます[1] 。動作・状態の主体である参加者のみ存在する場合に使われる動詞は「自動詞」(intransitive verb)と言い、対象(客体)も存在する場合は「他動詞」(transitive verb)と言います[2] 。他動詞はさらに「単一他動詞」(monotransitive verb)と「二重他動詞」(ditransitive verb)という二種類に区別されます [3]。統語論的には、示される動作・状態における参加者を表す項が、前者では2つ(主語と1つの目的語)、後者では3つ(主語と2つの目的語)あります。英語では、単一他動詞は1つの直接目的語をとり、二重他動詞は直接目的語に加えて間接目的語、あるいは間接目的語と同様の役割を果たす前置詞の目的語をとります[4] 。(ここでは、間接目的語と同様に機能する前置詞句の目的語を「意味的間接目的語」と呼ぶことにします。) 例文を見てみましょう。 [正]…

間違いやすい用語や表現 - 不要な「of」

「の」の誤訳が原因となっている「of」の誤用を度々見かけます。その中でも特によく見られるものとして、以下に例示する誤用があります。 [誤] (1) Here, the condition of v > 0 is important. [正] (1’) Here,…

間違いやすい用語や表現 -the one

代名詞「one」は日本人学者の論文で過度に使用されると思われます。熟語「the one」における誤用は特によく見受けられます。 「the one」が表現として誤っているとは言えませんが、学術論では一般に(「one」が代名詞となっている)「the one」よりは「that」の方が適切です。私が今まで読んできた学術論文では、ほぼ例外なく「the one」(「the ones」)はそのまま「that」(「those」)に置き換えるべきものでした。 以下は典型的です。 [誤] (1) This method is similar to…

間違いやすい用語や表現 -if any

熟語「if any」の誤用は、日本人学者による論文で度々目にします。この表現は「もしあれば」、「存在する場合には」などといった意味を表すのに使用できますが、その用法は、文法的に誤っている上に曖昧な文意をもたらすこともよくあるため、学術論文では避けるべきです。 例文を見てみましょう。 [誤] (1) A successful treatment must first satisfy all protocol conditions (if…

間違いやすい用語や表現 - Stay

動詞「stay」は、口語的とされるため、学術論文では避けるべきです。 「stay」が口語的である主な理由は、意味が非常に広いため、その使用によって学術論文には相応しくない曖昧さが生じてしまうからです。 私が読んできた日本人の学術論文において「stay」が使用されるほとんどの場合、意図した意味は次のいずれかの表現によって明瞭に表すことができます。 remain、「to be」動詞、exist、be positioned、come to rest、be fixed、be unchanged、be motionless、remain motionless、stop、converge、live、reside 以下は「stay」の典型的な誤用を示します。 [誤] (1)…

間違いやすい用語や表現 -hugeとtiny

形容詞「huge」と「tiny」は、口語的であるから、原則として学術論文には相応しくありません。 「huge」と「tiny」が口語的とされる理由は、これらの語には対象となっている物事の大きさについての判断が主観的であるということが含意されるからです。使用される状況によって程度が異なりますが、話し手・書き手の驚きも含意されてしまいます。 学術論文において「huge」と「tiny」の代わりに適切に使える表現は多数ありますが、特によく使用されるものとして以下を挙げます。 huge: very large, extremely large, inordinately large, excessively large, dominatingly large, divergent,…

間違いやすい用語や表現 -a lot

熟語「a lot」は副詞として、また前置詞「of」と合わさって形容詞として用いることができます。前者と後者の場合には「a lot (of)」は、それぞれ「a great deal」や「to a great degree/extent」そして「much」や「a great amount/degree of」の同義語になります。ただし、このような用法は極めて口語的なので、学術論文では避けるべきです。(*1) 以下は「a lot」の典型的な誤用を例示します。 I.…

間違いやすい用語や表現 - bigとlittle

形容詞「big」と「little」は、(例(3)、(4)、(5)で示す「little」の用法を除いて)口語的とされるため、原則として学術論文など、正式な書き言葉を必要とする文章では避けるべきです。 ここで、「big」と「little」に共通する一つの用法と「little」にしかない二つの用法を個別に考察します。 「big」と「little」に共通する用法は以下で例示されます。 [誤] (1) The value of this quantity in the present case is…

間違いやすい用語や表現 -複数形の誤用

英語には、通常単数形でしか用いられない名詞がたくさんあります。それらの名詞は、通常の用法で不可算物あるいは一つの可算物とみなされるものを意味するわけです。英語を母語としない人がこのような名詞を誤って複数形で用いているのをしばしば見かけます。 以下はこのような誤りの典型例です。 [誤] (1) These data analysis studies have added many knowledges to our understanding…

冠詞用法I: 量を表す名詞はその値によって 一意に特定されない

私が読んできた論文からすると、日本人が書く英文における問題点は3〜5割が冠詞用法に関わるものです。誤った冠詞用法がよく見られる名詞の中でも量を表す名詞は特別です。量を表す名詞で見られる誤った冠詞用法は、誤りの多さおよび誤りが引き起こす意味上の問題の深刻さによって、特に顕著な誤用です。ここでは、その典型的な誤用の一つを考察します。 冠詞の誤用を引き起こす原因に、量を表す名詞独特の誤解が幾つか存在します。その一つは以下の誤用例で見られます。 [誤] (1) This circle has the radius 3 mm. この文の書き手は、名詞「radius」がその修飾語である「3 mm」によって一意に特定されると勘違いしたようです。この勘違いは、ある量の可能な実現とその可能な実現値とが一対一の関係にあるという誤解に起因するものだと思われます。実際は、(英語に内在するロジックでは)ある量が考察される個別のケースにおいて、たとえそれぞれのケースにおける量の実現値が全く同じだとしても、それぞれのケースにおける量の実現は個別の存在として解釈されます。3 mmの値を持つ半径というものが様々存在するわけです。従って、上述の例文中の名詞「radius」が表すものは唯一ではありません。よって、「the」は削除すべきとなります。 [誤]…