学術研究者向けソリューションサービスのグローバル・リーダーである研究支援エナゴと、世界中の研究者と研究管理者をサポートする研究助成金情報を提供するscientifyRESEARCHは、2024年10月16-17日に沖縄科学技術大学院大学で開催された「RA協議会第10回年次大会」にて、日本の研究者が研究助成金を獲得する機会について行った共同調査の主な結果を発表しました。
この調査は、国際的な資金源へのアクセスを模索する日本の研究者や研究機関にとって重要な課題および助成金獲得の機会に焦点を当てたものです。大規模な調査とデータ分析に基づく調査結果は、研究助成金に関する現状のギャップを埋めるためには、研究者、リサーチ・アドミニストレーター(URA)、さらに研究助成機関が連携する必要があることを強調しています。また、この調査結果は、国際的な研究助成金の獲得に成功し、日本の研究が国際的な舞台で競争力を維持するには、大学など研究機関のURAの役割が重要であることを示しています。
科学研究コミュニケーションおよび学術出版に関するエナゴの専門知識とscientifyRESEARCHの高度なデータ分析を組み合わせ、国際的な資金調達の状況を包括的に分析しました。この結果を踏まえ、研究機関が資金調達戦略を改善し、研究インパクトを世界的に最大化するために実行可能な提言をまとめています。本記事では、提言のハイライトを一般に初公開します。
この調査結果は、日本中の研究機関を代表する200名以上の研究管理者やアドミニストレーターが集まる「RA協議会 第10回年次大会(2024年10月16-17日、沖縄科学技術大学にて開催)」で発表されました。今大会がURAの活動の促進に焦点を置く中、エナゴとscientifyRESEARCHは「国際的な研究資金を日本へ:研究助成金獲得を成功させるためにURAが果たす重要な役割」と題したポスター発表を行い、資金ギャップを埋めるために必要な協力的取り組みを示しました。
ここで発表した洞察は、日本の研究者を対象としてエナゴが実施した調査の結果とscientifyRESEARCHの国際研究助成金に関するデータの2つをデータソースとして導き出されたものです。
エナゴは、2022年10月28日から2023年1月10日にかけて、大学および研究機関に所属する日本人研究者を対象に「研究資金に関する意識調査」と題した大規模なオンラインアンケート調査を実施し、研究者、論文著者、ジャーナル編集者および出版関係者を含む225名からの回答を集めました。一方scientifyRESEARCHは、2024年6月時点で入手可能な世界の助成金提供者と資金獲得の機会に関する詳細なデータを抽出し、包括的なデータセットを作成しました。データは、日本特有の機会に焦点を当て、国際共同研究に対する助成の割合や、特に女性研究者に対する助成の割合を注視して整理されました。この調査分析では、国際共同研究と女性研究者への支援に焦点を当て、資金調達の傾向や課題、調達の機会を詳細に分析しています。
国際的な研究資金を日本へ:研究助成金獲得を成功させるためにURAが果たす重要な役割
(上の資料はエナゴ学術英語アカデミーへのご登録後にダウンロードいただけます)
背景
研究助成金の調達とは、複数の関係者が連携して段階的なプロセスを処理する必要のあるものであり、関与するそれぞれが重要な役割を担っています。研究者は研究計画調書の作成や画期的なアイデアを提示するにあたって基盤的な役割を担い、URAはプロセス全体を通して研究者の指針となる重要なファシリテーターとして資金調達を成功させるための準備を手伝う役割を担います。
scientifyRESEARCHのようなデータプロバイダーや、エナゴのような学術出版や科学コミュニケーションを支援するサービスプロバイダーは、資金源の特定を容易にし、効果的な助成金申請書の作成を支援することで、助成金獲得のプロセスをサポートします。
今回の調査およびデータ分析から得られた主要な洞察
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利用可能な研究助成金へのアクセスの問題
エナゴの調査からは、日本の研究者が資金調達の機会を探す際、米国政府助成金を申請・管理するためのポータルサイトgrants.govや日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)のような体系化されていない情報源をよく利用していること、その一方で関係のある選択肢を効率的に探し出すことの難しさに直面していることがあると判明しました。この結果は、早急に資金調達検索の流れ(ワークフロー)を強化し、検索プロセスを合理化する必要性と、この課題に対処するために研究者の状況に合わせたサポートを提供するURAの役割の重要性を強調するものです。
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国際的な研究助成金における日本人研究者の存在の薄さ
日本国内に限って見ればかなりの研究開発投資が行われているにもかかわらず、国際的な研究助成金、特に米国国立衛生研究所(NIH)のような主要な助成金提供者からの助成金確保にはギャップがあることが懸念されます。NIHが支援している研究プロジェクトをまとめたデータベースNIH RePORTERによると、近年、NIHから「米国以外の国」の1,432の研究プロジェクトに授与された計6億2,400万ドルの中に日本人研究者への割り当てはひとつもありませんでした。NIHからの助成金提供を受けている日本人研究者が欠如していることは、NIHのような世界的な助成金を獲得する機会へのアクセスを妨げている障壁に対処する必要性を浮き彫りにしていると言えます。
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国際的な助成金獲得へのチャンス:国際共同研究への助成
scientifyRESEARCH のデータからは、2024年6月時点で抽出された684の国際的な助成金のうち約60%(405)が国際的な研究への助成金提供や流動性のある資金の提供を行っていることが見て取れます。この中の80%(405のうちの348)が、日本の研究者も獲得可能であるのは喜ばしいことですが、こうした国際的な助成金は世界中の研究者に門戸を開いているので、他国の研究者はより大きなプールを持っていることになります。国際共同研究に対する助成金提供にはより厳しい基準があるため、潜在的な競争相手である他国の研究者にはプールが狭まることから、我々はこうした機会に注目することとしました。国際共同研究に助成金提供している52の助成機関のうち35(50%以上)が日本を拠点とする研究者との国際共同研究に助成金を提供しています。助成金獲得の機会としては比較的小さいものですが、これらは「リスクは少なく実りは大きい(ローリスク・ハイリターンな機会)」可能性があり、日本の研究者にとって国際的な助成金獲得につながるかもしれません。
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女性研究者に特化した助成金援助は、国際的な助成金申請におけるもうひとつの注目事項
世界の684の研究助成機関のうち、10%以上が女性研究者に特化した助成金を提供しています。これらの助成金の多くは、助成機関の国の研究者に限定されているものの、その3分の1は研究者の拠点とは関係なく提供されています。女性研究者に特化した助成金獲得の機会は、国際的な研究助成金を日本にもたらすための別の見方を示しているとも言えます。
将来の研究への提言
今回の調査と分析から、助成金獲得における現状のギャップと機会に関する課題だけでなく、これらの課題を解決するためにはURAが極めて重要な役割を担っていることが浮き彫りとなりました。URAは、助成金検索を合理化し、個々の研究に応じて必要なサポートを提供し、世界的な助成金団体との連携を円滑に進める手助けをすることで研究を支援することができます。
こうした課題の解決に向けて以下のステップを提案します。
- 研究者の専門性に合わせた資金源特定方法を合理化する。
- 利用可能な機会を特定・追跡するため、スプレッドシートのようなミスを起こしやすい手作業による管理ではなく、データベースの構築などデジタルツールの利用を促進する。
- 効果的な助成金申請のためのツールやトレーニングの提供に投資し、助成金受領後の管理業務の支援を行うことにより、助成金に関する流れの全体を包括的にサポートする。
- 女性研究者が公平な助成金獲得機会を得られるように、世界的な助成金提供者における包括性を学内・研究機関内に周知する。
- 助成金申請と管理における重点的な取り組みを牽引するため、研究機関・団体に国際研究管理のための専任のURAを置く。
- ベスト・プラクティス・ツールの拡充と共有を行うことで資金調達フローの全体を通して研究者を支援する。そのために、URAの役割を拡大し、立場を引き上げる。
- URAに、助成金関連の書類作成のためのワークショップへの参加や、国際的な機関・団体との交渉および効果的なコミュニケーションに関するトレーニングの探求を推奨する。
今後、多様な日本人研究者を対象とした大規模な調査やインタビュー調査などを含む、より包括的なアプローチを通じて、国際的な研究助成金へのアクセスにおける具体的な課題や障壁について、さらに理解を深めることが期待されます。さらに、研究管理、業務支援、組織的インセンティブなどを含めた支援体制を詳細に調査することで、これらの要因が、研究者が国際的な助成金をうまく確保するのにどのような影響を及ぼしているかが明らかとなるでしょう。
さらに、関係者(ステークホルダー)による効果的な連携(パートナーシップ)がどのように資金調達の成果を高め、研究全体の質を向上させることに寄与しているかに注目し、国際的な共同研究の影響を調査することを考えています。
これらの取り組みは、国際的な研究助成において日本の存在感を高めるために実行可能な提言を示すことを目指したものです。
エナゴとscientifyRESEARCH:調査研究を強化するためのタイアップ
エナゴとscientifyRESEARCHのタイアップは、日本人研究者が国際的に成功するためには、適切なデータと知識を習得する必要があるとの共通認識を示すものです。エナゴの科学コミュニケーションの専門知識と、scientifyRESEARCHの戦略的な資金調達に関する洞察が合わさることで、日本人研究者が国際的な助成金を獲得する可能性を最大限に引き出すための、強力な相乗効果を生み出すことができます。
エナゴとscientifyRESEARCHのタイアップは、日本人研究者が国際的に成功するためには、適切なデータと知識を習得する必要があるとの共通認識を示すものです。エナゴの科学コミュニケーションの専門知識と、scientifyRESEARCHの戦略的な資金調達に関する洞察が合わさることで、日本人研究者が国際的な助成金を獲得する可能性を最大限に引き出すための、強力な相乗効果を生み出すことができます。
エナゴについて
エナゴは、世界中の研究者の論文執筆活動および出版活動支援事業を展開する会社です。2005 年以来、私たちは 125 か国以上の研究者の研究活動および論文執筆活動をはじめとし、ジャーナルへの採択までを支援しています。
エナゴは、世界中の主要な出版社、学会、大学のパートナーでもあります。東京、ソウル、北京、上海、イスタンブール、ニューヨークに拠点を構え、研究者をローカルでサポートする地域チームとともにグローバルに活動しています。
scientifyRESEARCHについて
ScientifyRESEARCHは、世界の研究助成金についてオープンで体系化された情報のデータベースです。データベースは毎日アップデートされ、世界中のすべての研究者が、地理的条件に関係なく、研究助成金に関する情報にアクセスできるようにしています。そのミッションは、研究者の研究助成金獲得を支援することであり、最高の研究と,有望な研究者に、公平に助成金が提供される世界となることを目指しています。