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「in this paper」と同様の表現について

論文において「in this paper」、「in this section」などという表現がよく使用されますが、その用法にはたびたび誤りが見受けられます。よく見られる誤りとして、そのような表現を用い、われわれが実際に論文外で行う行為や行動について述べようとすることが挙げられます。こうした表現はあくまでも論文自体の内容を描写する場合にのみ使えるものであって、それらの表現を用いて「数値計算や実験などを『行う』」というような表現を導こうとすると、論理的な問題が発生します。言うまでもないことですが、論文内の行為と見なされうるのは文章、数式、グラフ、図などといった論文内で行われる行為のみであり、「われわれ」が論文内で数値計算、実験、観察、現地調査、臨床調査などを「行う」というようなことは不可能です。 以下に、上述した内容の具体的な例として、誤用例と正しい例を挙げます。 [誤] In this paper, we analyzed the genome-wide changes…

「文字」の英訳

日本語の「文字」が「character」または「alphabet」と誤訳されるケースも、しばしば目にすることがあります。「文字」が「character」と訳される場合(すなわち、漢字などの表意文字の場合)もありますが、表音文字の場合、「文字」は概して「letter」と訳されます。また、「alphabet」は、1つの文字ではなく、必ず「文字体系」を意味します。 以下に「文字」の正しい訳の例を示します。 (1) The letters “a” and “b” here indicate the most likely identifications of…

大文字・小文字(2)

大文字と小文字の使い分け方について、前回に引き続き説明します。 5. 論文中のセクション、数式などを指す名詞 論文の中で本論文中または他の論文中のセクション、数式、図などに言及することはよくありますが、それらを指し示す際には、固有名詞を用いる場合と普通名詞を用いる場合、どちらのケースも存在します。以下にそれぞれの場合における例文を示します。 (5a) Let us consider Eq. (3.2). (5b) Let us consider the…

大文字・小文字(1)

大文字と小文字の使い分け方について、2回に分けて説明します。 1. 固有名詞 1.1 大小文字の使い分け 原則として固有名詞の最初の1文字は大文字になります。また、固有名詞が2つ以上の単語を含む場合は(冠詞、接続詞、前置詞を除いて*)その各単語の先頭文字を大文字にします。このルールに関して最も注意したいことは、固有名詞が一般的な単語を含むこともしばしばあり、その単語の先頭文字も大文字になるという点です。たとえば以下の固有名詞がそのような例として挙げられます。 *原則として冠詞、接続詞、前置詞はすべて小文字で表記されますが、それが固有名詞の先頭に置かれる場合は語頭が大文字になることもあります。「The Oxford English Dictionary」はその有名な例です(関連した解説を第4節で行います)。 Pacific Ocean, United Nations, Lake…

不定代名詞(1)someone、anyone、everyone、no one

不定代名詞である「someone」、「anyone」、「everyone」、「no one」の語が時おり誤って用いられるのを目にします。ここでもっとも留意していただきたい点は、これらの代名詞は必ず人を指し、人以外のものを指すことができないということです*。以下に、それらの語によく見られる誤用例とその修正例を挙げます。 [誤] Someone of these methods could be useful. [正] One of these methods…

while

接続詞「while*」には2種類の意味がありますので、誤解を避けるために注意が必要です。 「while」が接続詞として用いられる場合は、「同時性」もしくは「対照性・対立」を表します。文章の内容によっていずれの意味で使われているかが明らかな場合も多いのですが、以下の文が示すようにそうではない場合もあります。 The temperature decreased while the growth rate increased. この文章は、「温度が下がったと同時に成長速度が上がった」という意味と、「温度が下がったのに対して、成長速度が上がった」という意味との2通りに解釈できます。正確には、後者の解釈が正しい場合には「decreased」と「while」の間にコンマが必要ですが、いずれにしてもこのままでは解釈が定まりません。上の文の意図を明確に表すためには以下のいずれかの例文のように書き直すべきです。 同時性: (1) The temperature…

variety

名詞「variety」は日本人の学者によって、論文執筆の際にたびたび誤用される語です。この名詞には3種類の用法があります。ここではそれらの用法の特徴を説明します。 I. 第1用法 意味:いろいろ、異なるいくつか、異なる種類。 役割:複数の異なるものを集合として指すこと。 (1) We used a variety of methods to derive these…

so that

「so that*」は日本人の学者によってよく誤用される語句です。以下に、特によく見られる誤用例とその修正例を示します。 [誤] In this way, we have devised a treatment so that the cost…

overview

「overview」は「概要」、「摘要」、「要約」などの意味を持つ名詞ですが、誤って動詞として用いられるケースを時おり見かけます。そのほとんどは「overview」が「review」、「summarize」、「outline」、「present an overview」の代わりに誤って使用されるケースで、文の内容により上記いずれかの語に置き換える修正が必用となります。例文を見てみましょう。 [誤] We begin by overviewing existing results. [正] We begin by /summarizing/reviewing/…

or

接続詞「or」は、日本人によって過度に使用される語です。私が校閲してきた論文の中でも「or」は多く用いられてきましたが、その約半分は「and」の方がより適切と思われるケースでした(対照的に、「and」が「or」の代わりに誤って用いられる例はまれです)。 「or」の基本的な役割は、文脈において複数の個別に実現できる「ケース」を識別することです。つまり、「or」によって結ばれる語句はそれぞれ個別の「可能性」を示しています。「or」と「and」のどちらを使うかを決める際には、まずその文脈を見る必要があります。その文脈において、「or」か「and」によって結ばれる語句が個別に実現できる「可能性」を表す場合は「or」を、そうでなければ「and」を用いるのが適切です。 以下に「or」の正しい用法の典型例を示します。 [正] However, the nature of this process depends greatly on whether the…