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大学コンソーシアムVS出版社 オープンアクセス紛争

学術雑誌のオープンアクセス化に向けた利用者(研究者、大学など)と出版社との論争は、既に何度も記事にしている通りです。しかしここ数か月の間に、ヨーロッパの大学やコンソーシアムと出版社の紛争に、いくつかの進展が見られました。出版社と納得のいく契約を結べたコンソーシアムがある一方、交渉が膠着状態に陥っているところもあります。学術界の懸念事項である、オープンアクセスにまつわる紛争の状況について見ていきましょう。 ■ アクセスを確保したフィンランドと韓国 2018年1月17日、フィンランドの大学・研究機関・公共図書館からなるコンソーシアムFinELibが大手出版社エルゼビアと、3年間にわたり1850誌へのアクセスを可能とする契約を締結したと発表しました。FinFLibに登録している13の大学、11の研究機関、11の応用大学が、世界最大の論文データベースScience Directに収録されている1850誌に、3年間アクセスできるとする内容です。さらに、この契約にはフィンランドの研究者が、エルゼビアの学術雑誌に研究成果をオープンアクセスで公表する際のAPC(論文処理加工料)を半額にすることも含まれています。 また、2日違いの1月15日、韓国の大学コンソーシアムも長期交渉の末、エルゼビアと契約を締結するに至ったと報道されました。韓国の大学コンソーシアムは、最終的に契約料金の値上げで合意したと書かれており、Science Directへのアクセスが遮断される直前に、かけこみ合意で難を逃れたようです。 ■ オランダでの契約合意はオープンアクセスを加速させるか 2018年3月には、オランダの14の大学からなるコンソーシアム、オランダ大学協会(VSNU)とシュプリンガー・ネイチャー、オックスフォード大学出版局(Oxford Universities Press,OUP)、ワイリーなどの大手出版社との間で、購読およびオープンアクセス出版に関する契約の延長が合意されました。シュプリンガー・ネイチャーとの契約には、オランダの大学の研究者が研究成果をオープンアクセスで公表する際の出版費用(APC)を3年間(2018-2021年)無料(論文数で年間2080本分)とすることと、250誌以上の学術雑誌の購読を無料とすることが含まれています。年間発表数は、これまでの実績から割り出したとしていますが、この契約によって出版費用の負担が軽減されることから、オランダの研究者はより多くの論文をオープンアクセスで発表できるようになりました。 大手出版社によっては、コンソーシアムが支払う料金次第で、ジャーナルの100%のオープンアクセス化にも同意するとしています。VSUNが出版社と結んだ購読およびオープンアクセス出版に関する契約は、オープンアクセスの流れに一石を投じたとも言えそうです。 実際、シュプリンガー・ネイチャーとの契約は、2014年に結ばれたものの延長であり、2014年から2017年の間に同社の雑誌にオープンアクセスで公開されたオランダの論文の割合は、2014年の34%から2017年の84%に上昇したことも示されています。このことからも、今回の延長期間にも、オープンアクセスでの論文公開が増加することが期待できます。 ■ フランスでは契約打ち切りで紛争継続 他方、フランスでは雲行きが怪しくなっています。3月30日、フランスの250の学術機関からなるコンソーシアムCouperin.orgは、シュプリンガー・ネイチャーとの同社の学術雑誌購読に関する2018年の契約を打ち切りました。Couperinは、オープンアクセス論文の増加にともなうAPCの支払いが増加したことから、購読料とAPCの二重支払の解消、および購読料の減額を13か月にわたって交渉してきましたが、合意に至りませんでした。Couperin.orgが算出したところによると、購読料の値上げを譲らなかったシュプリンガー・ネイチャーは、これによって600万ドルの損失を被るとのことです。 シュプリンガー・ネイチャーは、今回の契約打ち切りは、同社の総2900以上の雑誌のうちの1185雑誌に過ぎないことなどをあげ、交渉を続ける姿勢を表明しています。また、…

オープンアクセスはフェイクニュースを打ち破れるか?

おそらく、誰もが一度は、フェイクニュース(偽りのニュース)の犠牲になったことがあるのではないでしょうか。たとえば、米大統領選挙戦の終盤3ヶ月、フェイスブックは、ニューヨークタイムズ、ハフィントンポスト、ワシントンポストなど他のニュースソースと比べて、かなり多くのフェイクニュース情報源となっていたといいます。この選挙の行方を決する重要な時期に、デマ情報サイトの選挙に関わる話が、8,711,000回もシェアされていたのです。 研究者にとっても、フェイクニュースは無関係ではありません。今、フェイクニュースは収束に向かうどころか、さらに読者の注目を集める方法を探ろうとしています。フェイクニュースは、たとえば新薬の開発や気候変動など、学術的な研究課題をも標的にし始め、すでに、膨大な回数、クリックされ、シェアされているのです。 また、偽りの情報を出版する捕食出版(著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載すること)が、近年増加しており、2016年の時点で学術ジャーナルの25%が捕食出版であったとみなされています。捕食ジャーナルも、一種のフェイクニュースです。 ■ フェイクニュースとの戦い フェイクニュースは単に厄介なだけでなく、科学に対する公共の信頼そのものを低下させます。これは、教育や科学リテラシーがいまだ低い発展途上国で、とくに顕著です。デジタル時代となり、ソーシャルメディアのプラットフォームを経て、ほとんどのニュースにアクセスできる今日、科学教育とメディアリテラシーが強く求められているといえます。 ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどの主要なソーシャルメディアにとって、フェイクニュースの蔓延に対処することは容易なことではありません。これらのプラットフォームを使ってニュースにアクセスする人は、とくに格別の注意を払い、情報の信憑性を疑ってかかる必要があります。 「Inoculating the Public against Misinformation about Climate Change(仮訳:気候変動に関する誤情報に対する予防対策)」と題された研究では、フェイクニュースや誤情報の広がりが、ウイルスにたとえられました。この研究においては、2つの現象が強調されています。参加者に、フェイクニュースと科学的情報を提示した場合、参加者はフェイクニュースの方を信じる傾向があること。次に、そのフェイクニュースに警告を付した場合、こちらを信じる確率が大きく減少したことです。…

日米豪中を比較!研究開発予算から見える各国の思惑

今年2月にアメリカのトランプ政権が、科学研究費を大幅に削減した予算教書を提出し研究者を失望させたことを以前の記事で紹介しました。今回は、その後の米国議会の動きと他の国の科学研究費を見てみました。 ■ 予想に反して潤沢な予算がついたアメリカ 2018年3月23日、米国の2018年度(2017年10月~2018年9月)歳出法が成立し、予想に反して高額な研究開発予算が確保されることとなりました。国防費を大きく増やし、科学関連省庁の予算を大幅に削減するとしたトランプ大統領の予算教書が議会で却下され、ほぼすべての科学関連省庁で予算が増額されたのです。研究予算の削減がアメリカの科学界におよぼす影響を懸念していた研究者にとっては、喜ばしい結果でした。国立衛生研究所(NIH)は2017年レベルから30億米ドル以上アップの370億米ドル、全米科学財団(NSF)は昨年から2億9500万米ドル増の78億ドル、そして米国航空宇宙局(NASA)は11億米ドル増の207億米ドル、米国海洋大気局(NOAA)は2億3400万米ドル増の59億米ドルの予算を獲得しました。また、トランプ政権の温暖化対策軽視により2017年度から31%減の57億米ドルになると見られていた環境保護局(EPA)の予算は、2017年度レベルの81億米ドルを確保できました。ただし、来年も同様に潤沢な予算が確保できる保証はないと警告する動きもあり、研究者にとって一安心と言いつつ、心配な状況は続きそうです。 ■ 科学と医療への予算配分を増やしたオーストラリア その一方で、長期的な研究費が確保できそうなのがオーストラリア。オーストラリア政府は5月17日、2018-2019年の国家予算で科学インフラと医療分野の配分を大きく増やし、科学インフラ(顕微鏡、スーパーコンピュータ、海洋観測システム、天体望遠鏡など多種多様な分野で利用する関連機器などへの投資)に今後12年間で19億豪ドル、医療分野(健康および医薬産業の促進)に今後10年間で13億豪ドルを費やすと発表しました。その他、技術インフラ分野でも、人工衛星の位置補正精度を向上させるため、4年間で1億6100万豪ドルを含む予算を確保。宇宙インフラへの投資は、経済全般における産業生産性を促進することにもつながると期待されています。科学研究費が年度ごとに決められる以上、長期的に安定して研究を行える環境が整いにくいというのは世界共通です。予算案は最終的に議会によって承認される必要がありますが、数年来、研究インフラへの長期的な投資を求めてきたオーストラリアの研究者たちは、このような大きな予算が将来的に確保される動きを歓迎しています。 科学インフラと医療分野ほど長期ではありませんが、環境保護にも大きな予算がつきました。オーストラリアの観光収入を支えるグレートバリアリーフは、現在危機的な状況に陥っており、さまざまな調査研究が急務とされています。オーストラリア政府は、このことを踏まえ、2017-2018年に4億4400万豪ドルをグレートリーフ・ファンデーションへ提供することを含め、5億豪ドルをグレートバリアリーフの研究に費やすと発表しました。政府は、2009-2016年の間にグレートバリアリーフの水質管理に5億豪ドルを費やしてきましたが、2017年、グレートバリアリーフの水質は政府が目指しているレベルに到達できていないと研究チームが結論付けています。これに対し、今回は1年間で同規模の予算を立てたことになります。この新たな予算を喜ぶ研究者もいれば、グレートバリアリーフを脅かす大きな問題-気候変動問題-を解決するには不十分だと述べている研究者もいます。 研究分野が細分化する一方で、研究規模が拡大する中、どの国の研究者にとっても資金確保は頭の痛い課題となっているようです。 ■ 長期ビジョンの下で科学技術研究を進める中国 科学技術研究の躍進目覚ましい中国は、2016年3月に全国人民代表大会で採択された2020年までの第13次5カ年計画で、科学技術を重視する姿勢を鮮明に打ち出しています。この計画の中で中国政府は、科学技術による革新は国の発展の原動力であるとの方針を示し、2020年までに研究費への支出をGDPの2.5%まで増やすことを目標としています。実際、2017年に研究開発費として合計で1.76兆元(約2790億米ドル)、GDPの2.1%が支出されたと推定されています。特に、基礎研究への予算は、2011年の411億元から、2016年の820億元と5年間で倍増しています。 第13次5カ年計画では、海洋学、脳科学、幹細胞研究、環境保護、汚染対策の5分野が、特に成長が見込まれる分野とされており、すでに成果が表れています。2018年1月、中国科学院神経科学研究所が世界を驚かす研究成果を発表しました。体細胞クローンサルの誕生を成功させたと報道したのです。この研究成果は、1月24日付の米科学ジャーナル「Cell」に発表されました。世界で初めて霊長類のクローン誕生に成功したことが倫理的な議論を巻き起こすのは確実ですが、中国は体細胞クローンの研究分野において世界を牽引することになりそうです。 ■ 一見すると増額となった日本 日本の2018年度の科学技術関係予算案は、17年度比較で2504億円(7.0%)増の3となっています。15年以上の間、横ばい状態でしたが、今回、予算の集計方法が変更となり、科学技術イノベーション転換による公共事業予算(1915億円)を科学技術関係予算に含めたことで増額となりました。この付け替え分を差し引いた実質的な増分は589億円です。政府は、第5期科学基本計画と科学技術イノベーション総合戦略2017の一体的な運用を目指しています。第5期科学技術基本計画では、2016-2020年度の5年間の科学技術関係予算を合計で26兆円にすることを目標に掲げていますが、現状のままではこの目標が達成できるかは難しい状況にあります。 基礎研究レベルの低下が懸念される中、応用研究でも厳しい見解が出ています。一例としてあげられるのは、近年各国が官民をあげて取り組んでいる人工知能(AI)研究。このAI研究に対し日本が2018年度予算案に計上したのは総額770億4000万円。アメリカの5000億円、中国の4500億円と比較すると大きく離されています。この分野においては過去最大の予算を投じてはいるものの、生活や産業構造に多大な影響を与えるとされるAIの開発競争で取り残されることが懸念されます。 米中の予算規模の大きさが目立ってはいますが、他の国も科学研究への投資を増やすことも含め、さまざまな推進策を講じているようです。残念ながら、日本の科学研究力の低迷ぶりはNature Index…

中国の奨学金で博士課程留学はいかが?

奨学金は、学位取得のための経済的支援の手段であると同時に、ネットワークを構築しながら重要な研究を行い、キャリアアップをするのにも有用です。その上、卒業後の就職活動につながる実際的な経験を得るのにも役立ちます。日本から申請できる海外の奨学金制度はいろいろありますが、今回は中国への留学を希望する博士課程の学生を対象とした奨学金「CAS-TWAS President’s Fellowship」について紹介します。 ■ 中国の学術振興政策 中国政府は、科学の発展および科学者を支援するための投資を継続する方針を明確に打ち出しています。中国の学術振興の成果は、2017年に科学・工学分野の論文数で初めて米国を抜き世界首位となったことや、2018年にTimes Higher Educationの世界大学ランキングのトップ1000校に中国の大学が63校ランクインしたこととなって表れています。そして、中国行政機関の直属の学術機関である中国科学院(Chinese Academy of Sciences, CAS)と、科学技術振興のための国際的な学術組織である開発途上国科学院(The World Academy of Science,…

中国の論文検閲-脅かされる学問の自由

2017年11月1日、大手出版社シュプリンガー・ネイチャーが中国の法律に従い、同社の運営するサイトに公開されていた論文のうち1000本以上を中国で閲覧できなくした、と発表しました。情報公開および市民社会への統制力の強化を図る中国政府の方針に従った策であると述べていますが、特定の論文へのアクセスが遮断されることで学問の自由が脅かされている、との批判の声があがっています。 ■ 論文へのアクセス遮断-CUPとシュプリンガー・ネイチャーの事例 中国における特定の用語を含む論文への強制的な処置は、今回が初めてではありません。2017年8月には、イギリスのケンブリッジ大学出版局(CUP)が、同出版局の中国学術ジャーナル「チャイナ・クオータリー」に収録された論文のうち「天安門広場での民主化運動」や「1960年代の文化大革命とチベット」といった用語を含む300本以上を、中国内でアクセスできなくしました(その後、学術界からの激しい批判を受けたCUPは数日でアクセス制限を解除)。 一方、シュプリンガー・ネイチャーは、中国政府への批判と捉えられる可能性がある「台湾」「チベット」「文化大革命」などの言葉を含む1000以上の論文への中国内でのアクセスを、現在も制限しています。同社は、中国政府の規制に従ってアクセス制限を行っているだけであること、中国における制限の対象は全体の1%以下であること、編集への検閲ではないため世界の他の地域(中国外)でのアクセスには影響がないことなどを主張しています。当局の規制に従わなければ、オンライン上のあらゆるコンテンツが遮断される可能性があったとも釈明し、改善への努力の姿勢を示しつつも、当面は中国政府に従う方針のようです。 これら2つの事例から、中国政府は自国の巨大市場に進出した国外企業に対し、経済的優位性を盾に強い態度を取っていることを示していると見られています。習近平主席は、2016年2月からメディアプラットフォームが共産党の意向に沿うものとするための政策を固めてきました。CUPによるアクセス制限が発覚した際には、欧米の複数の大学が中国政府の圧力に屈しない姿勢を示して抗議しましたが、出版事業社であるシュプリンガー・ネイチャーが中国当局の規制に準じた処置を実行したことに対し、今のところ他の出版社による大きな抗議活動は起こっていません。 ■ 強まる学問の自由への干渉 中国の学術界は長年、政府による授業のモニタリングやイデオロギー調査など、政治の介入と厳しい監視を受け入れてきました。学問の自由の制限は、市民運動や公開討論を押さえ込もうとする中国の政策を反映しており、中国の研究者が国内で世界の研究成果にアクセスすることをも妨げています。 CUP(大学出版局)から始まった中国当局によるアクセス遮断要請は、シュプリンガー・ネイチャー(出版社)、さらには電子ジャーナルアーカイブ等を提供している JSTOR(非営利団体)にまで広がっており、中国における学問の自由は、着実に狭められてきています。中国政府当局は「Great Firewall」と呼ばれるインターネット検閲システムによって、SNSを含むインターネット通信において、政府が不適切と見なした言葉を検閲しています。これに対し、仮想プライベート・ネットワーク(VPN)を経由してGreat Firewallの抜け道を探る動きもありますが、政府は国内のVPNの取り締まりを強化しており、アップル社は政府の要請に応じて、中国のアップルストアからVPNソフトを削除しました。中国の政策に加担したとの批判されたアップルは、中国で事業を行うには中国の法律に従う必要があるとの見解を示しています。 ■ 中国学術界の将来は?  中国政府が規制を強化する姿勢を示している以上、学術分野においても、すべての情報へのアクセスが可能になることは難しいでしょう。各自が購読料を支払っている学術ジャーナルにおいても、それは同様です。 とはいえ、研究者や学術界からの働きかけにより、中国でのアクセスが一時遮断されたCUPのウェブサイト「チャイナ・クオータリー」は、いまや完全にアクセス可能となりました。大学の基本である、学問の自由の原則に則って論文へのアクセスを再開させたCUPの決断は強く支持され、今後もこれに追随する動きが出てきてもおかしくはありません(国際出版連合(International Publisher’s…

Nature Index Japan 2018から見る日本の現状

2018年3月21日、Nature Index Japan 2018が発表されました。Nature Index は、シュプリンガー・ネイチャー社が、一年間に研究成果を質の高い科学論文に発表した著者の所属機関/国別にまとめて一覧として提供しているもので、研究成果や共同研究、他国との連携を検索・比較することができるツールです。その中でもNature Index Japanは、日本の研究機関(大学、国立研究所や企業研究所)の研究者が自然科学系学術ジャーナルに掲載した論文数をもとにランキングしています。2017年の同発表では、日本の科学研究発表の水準が低下していると指摘され、波紋を呼びました。2018年の実績は、どのような状況になったのでしょう。 ■ Nature Index: 世界の研究機関による研究成果を示す指標 改めてNature Indexとは、どのような指標かをまとめておきます。これは、直近12カ月間に、研究者によって厳選された自然科学系学術ジャーナル68誌に世界8500以上の大学や研究機関によって掲載された原著論文を収録し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で無料公開しているインデックスです。シュプリンガー・ネイチャー社によれば、この68誌だけで、自然科学系学術ジャーナルの引用総件数の30%近くになると推定されています。これらのジャーナルにおける国や研究機関ごとの出版状況(出版数)、論文に対する研究機関の貢献度、共同研究の共著率などを分野ごとに相対比較しているので、論文の社会的インパクトや世界的な研究の傾向までみることができます。Nature Indexには、著者の名前が挙げられている数をカウントするArticle count(AC)、論文に対する各共著者の相対的貢献度を考慮したFractional…

「エルゼビア紛争」は続く

大手学術出版社エルゼビア社が発行するジャーナルの購読料をめぐる論争が、これまでにも何度か話題になってきました。2016年には、学術出版物のライセンス契約を取り扱っているドイツのDEALプロジェクトとエルゼビアとの契約交渉が決裂したのを皮切りに、同国の研究機関が同社の電子ジャーナルを見られなくなるという事態に発展しました(エルゼビアは2017年2月に、電子ジャーナルへのアクセス権を回復させると発表)。そして同様の問題は今回、韓国でも……。 ■ 韓国の大学コンソーシアムとの交渉 2017年5月、韓国の300を超える大学図書館がコンソーシアムを結成、42のデータベース・プロバイダーとの契約交渉を行ってきました。エルゼビアの科学・技術・医学・社会科学分野の3,500以上の電子ジャーナルと35,000タイトル以上の電子ブックを搭載するデータベース「ScienceDirect」へアクセスするための費用につき、エルゼビアは前年比4.5%の値上げを要求しました。それに対しコンソーシアム側は、購読料の高さと、パッケージ中にあまり読まれていないジャーナルが含まれていることを不服とし、譲歩を要求。何ヶ月も膠着状態が続きました。 エルゼビアは、交渉がまとまらなければ2018年1月12日からアクセスを遮断すると表明していましたが、最終的に契約は締結。3.5-3.9%の値上げ率で合意したとされています。この契約合意に基づき、韓国の個々の大学がエルゼビアと個別契約を締結することになりますが、一年更新の場合の値上げ率は3.9%、3年契約の場合は2017年を基準として毎年3.5%、3.6%、3.7%と段階的な値上げとなります。 ■ エルゼビアの高い購読料 エルゼビアのジャーナルの購読料は、韓国以外でも問題になっています。韓国のコンソーシアムは、エルゼビアは市場への影響力を濫用して購読料を引き上げようとしていると主張しています。韓国の大学はこれまで、エルゼビアの言う値上げ率を受け入れてきており、通年は12月に契約交渉をまとめていました。しかし、購読料の値上げが図書館の予算を圧迫し、ついに負担できないレベルに達したとして交渉に乗り出したのです。韓国の図書館協会に登録している123団体で、毎年計1億4000万ドルがデジタルデータベースの使用料として支払われており、このうち3300万ドルがScienceDirectに費やされ、最も大きな負担となっています。 同コンソーシアムはボイコットも辞さないという強い姿勢で出版社との交渉に臨み、エルゼビア以外の出版社にも、契約更新しない旨を通達。エルゼビアとの交渉は、同社が譲歩した形で決着しましたが、同様に購読料の値上げを要求してきた他のデータベース・プロバイダーとの契約更新は、いまだ滞っているようです。また西江(ソガン)大学の韓国大学教育協議会(KCUE)で研究分析チームのディレクターを努めるHwang氏は、今回合意した年間値上げ率3.5-3.9%は、国際標準の2%より高い水準にあると述べており、エルゼビアにさらなる引き下げを要望すると推測されます。 ■ 学術出版の将来は 韓国のコンソーシアムは、ScienceDirect へのアクセスにつきエルゼビアと合意に達したことで、アクセスの遮断を回避することができました。ただし、今回の合意はあくまで2020年までの使用についてであって、それ以降の使用については、交渉を続けている状況です。 エルゼビアとの交渉による結果は、国や機関によってさまざまです。韓国での合意から数日遅れの1月17日には、フィンランドの国立電子図書館しました。この契約は、13大学、11研究機関および11応用科学大学に、ScienceDirect収録のジャーナル1,850誌の購読を供与するものです。 購読を打ち切ることを検討している大学もあります。国立台湾大学(NTU)は、契約交渉の結果次第ではScienceDirect の購読を、2017年をもって打ち切る予定であると発表しました。 一昔前なら、提示される金額を支払ってジャーナルの購読をするのが当たり前だった学術界。オープンアクセスジャーナルの台頭により、学術出版社が将来にわたってジャーナル購読料を主たる収入源として確保できるかは不透明です。業界を席巻してきたビジネスモデルに、終わりが近づいているのかもしれません。 こんな記事もどうぞ…

韓国の論文不正:子どもが共著者?!

研究不正が世界中で問題となっていますが、今度は韓国で驚くべき事態が発覚しました。2007年2月から2017年10月に韓国人研究者が発表した研究論文のうち、少なくとも82件に、オーサーシップ(著者)に関する出版倫理上の不正がある、と政府が公表。研究論文の著者が、なんと自分の子どもや親戚の名前を共著者として記していたのです。なぜこのようなことが起きたのか――。そこには、受験大国の韓国ならではの理由がありました。 ■ 43本の論文を高校卒業前の息子が…… 研究論文に共著者の名前を載せるのは、研究上の責任を明確にすることが目的です。原則的に、勝手に名前を加えることは許されません。研究に貢献していない人の名前を載せる”guest authorship”や、研究に貢献している人の名前を載せない”ghost authorship”は論文不正に該当します。 前述の通り、韓国政府は大学等の研究者約7万人が出版した論文に対する調査を実施し、2018年1月25日に結果を発表しました。その結果、29大学で82件に、子どもや親戚を共著者として記した論文不正があったことが明らかになりました(82件中80件は科学技術系の論文で、残り2件が人文系の論文)。成均館大学、延世大学、ソウル大学、国民大学など、韓国の著名な研究機関の評判が低下することは避けられません。 子どもの名前を共著者として記載した最初の事例が発覚したのは、約1年前のことです。国立ソウル大学の研究者が、自分が執筆した数十本の研究論文に息子を共著者として記していた、という不正が明らかになりました。韓国ヘラルドによると、この息子は高校を卒業する前に、父親の研究論文43本を共著したことになっていました。 ■ 背景にある学歴問題 今回の不正には、韓国の社会問題が密接に関連しています。不正を行った研究者は、自身の子どもを有名大学に進学させるため、名前を共著者に含めたと見られています。 韓国は言わずと知れた超学歴社会であり、有名な高校や大学に入れなければ就職もままならないことが社会問題化しています。韓国政府は、全ての国民が大学で学べることを目標に掲げてきました。1995年の教育改革法の施行以降、規制緩和を進めたため大学の数が急増し、それに伴い大学進学者数も増加。進学率の高さは、他国と比べて抜きん出ています。 しかし、これが一方で大学教育の質の低下をもたらしたのです。大学教育を受けるだけでは箔を付けることも、優位な就職先に入社することもできなくなりました。韓国社会で成功するためには、国内で最高の大学に行って、将来につながる学位をとらなければならないのです。過熱した受験戦争が、不正入学や、研究者である親が論文の共著者に子どもの名前を記すという事態の原因となっていると言えるでしょう。 ■ 韓国研究者への調査は続く 話はこれで終わりではありません。学術誌Natureは今回の件に関する独自の調査を進めており、今後数週間かけて、主要なデータベース上に掲載されている、論文に関わっているとされる76000人もの韓国人研究者の家族の名前をクロスチェックするとしています。調査の目的は、既に発表された論文中に、子どもの共著者が含まれるものが何本存在するかを調べること。文献引用データベースであるScience Citation Index(SCI)、Web…

中国の論文数が米国を抜いて世界一に

科学研究における中国の躍進にはめざましいものがあります。2018年1月18日、米国立科学審議会(National Science Board, NSB)が、2016年に発表された科学・工学分野の論文数で中国が初めて米国を抜き、世界首位となったと発表しました。 ■ 年間で42万本超え 「中国が世界一の研究論文発信国に――」。これは、米国国立科学財団(US National Science Foundation, NSF)がまとめた統計を、NSBがScience and Engineering Indicators 2018として発表したものです。30年前、中国の科学研究論文数は世界第3位でしたが、今やEU諸国や米国を抜き、1位にまで躍進したのです。中国政府が科学分野の発展を重視していることが背景にあります。政府はそのための政策をいくつか打ち出しており、中でも研究者に対して出版報酬が支払われるようになったことが大きかったようです。論文を執筆しジャーナルに掲載されることで、研究者は報酬を得ることができるのです。これは、EU諸国でも米国でも行われたことのないアプローチで、これにより中国における科学論文の出版数は30倍に急増し、さらなる増加が見込まれている状態です。 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ほとんどの分野における研究および論文の出版は、イタリア、英国、ドイツなどに牽引されていました。20世紀に入ってからは米国が主導権を握り、その後90年以上にわたりトップの地位を維持してきました。中国が頭角を現し始めたのは1990年代半ば。そこから急成長し、2016年に発表された論文数は、米国が409,000本なのに対し、中国は426,000本を超え、スコーパス(Scopus:大手出版社エルゼビアによる論文データベース)に収録された論文総数の18.6%に及びました。…

QS専攻分野別 世界大学ランキング2018の発表

2018年2月28日、イギリスの大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds :QS)による分野別世界大学ランキング「QS World University Rankings by Subject 2018」が発表されました。 ■ QS専攻分野別 世界大学ランキング これは、75か国、1130の大学を2018年から新たに追加された「古典・古代史」と「図書館・情報管理」の2分野を含めた48の専攻分野ごとにランキングしたものです。QSの定める判定基準に従って以下の項目の得点を個別に算出し、それらの合計によってランク付けが行われています。 1. Academic Reputation 学術界の評判…