学術界を知る

櫃割仁平氏へのインタビューー「美は世界を救う」を心理学で実証したい

日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」を運営するアカデミスト株式会社が実施する、若手研究者を対象とした研究費支援プログラム「academist Prize」。エナゴが協賛する同プログラム第4期の採択者でありアンバサダーでもある、ヘルムートシュミット大学 人文社会科学部 リサーチフェロー、日本学術振興会 海外特別研究員 櫃割 仁平博士に、書面インタビューでお話を伺いました。   1. 俳句という特定の詩の形式を対象として、様々なテーマで研究を行われています。いつごろ、どのようなきっかけで今の研究テーマに興味を持たれましたか? 初めて研究を行った卒業論文のテーマは「感動体験」に関するものでした。自分自身がいろいろな物事に感動しやすい性格で、その感動というものが人生に彩りを与え、成長していく鍵にもなっているのではないかと思ったからです。 ただ、「感動」の定義は広く、曖昧であり、大学院で研究していくにはもう少し絞ったほうがいいと考えていました。その結果が、アートや美の研究であり、俳句という題材でした。 2000年以降、アートや美に関する心理学の研究が増えてきたのですが、その主要な題材は、絵画などの視覚芸術や音楽でした。言語芸術の研究はまだまだ未解明要素も多く、そこに集中して取り組み始めました。その中でも俳句は、世界最短の詩であるので、美の核心に迫るためにいい題材だと思いました。物理学で原子、原子核、陽子、クオークなどとどんどん小さい世界を探求することで、真理に迫っていこうとする動きと近しいものを感じていました。   2.…

林尭親氏へのインタビューー多様化する宗教観の研究を通して、多文化共生の在り方を考えたい

日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」を運営するアカデミスト株式会社が実施する、若手研究者を対象とした研究費支援プログラム「academist Prize」。エナゴが協賛する同プログラム第4期の採択者である、京都大学大学院 教育学研究科 教育学環専攻 教育認知心理学講座 博士課程在籍中で、日本学術振興会特別研究員の林尭親氏に、書面インタビューでお話を伺いました。   1. 日本文化を対象として、多様な価値観が共生する現代の生き方を考える研究を行われています。いつごろ、どのようなきっかけで今の研究テーマに興味を持たれましたか? 日本文化を研究したいという気持ちは、大学の頃から考えていたことでした。大学時代はアメリカにいたので、いろんな文化に触れる中で自然と文化比較に興味がわき、せっかく研究するなら自分がよく知る文化を研究しようと思いました。 その中でも特に宗教に興味がわき、学部時代から専攻していた心理学分野での研究を始めました。最初は自分の興味に従って研究を進めていましたが、修士課程2年(M2)の頃ぐらいから研究費の申請書などを書いたり、スタートアップでインターンをしたりする中で、自分の研究の社会的意義について考えるようになりました。宗教間紛争は宗教的な価値観の違いに起因する争いですが、このような思想や価値観の違いを乗り越えることが社会における課題の一つであると考え、多様な価値観がある現代社会の生き方を考えたいと思うようになりました。   2. academist Prize…

比較文学とは何か

比較文学とは 比較文学(Comparative Literature)とは、異なる文化圏や言語圏の文学作品を比較し、その相違点や共通点、相互作用の過程を探る学問領域です。 国や文化、言語の時代の枠を超えて文学作品を比較し、そこに共通するテーマや手法、影響関係を明らかにしようとするこの試みは1800年代のフランス等でもその萌芽がみられ1、20世紀初頭にフランスを皮切りに大きく発展したとされます。(フランスで、フェルナン・バルダンスペルジェFernand Baldenspergerがポル・アザールPaul Hazardとともにこの分野の最初の学術誌 『Revue de littérature comparée』を発刊したのが1921年、前ロマン主義文学pre-Romantic literatureを研究したバン・ティーゲムPaul Van Tieghemがソルボンヌで「比較文学」を講じたのもほぼ同時期のことでした2。) そして、この1世紀あまりの間に、多くの国や地域で比較文学研究が行われるようになり、「比較文学研究」に分類される学問領域のテーマや対象、研究手法は多様化しています。特に異なる文化や言語の文学を比較するには、多くの場合、作品どうしの比較だけでなく、文学作品のテクスト、他の芸術様式や社会・歴史・政治的な背景との関りから考察することが避けられないでしょう。 このことからしても、比較文学という研究分野自体が一定程度以上の学際性を内包し、研究の幅に広がりが生まれてきたことも自然な流れであったと考えられます。…

プレプリントの改善でオープンサイエンスの完全性を守る

この記事は、英文校正・研究支援サービスを提供しているエナゴの社員Dr. Krishna Kumar Venkitachalam(クリシュナ・クマール・ヴェンキタチャラム博士)が、Scholarly Kitchenにゲスト投稿した記事の日本語訳をScholarly Kitchenの許可の下で掲載しているものです。原文はこちらをご覧ください。 注:著者は、本記事の技術やテーマに関連するプロジェクトで専門的な役割を担っているため、利益相反の可能性があると公表しています。 オープンアクセスとプレプリント オープンアクセスウィーク2024(2024年10月21日~27日に開催)は、オープンアクセス環境における重要な構成要素であるプレプリントサーバーが直面する課題について考える良い機会でした(訳者補足:本記事で述べるプレプリントとは、査読前の論文を公開するプラットフォームやそこで公開された論文を指します)。 オープンアクセス運動は、インターネットの台頭とともに1990年代初頭から登場してきました。 オンライン学術出版が現実のものとなったのには、経済的あるいは法的な障壁なしに、誰もが学術論文などの著作物にオンライン経由でアクセスできるようにするという構想に基づいています。 興味深いことに、プレプリントはオープンアクセスよりも前から存在していました。少なくとも1960年代にはオフラインのプレプリント(紙媒体で郵送されるもの)があったのです。1991年に公開されたarXiv(訳者補足:物理学、数学、計算機科学、数量生物学、数量ファイナンス、統計学、電子工学・システム科学、経済学などのプレプリント論文が保存・公開されているウェブサイト)は、オンライン・プレプリントサーバーの先駆けとなり、査読前の記録を共有し、見つけ出すための新しく簡便な方法が広まることとなりました。 プレプリントの二面性 プレプリントは、オープンアクセスの本質と見事に整合しています。 プレプリントは、研究者が即座に研究成果を共有する機会を提供し、科学的発見と普及のペースを加速させています。技術的には、プレプリントサーバーに論文を公開することにより、研究者は学術コミュニティから迅速なフィードバックを得て、それを踏まえ正式な査読の前に研究を改善することができます。残念なことに、科学界はこのプレプリントサーバーの有望さをまだ完全には受け入れていないため、投稿されたプレプリントへのコミュニティによるコメントはごく少数にとどまっています。…

国際的な研究資金を日本へ:調査結果、データ分析および識者による議論からの洞察を発表

学術研究者向けソリューションサービスのグローバル・リーダーである研究支援エナゴと、世界中の研究者と研究管理者をサポートする研究助成金情報を提供するscientifyRESEARCHは、2024年10月16-17日に沖縄科学技術大学院大学で開催された「RA協議会第10回年次大会」にて、日本の研究者が研究助成金を獲得する機会について行った共同調査の主な結果を発表しました。 この調査は、国際的な資金源へのアクセスを模索する日本の研究者や研究機関にとって重要な課題および助成金獲得の機会に焦点を当てたものです。大規模な調査とデータ分析に基づく調査結果は、研究助成金に関する現状のギャップを埋めるためには、研究者、リサーチ・アドミニストレーター(URA)、さらに研究助成機関が連携する必要があることを強調しています。また、この調査結果は、国際的な研究助成金の獲得に成功し、日本の研究が国際的な舞台で競争力を維持するには、大学など研究機関のURAの役割が重要であることを示しています。 科学研究コミュニケーションおよび学術出版に関するエナゴの専門知識とscientifyRESEARCHの高度なデータ分析を組み合わせ、国際的な資金調達の状況を包括的に分析しました。この結果を踏まえ、研究機関が資金調達戦略を改善し、研究インパクトを世界的に最大化するために実行可能な提言をまとめています。本記事では、提言のハイライトを一般に初公開します。 この調査結果は、日本中の研究機関を代表する200名以上の研究管理者やアドミニストレーターが集まる「RA協議会 第10回年次大会(2024年10月16-17日、沖縄科学技術大学にて開催)」で発表されました。今大会がURAの活動の促進に焦点を置く中、エナゴとscientifyRESEARCHは「国際的な研究資金を日本へ:研究助成金獲得を成功させるためにURAが果たす重要な役割」と題したポスター発表を行い、資金ギャップを埋めるために必要な協力的取り組みを示しました。 ここで発表した洞察は、日本の研究者を対象としてエナゴが実施した調査の結果とscientifyRESEARCHの国際研究助成金に関するデータの2つをデータソースとして導き出されたものです。 エナゴは、2022年10月28日から2023年1月10日にかけて、大学および研究機関に所属する日本人研究者を対象に「研究資金に関する意識調査」と題した大規模なオンラインアンケート調査を実施し、研究者、論文著者、ジャーナル編集者および出版関係者を含む225名からの回答を集めました。一方scientifyRESEARCHは、2024年6月時点で入手可能な世界の助成金提供者と資金獲得の機会に関する詳細なデータを抽出し、包括的なデータセットを作成しました。データは、日本特有の機会に焦点を当て、国際共同研究に対する助成の割合や、特に女性研究者に対する助成の割合を注視して整理されました。この調査分析では、国際共同研究と女性研究者への支援に焦点を当て、資金調達の傾向や課題、調達の機会を詳細に分析しています。 国際的な研究資金を日本へ:研究助成金獲得を成功させるためにURAが果たす重要な役割 ■ポスターはこちら(PDF) ■ポスター会場で配布したハンドアウトはこちら(PDF) (上の資料はエナゴ学術英語アカデミーへのご登録後にダウンロードいただけます) 背景 研究助成金の調達とは、複数の関係者が連携して段階的なプロセスを処理する必要のあるものであり、関与するそれぞれが重要な役割を担っています。研究者は研究計画調書の作成や画期的なアイデアを提示するにあたって基盤的な役割を担い、URAはプロセス全体を通して研究者の指針となる重要なファシリテーターとして資金調達を成功させるための準備を手伝う役割を担います。 scientifyRESEARCHのようなデータプロバイダーや、エナゴのような学術出版や科学コミュニケーションを支援するサービスプロバイダーは、資金源の特定を容易にし、効果的な助成金申請書の作成を支援することで、助成金獲得のプロセスをサポートします。  …

学術界・教育界のAI導入への姿勢について考える―後編

学術界・教育界におけるAIの導入に関するアビ・シュタイマン(Avi Staiman)の考えや、World Knowledge Forum 2023での現代のAI活用を牽引するサム・アルトマン(Sam Altman)とベン・ネルソン(Ben Nelson)の対談には大いに触発されました(詳しくは、関連記事をご覧ください:学術界・教育界のAI導入への姿勢について考える―前編)。 学術界や教育界におけるAIの活用状況については、ネット上でも大量の投稿を簡単に見つけることができますが、この新しい技術に対する意見は賛否両論です。この記事は、GoogleがGPTに対抗する生成AIサービスとされているGeminiを発表(2023年12月6日発表)してから約1週間後に書きましたが、この時点ですでに2つのサービスの差異に関する情報をまとめることができました。学術界や教育界が泳ぎ方を学ばないまま、AIの流れに飛び込み、懸命にあらがおうとしている理由を考えるには良い機会となると思います。 歴史的に学術界は、既存の価値基準を覆すような技術(インターネットなど)が不可欠になるほど浸透する前は、こうした技術に対して非常に懐疑的でした。もし、AIの統合といった変化が、約束されたような利益をもたらすものでなければ、新しい技術が一般化するのを待つことも容認されたかもしれません。 AIの統合は、学術界における技術のレベルアップを図り、多様性・公正性・包括性(Diversity, Equity and Inclusion : DEI)、効率、そして生産性を向上させることにつながる可能性があります。しかし、一方で、性急かつ、ほぼ間違いなく熟考不足な統合に、一部の人間はいら立っているような様子も見受けられます。…

研究および論文出版におけるAIの歴史

人工知能(Artificial Intelligence)という言葉は、1956年にダートマス大学で開催された会議で科学者ジョン・マッカーシーが提唱したものです。現在では、自然言語処理、エキスパートシステム、ニューラルネットワーク、ロボット工学など、様々な領域のAI技術が、情報の抽出と検索、機械翻訳、音声認識などの精度や速度を向上させています。 AIの歴史を振り返ると、特にこの10年間で、AIと機械学習はいくつもの業界のあり方を根底から変えてきました。革新的技術により、プロセスの自動化が、容易に、そして迅速に行えるようになっているためです。 学術出版業界では、査読、出版内容の検索、盗用・剽窃の検出、データの捏造の有無の判定などに取り組む、著者と出版社の双方を支援するAIベースの技術が開発・実装されています。AIは科学的コミュニケーションの迅速化だけでなく、人間のバイアスの軽減にも役立つものと期待されます。 研究自体へのAIの導入ということでいえば、仮説を立てることから、実験を実施することに至るまで、研究プロセスの自動化において目覚ましい成長を遂げています。実際、研究者は現在、生物医学、薬の組み合わせ、病気の予測などの複雑な問題にAIを使って対処するようになっているのです。 以下のインフォグラフィックでは、AIの歴史のマイルストーンと、研究および学術出版におけるその応用について示しています。一部の技術は、いまだ開発段階にあり、ベータ版のみがリリースされているものです。 インフォグラフィックのサマリー   AIの歴史 ・1956年 ジョン・マッカーシー「人工知能」という言葉を提唱 ・1965年 初のエキスパートシステムDENDRALでの化学研究スタート ・1972年 MYCINでの血液感染症研究スタート ・2006年 Etzioni、Banko、Cafarellaが「Machine Reading(機械読書)」という言葉を提唱 ・2009年 人の介入なしで研究を行うシステムAdamの開発…

査読の変革におけるAIの役割

この記事は、英文校正・研究支援サービスを提供しているエナゴの社員Dr. Krishna Kumar Venkitachalam(クリシュナ・クマール・ヴェンキタチャラム博士)が、Scholarly Kitchenにゲスト投稿した記事の日本語訳をScholarly Kitchenの許可の下で掲載しているものです。原文はこちらをご覧ください。 懐疑主義を克服するための実験的な試み:査読の変革におけるAIの役割 人工知能(AI)はさまざまな分野で大きな進歩を遂げていますが、学術出版における重要な要素のひとつである査読への導入は依然として躊躇されています。知識の進歩に不可欠な基礎的なシステム(査読)を改善するための技術的手段の採用が遅れているのです。AIを査読に取り込むことに躊躇するのもわからなくはないのですが、AIが既存の課題にどのように対処し、プロセスを強化できるかを探るための実験を進めることが不可欠です。 現在の査読の課題 従来の査読プロセスは、いくつかの重大な問題を抱えています。最も差し迫った問題の一つは、投稿論文の数の増加です。研究論文の急激な増加は、査読に対応できる査読者のキャパシティを超え、出版プロセスの遅れにつながっています。既に、教育、研究、管理業務のバランスをやりくりしている研究者は、査読者となることで疲労や時間的制約を感じることになりがちです。このように責務が増えると、フィードバックが遅れたり、評価が甘くなったりすることになりかねません。 別の懸案事項であるバイアスは、査読の客観性と公平性に影響を与えるものです。著者の所属機関、国籍、性別、研究分野に関連する無意識のバイアスは、評価プロセスに影響を与える可能性があります。 さらに、複数の異なる分野にまたがる研究が進むと、分野の垣根を超えて必要な専門知識を持つ査読者を見つけることが難しくなり、査読の質が損なわれる可能性があります。 査読の課題に対処する非AIソリューション 査読の課題を軽減するために、いくつかの非AIソリューションも提案されています。査読を受けることにつきクレジットやインセンティブを与えることで、タイムリーで徹底した査読を行うための動機付けにするというものです。査読者トレーニングプログラムを提供することは、評価の質と一貫性を向上させ、バイアスを減らし、評価スキルを高めることにつながります。さらに、査読者が誰なのかを公開するオープン査読(Open Peer…

科学を含めた公共財について考える

グローバル公共財の代表―ワクチン COVID-19のワクチン開発が進められていた2020年5月に開催された世界保健機関(World Health Organization: WHO)の総会で採択された決議には、「安全で、質が高く、効果的で、アクセス可能で、安価なワクチンが利用可能になった際には(once safe, quality, effective, accessible and affordable vaccines are available)」、 COVID-19の広範な免疫化は健康のための「グローバル公共財(a…

理工系を選ぶ女性を特別視しない社会に向けて

この10年ほどでジェンダーについての考え方は大きく様変わりしてきました。理工系分野における女子学生の少なさから「リケジョ」という呼び方が登場した際、この言葉は女性研究者の少なさを強調しており差別的だとの批判が出た一方で、この呼称を前面に出して活動を広げる女性や、理工系を目指す女子学生を支援する動きが出てきたことは面白い社会現象だと言えるでしょう。 それでも、世界に比べると日本で理工系を選択する女性の数はまだまだ少ない状況です。今回は、日本の女子学生の現状と、女性が理工系分野を選択しやすくなるための取り組みについてまとめてみました。 日本の女子学生の現状 残念ながら日本にはジェンダーギャップが存在しています。それは、学問分野に限らず、世界経済フォーラム(The World Economic Forum: WEF)が毎年発表しているGlobal Gender Gap Report(世界男女格差報告書)を見ても明らかです。2024年版の報告書の日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中118位。こうした社会風土は、大学の理工系学部に進学する女子学生が極めて低いことの一因にもなっていると思われます。 文科省が公表している学校基本調査(確定値)によれば、2023年度の大学進学率は57.7%と過去最高を更新しており、これを性別で見ると、男子が60.7%(前年度1.0ポイント増)、女子が54.5%(同1.1ポイント増)と、男女差は0.1ポイント縮小してきています。ところが、学部の選択となると割合が変わってしまうのです。数学や科学といった理工系科目に対する苦手意識が原因でしょうか。 経済協力開発機構(The Organization for…