ユニバーサルデザインで“魅”せるプレゼンテーション

学術情報をより多くの人に伝えるための色使いの配慮「カラーユニバーサルデザイン」の極意に迫ります。

第18回 学術界におけるカラーユニバーサルデザインの動向と展望

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。最終回の今回は、東京慈恵会医科大学解剖学講座教授、CUDO: Color Universal Design Organization 副理事長岡部正隆(おかべ まさたか)氏へのインタビューです。 色のバリアフリープレゼンテーション法について早くから国内外の学術界に対して情報発信してきた岡部氏に、最近の動向と今後の展望を伺いました。 学術界の外に動きの主体が広がった ■岡部先生と伊藤啓(いとう けい)先生(東京大学分子生物学研究所准教授、CUDO副理事長)がともに色弱者として学術界に対して声を上げてから、この15年間に状況は変わりましたか? 2001年から活動を始めて今に至りますが、最初の時期から比べると学術界に対するアピールから、学術界の外に動きの主体が広がってきました。 学術界での配慮は基本的に個人レベルになります。しかし、次から次に出てくるデバイスを考えると、研究者の態度というより、企業による商品開発レベルですでにいろいろな工夫がなされていないと研究者1人1人が戦っても及ばない部分があります。そこで、最近は企業に対応を求めることが増えました。 男女共同参画などは政府も後押しして、学会レベルで半ばルールのように推進されていますが、カラーユニバーサルデザインに関してはそのレベルに至っていません。毎年のように学会から教育講演の依頼はあって、今年は日本産科婦人科学会と日本微生物生態学会でCUDに関するセミナーをする予定があります。そのほか、ポスター発表のガイドラインに記載してもらったり(日本分子生物学会、日本発生生物学会)、論文の投稿規定に入れるように依頼したりしていますが、継続的に行うにはパワー不足です。 ■学会の聴衆の立場では変化を感じますか? だいぶ改善はしてきていると思います。自分の専門分野では蛍光染色の図版を見る機会が多いので、見分けにくい「赤と緑」の二重染色を「マゼンダと緑」に変えるように以前から要望してきて、そのように対応されている図版も増えましたが、なぜ「マゼンダと緑」なのか自覚せずに使われている可能性もありますので、もっとしっかり理解を得ていかなければならないと思っています。…

第17回 9つの "色覚バリアフリーツール"

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第17回目の今回は、カラーユニバーサルデザインの実践に役立つ9つのツールをご紹介します。 CUDの実践に役立つ9つのツールをまとめてご紹介します。このようなツールに触れてみるだけでも多様な色覚の世界を知る手がかりとなりますので、機会があればぜひ利用してみましょう。 シミュレータ(ソフトウェア) ①「Illustrator 」、「Photoshop」 世界的にシェアの高いアドビシステムズ株式会社のグラフィックソフトウェアならびに画像編集ソフトウェア。Illustrator 、Photoshopとも、CS4以降、CUDOが協力して開発したCUDチェックシステム機能を標準搭載しています。[校正メニュー]の中にP型、D型それぞれのCUD校正ビューが組み込まれており、オリジナルの作業スペースと別に開くことができるのでチェック画面を見ながら作業できます。 ②「Vischeck」 米国スタンフォード大学のBob Dougherty氏と Alex Wade氏が開発した、P型、D型、T型色覚のシミュレーションソフトウェア。画像処理ソフトウェアImageJのプラグインとして利用するのが一般的で、ImageJ、Vischeckともに無償でダウンロードできます。既存の画像ファイルを開いてチェックするとともに、色に改変を加えて保存することもできます。PowerPointなどのファイルをいったん画像として保存すれば、スライドの色の見分けやすさをチェックすることもできます。 ImageJ http://imagej.nih.gov/ij/…

第16回 “魅”せるプレゼンテーション – チェックリスト!

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第16回目の今回は、これまでにご紹介した色覚バリアフリーの資料作りのポイントを一挙ご紹介します。 ここでは、CUDOによる「CUDチェックリスト」から、学術発表に関係する項目をピックアップします。本連載で取り上げていない内容もありますので、 色覚バリアフリー の発表資料を作成するための参考資料として役立ててください。 色の選び方 ・赤は濃い赤を使わず、朱色やオレンジを使う ・黄色と黄緑は色弱者には同じ色に見えるので、なるべく黄色を使い、黄緑は使わない ・濃い緑は赤や茶色と間違えられるので、青みの強い緑を使う ・青に近い紫は青と区別できないので、赤紫を使う ・細い線や小さい字には、黄色や水色を使わない ・明るい黄色は白内障では白と混同するので使わない ・白黒でコピーしても内容を識別できるか確認する 色の組み合わせ方 ・暖色系と寒色系、明るい色と暗い色、を対比させる…

第15回 色覚バリアフリーを示すCUD認証マークとは?

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第15回目の今回は、色覚バリアフリーの検証に合格した製品に添付される、CUD認証マークについてご紹介します。 日本国内にCUD (カラーユニバーサルデザイン)検証に合格した製品が増えています。「CUD認証マーク」の認知度はまだまだ高くありませんが、見つけたときには色やデザインに注目してみましょう。 エコマークのような認証マーク 環境保全に役立つ商品につけられるエコマークのように、CUDO (Color Universal Design Organization: カラーユニバーサルデザイン機構) によりCUDの要件を満たしていると認められた製品には「CUD認証マーク」(図15)をつけることができます。対象は、各種印刷物、機器類、公共物、ウェブサイト、その他文具・教材・調理器具など多岐にわたります。 企業や自治体からCUDOに申し込みがあると、訓練を受けた各色覚型の検証員が検証を行います。パソコンのシミュレータは簡易なチェックには役立ちますが、色弱者が実際に感じている色を再現するものではないため、認定には当事者による検証が必須となっています。 検証のポイントとなるのは、1: 多くの人に見分けやすい配色をしているか、2:…

第14回 動物における色覚の多様性 – 光の受容と種の保存

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第14回目の今回は、我々ヒトを含めた、動物における色覚の多様性についてご紹介します。 生物にとって「色」とは、物体を検出、認識する手がかりであるとともに、信号としての役割を持ちます。生物はそれぞれ一定の光の波長を 受容 することにより独自の色の世界を持っているようです。 チョウにはお尻にも「目」が! 昆虫の眼は複眼でヒトの視覚とシステムが異なります。色覚についても、ミツバチの仲間は赤の光受容体がなく、紫外線、青、緑の3色型色覚を持つことが知られています。アゲハチョウやモンシロチョウは、ヒトより多い、紫外線、紫、青、黄、赤の5色型色覚に加え、さらに、お尻にもう1つの「目」(眼球外光受容器)を持つといいます。お尻の「目」では、交尾や産卵を確実に行えるように紫外線から青にかけての光を利用していることが確かめられています。 夜行性だったヒトの祖先 脊椎動物は魚類からヒトまで左右一対のカメラ眼を持ちますが、色覚は魚類、は虫類、鳥類の多くで4色型色覚を持っていたのが、ほ乳類で2色型に減少し、その中からヒトなどの霊長類が再び3色型色覚を持つようになりました。約2億年前、ほ乳類がは虫類から分岐した頃、地球は恐竜の全盛期で、ほ乳類の祖先は夜間行動をしていたために4種類のうち2種類の視細胞を失ったと考えられています。 霊長類が今から約4〜3千万年前に再び3色型色覚を持つようになった理由については、恐竜の絶滅後に昼行性の樹上生活を始めたため視覚への依存度が高まったことによると考えられています。3色型は木の葉のなかから若葉や果実を見つけ出すのに適していたほか、仲間とのコミュニケーションにおける役割も果たしたことが指摘されています。 現代人において高い2色型色覚の頻度 3色型色覚を持つサルの世界にも2色型(P型、D型)のサルが共存していることが知られています。また、それら「色弱」のサルを遺伝子型で特定して追跡した研究において、色弱のサルにおいても食べ物が異なるということはなく、一方的に弱いということはないことが観察されています。 ヒトは長い進化の過程を経て3色型色覚を持つようになりましたが(C型)、男性の5〜8%は2色型色覚を持ちます(P型、D型)。現代人における2色型色覚の頻度は、サルやチンパンジーにおけるその頻度と比べて極めて高いことがわかっています。 その理由として、ヒトの現代社会においては樹上生活に適した3色型の優位性が失われたか、あるいは2色型のほうが有利な場合も生じたために3色型に対する選択圧が緩和されたという説があります。そのほかに、ヒトが狩猟採集生活をしていた時代には2色型は輝度コントラストから獲物を見つけるのが得意で、3色型は果実の採取などに適しているために、相互利益により維持されたという考え方もあります。遺伝子構造によるとの見方もあり、はっきりとした理由は明らかではありません。 多様性を担うオプシン遺伝子の多型 このような色覚の多様性を担う視細胞は、364個のアミノ酸からなるタンパク質のオプシンに、ビタミンA誘導体であるレチナールが結合したものです。そして、ヒトにおいてC型、P型、D型を分けるのは、このオプシンのなかの15個のアミノ酸の違いです。…

第13回 色弱者にもやさしい信号機の色

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン (CUD)」について迫る連載シリーズ。第13回の今回はプレゼンテーションから少し離れて、安全な社会構築に欠かせない「信号機」とCUDにまつわるエピソードをご紹介します。 色弱者と社会基盤の関係が話題になるとき、まず持ち上がるのが「信号機の色は見分けられるのか」という質問です。色と情報のシンボルともいえる信号機にまつわる歴史や、知らなかった工夫を紹介します。 「青信号」は見分けやすい「青みどり色」 信号機の色の見え方は個人差が大きいので一様には言えませんが、少数派であるP型、D型の当事者によれば、信号機の色は「見分けられます」。自動車運転免許の取得においても色覚型が欠格の理由になることもありません。 「青信号」はかつて「緑色」で、赤信号や黄信号と見分けがつきにくかったのですが、1970年代以降、 色弱者 に見分けやすい「青みどり色」に変更されました。電球式信号機においては、赤色を黄色より暗くして見分けやすくするなどの工夫もなされていました。また、横型の車両用信号機は通常、左から青・黄・赤の順に並んでいるので、位置関係からも判断できます。   進むLED化と新たな試み 平成25年の警察庁資料によれば、全国の車両用信号機の約40%、歩行者用信号機の35%がLED化されています。LED信号機には、コストパフォーマンスの良さや、太陽光の反射による疑似発光がないなどのメリットがあります。 すべての色覚型の人に見やすいように「青信号」は電球式と同様に「青みどり色」にしてあります。また、LED信号機が小さなLED電球の集まりであることを利用して、赤の信号灯にP型、D型色覚者に見やすい×印を組み込んだ信号機が提案され、社会実験として実際に使用された例もあります。 歩行者用の信号機は、従来から形状による表現が採用され、電球式の歩行者用信号機は色バックに人型の白抜きというデザインでした。LED化にあたり、学識者、色弱者、高齢者などにアンケート調査や視認試験を行った結果、黒バックに人型を光らせるタイプが高評価を得て採用されました。この変化に気づいていましたか?…

第12回 カラーユニバーサルデザイン・日本から世界へ

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 世界に先駆ける日本の「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」の取り組みはどのような背景から生まれてきたのか、CUDO副理事長の伊賀公一氏と同副理事長の田中陽介氏にお話を伺いました。 色が「使える」条件 色をなぜ使うのか?色が「使える」から使うのだ、と伊賀氏は言います。モノクロが当たり前だった状況からカラー化を進めるには一定のコストがかかりますが、日本にはその経済力がありました。 また、日本には教育上の共通インフラのようなものがあり、色で情報を伝えることのできる素地がありました。色に意味を持たせる場合に必要な一定レベルの印刷技術や塗装技術もありました。つまり日本には、いろいろな意味で色を使える条件が(色弱者以外には)そろっていました。海外旅行に行くと、言語、文化、宗教の多様性を実感します。そのようななかで、公共のサインなどにはアイコンを使うのが最も確実であって、色分けしておけば情報が伝わるという認識はほとんどないといいます。 「左利きと何が違うの?」 一方、日本の小学校では2002年まで全員に色覚検査を行っていました。これは世界に類をみないものです。また、色弱者にはかなりの職業の制限があり、身内からも黙っておくように言われることが普通でした。ひと昔前は左利きも修正されたことを考えれば、皆と同じであることがそれほどに重要だったということです。 田中氏によれば、米国では鉄道・航空など交通系や警察官の就職試験時に色覚検査が行われるものの、消防では行われなかったり、学校での一斉検査もないため、問題意識は低いといいます。特に西洋の文化は個人主義で、色覚についても個人の問題と捉えられているようです。実際、伊賀氏は 色弱 のイギリス人科学者に「左利きと何が違うの?」と言われたことがあるそうです。 日本発の成功事例になれば…

第11回 デジタル画像 作成時のひと工夫

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 学術発表におけるデジタルカラー画像の使用頻度が高まっています。第11回の今回は、医学生物学領域で使用頻度の高い蛍光多重染色画像を例にとり、多くの色覚型に伝わりやすい“ほんの一工夫”を紹介します。 単色画像はグレースケールで 今日、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡の画像はデジタルカメラで撮影して、パソコン上で疑似カラーを用いて表現します。単色の画像を黒バックに赤や緑や青で提示しているものが多くありますが、この場合、色には意味がありません。むしろデメリットの方が多くなります。特にP型の人には黒い背景に赤い色は見にくく、一般型の人にとっても黒い背景に青色などは見にくいものです。 また、ポスターや論文などの印刷物においてカラー画像は不鮮明になる欠点があります。特に緑色はトラブルが多いと言われます。これは、顕微鏡で取得された画像がRGB 形式であるのに対し、印刷は一般的にCMYK方式であるため、変換により階調が飛んでしまうためです。白黒画像であれば、細かいシグナル強度の差も鮮明に表現でき、印刷時のトラブルが少なくなります。単色画像はぜひ白黒のグレースケールで提示しましょう。 2重染色画像では「赤―緑」を「マゼンタ―緑」に 蛍光2重染色では、黒い背景に「赤」と「緑」で表現し、赤と緑が共存する部分が「黄色」で表現されるのが一般的です。ところが、この色の組み合わせは、P型、D型の人には非常に見づらいものです。P型色覚の見え方をシミュレーションしたものが図11-1下段の一番左の画像です。赤が暗く、緑と黄色が見分けにくいことがわかります。 そこで、岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学解剖学講座)は、P型、D型のみならず一般型のC型の人も含め、ほぼすべての人に理解できる蛍光二重染色画像の提示方法として、赤のシグナルをマゼンタ(赤と青を1対1で混ぜた赤紫色)に変更することを提唱しています。こうすれば、もともと赤かった部分は青寄りに見え、マゼンタと緑が共存する部分は「白色」で表現されるため、3つの色が明確に区別できます(図11-1下段の一番右の画像)。 Photoshop上で赤チャンネルの絵を青チャンネルにコピーするだけ! では、「赤―緑」から「マゼンタ―緑」への変更はどのようにすればよいのでしょうか。多くの顕微鏡では疑似カラーとしてマゼンタを選択できますので、それを活用するのが最も簡単ですが、すでに撮影した赤緑画像についても、RGBモードの画像であればPhotoshopで簡単に変更できます。…

第10回 プレゼンに有効な色の組み合わせを知ろう

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 12色や24色のクレヨンや色鉛筆のセットのように、CUD(カラーユニバーサルデザイン)に配慮した色のセットがあれば・・・そのような要望に応えて、CUD推奨配色セットができました。印刷業界や塗装業界では、導入に向けてすでに動き始めています。 多くの色覚型に対応 色弱の人にも見やすいオレンジ色寄りの赤色はRGB3原色の表現で(R:255, G:40, B:0)の色であると第7回で紹介しました。色の見え方や感じ方には個人差があるため、このような明確な指定はとても便利です。そこで、CUDO (カラーユニバーサルデザイン機構)では、赤色のみならず全部で20色(代替色を含めて22色)の「CUD推奨配色セット」を公開しています。 CUD推奨配色セット http://www.cudo.jp/resource/CUD_colorset 伊藤啓氏(東京大学分子生物学研究所)によるCUD配色セットの詳細 http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/colorset/…

第9回 正しく情報が伝わるグラフ作成のコツ

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 情報を一目瞭然に伝えるためのグラフも、色の使い方によっては逆にわかりにくいものとなります。ほんの少し工夫するだけで、多様な色覚の人に見やすくなりますので、次の2点を是非取り入れましょう! 折れ線グラフ - 線の種類を変えましょう Excelなどの表計算ソフトを用いれば、表の形で入力した統計データをクリックひとつで グラフ に変換できます。表9-1左に最もシンプルな例を紹介します。線の太さや色はデフォルトで決まっており、何も考えないうちにこのようなカラフルな折れ線グラフが出来上がります。これをVischeckというシミュレーションソフト(第17回で紹介)を用いてP型色覚のシミュレーションとして写してみると、表9-1右のようになります。黄緑とオレンジ、あるいは青・紫・水色の区別が難しいことがわかります。 図9-1 折れ線グラフ例①[左:Excelのテンプレートからプレーンな折れ線グラフを選択、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)]  …

第8回 スライド作成で気をつけたい配色のポイント

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 前回(第7回)紹介したように、国際学会でのプレゼンにおいて、「赤いレーザーポインターを使わず」、「赤色はオレンジ色寄り」にして、「色の名前を言うときに注意」することは、CUD(カラーユニバーサルデザイン)への大きな一歩です。今回は、さらに配慮したい2つのポイントを紹介します。 使う色の数を少なくする プレゼンテーションソフトウェアの発達により、多くの人が気軽に色をつけてカラフルなスライドを作るようになりました。一般型色覚のC型の人にとって色は便利な情報伝達手段ですが、使いすぎれば見づらい場合もあります。P型、D型などの人にとってはなおさら、重要な部分で見分けにくい色の組み合わせが増えてしまいます。また、意外なことに、重要ではない演出的な色使いにも問題があります。例えばデータの一部に、特に必要ではない背景色がついていたとすると、P型、D型などの人は「何か色がついているようだが意味があるのだろうか」と不安を抱いてしまいます。 したがって、なるべく多くの色覚型の人にわかりやすいスライドを作るためには、本当に必要でない色は使わないのが賢明です。そのようにシンプルを極めつつ、デザイン性の面でも満足のゆくスライド作りをめざしましょう。画面を動かすアニメーション効果も当初は多用されましたが、かえってわずらわしいという考え方が広まって、以前ほど多用されなくなりました。色についても多用しない効果的な使い方が広まっていくと考えられます。 色の組み合わせに気を配る―色相、明度、彩度とは? 赤色の選び方に代表されるように、色はそれ自体の問題もありますが、P型、D型の人にとっては、識別しにくい色の「組み合わせ」が問題となるケースが多くあります。第3回で紹介したように、「赤と緑」、「淡い水色とピンクと灰色」、「黄色と黄緑」、「紫と青」は特に判別が困難なため、重要な色分けの組み合わせにはなるべく用いないようにしましょう。 色には、色合い(色相)のほかに、明るさ(明度)、鮮やかさ(彩度)といった要素があります。P型、D型の人は色合い(色相)の識別が困難な場合が多いですが、色の明るさ(明度)や鮮やかさ(彩度)はよくわかります。そこで、色相のみならず、明度、彩度に変化をつけると、色弱者の人にも区別しやすい色の組み合わせが増えます。少し踏み込んだテクニックになりますが、これを意識してスライド作りに反映させれば、多彩な色使いも維持しつつ、ユニバーサル 化に配慮したプレゼンテーションを行うことができます(図8)。 図8 色相のみならず明度・彩度の差をつけた色の組み合わせの例[上:調整前、下:調整後](CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)…

第7回 色覚バリアフリーのスライド・3つのポイント

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。 忙しくて余裕がない?―ポイントさえおさえれば、CUDはすぐに実践できます! CUDO副理事長の伊賀公一氏に、PowerPointなどを用いたプレゼンテーションでこれだけは実践してほしいこと3つを伺いました。 赤色のレーザーポインターを使わない 図7-1 緑色のレーザーポインターの例(CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)   「赤色」はP型、D型の人には目立つ色ではありません。赤いレーザーポインターの光は長波長の光を使用しているために、特にP型の人には“赤外線”になってしまい、見えにくいか全く見えません。そこで、2000年代になって、P型、D型の人にも見えやすい緑色のレーザーポインターが開発されました(図7-1)。緑色のレーザーポインターは、開発当初、種類が少なく高価なものでしたが、現在では種類が増えて入手しやすくなっていますので、買い替えの際には是非導入を検討しましょう。なぜなら、緑色のレーザーポインターの光はC型の人にとっても赤色より明るく見やすいのです。 最近は、PowerPointなどのアニメーション機能を用いてスライドの特定箇所を強調する方法もあるため、レーザーポインターを使わない人も増えています。それも赤色のレーザーポインターの使用を避ける方法の1つと言えます。   赤色の代わりにオレンジ色(朱赤)を使う 一般型のC型色覚者は「赤色」を目立つ色と考えていますので、重要な部分や強調したい内容に赤色を用いることが非常に多いです。しかし、特にP型の色覚者にとって、赤は目立たない色です。そこで、同じ赤色でも波長がより短いオレンジ色(朱色)寄りの色にすると認識されやすくなります。 Microsoft…

第6回 学術界における カラーユニバーサルデザイン

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。 正確性の求められる学術界において、聴衆100人のうち5〜10人に情報が正しく伝わらなかったら――それは情報の送り手にとっても受け手にとっても、大きな損失ではないでしょうか。まずは問題の存在に目を向けましょう。 PowerPointが変えた色の世界 「次のスライドお願いします」―カシャ、という学会風景は21世紀に入ってからほぼ姿を消しました。スライドはかつて外部の制作会社に依頼して作るのが一般的で、デザインは写真部分を除いて基本的にブルーバックに白文字、あるいは白バックに黒文字といったごくシンプルなものでした。色による表現が少なかった分、色に頼りすぎない表現方法をとっていたため、ある意味ではCUDの考え方に近いものだったと言えます。 それを変えたのはPowerPointの登場で、誰もが簡単に色を多用できるようになりました。背景、文字、グラフなど、色の必要性を考えるまでもなく、用意されたテンプレートを駆使してカラフルなスライドを作るようになりました。大多数を占める一般色覚型のC型の人にとっては、見た目に楽しく、また、わかりやすくなる場合もありますが、色の使い過ぎや組み合わせの悪さによって見づらくなる場合もあります。ましてや、P型、D型などの人にとっては情報が伝わらないものが増えてしまいました。しかし、色弱者がそれを声高に訴えるケースが少ないため、問題はまだ広く認識されていません。 『Nature』誌も注目 そのような学術界で早くから声を挙げ続けているのが、第1回でも触れた2人の日本人科学者、伊藤啓氏(東京大学分子生物学研究所)と岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学解剖学講座)です。 近年、各種のアカデミックジャーナルも一気にカラー化が進みました。しかし、世界のトップジャーナルにおいても色覚の多様性への特別な配慮は見受けられません。そのような中、『Nature』誌においては、2007年に同誌ウェブサイトのブログ記事において編集者が、色弱者に配慮した図版の色使いについて取り上げ、素晴らしいウェブサイトとして伊藤氏、岡部氏が2002年に英語で発信した情報ページを紹介しています。 色弱者のレフェリーに査読される可能性は22%! CUDへの配慮は、読者や聴衆のためだけに行うものではありません。研究成果を一人でも多くの人に伝えるのは研究者の使命であり、研究者自身の利益にもつながります。伊藤氏、岡部氏による科学者向けの記事「医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法」に掲載された興味深い試算を紹介します。 海外ジャーナルで白人男性3人がレフェリーだと仮定した場合、1人のレフェリーが色弱者でない確率は92%(1−0.08=0.92)、3人とも色弱者でない確率はその3乗で78%(0.923)となり、「色弱者のレフェリーに審査される可能性は22%である」というわけです。 これは論文投稿に限りません。学会発表においても、聴衆の中のあなたにとってのキーパーソンが色弱者である可能性は看過できないものです。そして、CUDに配慮した情報発信は、このあとに紹介するようなポイントさえつかめば、容易に行うことができます! 参考資料: Nature誌ウェブサイト内ブログ記事…

第5回 ここにも!カラーユニバーサルデザインの実用化例

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。 21世紀に入ってから十数年の間に、日本の社会や身の回りにCUDに配慮した「もの」や「方法」が着実に増えてきました。そのような例を見てみましょう。「あっ!あれは」というものがあるのではないでしょうか。 地下鉄の表示が変わりました 例えば東京の地下鉄は13路線あり、その路線図や案内板は一般色覚型のC型の人にとっても見づらいものです。その地下鉄構内の路線や駅名の案内表示は、以前は文字と色記号だけで表示されていましたが、2005年頃から色記号のなかにローマ字や数字が追加されました(図5-1)。これにより、P型、D型などの人にも素早く情報が伝わるようになりました。日常生活に大きな影響を与える交通関係では、その他に信号機や各種公共案内、地図、カーナビゲーションなどにおいてCUDに配慮した、多くの人に見やすいものが増えています。 図5-1 地下鉄の案内表示[左:以前の状態を再現し、色弱者の見え方をシミュレーションしたもの、右:ローマ字が追加された現在の表示](CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)   文房具、洋服、リモコン・・   何気なく手にした文房具のラベルや洋服のタグに、「くろ」や「あか」などの色名が書いてあるのを見たことがあるのではないでしょうか。これもCUDへの配慮の一環です。P型、D型などの色覚をもつ子供は、クレヨンや絵の具の色がわからず、困ることがあります。大人になっても、洋服の色選びに困ったり、リモコンのボタンの色がわからないことなどがあります。それらの不便は、製品に色名を表示したり(図5-2)、ボタンの横に色名を表示することで格段に軽減されます。普段何気なく使っている複合機(コピー機)にも、現在ではほとんどCUDに配慮したボタンや機能が搭載されています。 図5-2 サインペンの色名表示[左:色名表示例、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)。色名表示により見分けがつく]   情報発信ツールにも変革のうねりが  …

第4回 スマホでLet’s色覚シミュレーション

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。 他者の色覚を体験することは本来不可能です。しかし、C型の人がP型、D型、T型の人の色の見分けにくさをシミュレーションする、あるいはP型、D型の人がC型の色覚情報を知るためのツールがあります。 色覚をイメージできる『色のシミュレータ』 色覚をシミュレーションするツールには、メガネ型のものやパソコンソフトなどさまざまなものがあります。なかでも、浅田一憲氏(医学博士、メディアデザイン学博士)が開発したスマートフォン用のアプリケーション『色のシミュレータ』は、一般の人が手軽に試すのに適しています。浅田氏のウェブサイト内または各種配信チャンネルから無償でダウンロードできますので、ぜひ試してみてください。『色のシミュレータ』を起動して対象物にカメラを向けると、各色覚型で見えている色のイメージを同画面上で比べてみることができ、その画像を保存することもできます。あくまでもシミュレーションで正確な再現ではありませんが、身の回りのものにカメラを向けてみると、P型、D型の人がどのような色を見分けにくいのかがイメージとしてわかります(図4)。 図4 『色のシミュレータ』を用いたシミュレーションの例[上からC型、P型、D型]   色覚補助ツール『色のめがね』   『色のめがね』は、同じく浅田氏が開発したスマートフォン用のアプリケーションで、P型、D型、T型など色を見分けにくい人のための補助ツールです。こちらも浅田氏のウェブサイト内または各種配信チャンネルから無償でダウンロードできます。『色のめがね』には、「色を見分ける」、「色をみつける」、「色値・色名表示」などの機能があります。カメラに映る画像内の混同色を変換して見分けやすくしたり、知りたい色名を指定してカメラを向けることでその色がどこにあるか見つけたり、画像内の特定のポイントの色名を表示させたりすることができます。また、『色のシミュレータ』と同様に、色覚型ごとのシミュレーションができますので、P型、D型、T型の人が、一般色覚型(C型)の人に自分の色覚のイメージを見せることができます。   色覚シミュレータを学術発表に生かそう!   シミュレータは色覚の多様性について理解するのに役立つと同時に、すぐに実践に役立てることができます。C型の人が、自分の作ったプレゼンテーションスライドにカメラを向ければ、P型、D型の人にとってどの部分が見分けにくいかがわかります。強調したはずの部分がP型やD型の人から見ればまったく目立っていなかったり、重要な色分けが意味をなしていないことなどに気づくかもしれません。この後の第9回で、どの色覚型の人にも見やすいグラフの作成方法などを紹介しますので、スライド作成後のチェックツールとして活用できます。ここで紹介したスマートフォンのアプリケーションのほかにも、パソコンにインストールして画像そのものを色変換してチェックするツールもありますので(第17回でご紹介します)、さらに興味のある人は試してみましょう。 参考資料:…

第3回 色の情報に頼りすぎていませんか?

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。 日本人男性の20人に1人を占めるP型またはD型の色覚タイプの人は、赤と緑など特定の組み合わせの色を識別しにくい特性を持ちます。赤が目立つとも限りません。そのために日常生活のさまざまな場面で困ることがあります。 色覚タイプによる色の見え方の違い   図3-1 色覚タイプによる色の見え方の違い で紹介した色覚タイプのなかから、代表的なC型、P型、D型の色の見え方の違いを図3-1に示します。このように、P型、D型の人にとって赤は決して目立つ色ではなく、赤と緑、淡い水色とピンクと灰色、黄色と黄緑、紫と青などが区別しにくいことがわかります(シミュレーションソフトで作成しているため実際の色覚を再現したものではありません)。   日常生活で困ること 情報のカラー化の進む昨今、その色使いのほとんどは、C型の人(のみ)にとってわかりやすいものとなっています。色のあふれる日常生活において色弱者が困る場面はたくさんありますが、ほんの一例を紹介します。通勤・通学においては、地図、路線図表示(図3-2)、交通標識、渋滞表示、カーナビなどにおいて必要な情報が受け取れない場合があります。最近ではCUDの取り組みにより改善された表示もあります。職場・学校においてはカレンダー(図3-3)、電話の表示ランプ、ウェブサイト、黒板、名刺、PowerPointによるプレゼンテーションなどで必要な情報が受け取れない場合があります。家庭では、テレビのリモコン、オーディオ機器のスタンバイ状態の表示(図3-4)、テレビにおける気象情報、サッカーのPK戦の結果表示(図3-5)から衣服の色まで、さまざまな例を挙げることができますが、改善された製品やサービスも多くあります。最近の津波警報は色弱者にも色の区別がわかるように配慮されています(http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/color/tsunami/)。 図3-2 地下鉄の路線図[左:色弱者色覚のシミュレーション、右:C型色覚] 図3-3 カレンダー[左:P型色覚シミュレーション、右:C型色覚] 図3-4…