PhD

不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(前編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。2021年は不安な時だからこそ、具体的に博士課程で起こり得る問題を予想して実践的に準備しようというインガー准教授のメッセージを前後半でお届けします。(元記事は2021年1月6日に投稿されたものなので、新年の挨拶から始まっています。) あけましておめでとうございます。 2020年、無能な政治家や、がめつい企業の運転するバスに乗り合わせたばかりに、崖っぷちにさらされた無力な乗客のような感覚になることがよくありました。気候変動に関しては常々「崖っぷち感」を感じていましたが、パンデミックはその感覚を悪化させたのです。私は2020年を通じてとてつもない不安を抱えていたので、仕事を含むすべての作業に悪影響を及ぼしていました。 2021年に状況が改善されるとしても、こうした不安の原因となっている問題の多くが霧消することはないでしょう。今年、どんな準備するのが良いのか考えてはみるものの、たくさんの抱負を掲げたところで役に立つとは限りません。 (こうした不安について、自分も当てはまると思う人は、これからお伝えする注意事項を読んで参考にしてみてください。) 無力感や、それがもたらす不安は嫌なものです。抗不安薬(精神安定剤)もある程度は効きますが、気持ちを落ち着かせるためだけに多くの時間とエネルギーを費やさなければなりません。私の場合、雇用と結婚生活を維持するためには冷静さを保たなければならないので、さまざまな戦略を用いています。優しい夫が買ってくれたデッキチェアに座ってセラピストにすすめられたマインドフルネスを実践することもそのひとつ。この夏、特に今年の前半にコロナがオーストラリアを襲った後は、このデッキチェアは私にとって欠かせない物となりました。   View this post on Instagram…

履歴書に博士課程修了と書くのは不利なのか(前編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は学術界の外で就職活動をする際の履歴書・職務経歴書に関するお話です。インガー准教授が行っていた、博士課程取得者に対する採用担当者の態度に関する研究で分かったこととは?そして、職務経歴書に博士課程修了を書くべきか、書かないべきか、についても考察しています。(訳者注:日本では学歴・経歴は正直に書くのが大前提です。) 数週間前、同僚のハンナ・スオミネン准教授とウィル・グラント博士と、私が取り組んできた採用担当者の博士号取得者に対する態度についての研究の話をしました。 以前投稿した「WHAT IS THIS ‘ANTI-PHD’ ATTITUDE ABOUT?」にも書きましたが、私たちの研究は、学術界以外の雇用における門番的な役割を担っている採用担当者に関するものです。履歴書・職務経歴書に最初に目を通すのは採用担当者であることが一般的ですが、彼らのほとんどは博士号を持っていません。博士課程についての経験や知識をほとんど持っていない人もいます。学術界以外の就職戦線に踏み込むのであれば、このような事実を頭に入れておく必要があります。 採用担当者は、応募者(あなた)が習得した学位よりも、獲得してきた経験にはるかに強い興味を持っており、博士号の有無で応募者を絞り込むことはありません。博士号取得者を知的でまじめな人である証拠として捉える担当者がいるかもしれませんが、以前採用した博士号取得者が期待外れだったという理由から、積極的に博士号取得者を候補から外す担当者がいることだって考えられます。私は別の記事で、博士号を取得したことで、その人は雇用市場における少数派と位置づけられ、有色人種、高齢者、障害者といった人々が日常的に経験している差別に直面する可能性があると論じました。 あなたがその記事を読んでいたら、自分の履歴書から博士課程の経歴を消してしまおうと思うかもしれません。実際に経歴を書かずに選考に残ったという人もいますし、違いはなかったという人もいます。博士課程についてあえて記載しなかった人々は、履歴書の空白期間(最大5年間)について説明しなければならないので、大抵は大学内で行われた「大規模な研究プロジェクト」に参加していたと記述しているようです。私がその記事に書いたように、どのような種類の活動が「仕事」として見なされ、さまざまな経験がどのように評価されているかを心に留めておくことは大切です。採用担当者にとって、大学は非常に特殊な職場であり、博士課程で仕事に役立つ経験をしているとはなかなか信じてもらえないということも覚えておきましょう。 博士号取得者であることをあまり主張したくないとしても、すべてを隠す必要はありません。学歴の項目を履歴書の下の方に移動させ、採用担当者が最初に目にする記載ではないようにすれば良いのです。研究教育者としては、自分の資格を自らあえて隠さなければならないと思う人がいることには心が痛みますし、正直言ってそれが正しい方法だとは思いません。博士号取得者は就職市場において、研究や論文執筆を行う際の高度なスキルを持っていない人よりも優位な点がたくさんあるのです。必要なのは、博士号取得者であることの強みを最大限に活用することです。まずは、自分の履歴書を読む人がどう思うかを理解することから始めましょう。採用担当者や雇用者が抱く不安にも根拠があることを認識し、それを受け入れた上で、カバーレターの中で彼らの不安を和らげる書き方をするようにしましょう。 ここで、私たちの研究で明らかになった採用担当者の考え方と、彼らの不安を和らげるために何を書くべきか書き出してみます。…

不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(後編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。前編は不安を学者らしく捉えようとする姿勢についてでした。後半は博士課程で起こり得る問題の想定と対処についてです。 前編はこちら 想像力・創造力こそ、人類が多くの危機を生き延びるのを助けてきました。創造性は、「想像できる未知の出来事」に備える大まかな計画を立てる上で役立つのです。博士課程の間に起こりうる問題には次のようなものが考えられるでしょう。 問題のある指導教官 予期せぬ健康上の問題 大学による学校あるいは学部の閉鎖 人間関係の問題 実験の失敗 現地調査の実行不可 リソースの入手・利用不可 「想像できる既知の出来事」、つまり日々の問題は些細なことに見えますが、しっかりと解決に取り組むべきです。問題には、自分が進むべき道に関することもあれば、家族に関することもあるでしょうし、仕事に関することはほぼ全てに影響を及ぼすことでしょう。ここでは、文化的、技術的なありがちな問題の数々、「逆風」を取り上げたいと思います。 役割の曖昧さ:どこまでが自分の責任か明確に分からないことにより博士課程の研究が困難になることがあります。博士課程では、学生自身が独立して研究することを求める一方で、指導教官は研究の質と進捗を監督する責任を有しており、そのために避けて通れない対立が生じることがあります。役割の曖昧さは、同じ研究に従事する博士課程の学生と有給の研究助手の間の基本的な立場の違いにおいても生じます。学生が研究者になることを目指している場合、誰が博士課程における研究の質と進捗の最終的な決定者なのか?良好な関係にある指導教官と学生でも、この問題では苦労するかもしれないし、既に苦労しているかもしれません。役割の曖昧さは、それだけで1つの記事が書けるほどの複雑な問題ですが、ここでは、それによるストレスが、精神衛生上、好ましくない結果をもたらす可能性があるとだけ述べておきましょう。…

心で叫んでも、研究続行 – プロジェクト管理と不確実性(後編)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年の心の叫びの前編は、研究には不確実性が付きものだということでした。後編は、前編の後半で紹介されたMeyerらの論文から無秩序な不確実性への対処戦略の紹介です。 前編はこちら Meyer、Pich、Lochによる論文には、無秩序な不確実性に対処する戦略がいくつか示されています。私が自分でそれらの方法すべてを試した中で、自分なりに有効だと思う方法を見出したので、そのうちの幾つかを紹介しましょう。 自問自答:情報ギャップはどこだ? 研究分野の情報サイト、データ、ツールなどにアクセスできていますか。必要な情報に辿り着くには研ぎ澄まされた直感や経験が重要になります。不確実な状況では指導教官からの情報を頼りがちですが、普段から類似した研究プロジェクトに従事した経験を持つ多くの人々の話を聞いておくようにしましょう。彼らは若手研究者が陥りやすい落とし穴について教えてくれるはずです。 複数の実験や調査、手法を並行して試して、どれが有効を見定める 例えばインタビュー調査を行うのであれば、調査結果を補足できるような分析がないかチェックしておきます。実験を行うのであれば、長時間かかる実験を行う前に、短時間で完結できる実験を複数手がけるようにします。もちろん、こうした実験の記録を取ることも忘れずに。数々の実験が後々になって有用だとわかったのに正確に記録されていなかったがために、もしくは適正な倫理承認を取っていなかったがために、論文に書き込むことができなかったとなっては悔やみきれません。実験を行う時には、着実に準備し、しっかり記録を残しましょう。 研究には、反復とフィードバックから学び続けることが不可欠だと念頭に置いておく 論文原稿に書かれない作業がたくさんあることは肝に銘じておきましょう。徒労に終わる多くの作業をこなすことは、研究には付きものです。決して失敗ではありません。 研究プロジェクトの多くは事前に完璧な計画ができていたわけではない――としても、計画すること自体の重要性は変わらない 実験計画を作成することは、研究プロジェクトがどのような過程をたどるかを確認する指標となります。確認作業を行うことで、何がうまく行かなかったのか把握することもできます。研究者は、コストをかけたとしても収支がプラスに転じることはないと頭では分かっているのに、投入したコストを回収しようとより多くのコストを投入し続けてしまうコンコルド効果(またはサンクコスト効果、sunk cost…

寄稿執筆者によるPhDアドバイス記事もたくさん紹介しています

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。「THE THESIS WHISPERER」では、ミューバーン准教授以外の執筆者によるPhDアドバイス記事も掲載しているのですが、今回は、准教授がどのように執筆依頼や寄稿によって記事掲載をしているのかのお話や、それら記事の紹介です。 この「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」のブログは2010年の6月から書き続けており、この記事を公開する時点でおよそ9年になります。ブログを始めた理由のひとつが、学生に見せられるオンラインのリソースが欲しかったということです。当時、私は研究指導を4年ほど行っていて、博士課程の学生から同様な質問を繰り返し受けていました。「HOW DO I START MY DISCUSSION CHAPTER?(考察はどのように始めれば良いのですか?)」「THEORY…

分かりやすい論文を書くコツ-抽象度を用いた文章構造

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、情報を分かりやすく伝え、魅力的な文章や論文を書くコツを、ペンシルベニア州立大学のエリック・ハイオット教授の提唱する、抽象度を用いた文章構造という視点から解説いたします。 1、2か月前に投稿した‘The Uneven U’という記事で私は、ハイオット教授(Eric Hayot)の著書『The elements of academic style: writing for the…

学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。前編では、学術界でのキャリア形成において、人脈がどのように役立つかについてお話しました。後編では、どういった人脈を形成すべきかとそのネットワークの広げ方をご紹介します。 この記事の前編はこちら ブログのおかげで、世界中の様々なネットワークとのつながりができました。解決したいことがある場合やアイデアに関する意見を求めたい場合、大抵はその分野の専門家にメールで問合せでき、これは大きな恩恵です。#circleofnicenessの親しい友人からは、情報源やリソース以上の大きな助力を得ています。お互いに助けを求め、お互いに助け合う関係なのです。私は、常に友人たちの状況を気に掛け彼らの目標達成の手助けをしたいと考えています。また、将来発生しそうなチャンスやトラブルに関し、迅速な情報提供も心掛けています。知っている人々の情報も共有し、誰を頼るべきか、そして誰を避けるべきかを判断できるようにもしています。 このような会話を「ゴシップ」と一蹴してしまうのは、社会の複雑さを矮小化する見方だと思います。多くの人々(特に女性や慢性疾患を抱えた人たち、そしてマイノリティとされる全ての人たち)にとっていわゆる「ゴシップ」は、階層的で競争の激しい業界を生き残るための重要な社会的情報です。私の場合、前職でいじめに遭ったときには、友人たちがまさに生命線となり、心身を保って日々を生き抜く上で代えがたい存在でした。自分を気に掛け、アドバイスをくれる友人を持たない人々が他人の仕打ちで苦しんでいるのも見てきました。こうした経験がきっかけとなり、私自身は周囲のライフラインになるよう心掛けています。 ですから、私は友達と親密な関係の維持に努めます。では、友情と内輪びいきの境界線はどこにあるのでしょうか?これに答えようとすると社会性に関する複雑な問題に触れてしまうため、ほとんどのワークショップが、ネットワーク作りにおける友情の要素をあえて取り上げないのが実情です。でもここは勇気を持って、これについて考えてみましょう。 まず、全ての社会的ネットワークがみな同じではないということを認識することが大切です。就職の際、どのような友人関係がより多くの「幸運」をもたらすかについての研究が行われていますが、その結果は興味深いものです。友人のジェラルディン(Geraldine)が教えてくれた、マーク・グラノヴェッター博士(Mark Granovetter)の著名な論文「The strength of weak ties」は示唆的です。1973年に発表されたこの論文は、社会学の手法である社会ネットワーク分析を援用し、個人同士の小さなつながりが、いかにしてより大きなスケールの社会構造を生み出かを解析した先駆的な研究結果です。 グラノヴェッター博士は、強固な社会的絆は強い感情を伴うもので、相互の信頼が基盤になると述べています。悪いことが起きた時に相談したい相手は、その人に悪いことが起きた際にこちらに相談に来るような人のはずです。そして、信頼し合うことで相手との親密さが生まれてきます。さらに、自分が信頼を寄せる複数の相手がお互いのことを知っていれば、強力な友人の輪が生まれます。これが #circleofniceness の本質です。複数の友人の輪の構成員が知り合いになったり、信頼し合ったりすることでより大きな輪が形成されます。親密さにも程度はあるでしょうが、あなたの友人の輪にいる人は皆、あなたのお葬式の際に心から悲しんでくれるような人々です。…

学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、学術界でのキャリア形成において「大事なのは知識より人脈」という程、ミューバーン准教授が人脈形成を大事にする理由と、どの様な人脈形成が役立ち、そしてどのようにそのネットワークを広げていくかについてのお話です。2回に分けて掲載します。 (オリジナル記事は2020年2月に公開されていますので、最初に登場する森林火災は2019年秋ごろからオーストラリアで深刻になっていたものです。) 最初は森林火災の最新状況についてです。前回のブログに対し、たくさんの暖かい応援メッセージをいただきました。私たちが呼びかけたP2マスク募金へ寄付をしてくださった皆さまも本当にありがとうございました。無事に目標を達成し、3500枚ものマスクを配布することができました。さらに、残りの金額約$1500は地元のアボリジニのコミュニティに寄付をしました。 今までのところ、Survived the Australian ‘Red Summer’ (オーストラリアの「レッドサマー」)を乗り切り家族も自宅も無事です。前回の投稿の後、様々な出来事がありました。1月20日には、ゴルフボール大の雹が首都を襲い、ANUのキャンパスには特にひどく降りました。 10分間続いた嵐は信じられないほど猛烈で、構内全域の車のウインドウや、校舎の窓と採光窓が破壊されました。キャンパスの建物120棟のうち80棟が被害を受けました。幸いにもACT(オーストラリア首都特別地域)内で死者はでませんでしたが、数人がこの雹で骨折したとのことです。 パニック映画に出てくるような雹を目の当たりにするのは恐ろしい体験で、ソーシャルメディアで見ていてもそれは伝わってきました。雹(Hail)とアルマゲドン(Armageddon)を合わせた造語#hailmageddonのハッシュタグでこの天災が拡散された際、私は偶然にもHelen Swordが主催するAt…

学術界の外はサーカス。成功に必要なのは、ピエロの靴? 後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。前編では研究者が学術界を出るのがどれだけ想像がつかないことなのかを話しました。この後編では、それまでの経験を活かして研究者がビジネスで「成功」するヒントが詰まった本を紹介します。 古代ローマの詩の分野で博士号を持つクリストファー・L・カテリーン(Chris Caterine)博士は、研究者がビジネスで成功するためのガイドを書くにうってつけの人物でしょう。理系の大学院生は、「売り物になる」技術スキルを持っていることが多く、自らをデータサイエンティストに変身させることができます。残念ながら、人文系の大学院生は、学術界の外の雇用者に対し自らのスキルが役立つことを納得してもらうのに苦労します。『Leaving Academia: a practical guide』の中でカテリーン博士は、バックグラウンドに関わらず、自身のリサーチスキルを活用できる仕事を見つけるためのプロセス全般を説明しています。 カテリーン博士は、学術界の外の仕事への道筋を、ブラックホールを見つめることに対比させながら話を始めます。 「そこに何かがあることは分かっていても、すべてを謎に包み込んでしまうブラックホール、事象の地平面の向こうを見ることはできない。そして、引力のせいで、その境界面は、引き返すことのもはや不可能な限界地点となっている。事象の地平面を越えた者は、不可逆的かつ完全に姿を変えでもしない限り、帰ってくることができないのである。こうした特質のせいで、学術界を離れることは途方もない、恐ろしいこととなっているのである。」 彼は、人々は恐れと未知という2つの要因により、外縁にさえ近づかないのだと述べています。私の経験上、これは正しいと思います。博士課程にいる限り、しきたりをよく知っている学術界だけが、自分の全世界となるからです。低賃金・不安定であっても、やりがいと面白みにより、多くの人がそこに居続けるのです。私自身9年以上そこで頑張ってきましたし、行き詰まった感覚も十分に理解しています。学術界を離れることについて熟慮するということは、自分の職業上のアイデンティティを再考し、新たな仕事関連のネットワークを構築することと同じです。どこから始めていいかさえ判然としないのです。 この本には実に多くのヒントが含まれます。「恐怖」と題された第1章では、「外縁、境界面へとアプローチする」感覚が臨場感を持ってつづられています。彼は、学術界で打ち砕かれる夢や、学者としてのキャリアを追求する上で迫られる苦汁の選択について嫌というほど理解しているのです。新たな一歩を踏み出すため、知人の一人もいない町で仕事を始められるか?その見返りに何がえられるのか?この章は、あたかも「学術界で夢を追い続ける」人物の語りかけのようです。私は、不安との闘いと投薬治療について書いたことがありますが、他の仕事に就いていた場合でも薬物治療が必要になったかは疑問です。この本を読んでみて、あんな犠牲を払う価値があったのかと考えさせられました。 研究職は快適な精神生活を送ることのできる仕事と考えられがちですが、それは20年以上も前の話です。学術界では大量の仕事を非常に不安定な立場でこなすことを求められるのです。私の息子は、とても幼いころから「お母さんはお父さんより沢山働くのに、給料が少ない」という理由で研究者にはなりたくないと言っていました。息子が気付いていたのは、「成果」を出さねばならないという恒常的なプレッシャーに対応するために私が長時間働いているということでした。仕事量のせいで趣味に割ける時間は限られています。実際、私の趣味のほとんど(ブログ投稿や本のためのライティング、ポッドキャスト配信等)は、形を変えた仕事のようなものです。…

学者のためのニッチマーケティング

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は論文被引用数を上げることにもつながる研究者自身のニッチな読者層とのコミュニケーション方法についてのお話です。 ガーディアン紙の“私は真面目な学者で、プロのインスタグラマーではない”という記事が私のいるオンラインコミュニティで波紋を呼びました。 記事では、ソーシャルメディアに携わる人間は自己顕示をしているに過ぎないという主張がなされています。これに対し、Tseen Khooは謙虚を装ったあざとい自慢についての記事を「Research Whisperer」というブログに投稿し、Sophie Lewisは「学者でありながら楽しくブログする」という記事を自らのブログに書いており、これ以上あれこれ言う余地はないように思えます。 しかし、ガーディアン紙の記事とそれに対する反応は、自己宣伝という概念について多くの学者が抱いている不快感に関して(再度)考えさせられるきっかけとなりました。 出版はそれがゴールではなく、読んでもらうための活動も重要 ソーシャルメディアに関しては多くの否定的な意見がありますが、しかしそれ自体は新しいコミュニケーション技術のひとつに過ぎません。コミュニケーションの中身は変わっていないのです。学術界は常に騒々しいアイデアのマーケットです。自分や自分の研究に人々の注目を集めることは、次の仕事を見つけたり、共同研究を行ったり、あるいは次の助成金を獲得したりする上で不可欠です。そのためにソーシャルメディアが役立つのであれば、使うべきだと私は考えます。 アイデアのマーケットが機能している最も具体的な例として、出版と‘インパクト’という漠然とした概念を取り上げてみたいと思います。 世界中の政府は、研究者たちに研究資金に見合った価値を生み出させるよう、私たちが研究を広める仕事を行っているかを様々な方法で計っています。そうした施策は、政府から大学を通じて、論文を出版することへのプレッシャーとして研究者たちに降りてくるのです。出版すればそれでいいという訳ではありません。出版することにより、評価や測定が可能なある種の「インパクト」を起こす必要があるのです。学術的なインパクトを計る最も簡単な方法は引用です。つまり、その論文が誰の論文によって言及されているかです。 研究の成果と生産性を計ることに関する問題については多くの議論がなされています。しかし、数字が存在すれば昇進期間や採用判断に適用されますので、被引用件数を完全に無視することは出来ません。…

稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる(3)

ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナショックで研究者求人の減少を目のあたりにしているミューバーン准教授が意を決して、自身の収入源を赤裸々に明かしながら学術の仕事で生計を立てるための考え方を語ります。こちらは3部作コラムの3本目。それまで仕込んできた方向性をどう収入に結び付けるかのヒントを解説します。 >> 前回(3部作コラム・2本目)はこちら 3)収入に結び付く活動の、方向性を決める 私の場合、収益化の戦略において、研究者としての判断により商売的な算段を優先することはありません。 キャッシュフローの問題を解決するには広告がひとつの対策となりますが、その効果を発揮する為には、オンラインでの自分のイメージとの整合性に注意を払う必要があります。Googleの広告は奇抜なコンテンツもページに表示してしまいます。私も少し試してみましたが、ユーザーが親しみを覚えず、クリックされなければ、ほとんど無駄になってしまうという結論に達しました。また、この10年で有料広告に関する様々なオファーも断ってきました。悲しいことに、アプローチの多くは、倫理的に了解出来ないもの(論文代理執筆)や私のやっていることとはまったく関係ないもの(インターネットバンキング等)でした。 将来的には広告を掲載するかもしれません。しかし、それはクリックした人が“インガー、これを紹介してくれて本当にありがとう”と言ってくれるようなものでなければなりません。例えば、Scrivenerというソフトを開発した開発会社Literature and Latteなどの広告であれば、喜んで掲載します。実際、私はブログを通じて、博士課程の修了者の就職支援の製品、PostAcのプロモーションを行っています。(大学を通じて何かを商業化する際のご多分に漏れず、これを通じて金銭的な見返りが得られるとしても、何年も後のこととなるでしょうけれど。) パートナーシップは長期的な視点で考える パートナーシップは、直接収入をもたらすというものというより、チャンスを生み出す方法です。最近、韓国や日本、中国等でサービスを提供するグローバルの翻訳会社のユレイタスで「研究室の荒波にもまれて」を翻訳してもらう契約を結びました。この契約は、お互いにとってのメリットとなるものです。この契約によって私が対価を得ることもありませんし、自社で翻訳を行うユレイタスもコンテンツを販売することは出来ません。それでも、私たちはそれぞれ異なる方法でベ利益を享受します。私の側では、書いたものが、より多くの読者を得られます。翻訳されなければ、英語を解さない読者層とは接点を持てないのです。一方のユレイタスの側では、自社の翻訳能力を示す良質なコンテンツアーカイブを持つことができます。 このユレイタスとの契約ついては悩みました。幸い東南アジアで翻訳ビジネスを行っている知り合いがいたため、助力を得てしかるべき調査を実施しました。ユレイタスが信頼に足る会社で、論文の代理執筆をしてないことを確認しなければならなかったのです。論文の代理執筆業者とブランド連携すれば、私の信頼は失墜します。このユレイタスとの関係が今後何をもたらしてくれるか、興味深く見守っていきたいと思います。これまでの経験から、得られる利益というものは次第に明らかになっていくものだということを私は知っています。自分の専門性を収入に結び付けるには、長期戦で取り組まなければならないのです。 自身のコンテンツで稼ぐ方法は書籍だけではない…

アカデミックライティングが悪文になってしまう理由(そしてそれを修正する方法)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はアカデミックライティングが悪文になってしまう理由と修正方法や、PhD過程とそのキャリア形成に役立つ文章力を生かすべき場面を提案するお話です。 「研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには」という投稿はちょっとした物議を醸したようで、24時間でのサイト来訪者数も過去最多でした。 そして、残りのPhD期間をどう過ごすべきかという質問が数多く寄せられました。これについては、いろいろ思うところがありますが、最も悩ましい話しから始めましょう。それは、多くの学生が卒業時には入学時よりも文章力が劣化してしまうということです。これは私たち教員が、特殊な‘学術的’スタイルでのライティングをじっくりと指導するからです。そしてこの学術的なスタイル、アカデミックライティングこそが、悪文の元凶なのです。 アカデミックライティングは一般的に大仰で、時代がかった独特のスタイルで、一部の読み手に知識を伝えながら、それ以外の読者に対してその知識を隠してしまうものです。アカデミックライティングの修得は、自分の知見と同時に、自分がその集団の一員であることを発信する手段を手に入れることなのです。 例えばコンマの使い方を見てみましょう。 コンマがあれば意味の通る長いセンテンスが作れます。コンマなしの文は単文です。単文は従属節をもたない単純な構文です。単一のセンテンスのみです。単文を続けて文章を作ります。単文は直截的です。一文が短くなります。短すぎるかもしれません。 コンマを多用することで、従属構文ができあがります。従属節の後にさらに従属節を使用すれば、センテンスは非常に複雑になり、コンマの間で少し混乱することになるかもしれませんが、それでも読者は、冷静で注意深い性格の学者が入念に、非常に丁寧なセンテンスを作りあげているのだ、ということを確信し、いかめしく重なりあう文節と従属節を、飲み込みにくいなりに理解しようとします。この様に、従属節をもてあそべば、直截的な物言いとは違い、何かを熱烈に支持したり貶めたりすることがないために、無難な記述ができるのです。学者は受動攻撃的であることを好む(つまり、考えを直接的に伝えること避けがちな)ため、「まじめな」学術的文章がこうした様式で埋め尽くされているのは当然と言えるでしょう。学者マインドを示すのはコンマだけではありません。以前、academic writing can be like a…

パンデミックでの研究停滞をいかに乗り越えるか

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナ禍での、PhD(博士号)取得に向けた研究停滞を乗り越える方法についてのお話です。 パンデミック関連(#pandemicpost)の別投稿で「COVID-19が収まるまでPhDを中断する?」という問いかけをしましたが、世界は今も非常に深刻な状況にあり、「普通」とは程遠い生活を余儀なくされています。このような生活が数か月あるいは数年間は続くとの認識が広がる中、学術関係者の話題は、実際の教室からオンライン授業への転換から、教員が自宅から授業を行う際の課題や、既に健在化している雇用喪失および今後の影響範囲に移ってきています。 毎朝ニュースを聞くだけで、不安や懸念が募ってしまい、気分は乱高下。こんな不安定な気持ちのまま複雑に入り組んだ研究プロジェクトの諸作業を進めるのは容易ではありません。学術ライティングに関するブログを書いているトロント大学のレイチェル・ケイリー(Racheal Cayley)がコロナ禍で執筆を行うことの難しさについて書いていますが、その困難さの反面で知的な作業はストレスを和らげてくれるとも言えます。とはいえ、私自身、多くのPhD学生や学術関係者と同じようになかなか行動に移せない――よしやるぞ!という気分にならないのです。 心理学で言うところの「フロー状態」、つまり目標に向けて集中し、時間の経過に気付かないほど没頭できる状態になれないのが難しいところです。フロー状態になれれば現実のプレッシャーから解放されるので、是非ともこの状態に到達したいのです。このコロナ禍でもPhD取得を目指して研究を続けるのであれば、フロー状態になる方法を見つけることが心の健康と研究自体にとってプラスになるでしょう。 では、どうやれば頭を研究に戻して、コロナ禍でもフロー状態に到達できるのか? ジャーナリスト兼ノンフィクション・ライターのアマンダ・リプリー(Amanda Ripley)は、著書『生き残る判断 生き残れない行動 – 災害・テロ・事故、狂言状況下で心と体に何が起こるのか(原題The Unthinkable:Who…

PhDになるべきかならざるべきか-それが問題だ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のお題は、「生きるべきか死ぬべきか(To be or not to be)」になぞらえて「PhDになるべきかならざるべきか」という、とても根本的な質問に立ち戻っています。さて、ミューバーン准教授からのメッセージは? ―――――――――― PhD課程がいかに徹底的に学生の人生の意味を見失わせるほどの問題を引き起こせるのか、驚かされることが多々あります。時間とともに気持ちが収まるケースもたくさんありますし、良い結果をもたらすこともあります。ここに書くのはあなたの心の声ですので、ちょっと耳を傾けてみてください。 先週、ANUの学生(仮にリサとしておきます)が勤務時間中に大学の私の部屋を訪れてきました。彼女の訪問の目的は、PhDをやめるべきかの相談でした。 私がこのような相談を受けるときは最初に、なぜPhD取得を目指したのかを聞きます。リサの話によると、彼女は大学の人文学科を卒業後、事務職やコールセンターの仕事しか見つることができませんでした。すぐに仕事が退屈になった彼女は、自分がいつも知的幸福感を感じていられた場所、つまり大学に戻って来ました。リサはPhDとして研究に従事したいとは思っていましたが、PhD取得後に何をするかについては漠然とした考えしか持っていませんでした。PhD課程に入れた彼女は知的生活を楽しんでいます―― とはなりませんでした。 「Music…

PhDにチャレンジする人へのメッセージ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。従来は既にPhD過程に入っている人向けの内容ですが、今回は、PhDに進もうとしている人からミューバーン准教授に寄せられたメールを題材にしたお話です。 ―――――――――― 長年ブログを書いてきたのに、とても基本的なこと、PhD過程に進学する方法のことすら取り上げていなかったことに気付いて驚いています。きっかけは、まさにANUの入学希望者向けのオープンキャンパスで話すことを準備していたところに届いた1通のメッセージ。 PhD過程に進むのがスムーズにいくこともあれば、非常に複雑になってしまうこともあります。新たにPhDに進もうとしている人は、既にPhDに進んでいる人たちの経験から多くを学ぶことができると思います。私が受け取ったメッセージを紹介します。 ミューバーン先生  長年、先生のブログを読んでいますが、初めてメッセージを送ります。私は36歳ですが、まさにオーストラリア大学のPhDへの願書提出のための諸手続を終えようとしているところです。申請してみて、プロセスが非常に複雑なことに驚きました。まるで試験かと思ったほどです。私はまだ大学院に入学してもいませんが、先生のサイトには非常に役立つ情報が満載なのを知っているので、出願手続や研究提案書についてもブログに書いてくれるかもしれないと思った次第です。 まず、申請書は仕事に就くことなく大学から直接大学院に進む学生向けに作成されているため、私のようにGPA(大学の成績評価)を気にすることなく何年も前に学部を卒業した者にとっては記入しづらいものになっています。学術とは関係ない職に就いている場合、多くの人は大学の図書館資料にアクセスすることはできませんし、将来指導してくれる教員が素晴らしい人だとしても、すべての事前準備をお願いするわけにはいきません。 大学側が、研究計画書がどのように書かれていることを期待しているのか、どれほどの完成度を求めているのか、応募者の選考を行う際や応募者を比較する際どれほど研究提案書を重視するのかなどに関する助言はあまり得られません。例えば、入学してからでなければ文献調査ができないのは分かっていても、文献調査を行いながら研究計画書を書くことができれば、内容を深めることができるのにと思う次第です。  将来のPhD学生より ここからは、私の返信です。 将来のPhD学生さんへ 同じような悩みを持つ人はたくさんいると思うので、あなたの経験をここで紹介させてもらいます。学部から修士号を取得あるいは優等学位で卒業して早々に大学院に上がる学生は、スムーズにPhD過程に進むことができるでしょう。しかし、応募者の年齢が上がるにつれ、プロセスは難しくなるようです。オーストラリアでPhDを取得する平均年齢は32歳であることを踏まえれば、大学はこれを考慮するだろうと考えてしまいますが、残念ながら実際にはあまり考慮しません。…

COVID-19が収まるまでPhDを中断する?前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に拡大し、あらゆる人間活動に影響を与える中、ミューバーン准教授からのコロナ禍でPhDを継続するか止めるか悩んでいる人へのメッセージです。2回に分けて掲載します。 最近、10年のブログ作成生活で初めて更新を一時中断する事態となりました。 私は毎週更新するタイプのブロガーではありませんが、クリエイティブなインスピレーションを与えことは好きです。なので、常に6か月分ぐらいのネタを準備しておくのですが、ここオーストラリアでは3月の半ばに非常事態に突入し、2020年に予定していたものをすべて計画通りに投稿するには、「世界中で通常通り物事が進んでいる」状況下でこそ可能なのだと気づいたのです。私たちの生活が「通常」に戻るのはいつになるのでしょう?分かりません。そのため、私はネタを保留しています。中には投稿されるものがあるかもしれませんが、当面皆さんに読んでもらうのは無理そうです。  このブログはパンデミック状態での最初の投稿ですので、この厳しい状況下のPhDについて取り上げてみます。コロナ禍が終息したときには不要な情報になるかもしれませんが、その時には私たちが現在直面している多くのことは「史上初の恐ろしい事態」として記憶されていることでしょう。  私は今年、毎月第1水曜日にブログを投稿すると約束し、そのスケジュールを守ろうとしてきました。いつものように実用的で思慮深いブログを提供できるようにと思っていますが、それについて今コメントすることは控えておきます。従来は誰でも私の確認を待たずにコメントを投稿できるようにしていますが、これは大変な作業を要します。今は、挑発的なメッセージの投稿や論文代筆業者の広告に対処する時間や余力がありません。この投稿記事について議論が行われるとすれば、社会のどこかで行われることになると確信しています。  ご理解に感謝します。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している中、PhDの途中で諦める(退学)べきか?もしくは一時中断(休学)すべきか? 今回のコロナ感染拡大のようなパンデミックの状況に置かれたとき、PhDを継続するのか、中断するのかは「苦渋の決断」で正解はありません。どちらにも良い点と悪い点があることに疑いの余地はありません。特に、奨学金を受給している学生は、PhDに留まりたいと思うかもしれませんが、現在直面している博士課程での停滞は、将来予期せぬ結果をもたらすかもしれません。また、PhDをすぐにでも断念したいと思っている学生は、どんなに絶望的だと思えたとしても、今回が進路を変えるのに最適なタイミングではないかもしれません。 (COVID-19に関する研究に従事している人たちは、とても忙しい時を過ごしていることでしょう。皆さんの研究活動に感謝します。継続してください!) もちろん、私はすべての問いに対する答えを持っているわけではありません。それでも、読者の皆さんに自問自答してほしい質問を幾つか持っています。この投稿記事が、現在起こっていることが個々のPhDプラン(将来の予定)に及ぼす影響について考える助けになればと思っています。PhDプランは、不確実なウイルス抑制までに要する時間によって、一層複雑かつ解決困難になっていきます。オーストラリア国立大学(ANU)は、オーストラリア国内での感染ピークが収まると期待される6月末まで閉鎖されています。しかし、ロックダウンや学校閉鎖は先が見えず、さらに長期におよぶ可能性もあります。実際には、ワクチンができるまで、国際的な移動やグローバルサプライチェーンには影響が残り、経済的低迷がいつまで続くかほとんど分かっていません。 この投稿では、研究の段階や学生を支援する仕事の有無、PhD取得者の長期雇用の見込みなどに関連する題材を取り上げていきます。すべてを考える必要はありませんが、これらはさまざまな状況下でPhDを継続するかについて助言を求めている多くの人々と私が話し合っている項目です。 ここではオーストラリアの詳細に焦点を当てていますが、このブログがよく読まれている国でも、多くの所見は役に立つと思います。私が現時点で考えられる最良のアドバイスを書いておくので、どうか読んでみてください。だって、私はPhDを終了させるのを助けるプロですから。私は自分の経験をもとに、できるだけパンデミックがもたらす学業の中断による影響を考え、穏当と思える幾つかの予想をたててみたので、役立てるとともに力になれれば幸いです。…