PhD生活

ChatGPTを使いこなしてライティング力をアップする

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン教授のコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。世の中にはAIの利用に懐疑的あるいは、反対の人も多い中、ミューバーン教授は大規模言語モデルのAIを活用して、余った時間を有用に使っているようです。その活用方法をのぞいてみましょう。 10年ほど前から、私は副業でライティングを教えています。オーストラリア国立大学(ANU)に寛大な外部コンサルティング方針があるおかげで、国内はもとより世界中を飛び回り、研究者がより良い執筆者(ライター)になるよう指導することができるのです。生成AIであるChatGPT(妹のアニトラはChatGPTを「ChattieG」という愛称で呼んでいます)が開発され、研究者がこの革新的技術を使い始めることによって、執筆指導の仕事の需要は減っていくと思っていました。 ところが実際には逆の現象が起きています。 AIテクノロジーの着想は気に入っていても、大規模言語モデル(LLM)には反感を覚える人が多いようです。学部生が生成AIを使って作成した悪文を多数読んだことが原因かもしれませんが、懐疑的な見方をしている人もいます。私の同僚の中には、AIが書いたものかどうか「常に判別できる」と主張している人もいます。また、会議で、平凡なビジネスカジュアルな 文章を作成するChatGPTに対する批判を聞いたのも、一度ではありません。 私はそうした批判をおとなしく聞いていようとするのですが、だんだんイライラしてきます。 私が言いたいのは― 適切に使えば、ほとんどのアカデミックライターと同等か、それ以上の文章ができるので、AIが生成した文章を「常に判別できる」とは言えないはず AIは優れた文章を書けないから優れたライターではないと言うのなら、それはスティーブ・ジョブズがiPhone4の発売開始後に寄せられた不満に対して、「使い方を間違っている」と指摘したのと同じで、使い方を誤っている ということです。 LLMを使う上で、英語について専門的な知識を有していることは助けになります。 私は、少なくとも英語については、自分なりの動名詞の使い方を把握しているし、統合論(Syntax)的に句構造が主要部先導型(=右枝分かれ)である方が主要部終端型(=左枝分かれ)になっている構文より優れているとされる理由も理解しているので、大規模言語モデルの技術を踏まえつつ、与えられたライティング・タスクについて正確に指示することができます。 私がAIの利用に前向きである理由は、オーストラリア教育研究協会(AARE)のブログに投稿した「The…

不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(前編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。2021年は不安な時だからこそ、具体的に博士課程で起こり得る問題を予想して実践的に準備しようというインガー准教授のメッセージを前後半でお届けします。(元記事は2021年1月6日に投稿されたものなので、新年の挨拶から始まっています。) あけましておめでとうございます。 2020年、無能な政治家や、がめつい企業の運転するバスに乗り合わせたばかりに、崖っぷちにさらされた無力な乗客のような感覚になることがよくありました。気候変動に関しては常々「崖っぷち感」を感じていましたが、パンデミックはその感覚を悪化させたのです。私は2020年を通じてとてつもない不安を抱えていたので、仕事を含むすべての作業に悪影響を及ぼしていました。 2021年に状況が改善されるとしても、こうした不安の原因となっている問題の多くが霧消することはないでしょう。今年、どんな準備するのが良いのか考えてはみるものの、たくさんの抱負を掲げたところで役に立つとは限りません。 (こうした不安について、自分も当てはまると思う人は、これからお伝えする注意事項を読んで参考にしてみてください。) 無力感や、それがもたらす不安は嫌なものです。抗不安薬(精神安定剤)もある程度は効きますが、気持ちを落ち着かせるためだけに多くの時間とエネルギーを費やさなければなりません。私の場合、雇用と結婚生活を維持するためには冷静さを保たなければならないので、さまざまな戦略を用いています。優しい夫が買ってくれたデッキチェアに座ってセラピストにすすめられたマインドフルネスを実践することもそのひとつ。この夏、特に今年の前半にコロナがオーストラリアを襲った後は、このデッキチェアは私にとって欠かせない物となりました。   View this post on Instagram…

不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(後編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。前編は不安を学者らしく捉えようとする姿勢についてでした。後半は博士課程で起こり得る問題の想定と対処についてです。 前編はこちら 想像力・創造力こそ、人類が多くの危機を生き延びるのを助けてきました。創造性は、「想像できる未知の出来事」に備える大まかな計画を立てる上で役立つのです。博士課程の間に起こりうる問題には次のようなものが考えられるでしょう。 問題のある指導教官 予期せぬ健康上の問題 大学による学校あるいは学部の閉鎖 人間関係の問題 実験の失敗 現地調査の実行不可 リソースの入手・利用不可 「想像できる既知の出来事」、つまり日々の問題は些細なことに見えますが、しっかりと解決に取り組むべきです。問題には、自分が進むべき道に関することもあれば、家族に関することもあるでしょうし、仕事に関することはほぼ全てに影響を及ぼすことでしょう。ここでは、文化的、技術的なありがちな問題の数々、「逆風」を取り上げたいと思います。 役割の曖昧さ:どこまでが自分の責任か明確に分からないことにより博士課程の研究が困難になることがあります。博士課程では、学生自身が独立して研究することを求める一方で、指導教官は研究の質と進捗を監督する責任を有しており、そのために避けて通れない対立が生じることがあります。役割の曖昧さは、同じ研究に従事する博士課程の学生と有給の研究助手の間の基本的な立場の違いにおいても生じます。学生が研究者になることを目指している場合、誰が博士課程における研究の質と進捗の最終的な決定者なのか?良好な関係にある指導教官と学生でも、この問題では苦労するかもしれないし、既に苦労しているかもしれません。役割の曖昧さは、それだけで1つの記事が書けるほどの複雑な問題ですが、ここでは、それによるストレスが、精神衛生上、好ましくない結果をもたらす可能性があるとだけ述べておきましょう。…

学術書や論文のインデックス作成方法

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、インガー准教授が学術書を執筆中にインデックス(索引・見出し)をどうつけるか考えたときのお話です。ここで紹介された本は、インガー准教授が他2名と共著で作成し、2018年12月に出版されています。 読者の皆様。私は今(2018年4月時点)、Shaun Lehmann(ANUの学生向けにさまざまな授業を行ってきた)とKatherine Firth(メルボルン大学で学生向けブログThesis Boot CampのResearch Degree Insidersをとして記事を執筆している)と3人でOpen University Pressより刊行予定の書籍『Writing Trouble(How to…

心で叫んでも、研究続行 – プロジェクト管理と不確実性(後編)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年の心の叫びの前編は、研究には不確実性が付きものだということでした。後編は、前編の後半で紹介されたMeyerらの論文から無秩序な不確実性への対処戦略の紹介です。 前編はこちら Meyer、Pich、Lochによる論文には、無秩序な不確実性に対処する戦略がいくつか示されています。私が自分でそれらの方法すべてを試した中で、自分なりに有効だと思う方法を見出したので、そのうちの幾つかを紹介しましょう。 自問自答:情報ギャップはどこだ? 研究分野の情報サイト、データ、ツールなどにアクセスできていますか。必要な情報に辿り着くには研ぎ澄まされた直感や経験が重要になります。不確実な状況では指導教官からの情報を頼りがちですが、普段から類似した研究プロジェクトに従事した経験を持つ多くの人々の話を聞いておくようにしましょう。彼らは若手研究者が陥りやすい落とし穴について教えてくれるはずです。 複数の実験や調査、手法を並行して試して、どれが有効を見定める 例えばインタビュー調査を行うのであれば、調査結果を補足できるような分析がないかチェックしておきます。実験を行うのであれば、長時間かかる実験を行う前に、短時間で完結できる実験を複数手がけるようにします。もちろん、こうした実験の記録を取ることも忘れずに。数々の実験が後々になって有用だとわかったのに正確に記録されていなかったがために、もしくは適正な倫理承認を取っていなかったがために、論文に書き込むことができなかったとなっては悔やみきれません。実験を行う時には、着実に準備し、しっかり記録を残しましょう。 研究には、反復とフィードバックから学び続けることが不可欠だと念頭に置いておく 論文原稿に書かれない作業がたくさんあることは肝に銘じておきましょう。徒労に終わる多くの作業をこなすことは、研究には付きものです。決して失敗ではありません。 研究プロジェクトの多くは事前に完璧な計画ができていたわけではない――としても、計画すること自体の重要性は変わらない 実験計画を作成することは、研究プロジェクトがどのような過程をたどるかを確認する指標となります。確認作業を行うことで、何がうまく行かなかったのか把握することもできます。研究者は、コストをかけたとしても収支がプラスに転じることはないと頭では分かっているのに、投入したコストを回収しようとより多くのコストを投入し続けてしまうコンコルド効果(またはサンクコスト効果、sunk cost…

寄稿執筆者によるPhDアドバイス記事もたくさん紹介しています

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。「THE THESIS WHISPERER」では、ミューバーン准教授以外の執筆者によるPhDアドバイス記事も掲載しているのですが、今回は、准教授がどのように執筆依頼や寄稿によって記事掲載をしているのかのお話や、それら記事の紹介です。 この「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」のブログは2010年の6月から書き続けており、この記事を公開する時点でおよそ9年になります。ブログを始めた理由のひとつが、学生に見せられるオンラインのリソースが欲しかったということです。当時、私は研究指導を4年ほど行っていて、博士課程の学生から同様な質問を繰り返し受けていました。「HOW DO I START MY DISCUSSION CHAPTER?(考察はどのように始めれば良いのですか?)」「THEORY…