査読者ってどんな人?

ピアレビュー・ウイーク2024 記念イベントを今年も開催します

ピアレビュー・ウイーク、今年のテーマは「査読におけるイノベーションとテクノロジー (Innovation and Technology in Peer Review)」。研究評価の未来について考えます。学術界のオピニオンリーダー、研究者、業界の専門家が、変わりゆく査読プロセスの最新の状況について語ります。 イベント会期は、2024年9月23日から27日です。9月26日(木)午後9時からはご参加無料のウェビナー「AIを活用した論文査読:革新技術を人間の管理下で使うには」も開催(言語:英語)。皆さまのふるってのご参加をお待ちしています。 ピアレビュー・ウイーク2024 記念イベント特設ページへ ウェビナー「AIを活用した論文査読:革新技術を人間の管理下で使うには」詳細ページへ

研究出版における査読の課題と未来 IOP Publishing、Taylor & Francis、Wileyの専門家を招いて

プレプリントとオープン査読 査読におけるAIツールの使用 AI統合の倫理的課題 査読経験の浅い若手研究者へのアドバイス

査読者になるために編集者に売り込む8つの方法

査読者になることは、簡単ではありません。学術界でのキャリアアップにつなげようと、査読者の役割を担う機会をつかもうとしている新人研究者や若手研究者もいることでしょう。査読者になるには、モチベーションと意志と戦術が必要です。学術雑誌(ジャーナル)の編集者たちに手当たり次第にメールを送ることは良策とは言えません。もっと効果的な方法を考えてみましょう。 査読を担うことで得られるものとは? 学術論文の査読は、研究者にしかできません。研究者は、査読を引き受けることによって最先端の研究を知ることができ、他者の論文の評価を行うことで自らの執筆スキルの向上にも役立てられます。査読を行うことで、論文に関する批判的思考が育成されます。一般的によく見られる誤りをかなり容易に見つけられるようになるだけでなく、査読の経験を反映させて改善することができるので、自らの論文や発表の価値を高めることができます。これらのことが、自らの論文を出版できる機会を増やすことにもつながるでしょう。査読者一覧を公開しているジャーナルに名前が掲載されたり、査読者表彰/査読者証明書(reviewer certificate)を受賞したりすることによって研究者としての認知度を高めることもできます。査読を研究者としての業績と認める動きも出てきています。さらに、査読委員になることで、自分の研究分野の研究者たちと新しい人間関係を構築でき、今後の共同研究につなげることもできます。 どのようにジャーナル編集者にアプローチするか 定評のあるジャーナルに質の高い論文を掲載する 研究者としての認知度を高める最善の方法は、高評価なジャーナルに論文を掲載することです。学術誌の編集者たちは、よい論文を多数書いている研究者を探しています。同じ分野で仕事をしている研究者たちも、自身の論文の査読者候補としてあなたを推薦してくれるかもしれません。論文には、適切かつ分野に特有のキーワードを盛り込みましょう。ジャーナルの編集者がデータベースから査読を依頼できる研究者を探す際に、あなたの論文を見つけやすくすることは重要です。 ジャーナル編集者に直接連絡する ジャーナルの編集者に向けて、査読者となることに関心があることを直接伝えるメールを送ることもアピールになります。自分の専門分野に言及し、編集者が目を通せるよういくつかの業績を書き出しておくとよいでしょう。より印象づけるために、出版履歴を共有することもできます。 ジャーナル編集者と連絡を取り続ける 編集長(Editor-in-Chief)よりも、編集者 (Associate Editor) に連絡するようにしましょう。査読者を選ぶ一次審査に携わっている可能性が高いのは、編集者のほうだからです。査読経験(査読者として初心者なのか、すでに経験を積んでいるのか)、専門性、共通の関心事について率直に伝えましょう。新人研究者や若手研究者の場合、前述のことに加えて、査読者としての経験を積みたいという熱意を強調しましょう。さらに、ジャーナル編集者は提出期限順守を重要視しているので、期日をきちんと守ることも書き添えておきましょう。あなたの技能が編集者の求めるものと一致しない場合、すぐに返事が来ないかもしれませんが、3~4ヶ月に1度程度はあなたが査読を引き受ける準備があることを編集者に伝えるとよいでしょう。 研究者のネットワークに参加する…

査読コメントへの効果的な返答レター(Response Letter)の書き方

※この記事は「拝啓 査読者様 ~査読コメントへの返事の書き方~」というタイトルで2015年6月16日に公開した記事ですが、リライトにあたり情報を追記、修正して2021年5月19日に再度公開しました。 ※reviseの正しい英語発音は「リバイズ」ですが、本記事では日本語に浸透している「リバイス」の表記を使用しています。 「よい論文の書き方」を解説する本やウェブサイトは数多くありますが、査読コメントに対するよい返答方法を説明しているものはなかなか見当たりません。しかし、論文がアクセプトされたにせよリジェクトされたにせよ、編集委員または査読者からのコメントを受け取ったときには、研究者としてきちんと返事を書きたいものです。査読者コメントを別のジャーナルに再投稿する際にどの程度反映させるか、つまり、どこまで修正(リバイス)するかは悩ましいところですが、編集者や査読者のコメントに返事を書くのは、自分の論文を見直すチャンスとなります。 査読で、修正すれば採択するとなった場合、論文著者は査読者からのコメントにもとづいて論文を修正し、コメントへの返答を添えて再投稿することになります。査読者への返答はResponse letterあるいはRebuttal letterと呼ばれ、査読者や編集者のコメントそれぞれに明快かつ簡潔な返答を書き記す必要があります。ここでは、査読コメントへの効果的な返答レターの書き方について大切なキーポイントを3つ挙げてみたいと思います。 1. 査読者からのどんなコメントも批判・批評としてとらえず、査読者の懸念・関心事としてとらえる 自分の論文がリジェクトされたときだけでなく、ちょっとしたコメントでも、査読者の書き方次第では、かなり傷つくこともあります。そんなときにはグッと我慢が必要です!どんないわれ方をしても、どんな理不尽と思われる反論でも、出版前だからこそ、こちらのいい分がちゃんと伝わるように論文をリバイスする好機と捉えることが必要です。 査読者のコメントは、批判や批評として身構えて考えるのではなく、査読者の懸念であり、より関心を持っている事柄なのだと受け止め、自分の論文がそれらに応えられるよう、説明を書き加えたり証拠を追加したりしながら論文をリバイスできないかどうか、落ち着いて考えましょう。返答レター(Response letter)を書くときも、相手の「懸念」に感謝し、自分がそれにどのように対応するつもりか、ていねいに説明しましょう。 2. コメントすべてに一括で返事をする 返答レター(Response letter)では、すべてのコメントに対して一括して返答しましょう。とくに大きな変更を求められていない場合には、「いただいたコメントに沿って論文をリバイスし、できるだけ早急に改訂版を送らせていただきます」といった内容の一文でかまいません。また、変更が多い場合は、必要であれば一覧表をつくって、最初の欄に査読者のコメントを、次の欄に自分の返事を書いても構いません。「これだけ先に確認したい!」と思うようなことが出てくるかもしれませんが、査読者の負担を軽減するのも気遣いの1つです。自分の便宜のために、出版社・査読者へ複数のメールを送るようなことは避けましょう。…

ジャーナル査読者になるチャンスは誰にでも平等か

学術雑誌(ジャーナル)の査読(ピアレビュー)は学術出版の要です。査読とは、投稿された論文を同分野の専門家が評価・検証を行うことで、この査読を通過できた論文のみがジャーナルに掲載されることになります。 よって、誰もが査読者になれるわけではなく、ジャーナルの編集者によって選出・依頼されます。一般的には投稿論文のテーマに沿った関連分野で活躍している研究者が選ばれるわけですが、査読を引き受けたら、投稿論文を読んで品質を確認し、必要な場合にはアドバイスを提供しなければなりません。査読者が担う作業としては以下が挙げられますが、査読者の役割や選出の方法を公開している出版社もあるので、それらも参考になります。 投稿論文に書かれた研究が、学術ジャーナルで発表するにふさわしい内容であることを確認する。 既存の研究で参照すべき重要なものがある場合には、論文著者に対して助言を行う。 論文に書かれた方法および統計手法をチェックし、必要に応じて表現の訂正などを求める。 論文の結論が研究の結果に裏付けられたものであることを確認する。 理論的には、これらの実務をこなせる研究者であれば誰でも査読者になれることになります。しかし、現実的に査読を担うには、さらなる能力が求められます。 Publonsによる査読に関する調査報告書 学術ジャーナルで出版されるほとんどの論文が英語で書かれていることから、アメリカにいる研究者が査読者になることが多いのでは、と思われがちです。Publonsが公開している査読に関する調査報告書「2018 Global State of peer review report」によれば、アメリカにいる研究者が査読を担った割合はすべての査読の32.9%でした。驚くのは、この割合はアメリカの研究者による論文出版の割合25.4%を上回っていることです。査読には多くの国の研究者が関わっており、このPublonsの調査報告書には、アメリカ・ドイツ・イタリア・スペイン・フランス・オランダ・スウェーデン・カナダ・英国・日本といった先進国と、中国・ブラジル・トルコ・インド・イラン・韓国・マレーシア・ポーランドといった新興国の研究者の査読関与の比較も示されています。中国の研究者が査読を担った割合を見ると8.8%ですが、論文出版の割合は13.8%でした。割合ではアメリカを下回っていますが、中国の論文発表数はアメリカに引けをとりません。しかし、査読への関与度合の差は大きく、中国の研究者が積極的に査読に関わっていないことが見て取れます。一方、調査では、中国人著者は査読者として招待されればその任務を受ける確率が高いことも示されていました。これらの比較から、先進国の研究者が査読に関与する割合は高く、対して査読への関与が低い新興国では出版の割合が高くなる傾向があることが見えてきます。…

学術界にはびこるジェンダーバイアス

残念なことに、学術界には今も性差別(ジェンダーバイアス)が存在し、女性研究者の活躍に影響をおよぼしているというのは周知の事実です。学術ジャーナルで発表する論文数の比較では、女性研究者の論文数は、男性研究者の数よりかなり少ない状況です。研究職に就くにも、女性は男性に比べてハードルが高く、報酬も少なく、職を得た後も研究に従事するより管理業務を任される傾向にあるといわれています。 多様性が求められているはずの学術界でジェンダーバイアスが存在し、女性が過小評価されているとは、どういうことなのでしょうか。 ■ 査読にジェンダーバイアスは存在するか 通常、投稿された研究論文は、学術誌に掲載される前に、その分野の権威ある研究者により評価・検証される「査読」というプロセスを経てから出版に至ります。2017年、この査読におけるジェンダーバイアスの存在を突き止めるため、アメリカ地球物理学連合(AGU: American Geophysical Union)が調査を行いました。AGUは、学術ジャーナル20誌を刊行し、年間6000本の論文を掲載している団体です。この調査では、2012年から2015年にAGUが出版した学術ジャーナルの著者と査読者のデータから、著者と査読者の性別と年齢の分析が行われました。 AGU会員のうち、女性は平均28%(対象期間中)。かつて学術界に足を踏み入れる女性が少なかったことから、年齢層が上がると女性の割合が少なくなっていきます。投稿された論文の筆頭著者のうち女性は26%で、女性筆頭著者一人当たりの発表論文数は男性よりも少ない一方、女性筆頭著者の論文は、男性筆頭著者の論文に比べ、採用(アクセプト)された率が高いことがわかりました(男女比61%:57%)。対象論文をアクセプトするかの判断については、編集者および査読者の性別による影響は見られませんでした。 さらに、AGUは査読者の割合にも言及しています。同対象期間に論文の査読に参加したすべての査読者のうち、女性の割合は20%。これは、女性筆頭著者(27%)および出版共著者(23%)の割合、AGU会員に占める女性の割合(28%)に比べても低い数字です。 査読プロセスにおいて、女性筆頭著者は女性の査読者を推薦することが多く、同様に、女性編集者も女性の査読者を推薦することが多いことがわかっています。しかし、査読者に推薦されても、女性は査読者になりたがらない傾向があると数字に表れています。約22%の女性が査読者への誘いを断っており、男性の17%を超えているのです。多忙な研究者が査読への誘いを断ることはよくありますが、女性の場合、職場で管理業務を担っていることが多いことや、家庭での家事負担が重いことも一因と考えられます。 ■ ジェンダーバイアスは思い込みに起因するのか 女性の過小評価は、男性は論理性、女性は関係性を重視するという文化的価値観に影響されているのかもしれません。男女の大学研究者に研究室長を選ばせてみたところ、男女どちらのグループも男性を選びました。そして、男性候補者が役職についた場合、女性に比べて高い給料とより大人数の管理を任される機会を与えられる可能性が高いのです。 男性研究者のほうが能力に勝るという思い込みは、女性のキャリア構築を困難なものにします。男性と同レベルの資質を有していても、女性が採用されたり昇進したり、そもそも男性研究者と同じ仕事を得るためには、彼らより多くの成果を出さなければならないということなのです。 ■ 女性研究者を苦しめる難題 ジェンダーバイアスは補助金を得るときにも影響します。アメリカ国立衛生研究所(NIH)が提供する R01グラントという研究助成金を見ても、女性研究者がこの助成金を獲得する割合は非常に少ない状況です。査読者の女性研究者に対する評価が、男性研究者に対するそれよりよいにもかかわらず、女性研究者は科学分野で大きな成果を出すことができないという先入観で見られているのか、獲得できる助成金は少ない。一方、男性研究者への評価は厳しいながら、獲得できる助成金は多い。査読者は、無意識のうちに、申込者を男女で区別して判断しているのかもしれません。…

査読者の苦悩

国際的に認められた学会誌の査読者になるのは大変なことですが、その任務を全うするのはもっとたいへんなことです。自分の研究や家庭のこともあり、無償の査読の仕事が二の次になることもあるでしょう。ジャーナルの編集者のなかには、査読者が「もうすぐ終わるから」といい続けたため、他の査読者に依頼することもできず、半年以上もズルズルと査読作業が長引き、投稿してきた研究者には怒られ・・・という痛い思いをした人もいます。このようなことがないようにするためにも、いったん査読を引き受けたら、不必要な負担がかからないよう、気をつけましょう。 査読作業にはとくにマニュアルがあるわけではなく、自分に適した方法を作り出していく必要があります。以下、さまざまな人たちの意見を取り入れた提案をさせていただきます。 1. まず、大きな問題から取り組む まずは論文を一通り読み流して、掲載を考慮するべきか却下するべきかを決めましょう。そのジャーナルの傾向とまったく違う、研究方法に穴がある、または表現があまりに稚拙であるなどの理由で、掲載の却下(リジェクト)を編集部に提案するなら、これ以上時間を費やす必要はありません。 2. 掲載可能だが大きな問題がある場合 一通り読んだ後、掲載は可能だが、分析方法や結果への導き方に大きな問題があると思われた場合には、その点に気をつけて、もう一度論文を読みましょう。このさい、編集部への提案理由が書けるように、必要事項とページ番号をメモしましょう。 3. 大きな問題もなく、掲載できる この場合には、もしあなたに時間の余裕があれば、関連する先行研究の文献を紹介したりするなど、より細かい指導をしてあげたいものです。しかしこれはあくまでも「あなたに時間があれば」の話です。迅速に対応できない場合は、細かな指摘は避け、どうして掲載に値すると思うのか、その理由を簡潔に述べて編集部に報告しましょう。 4. 報告書は箇条書きで 日本人の私たちの場合、英語で「報告書」を書くだけで大変な作業です。最初に、自分の名前と査読した論文のタイトルおよび著者名を明記したら、自分がその論文の掲載を、(1)推薦しない、(2)条件付きで推薦する、(3)無条件で推薦する、かを書きましょう。理由は箇条書きでかまいません。その際、各箇条書きの最初か最後に、該当するページ番号を書けば、編集部の作業も軽減されますのでお忘れなく。

査読者になることのススメ

一般的にいって、誰が学術雑誌の査読者になるかと問えば、「その研究分野において国際的に認められた研究者であるとともに、論文の出版数が多いなど生産性、 客観的な観察力、論点を明確に示すことのできる語学力のある人」という答えが返ってきます。しかし現実には、限られた人員で構成された編集委員会が、 学術界のすべての分野の最新情報に精通しているというわけではなく、また分野によっては研究者自体が少なく、査読をさばけないという状況も多々あり、編集委員会はいつも査読をしてくれる信頼できる研究者を捜しています。 そこでお勧めするのが、自分が好きでよく読む学会誌に、査読者として自薦することです。査読者はほぼまちがいなく無償の仕事ですので、金銭的には得になるようなことはありません。また、査読をしたからといって、今後自分の論文が掲載される可能性が上がるというわけでもありません。時間もかかりますし、期限も限られています。英語圏の学会誌でしたら、英語力によっては自分が書いた査読の英文を、編集員会に提出する前に誰かに読んでもらわないといけないかもしれません。 人の論文を読み、公平な視点で一研究者が一研究者を評価するという作業は、学生時代に授業の一貫として論文を読み、理想論を振り回して批評をしたことなどとは大違いだとすぐにわかるでしょう。研究にかかる時間や運営費など現実問題を考慮し、学術界の向上という大きな視点から、その論文が何を貢献できるかを念頭に置いて、批判ではなく評価をする必要があります。また一読者として読むのとも違い、学術誌編集部としての視点が求められます。その学術誌が追求している目標を考慮し、査読をしている論文の主旨や研究方法と比較したうえで、「この学会誌の読者が読むべき論文か?」を評価しなくてはなりません。たいへんなことですが、この査読作業が、次回自分が論文を書くときに役に立つことはいうまでもないでしょう。 まずは、自分の論文を掲載してくれた学術誌の編集部にメールしてみましょう。自分の論文がその学会誌でいつ掲載されたかを含め簡単に自己紹介をした後、査読者になる意思があること、どのような分野の論文であれば査読できるかを明記しましょう。履歴書を添付するのもよいでしょう。 昨今では学術誌のウェブサイトで査読者の応募をしているのをよく見かけます。興味のある学術誌のウェブサイトを頻繁に訪れ、そのような求人に応えるのもよいでしょう。 また、学術出版大手のエルゼビア社はそのウェブサイトで、査読の意義や歴史、査読者のガイドライン、査読者への支援などについて、多くの情報を提供しているので一読することをおすすめします。

査読者は「違いの出た研究」に好意的になりがち?

「AとBはまったく違いがない」という研究結果は、「AのほうがBより効果(影響)がある」という研究結果と同様に重要な発見のはずです。ではどうして、学術雑誌は「AのほうがBより効果(影響)がある!」という論文のみであふれているのでしょうか? 人間は、物事を比較することによって世界を把握する生き物です。たとえば、空間を仕切る壁に穴を開け、私たちが簡単に出入りできるものを「ドア」と呼び、そうではないものを「窓」と呼びます。同じ四足動物でも、「ミャー」と鳴けば「猫」と呼び、「ワンワン」と鳴けば「犬」と呼ぶ。つまり人間は、五感を駆使して物事を比較し、それらを区別・区分することによって初めて、自分たちの周りの真実を理解することができるのです。そのため、ハッキリした違いを心地よく感じ、重要視する傾向が生じます。 そしてその人間性は、研究者の中にも息づいています。ある研究でAとBを比較し、「まったく違いがない」という結論に到達すると、「何かが違うのではないか?」と執拗に比較を続けてしまいます。 2009年に学術雑誌『ネイチャー(Nature)』で発表された研究結果によると、その傾向はどんなに経験を積んだ査読者にも根深く存在するようです。 この実験では、まったく同じ実験の論文を用意し、その結果だけを「AよりBが優れている」としたバージョンと「AとBは同じだ」としたバージョンを作成し、複数の人に査読してもらいました。ここで注目したいのは、その論文の実験方法には、いくつかの小さな問題やミスが含まれていたということです。査読者はこのミスに気づいたでしょうか? 「AとBは同じだ」という結果の論文を読んだ人たちは、期待通りに実験方法の小さなミスや問題に気づき、さまざまな改正案を出しました。ところが、同じぐらい優れた査読者であるはずなのに、「AよりBが優れている」という結果の論文を読んだ人たちは、これらのミスや問題にまったく気づかなかったのです。つまり、査読者も人間で、「物事に違いがあること」をよしとし、鵜呑みにする傾向があるということです。 人(査読者)を騙す必要はありません。しかしここで紹介した実験結果を無視する理由もないでしょう。この結果を踏まえ、論文投稿者としてできることは、「比較対象を明確に表現すること」ではないでしょうか?