オープンアクセス

定期購読型とオープンアクセス型ジャーナルの未来

自分の論文の投稿先を考えるとき、そのジャーナルの現在の知名度もさることながら、将来への継続的な知名度も気になります。そのためか、従来型の定期購読者に配布されるジャーナルと、新進気鋭のオープンアクセス型のジャーナルと、どちらが将来性があるのかという声をよく聞きます。 出版までのプロセスが迅速に行われ、インターネットさえあれば自由にアクセスできるオープンアクセス・ジャーナルは、研究者の時間的負担を軽減し、視野とネットワークを広げるという大きな利点があります。そのため従来型の学会誌の中にも、ジャーナルの一部オープン化や出版から一定の期間を経てのオープン化など、 何らかの形でオープン化を取り入れていこうとする傾向が見られるようです。 「オープンアクセス・オプション」といって、投稿者が1000ドルから3000ドル程度の掲載料を払うことによって、自分の論文をオープンアクセスにすることができるジャーナルもあります。また、アメリカ微生物学会(ASM: American Society for Microbiology)の発行する雑誌の論文は発行4カ月後に、コールドスプリングハーバー研究所出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)の発行する雑誌の論文は6カ月後に無料公開となります。 また、ジャーナルのオープン化は、自分の研究の成果をより早く、より多くの読者に読んで欲しいという研究者の願いをかなえることに大きく貢献しています。昨今ではそのスピードをより高めるために、ピアレビュー(査読)前の論文や、使用されたデータなどを出版前に一般公開するオープンアクセス・レポジトリー(Open-Access Repositories)を設けているところも少なくありません。この傾向は従来のクローズド・アクセス・ジャーナルにも見られ、出版されるジャーナル自体はオープンでなくても、ジャーナルのウェブサイトを通して、研究者が自由に自分の論文や使ったデータをアップロードする手助けをするところも見られます。 しかしすべてのジャーナルがオープンアクセス化するまでには、まだまだ時間がかかるでしょう。定期購読費を取らないオープンアクセス・ジャーナルでは、その運営費を安定的に確保することが困難なため、1000ドルから3000ドル程度の掲載料を投稿者に課すことが普通です。また、突然の廃刊に見舞われたりするケースもあります。この点では、従来のジャーナルのほうが、より安定しているともいえるわけです。…

音楽、映画、そして今、学術雑誌へ

音楽や映画などの娯楽の世界と学問発表の場としてのジャーナル(学術雑誌)の世界。まるで接点がないように思われますが、実はその根底には「デジタル化による仲介役の排除」という大きな共通点が見られます。 音楽を記録したもの、すなわち「レコード」は、比較的最近まで、現在では「ビニール盤」などと呼ばれるアナログ録音のものが主流でした。いまでも「レコード(記録)」というと、アナログ録音のビニール盤のことを意味することが多いようです。しかし1980年代にデジタル録音が多くなってくると、それを収めた媒体としてCD(コンパクトディスク)が普及しました。その後、インターネットが普及してくると、デジタル録音した音源がインターネットを通じて配信されるようになりました。とりわけ2003年にアップルがiTunes Music Storeをスタートさせたことがそのトレンドに拍車をかけました。アメリカでは、有料配信の売り上げがCDのそれに追いつこうとしています。日本では、CDの売り上げは落ちているものの、有料配信はそれほど伸びていないのですが、おそらく将来的にはアメリカのようになるでしょう。 映画についても同様です。記録媒体はフィルムからVHSなど磁気テープへ、DVDなどの光ディスクへと変遷し、いまでは音楽と同じように、インターネットでの配信が普及し始めています。アメリカのレンタルDVDの大手「ブロックバスター」は2013年、経営悪化のためほとんどの店舗を閉鎖し、インターネットでの配信に力を入れていくことを発表しました。 学術出版業界もまた、音楽業界や映画業界と同じことを経験しつつあります。 ごく少数のお金持ちの所有物であった「最新のデータ」や「より深い知識」が、それらに興味を持つ不特定多数の人たちへと行き渡るようになったのには、専門のジャーナルの功績があげられます。このためジャーナルの出版はある時期まで、多くの研究者たちのボランティアで支えられてきました。そしてジャーナルの出版の多くが資本主義に飲み込まれ、民間企業が行うようになった今でも、査読は、選ばれた同業の研究者による無料奉仕によってまかなわれるのが一般的です。 しかし、インターネットが家庭で当たり前のように使えるようになった今、よりすぐれた研究結果を、より早くより多くの人たちに読んでもらうためにベストな方法は、大きな転換期を迎えています。 音楽業界や映画界が、大手レコード会社や映画会社による寡占に対する非難を浴びて、不本意ながらBitTorrent(ビットトレント)などのファイル転送ソフトウェアの普及に拍車をかけてしまったのと同様、現在、ジャーナルの出版社に対しても、出版権を独占し、利益優先をしすぎているという批判が日々高まりつつあります。そしてその反発として、学術出版のオープンソース化(オープンアクセス化)が注目を集めています。 多くの研究が、何らかの形で税金から捻出された助成金や補助金を使って行われています。それにもかかわらず、その研究結果が、資金の豊富な大学や企業に所属する選ばれた人たちしか閲覧できないのは不公平であり、学問の進化を妨げていると批判されても仕方がないでしょう。しかもジャーナルの購読費が、有名大学ですら捻出できないほど高騰しているとあっては、学問の進化が止まってしまうのではないかという危惧も一笑に付せなくなってきています。 そのためアメリカでは、大きな大学の図書館が主体となって、学術研究論文のオープンアクセス化が急速に進んでいます。著名な学者によるジャーナルの査読ボイコットなども後押しして、この流れはこれからどんどん加速していくと思われます。2007年12月、アメリカでは、国立衛生研究所の予算で行われた研究の論文は、発表後1年以内に無料でアクセスできるようにしなければならないこと、すなわちオープンアクセス化の義務づけが法制化されました。アメリカだけではありません。2013年8月には、欧州委員会の調査によって、2011年に公表された論文からランダムに選んだサンプルのうち約50%が2012年末までにオープンアクセス化されていることが明らかになりました。 音楽業界や映画界が体験したように、学術研究発表の世界でのデジタル化も多くの反対や抵抗を体験し、その世界で活動するすべての人たちに大きな変化を強いることになるでしょう。将来への道を模索する中では、多くの失敗もあるかもしれません。しかし現時点でいえることは、オープンアクセス化は回避できないということです。流れに乗り遅れぬよう、大学の図書館員と情報を共有しあいながら、いつも最新の動きに敏感でありたいものです。

学術誌の購読費高騰は他人事?

より多くの先行文献により簡単にアクセスできるということは、研究者としての知識を深め、学術界に貢献し、そして社会にとって有意義な研究を行なうためには不可欠です。しかし、多くの研究者が大学や企業などの研究機関に所属している昨今では、 学術誌 の購読費高騰は、付属図書館や庶務課の問題だとタカをくくってはいませんでしょうか? 現在、多くの英文科学雑誌の出版は、Elsevierなどの大手出版社やJSTORといった機関(有料の電子図書館)によって独占されています。そのため雑誌の定期購読の費用は高騰し続けており、あのハーバード大学ですら「今までどおりに学会誌を定期購読し続けることはできない」と音を上げたほどです。 『Library Journal』誌の調査によれば、分野別に価格を見てみると、とくに化学が高く、続いて物理学、エンジニアリング、生物学、天文学が高くなっています。また値上げ率を見てみると、ほとんどすべての分野で、2013年から2014年にかけて6〜7%の値上げが起きています。 このままでは「欲しい先行研究論文が手に入らない」というのは、発展途上国や小さな研究機関だけの問題ではなくなっていくでしょう。 日本でも2014年4月、名古屋大学が約2200誌を読むことができる大手出版社の「パッケージ契約」を解約し、必要とする研究者が必要とするジャーナルだけを購入するように方向転換したことが報じられました。「購入予算は2007年に3億円を超え、年平均で約6%ずつ上昇。昨年(2013年)、今後の費用を試算したところ、5年間で2.5億円も上昇する可能性があることが分かった」と伝えられています。 情報の流通と研究の質はいつも密接に関係しています。最新かつ正確な情報を世界へ発信する学術誌として、論文の信憑性や正確性をチェックし、これまでの出版物を保管管理するために費用がかかることはやむをえないことかもしれません。しかし新しい知識を発信する門番たる出版社が、利益中心の企業と化してしまった今、これはお金の問題だけではなく、学問そのものの存在をかけた戦いだといっても過言ではないでしょう。 では、一研究者として現状を打破するために、いったい何をできるのでしょうか? ハーバード大学など大きな研究機関では、独自のオープンアクセス出版機能を設置し、その利用を斡旋しています。またarXivなど、オープンアクセスリポジトリを専業とした機関も評価を得てきています。日本国内では、京都大学、北海道大学、千葉大学、早稲田大学などが独自のリポジトリ(電子書庫)を構築して、論文や報告書などの学術資料の共有化を試みています。 また日本でも学術雑誌のオープンアクセス化が進んでおり、たとえば国立情報学研究所のウェブサイトは、国内の「オープンアクセス刊行物リスト」を紹介しています。 このような動きの中、今までは二流に見られがちだったオープンアクセス誌も、数学者Tim Gowers (ケンブリッジ大学)や言語学者Tom…