アメリカのニュース

トランプ政権の予算に研究者がっかり

2月12日、トランプ政権が総額4兆4000億ドル(約478兆円)規模の2019会計年度の予算教書(2018年10月~2019年9月)を議会に提出し、予想どおりとはいえ科学者たちを失望させました。連邦政府の財政赤字が9840億ドルにも達するなか、国防費と移民法執行費用が増加された一方、科学の基礎研究に関しては20%以上削減されています。主要科学研究機関への予算は昨年レベルもしくは更なる削減となっており、研究者たちには厳しい状況が続きます。 ■ 削減される研究開発費 アメリカ国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)、エネルギー省(DOE)への予算は2017年と同水準。食品医薬品局(FDA)と航空宇宙局(NASA)の少なくとも宇宙探査に関しては増額されていますが、DOEのエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の月面探査ロケット打ち上げ部門、NASAの5つの地球科学計画、国際宇宙ステーションの予算削減に加えて、環境保護庁(EPA)、海洋大気庁(NOAA)、内務省(DOI)の地質調査所(USGS)の一部の研究計画は見直しを余儀なくされそうです。また、疾病予防管理センター(CDC)の予算も削減されました。 出典:AAAS (American Association for the Advancement of Science): The 2019 Science Budget Backs…

2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(後編)

2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件として、前編では海賊版論文サイト「サイハブ」訴訟と、ドイツの主要学術機関とエルゼビアとの契約交渉が決裂した件を紹介しました。後編では、研究者を食い物にする「捕食出版社」と研究論文の盗用・剽窃に関する話題を取り上げます。 ■ 捕食出版社として訴えられたOMICSへの仮差止め OMICSグループはインドに本社を置く、オープンアクセスジャーナル専門の出版社ですが、「捕食出版社」 (著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載する出版社)として知られています。「ハゲタカ出版社」とも呼ばれ、いわゆるジャンク・サイエンス(論理的根拠に乏しい科学)の流布をはじめ、たびたび問題となっています。米国の連邦取引委員会(FTC)  は2016年8月、OMICSグループのCEOであるSrinubabu Gedela氏を相手取り、詐欺的ビジネスを理由に提訴 しました。 OMICSは700の学術雑誌を出版し、3000の学術会議を運営する出版社です。FTCは、OMICSが研究者らに、論文を掲載する動機付けとなるインパクトファクター(学術雑誌の影響力の評価指標)を偽って伝えていると主張しています。その上、OMICSは論文の掲載料を著者らに公表せず、さらに著者が論文の掲載をやめたり、他社で発表したりすることを妨害していたということです。 OMICSへの疑惑はまだあります。FTCは、OMICSが開催する学術会議でも不正が行われていると指摘しています。例えば、OMICSは学術会議での研究発表に架空の論文「鳥-豚の生理における飛翔特性の進化」を採択し、手数料を払えば発表も可能としたとの報告があります。採択されるはずのないジャンク・サイエンスの論文にも関わらず、発表が許可されたのです。また、査読を行っているという偽りの発言をしていることも疑われています。OMICSの編集委員のリストには著名な科学者の名前が連なっていますが、証明するものはありません。このような申し立てが積もり、OMICSは捕食出版社だとの疑惑が高まっているのです。 2017年11月、ネバダ州の地方裁判所のGloria Navarro裁判官は、Gedela氏とOMICSグループ、関連会社のiMedPub、Conference Seriesの3社に、仮差止め命令を下しました。OMICSが研究者に虚偽の説明をして論文を掲載するように誘導していることや、著名な科学者の名を無断で用いて投稿を依頼するメールを送っていたことが、今回の命令の根拠とされています。 この仮差止め命令はOMICSグループに向けたものであるため、OMICSは、会議に出席する予定のない講演者の名を語って宣伝することや、ジャーナルの編集委員として虚偽の名前を連ねることは、無論できなくなります。裁判所はOMICSに対し、論文の投稿前に、掲載にかかる費用の総額を著者に伝えるよう要求しています。また、FTCは研究者らに、OMICSによる仮差止め命令への違反があればすぐに報告するよう伝えており、新たな不正が発覚した時点で、法廷侮辱罪として訴える考えです。 一方、OMICSのCEOであるGedela氏は、FTCの訴えの内容を否定しています。この告発は、市場シェアを失った従来の出版社が、オープンアクセス出版社に対して腹いせに起こしたものであり、仮差止め命令の後もOMICSの活動は制限されない、と反論しています。米国の裁判所命令ではインドの出版社の活動を効果的に止めることはできない、と主張する研究者もおり、出版投稿や国際会議での発表を行わないようにする以外、捕食出版社の活動を実際に抑制することは難しいと見られているようです。 このような捕食出版社が登場した背景には、一本でも多くの論文を出版し、学術会議で発表しさえすれば、研究者として評価されるという、学術界の悪しき習慣があるのかもしれません。仮差止め命令の影響とOMICSの今後の動きが注目されるところです。 ■ 多数の編集者を辞任に追い込んだScientific Reportsの剽窃問題 2016年に発刊されたScientific…

編集委員を辞任に追い込む剽窃問題

剽窃(ひょうせつ)とは、他人の成果や論文を許可なく部分的に利用し、自分の成果のように発表することです。例としてSTAP細胞論文の疑惑があげられます。まるごと盗んで自分のもののように使用する「盗用」とは区別されますが、剽窃は重大な犯罪です。大学や研究機関では教員や学生、研究者に剽窃をしないよう指導を行っていますが、学術出版社でも問題となっています。自然科学を対象としている著名な科学誌『Scientific Reports』でも剽窃が問題となり、投稿された論文の撤回を求めて19名の編集委員が職を辞するという事件に発展しました。 ■ Scientific Reportsの編集委員19名が辞任 アメリカのボルティモアにあるジョンズ・ホプキンス大学の研究者であり、Scientific Reportsの編集委員の1人でもあるマイケル・ビア氏は、2016年に発刊されたScientific Reports 6に掲載された論文内で、自分の過去の研究成果が剽窃されたと訴えました。これに対し、他の編集委員もビア氏の主張を支持。最終的に計19名もの研究者が、編集委員を辞任したのです。 剽窃が問題視された論文は、ハルビン工科大学(中国)の深センキャンパスの研究者達により発表された、DNAの組み換えスポットを特定する技術を説明するものです。この研究は、ビア氏と彼の研究チームが2014年7月の『PLOS Computational Biology』に発表したアルゴリズムを基にしており、論文にはビア氏の論文を引用していることが示されているものの、ビア氏がgkm-SVMと名付けた技術を中国人研究者達はSVM-gkmと呼ぶなど、多くの部分は単にビア氏の論文を書き換えたものであると、同氏は訴えたのです。 ■ 訂正表では納得せず Scientific Reportsの編集者リチャード・ホワイト氏は当初、この論文がビア氏のアルゴリズムをより発展させたものだとする中国人研究者達の主張を認めていました。しかし中国人研究者達は、ビア氏の論文を引用したことは記していたものの、同氏の論文から引用した5つの方程式に、出典を付けるのを怠っていたのです。これによりビア氏と研究仲間は、中国人研究者は剽窃を行っているとして、訂正ではなく撤回という処罰が妥当であり、出版社の対処は不適切だと主張しました。しかしScientific Reportsは、訂正表で対処するという決定を改めはしなかったのです。…

今こそ真実を訴える―代替的事実ジャーナルの発信

トランプ米大統領の上級顧問を務めるKellyanne Conway氏がテレビ番組で発した「代替的事実(alternative facts)」という言葉が話題になりました。上級顧問たる立場の人間が事実の誤りを「Fake(虚偽)」ではなく「代替的事実」と述べたことにより、トランプ政権が事実を重視しない姿勢を示したというのがもっぱらの見解です。 象徴的なのが気候変動に対する見解であり、就任前から「中国が米国の製造業を無力化する目的ででっち上げた作り話」と評していました。3月29日にはオバマ前政権の温暖化対策を撤廃する大統領令に署名し、2013年に前政権が策定した温室効果ガス排出削減策「クリーン・パワー・プラン」の再評価を命じました。これを発端として気候変動に関連する研究への包囲網が狭められていますが、科学研究も同様に、厳しい状況に追いやられています。このような政治的な動きに対する反撃が、にわかに始まっています。 ■ Journal of Alternative Fact(JAF):代替的事実ジャーナル 「代替的事実」がまかり通るならと、「代替的事実ジャーナル(Journal of Alternative Facts:JAF)」が刊行されました。Casey Fiesler氏は、増え続ける代替的事実を抑制するためには信頼できる学術情報を発信することが重要だと、このジャーナルを立ち上げました。 記念すべき最初の記事は“We Have…

Recommended:研究者を論文の山から救い出す新サービス

一般の書店で見かけるのとは別に、研究分野ごとに発行されている学術雑誌の数は数えきれません。その中に収録されている論文数となれば、星の数ほどになるでしょう。研究者は自分の行った研究の成果を論文にし、学術雑誌などに投稿することで自らの研究を公表して評価されるわけですが、当然、他の研究者が何をやっているのかを情報収集する必要があります。しかし、公開される論文の数が星の数となった今では論文の山に埋もれてしまい、自分のほしい情報を拾い出すのも簡単ではありません。 ■ 増え続ける研究論文 今や研究論文は、紙で出版されるとともにオンラインに掲載される時代です。図書館に行かずに必要な情報の検索ができるようになったのは便利ですが、オンラインには研究論文があふれかえっています。国立国会図書館の科学技術論文誌・会議録データベースに収録されているデータだけで約17,000タイトル(2017年2月)となっています。公開された論文数は2003年の130万本から、2013年には240万本に増加しており、年率6.3%の勢いで増えていることになります。自然科学の分野だけでも、1日に公開される一次研究論文は4,000本に上ります。 学術論文が国際化していることも、論文数の増加に拍車をかけているのでしょう。研究を国際的な場で発表することは研究者の実績には不可欠です。トムソン・ロイター社のデータベースによれば、2000年の日本の学術論文の海外誌への掲載率(海外流出率)は、2003年の時点で既に80%でした。その後のインターネットの爆発的な普及を考えれば、日本だけでなく各国の研究者による論文の国際化はさらに増加していることが予想されます。 ■ 読みきれないのが普通です これだけ論文数が増えると、当然すべてに目を通すことは不可能です。自分が読みたい論文が分かっていれば雑誌名・巻号などからデータベースで検索することが可能ですが、専門分野の最新情報という漠然とした指定では、検索結果が膨大になってしまいます。Springerが2015年にnature.comの利用者4000人を対象に実施した調査では、85%が自分の専門分野の論文に目を通しきれておらず、25%は追いつかないのが常態化しているとの結果が示されました。研究者にとって、最新動向を把握できないのは大きな問題です。 ■ 新サービスRecommended そこで、研究者の積もる悩みを解決すべく登場したのがSpringer Natureの新サービスRecommendedです。研究者が論文を見落とさないためのカスタマイズサポートで、利用者の傾向に合わせて論文を抽出し、お勧めリストをサイト上またはメール配信で知らせてくれるサービスです。利用者がnature.com、SpringerLink、BioMed Centralで最近閲覧した論文100本をアルゴリズム分析して傾向をつかみ、その上でCrossRefとPubMedに収録されている4万5000誌、6500万以上の論文からお勧めの論文を抽出してくれます。しかもこの検索機能は、利用者の閲覧状況を学習して常時更新されるため、自分が最も興味を持っている情報を閲覧することが可能です。Springerから出版されている論文以外も含めて検索してくれるのは、研究者にとってありがたい機能です。 ■ 進化するシステム これは、アマゾンで書籍を購入したり情報を閲覧したりすると個人の嗜好として記録され、類似の書籍が「お勧め」として表示されるのと同様の機能です。アマゾンにおいてはユーザーのさらなる出費を促進する機能ですが、Recommendedでは研究者が検索に費やす時間を減らせるため、大いに役立つことでしょう。 既にベータ版が約1年間テスト運用されており、200か国以上の研究者が利用、70%が再利用しているということです。Springer Natureのパブリッシング・ディレクター、Sarah Greaves博士は、研究者の幅広い興味に対応するサービスの拡充を図っていく、と意欲を示しています。国際会議や研究助成金の情報、研究者の専門分野以外の研究の情報まで、あらゆる「欲しい情報」に対応することができるようになる日は近いかもしれません。…

ACS-KCS Excellence Award創設 栄誉ある最初の受賞者は

2017年4月24日、米国化学会(American Chemical Society; ACS)と韓国化学会(Korean Chemical Society; KCS)が3年間の連携協定を締結し、韓国化学界の優秀な研究者を表彰する賞としてACS-KCS Excellence Awardを創設したと公表しました。受賞者は、賞金とともに化学情報検索サービスSciFinderへの 3年間無料アクセスと、同じく3年の期限付きですが米国化学会(ACS)*1への登録が贈られます。このACS-KCS Excellence Awardは、ACSの情報部門であるChemical Abstracts Service(CAS)の資金提供を受けて設立され、韓国の化学分野における功績を表彰することで、研究の発展に寄与することをめざしています。ACSの専務取締役兼CEOのThomas Connelly…

科学者たちの行進-科学を守るために今、起きていること

2017年1月にアメリカでトランプ新政権が発足しました。大統領が変われば国の政策も変わりますが、科学界にここまで大きな影響を及ぼしている大統領も、そういないのではないでしょうか。トランプ大統領は、選挙戦の時点から反科学的な姿勢を見せ、地球温暖化対策として世界が同意した「パリ協定」からの離脱も示唆していました。そして、就任早々に環境保護庁(EPA)への研究資金援助の停止を取り決め、EPAから発表する科学的な成果やデータを、政府が公表前にチェックするという方針も出されたのです。新政権は発足早々、科学コミュニティーの「制圧」に乗り出したと言えるのかもしれません。 科学コミュニティーに広がる不安 2016年9月、宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士をはじめ375名の科学者が、パリ協定からの離脱を示唆したトランプ氏を警告する公式書簡に署名したことが、世界的に報道されました。それでもトランプ氏の意思はまったく揺らぐことなく、就任直後にホワイトハウスのホームページから気候変動に関するページを削除し、関係者を不安にさせています。その思惑は、温暖化対策に反対してきた石油大手エクソンモービルの経営者であったティラーソン氏を国務長官に、そして過去にEPAを相手取って訴訟を起こしたこともある温暖化懐疑論者のプルイット氏をEPA長官に任命したことからも読み取れます。パリ協定からアメリカが離脱するかの是非については、5月中にも判決が下されると噂されていますが、この人事を見る限り、科学コミュニティーの懸念は現実と化しています。 マーチ・フォー・サイエンス―科学のための行進 新政権の動きに対抗しようと科学コミュニティーに広がったのが、「マーチ・フォー・サイエンス」の呼びかけです。「Women’s March」という、女性の権利を守ろうと訴える行進が大統領就任式翌日の2017年1月21日にワシントンD.C.を中心に行われたのに倣い、科学研究や科学的な成果・データを守ろうと訴える「科学者の行進」をやろう、との声があがったのです(参照:https://www.marchforscience.com/)。 そして2017年4月22日、ワシントンD.C.のナショナル・モールをはじめ世界600か所以上で、集会や行進が行われました。TwitterなどのSNSを通じた呼びかけに応じて集まった人々が、「科学に基づく政策を」と声を上げたのです。折しもこの日は「アースデー」-地球環境問題に関心を持ってもらおうと、1970年にアメリカのネルソン上院議員が4月22日を”地球の日”と宣言したことから誕生した日-でした。地球環境を守る国際的な連帯行動の日に合わせて科学者の行進を行い、「健康・安全・経済・社会政策における科学の重要性と役割を守るムーブメントの最初のステップとしよう」と世界で訴えたのです。ワシントンでは、科学者ら1万人が参加。日本(東京)でも、日比谷公園から東京駅まで、150名ほどが集まって行進しました。 科学者の抵抗が始まった 科学者の行進は、アメリカおよび世界の科学者にとって記念すべき出来事となったことでしょう。科学コミュニティーは「科学」、つまり研究の積み重ねによって得られた成果を支持するよう訴えているのです。この行進の企画者の一人であるジョナサン・バーマン氏は、政府による政策決定は事実に基づいた評価を慎重に行ってからなされるべきだと述べています。過去の政策判断において科学が重要な役割を果たしてきたことを省み、現在の政策決定者にも同じように、客観性を重視する科学的根拠に基づいて判断を行うよう求めているのです。 また「マーチ・フォー・サイエンス」と連動する形で、4月29日にはワシントンD.C.をはじめとした全米各地で、トランプ大統領の環境政策に反対する抗議デモが行われました。環境活動家でもある元副大統領のアル・ゴア氏や俳優のレオナルド・ディカプリオ氏も参加し、各種報道で取り上げられました。科学者や環境問題に関心を持つ人々が、行動を通じて意思を示すようになってきているのです。 研究者か活動家か・・・ ただ、研究者が政治的な活動に関与しすぎることを懸念する声もあります。アメリカ科学振興協会(AAAS)、アメリカ細胞生物学会(ASCB)、視覚と眼科学研究協会会議(ARVO)など多くの科学コミュニティーがこの行進を支援していますが、通常なら政治関与を避けるこれらの団体が賛同を表明しているのは異例のことです。 この動きに対し、「トランプ政権が打ち出した衝撃的な2018年度の予算案を見て、研究室にこもっていることができなくなると気づいたからだ」と辛口な見方をする人もいるようです。確かに2018年会計年度の予算教書は、EPAだけでなくアメリカ航空宇宙局(NASA)、エネルギー省科学局、国立海洋大気局(NOAA)、国立衛生研究所(NIH)の予算も軒並み大幅に削減するという、科学コミュニティーに大打撃を与える内容です。 国立の研究所だけではありません。NIHの予算の8割が全米の大学・研究所の生物医学研究費として使われていると言われるため、今回の予算案がもたらすアメリカの科学コミュニティーへの影響は計り知れません。このような状況下では、今まで活動家(アクティビスト)の取り組みを遠めに見るに留まっていた研究者が、彼らと意識を共有し、デモに参加すると意思表示するのも、うなずけるのではないでしょうか。 科学コミュニティーの混乱は続く…

生物医学分野における研究開発費がアジアで増加

生物 医学分野における研究開発費において、おもしろいニュースが報じられました。2014年、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された研究報告書により、欧州や北米では研究開発費が減少しているのに対し、アジアでは増加傾向にあることが伝えられたのです。 欧州と北米における研究開発費の減少 2007年~2012年までの間、生物医学分野の研究開発に対する欧州での投資額に大きな増減はなかった一方、米国とカナダでは、投資額が年に約2%減少しました。中でも生物医学分野における世界の研究開発費の約半分を占める世界最大の研究国、米国の研究開発費が減少したことは注目に値します。理由のひとつとして、研究計画と研究費に関する活動を停滞させるに至った、米国議会内での政争が挙げられます。ただし、米国政府からの投資額の中で研究費が占める割合は減少しておらず、むしろ年0.8% というわずかな伸び率ではありますが、増加しています。減少したのは民間の研究費です。米国での生物医学関連産業の民間研究費はほぼ同額を推移していますが、米国のほかにも、アジアでますます多くの研究費を使うようになってきています。アジアの人件費は安く、新薬開発への規制はより緩やかなためです。 アジアにおける研究開発費の増加 豪州を含むアジア・オセアニア地域全体で、生物医学分野の研究開発費は増加しています。この地域でもっとも有力な研究国である日本では、2007~2012年の間の研究開発費の年間成長率は約6%でした。オーストラリアとインドも同程度の成長率でしたが、韓国の成長率はこれを上回ります。もっとも伸びているのは中国で、額としては他国より少ないものの、年間成長率はなんと33%を記録しました。もしこの劇的な成長率を中国が9年間維持し続けるとすれば、2012年にはわずか60億ドルだった研究開発費が、2021年には1090億ドルになり、米国を抜いて生物医学分野における世界一の研究開発国になります。もちろん、未来の推定は確実なものではありません。中国が年33%の成長率を無限に維持することはあり得ず、成長は緩やかにはなるでしょう。 研究者にとっての意味 もし現在の流れが続くとすれば、アジアに注目すべきです。最先端の研究はますますアジアで行われ、共同研究の機会がもっとも豊かな地域もアジアになるでしょう。そこまでの道のりは平坦なものではなく、それぞれの地域の政治と世界経済の状況によっては山あり谷ありで、断続的なものとなるかもしれません。しかし、世界の人口の5%を占めるだけの米国が、生物医学分野における研究費の50%を永遠に捻出し続けることも難しいでしょう。その他の地域が、研究の質においても研究費においても、追いつきつつあることは事実です。これは朗報と言えるものです。 ではこの事態について、校正者たちの意見を聞いてみましょう。 研究の質や正確さを維持することが不可欠 米国以外の地域で研究費がさらに成長しているのは、基本的な資本の原理が働いているというだけです。同額以下の費用で、官僚制にそこまで頭を痛めずに、より大規模な研究を行うことができるのに、規制の厳しいところで高い人件費を払うことに意味があるでしょうか?もし同額以下の費用で同じような効果を上げることができれば、経理担当者も株主も喜びます。ではそこに問題点はあるのでしょうか?「目的は手段を正当化する」という合理化が有効なのは、適切な管理と監督が行われている場合のみです。しかし、もしそれらの地域で費用削減のために研究で手が抜かれるようなことがあれば、集められたデータの正確さはすぐに疑われてしまいます。それらの地域で公的な認可を得る前にデータの正確性を問い直し、研究の質や正確さを維持することはできるのでしょうか? 残念ながら、研究開発を短期の費用削減目標と見なす傾向は徐々に広まりつつあるようです。さらに、大規模な研究や基礎研究よりも短期間の応用研究へシフトすればするほど、研究費に関するこのような姿勢が世界的に広まる可能性も高くなります。 博士(経営学) アメリカにて30年以上の研究・学術論文執筆経験…