日本のニュース

文部科学省「研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS)」の認定サービスに選ばれました

研究支援エナゴの3つのサービスおよびツールが、「研究者の研究環境を向上させ、日本の科学技術の推進及びイノベーションの創出に貢献する*」研究支援サービス・パートナーシップとして文部科学省に認定されました。 このたび認定されたサービスおよびツールは以下の通りです。 科学論文校正(英語)・投稿支援サービス 研究者トレーニングサービス エナゴ開発のAI英文ライティング支援ツールTrinka(トリンカ) *参照:https://www.mext.go.jp/content/20240911-mxt_chousei01-000006257_1.pdf A-PRASとは? 「研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS)」とは、大学、独立行政法人、研究機関や、その研究者等と良好なネットワークを構築できる民間事業者が提供する研究支援サービスのうち、優れた特徴を持ち、研究者の研究環境を向上させ、日本の科学技術の推進及びイノベーションの創出に貢献すると判断できるサービスを文部科学省が認定する制度です。科学技術イノベーション創出の加速と研究支援サービスに関する多様な取組の認知向上及びその発展を支援するため、令和元年に創設されました。 A-PRAS申請の背景 エナゴを運営するCrimson Interactiveは昨年の2025年12月に創業20周年を迎えました。テクノロジーと世界の学術専門家とのネットワークを基盤に作り上げた研究支援サービスに対し、日本、韓国、中国の大学・研究機関やそうした組織に所属する研究者の皆様からのご愛顧をいただき、これまでに世界で延べ200万人以上の学術コミュニケーションを支援してまいりました。 20年の節目を迎えられたのは、提供するサービスに対するお客様からの評価であると自負しておりますが、文部科学省からの認定によりさらに安心してサービスをご利用いただけると考えました。 A-PRAS令和7年度の採択事業者一覧はこちらで公開されています: https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/1422215_00044.htm A-PRAS認定が持つ意味…

理工系分野を選択させないアンコンシャスバイアスを払拭しよう

以前、世界に比べると日本で理工系を選択する女性の数がまだまだ少ないという現状を「理工系を選ぶ女性を特別視しない社会に向けて」という記事でお伝えしました。残念ながら、経済協力開発機構(OECD)の2023年の調査によれば、日本でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の大学入学者に占める女子学生の割合は18.1%とOECD加盟国内最低から脱出できていません。健康と福祉分野の女子学生比率は悪くないのですが、STEM分野、特に物理・工学系の低迷が続いています。 今回は、日本で女性の理工系人材が育ちにくい背景に周囲の環境や文化といったアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が働いているのではないかとの視点から、現状と分野選択に関連する研究を紹介します。 アンコンシャスバイアスという思い込み 男子は理系、女子は文系。女性は数学や物理が苦手。こうした、社会や家庭に存在するアンコンシャスバイアスが女性の理系離れの一因とも言われています。女性は理系に向かないというジェンダーバイアスや自分自身の思い込みだけでなく、理系女子は就職や結婚が難しくなると考えている親世代からのプレッシャーなどがアンコンシャスバイアスとなって、女子学生が理系を選択する気持ちを削いでしまう原因になりえると指摘されています。医学部を卒業して女性医師になるのはイメージできても、物理・工学系の学部を専攻して現場で働くのはイメージしにくいのかもしれません。 政府は理工系に進む女子生徒を増やす必要性を認識しており、第5次男女共同参画基本計画(令和2年に閣議決定)に基づき、女子中高生に理工系の進路選択を促す施策を行ってきてはいるものの、理工系を選択する女子の数はいまだ伸び悩んでいます。そもそも、この基本計画は大学(学部)の理工系の学生に占める女性の割合につき「前年度以上」という不明確かつ比較的実行が容易な目標が掲げられているまま見直しもされておらず、政府の取り組みの効果がでているのか疑問です。 中学教育に存在するアンコンシャスバイアス 大学の理工系学部に在籍する女子学生の割合を国際比較すると、日本の低さは際だっています。 冒頭に述べたOECDの調査「Education at a Glance 2025(EAG2025)」によると、2023年の高等教育においてSTEMを選択した女子学生の割合は、日本が18.1%で、OECDの平均33.5%を大きく下回っています。自然科学・数学・統計学の分野に進学する割合は27.56%(OECD平均54.47%)、工学系分野は16.50%(同28.74%)と、いずれも低い水準にあります。 とはいえ、日本の学生の数学リテラシーや科学リテラシーが低いわけではありません。OECD が3年ごとに実施している国際的な学術到達度調査(PISA)によれば、日本の学生の数学的リテラシー、科学的リテラシーはともに世界トップレベル(両分野で37か国中1位)にあります。また、国際教育到達度評価学会(IEA)が4年ごとに実施している国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果(TIMSS2023)からも日本の学生の数学・理科の成績が世界的に見て高いレベルを維持していることが示されています。しかも、TIMSSの結果から言えば、日本の女子中学生の数学と理科の成績は、国際平均を大きく上回っているのです。 にもかかわらず、なぜ日本の女子は理数系を敬遠してしまうのでしょうか?…

ノーベル賞受賞者へのインタビュー特集

毎年、アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日に授賞式が行われるノーベル賞。2025年は、生理学・医学部門で大阪大学特別栄誉教授の坂口志文(さかぐち しもん)先生が、化学部門で京都大学理事・副学長の北川進(きたがわ すすむ)特別教授が受賞者となりました。 エナゴでは、北川進先生を含めてこれまで3人のノーベル賞受賞者へのインタビュー記事をサイトにて公開しています。 中村修二 (なかむらしゅうじ)博士へのインタビュー 2014年 ノーベル物理学賞受賞者 企業に籍を置きながら単独で青色発光ダイオード(LED)を開発し、その後カリフォルニア大学の教授職に就かれた中村修二先生は、LEDの研究開発の功績で2014年のノーベル物理学賞を受賞。核融合発電の実現に取り組むなど現在でも精力的に研究を続けられています。インタビューはノーベル賞受賞前の2007年にエナゴが実施。留学時代のエピソードや初めて自分が行った授業のことなど、英語とどのように向き合ってきたかを中心にお話を伺いました。 ♦トップ研究者インタビューby エナゴ 中村修二氏へのインタビュー 「英語での初講義。緊張して気絶しそうでした」 https://www.enago.jp/interviews/drnakamura   益川敏英(ますかわ としひで)博士へのインタビュー…

公共財の効率性と公共性について:図書館から考える

公共財としての図書館―場所/情報 2025年3月末、東京都清瀬市の公立図書館6館のうち4館が閉鎖され、それに伴い4月1日より図書館から市民への本の無料宅配が始まりました。 施設の閉鎖についての言及のない施策案「清瀬市図書館サービス基本方針(素案)」[1]に対するパブリックコメント(意見募集)が2024年1月4日から1月24日にかけて実施された後、2月20日および24日に説明会が開催され、図書館の統廃合を含む改正条例案が2024年3月の市議会に提出されたというのが前年の流れです。市民の意見が十分に吸い上げられず十分な説明が行われていないことを批判する議員もいた中、条例案は賛成多数で可決され、約1年後の図書館統廃合と書籍の宅配開始が決まり現在にいたります[2]。 条例改訂の理由を市の担当者は「市立図書館としての効率効果及び市民ニーズを考慮しつつ、新たな図書提供の在り方を模索する中で、現在の地域図書館を整理すること。あわせて全市立図書館に指定管理者制度を導入して、効率及び効果的な管理及び運営ができるよう、規定を整備する」としており、また「電子書籍の充実、スマートフォンやホームページを活用した予約サービスの充実、貸出し図書の宅配サービスなど、来館しなくとも本が借りられる環境整備が求められていると分析」していると述べています[3]。 一方、反対派議員のひとり(ふせ由女議員)は図書館を「知的成長のための大切な基盤」とし、「単に本を借りる場所ではなく、新たな偶然による意図しない本との楽しい出会いや、その場で実際に関連図書を手に取って参照したり、比較したりできる、実践的で効果的な学びの機会が凝縮された場所」として、宅配サービスが図書館の廃止を補うものではないと主張しています。 清瀬市の図書館のあり方に関しては、市民の間でも様々な意見もあるようですが、一連の議論は、住民以外にとっても、公共財の公共性や公共図書館などについて考えるヒントになるかもしれません。 「知る権利」を保証する図書館 日本図書館協会による「図書館の自由に関する宣言」[4] は、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする」としています。ここでは図書館は、「知る権利」を保証するものであると定義づけされています。 (身体的なハンディや居住地、勤務時間などの理由で)開館時間内に図書館を訪れることができないことによる情報へのアクセスの阻害を解消するという意味においては、本の宅配は市民の知る権利の保証にもつながるでしょう。しかし、取り寄せができる資料のほとんどは、図書館以外の場で情報を得ることのできたものに限られるでしょう。そしておそらく、リアルな空間/場所としての図書館を重んじる人々が公共図書館に託する役割はもっと大きなものです。 「民主的教育機関」としての図書館 1949年に初版が発表されたユネスコの「公共図書館宣言」[5] は、公共図書館を「民主的教育機関(Democratitc Agency for…

基礎研究をめぐる日本の状況

基礎研究とは 基礎研究とは、人類が理解していない現象を理解するために行う研究であり、文部科学省(以下、文科省)の2014年の資料によれば「特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。」と定義されています。 基礎研究の成果は、着実に次の研究の下支えとなっています。例えば、新型コロナウイルスが猛威を振るったとき、ウイルス学や病理学の基盤があったからこそmRNAワクチンを短期間で開発することができました。また、ニューラルネットワークの研究の積み重ねがあったからこそ、近年の人工知能(AI)の急速な発展が実現したのです。つまり、基礎研究はその成果が発表された時点で直接的な経済効果につながらなかったとしても、巡り巡って人々の生活に役立ち、経済にもプラスの効果をもたらすものであるということです。 基礎研究の重要性 基礎研究の重要性 基礎研究の成果は、実用化につながらなかったり、具体的な利益につながるとしても時間を要したりするものです。5年、10年という短期ではなく、100年単位の長期で考えれば、基礎研究は確実に世の中の「役に立つ」ものなのですが、外から見ると何をやっているのかわからないことも少なくなく、「役に立たない」と思われてしまうこともあるでしょう。 2024年にニューラルネットワーク研究者のJohn J. Hopfield氏とGeoffrey Hinton氏がノーベル物理学賞を受賞した際、一般社団法人人工知能学会の会長栗原聡氏が、情報処理に関する研究が受賞したことに驚き、「毎年この時期になると皆が納得するものの,すぐに忘れてしまうのが,基礎研究の重要性である.」とのコメントを発表したのは印象的でした。 ノーベル賞が発表される10月には受賞者の功績に惜しみない讃辞を贈るのに、11月になるとみんな忘れてしまうと指摘しつつ、基礎研究については抜本的な対策が必要であると問題提起していました。多様な基礎研究は、いつかどこかで人類への貢献につながるのです。 基礎研究力の低下が国際競争力の低下につながる 栗原会長のコメントは「かつての日本はこの基礎研究にしっかり取り組んでいたし,なのでノーベル賞を受賞される研究者も誕生してきた.しかし,現在の日本は極端な言い回しをするなら直近しか見えなくなってしまっている.研究費を無駄にしないためにも必ず成功して事業化することが求められる傾向がどんどん強くなっている.」と続きます。実際、大隅良典氏や本庶佑氏をはじめとする歴代のノーベル賞受賞者の多くが日本で基礎研究が軽視される傾向にあることに対して危機感を示しており、基礎研究の価値を指摘しています。 基礎研究は、既存の問題や技術の限界を打破する可能性を有していますが、どの基礎研究がいつ、どのように画期的なイノベーションにつながるかは当の研究者ですら分かりません。だからこそ、多くの研究者がさまざまな研究を続けていくことが不可欠であるにも関わらず、2000年代初頭に科学技術政策に「選択と集中」の考え方が導入されてから、基礎研究は危機に瀕していると指摘されています。 基礎研究を極めた研究者が勝ち取ったノーベル賞…

日本政府がAI国力の強化を目指し、AI基本計画骨子案(たたき台)を策定

人口知能(AI)の開発と利用が世界で急速に進む中、AIの利活用が十分に進んでいるとは言えない日本の状況を打破するべく、日本政府は2025年9月12日に初の「人工知能基本計画骨子(たたき台)」を公開し、AIの開発と利活用を政府として後押ししていく考えを示しました。本記事では、AI基本計画(たたき台)のポイントについて概説し、AI促進による科学研究への影響について考えてみます。 人口知能(AI)基本計画とは 人工知能基本計画(以下、AI基本計画)とは、2025年6月4日に施行された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」に基づく国家戦略として位置づけられた、AIの研究開発や利活用を促進するための基本的な計画です。2025年9月12日に内閣総理大臣を本部長とする「人口知能戦略本部(AI戦略本部)」の初会合が開かれて議論がスタートし、AI基本計画骨子(たたき台)を公開しました。この会合の開催にあたり、当時の石破茂首相は「AIは、社会課題の解決や産業競争力の強化を実現する技術であり、安全保障上も極めて重要」と述べています。AI基本計画は、AIの技術開発や活用の推進に関する国の作戦のようなもので、今後、有識者や調査会などの意見も踏まえて計画案を作成し、パブリックコメント(意見公募手続き)を経て2025年内に閣議決定することを目指しています。 AI基本計画策定の背景 政府がAI基本計画の策定を急いでいる背景には、日本がAIの開発および利活用で国際競争に出遅れている現状があります。安全保障やさまざまな産業の競争力の強化にはAIが欠かせないとして、アメリカと中国を筆頭に各国で開発が進められていますが、AI戦略本部会合の資料には、日本のAI利活用率と投資額が米中に大きく遅れを取っていることが示されています。 特に、大規模言語モデル(LLM)の急速な発展に後押しされているChatGPTなどの対話型生成AIは、すっかり日常生活に浸透しているように見えますが、生成AI利用率でも個人・法人ともに米中に大きく水をあけられており、民間投資額(世界14位、約9億円)に至っては米国(世界1位、約1,091億円)の約1/121です。 しかも、国内で利用されている生成AIは米国で開発されたものが主流であるといった開発力の問題や、フェイク画像が簡単に生成できるといった利用に関する懸念など、憂慮すべき課題も多々あります。 出典:人口知能戦略本部(第1回)資料2-1 ⼈⼯知能基本計画の⾻⼦(たたき台)の概要について 日本政府は「AIを使わない」ことが最⼤のリスクであると明言し、「反転攻勢」をコンセプトに⽇本のAI投資・利活⽤を推進しようとしています。 日本のAI戦略の基本構想とAI基本計画 日本のAIに関する基本構想として「世界で最もAIを開発・活⽤しやすい国」を⽬指すとの国家戦略のもとで策定されているAI基本計画には、「イノベーション促進とリスク対応の両立」「PDCA(計画・実⾏・評価・改善)と柔軟・迅速(アジャイル)対応」「内外一体の政策展開と国際連携」の3原則と、「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」の4方針が掲げられています。 平成31年に内閣府が発表した「人間中心のAI社会原則」が堅持されてはいますが、AI基本計画では人間とAIの「協働」を推進し、制度や社会の仕組みを継続的に変革していくことの重要性が強調されています。生成AIの登場から最近の急速な利用拡大により、これまでは人間が担ってきた業務をAIが支援または代行するようになったことで「人間とAIの協業」が注目されていることを踏まえたと見られます。 もはやAIの導入は単なる技術的な変化に留まらず、労働市場(雇用)、教育、産業の在り方といった人間の活動、さらには社会全体に影響を及ぼすものとなっており、産業構造や教育・雇用制度の見直しが必要であると認識されているのです。 AIの発展と科学研究 -…

大学発ベンチャーの事例

前編・大学発スタートアップベンチャーの今では、経済産業省の調査報告を基に、日本における大学ベンチャーの現状と政府支援についてお伝えしました。後編では、2025年時点でのいくつかの事例と大学発ベンチャーが抱える課題について取り上げます。 大学発スタートアップの状況 経済産業省の「令和6年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」によると、大学発スタートアップ数のトップは東京大学(468社)で、京都大学、慶應義塾大学、大阪大学と続きます。2023年度からは2位の京都大学と3位の慶應義塾大学の順位が反転していますが、いずれも昨年に比べて企業数は大幅に増えています。複数の大学が関与しているケースでの重複カウント、実態把握におけるタイムラグ、さらに経済産業省の定義に基づく調査の結果であることも踏まえると、大学が公認している数とは多少の差が出ている可能性もありますが、国立大学系からの大学発ベンチャーが強い傾向は健在です。 出典:経済産業省 令和6年度 産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書 スライド17 興味深いのは、右表で示されているように一部の大学で顕著な伸びが見られていることです。企業数では24位(47社)の関西大学は前年比で500%を超える伸びで増加率1位となっています。本記事では、企業数順位に比べて変動の激しい増加率順位の中で高順位を保っている情報経営イノベーション専門職大学ほか、いくつかの大学発ベンチャーの取り組みを見てみます。 情報経営イノベーション専門職大学 2020年4月に開学した情報経営イノベーション専門職大学(iU)は、情報経営イノベーション関する専門知識・スキルの習得に特化した大学です。「ICT(注:Information and Communication Technology、情報通信技術)テクノロジーやビジネススキルを活用して社会課題を解決するエンジニア、コンサルタント、起業家として、世の中に新しいサービスやビジネスを生み出すイノベーターを育成」することを目的に、産業界で活躍してきた実務家を教員として迎え、起業に必要な知識とスキルを徹底的に学ぶためのカリキュラムを提供します。 在学中から産学連携プロジェクトに携わることができるだけでなく、学内外から企業についての助言や出資を得ることができる、卒業生が起業する際には大学キャンパスで法人登記ができるなど、起業にチャレンジできる制度が充実しています。卒業後の進路のひとつとして「起業」を念頭に入れたカリキュラムを提供していることが起業意向の強い学生を呼び込み、学生の「起業」を全面的にバックアップする―その結果が、先述した大学発ベンチャーの実態などに関する調査で国内大学における前年比増加率で好成績(令和4年度および5年度報告で1位、令和6年度年度報告では4位)を記録し続けている実績につながっていると言えそうです。 東京科学大学 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学が設立されました。…

大学発ベンチャーの今

「大学発ベンチャー」または「大学発スタートアップ」と称される、大学に所属する研究者が投資家から資金を調達して事業を立ち上げる動きが社会にイノベーションをもたらしています。広い意味では「スタートアップ(startup)」は「ベンチャー(venture)」に含まれるとも言えますが、この2つには成長戦略および成長速度に違いがあるとされています。とはいえ、日本政府は「大学発ベンチャー」および「スタートアップ」を厳密に区別することなく支援しています。本記事では、日本における大学発ベンチャーの状況を前編、事例などを後編に分けて紹介します。 大学発ベンチャーとは 「大学発ベンチャー」とは、新しい市場の創出を目指して大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い事業に反映させるべく設立されたベンチャー企業のことです。経済的なイノベーションをもたらすことが期待されており、今ではさまざまな分野や業種に広がっています。 大学発ベンチャーへの期待 「大学発ベンチャー」は、新しい技術や従来にない斬新なアイデアを事業として新しい製品やサービスを提供する企業で、大学と深い関係を持っています。近年はIT系に限らずさまざまな分野に登場しており、イノベーションの担い手として大きな期待が寄せられており、特に近年は、ディープテックと呼ばれるAI(人工知能)や量子コンピュータ、再生医療などに関連する最先端の研究成果を事業化する大学発ベンチャーが注目されています。文部科学省が、今までの常識を壊すような過去に事例の無いビジネスを生み出す「破壊的イノベーション」だと記していることにも期待の高さが垣間見えます。 出典:文部科学省「いま、大学発スタートアップが熱い」より 日本政府による支援 何といっても大学発ベンチャーの強みは大学における最先端の研究成果を事業に反映させることができることです。日本政府は、大学等が新規事業を創出するのを支えるエコシステムの仕組みを形成すべく、「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)」と「スタートアップ育成5カ年計画」を策定し、支援体制を整えています。 D-Globalは、大学等発の技術シーズを核にして、社会・経済に大きなインパクトを生み、国際展開を含め大きく事業成長するポテンシャルを有するディープテック・スタートアップの創出を目的とするもので、スタートアップ育成5カ年計画は、大学等発スタートアップの継続的な創出を支える人材・知・資金が循環するエコシステムを全国に形成することを目的とするものです。D-Globalは2025年5月13日を締め切りに第3回公募が行われていました。 文部科学省におけるスタートアップ支援施策を中心とした支援により大学発ベンチャーの数は年々増加してきています。2025年6月6日に発表された経済産業省の「令和6年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」によると大学発ベンチャーの数は、2014年度以降増加傾向にあり、2024年10月時点で5,074社と、2023年度(4,288社)からさらに786社増加し、企業数および増加数ともに過去最高を更新しました。政府は、2026年度の中間目標で累計4,000件、2027年度に5,000件の支援を行うことを目標としていましたが、この目標を前倒しで達成したことになります。 出典:令和6年度 産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書 *この調査の対象には、大学、高等専門学校の他、国内の特定非営利活動法人(NPO法人)、一般社団法人や個人事業主等も含まれている。 大学発ベンチャーとディープテック:期待の分野 大学発ベンチャーで特に注力分野とされているのが、世界的な経済社会課題を解決し、社会にインパクトを与える潜在力のあるディープテック、つまり人工知能(AI)、量子コンピュータ、宇宙、核融合、再生医療等の技術分野です。大学や研究機関で生まれた高度で先進的な研究結果がディープテック・スタートアップのシーズ(種)となることから、大学からの積極的な技術移転が期待されています。技術移転のひとつのやり方として大学発ベンチャーを立ち上げれば、その技術を社会実装するチャンスが広がるだけでなく、ライセンスを有する技術の移転が外部資金獲得につながる可能性も有しています。…

STEAM人材が活躍する時代

AIによって人間の仕事が奪われるのか-といったテーマが話される時代、今こそ必要とされるのはどのような人材なのか。その答えの鍵になるのは「STEAM人材」ではないでしょうか。STEAM人材とは、STEMと呼ばれる科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の分野にリベラルアーツ(Arts)を加えた幅広い分野の知識や技能を習得した人となります。以前は科学技術リテラシーを重視したSTEM人材の育成が推進されていましたが、テクノロジーやAIが普及した今では、社会に求められる人材の資質が変化し、「A」の要素を加えたSTEAM人材の育成が注目されています。 社会の変化:STEMからSTEAMへ 2000年代、実社会に応用できる科学技術の知識や技能の習得を促そうというアプローチのもと、アメリカを中心にSTEM教育についての議論が活発化し、STEM教育による人材育成が国の競争力を高めるとして、急速に世界に広がっていきました。アメリカでは2000年代に国を挙げてSTEM教育を推し進め、2015年にはSTEM教育法 STEM Education Act を制定しています。 その後、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やロボット、AI(人工知能)といったテクノロジーがめざましい速度で発展すると、あらゆる産業分野で今までにはない革新的技術が使われるようになりました。急速な科学技術やテクノロジーの発展により、第四次産業革命(インダストリー4.0とも呼ばれる)が起きていると言われることもあるようですが、私たちの社会・経済はめざましい勢いで大きく変化しています。生活の中の「普通」がどんどん変わっていっているのです。 ではここで、この十数年の間に生活の中の「普通」を覆してきた企業のビジネスを振り返って見ましょう。 すぐに頭に浮かぶのは、Apple、MicrosoftやGoogleといった世界を席巻するIT企業の製品やサービスでしょう。例えば、2007年に発売されたiPhoneは、技術もさることながら、そのユーザーフェースに画期的なデザインを取り入れたことで衝撃的でした。それまでの携帯電話にあった物理的なキーボードをなくし、基本的な操作を液晶画面の中に全て詰め込んだのです。そのデザインは発売から20年近くなる今も使い続けられ、他社の携帯電話にも普及しています。 Googleなどのサービスにおいても、ユーザーを意識したデザインが取り入れられています。かつてはデザインより機能が優先されていましたが、発想の転換を新しい技術がサポートし、それまでは実現できなかった製品やサービスが登場するようになっているのです。祖父母の時代、ほんの50年程前には、パソコン並みの機能を持った電話がポケットに入っているなど想像すらできませんでした。逆に、現代の子供にはダイヤル式の電話機は何だかわからない物体となっていることでしょう。 急速に変化する社会の中、ビジネスの世界では、技術開発やマーケティングに人間本来の創造性やユーザーの目線を意識したデザインを取り入れていこうとの動きが広がっています。こうした変化に対応するには、ユーザーの本質的なニーズを見つけながら変革させていく思考である「デザイン思考(Design thinking)」が求められます。携帯画面のレイアウトやボタンの操作性だけの問題ではありません。ほとんどの業種においてホームページやSNSコンテンツを作成する際、ユーザーのニーズを意識したデザインは不可欠です。「デザイン思考」が注目されるようになったことこそが、芸術的な感性や創造力を育む「A(リベラルアーツ)」を教育に取り込み、STEMからSTEAMへと変化してきた背景にあります。…

STEMからSTEAM:文理融合を目指す教育へ

2000年代初頭には、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの分野を横断的に学び、自分で考えて問題を発見し、解決する力を養うことを目指すSTEM教育が主流でした。しかし、AI(人口知能)が浸透し、単純作業などがAIによって効率的に処理されるようになり、スマートフォンが普及している現代に生きる子どもたちには、STEMの教養(科学技術的な知識)とともに、「自分で考える」力が必要となっています。そこで、最近は創造性や表現力を育成しようとの発想から、STEMにArt/Arts(芸術/リベラルアーツ、教養)を加えたSTEAM教育を推進する動きが広がっています。STEMとSTEAMの違い、日本のSTEAM教育の状況などを紹介します。 STEM教育とは STEMという頭字語は1990年代に使われ始めました。当初は「SMET」と呼ばれていたものが、2001年にアメリカ国立科学財団(National Science Foundation: NSF)が「STEM」と使ったことからSTEMという言葉が広がったと記されています。1990年代から2000年代にかけてのハイテク・ブームの中で国際競争力を高めるには、科学技術の知識とスキルを持った人材の育成が必要だったため、密接に関わっている科学(S)・技術(T)・工学(E)・数学(M)の4つの分野を関連づけて学ぶように「STEM教育」が推奨されたわけです。 アメリカでは2000年代、国を挙げてSTEM教育を推し進めてきました。オバマ大統領(当時)はSTEM教育を国の優先課題と位置づけ、2011年には年間37億ドルの予算を付けました。2015年にはそれまでのSTEM教育プログラムを法的に支援するためにSTEM教育法(STEM Education Act)を制定し、STEMにコンピューターサイエンスを含めるなど、定義を拡張させていきました。ITが社会に浸透し始めたころ、STEM知識を身につけることは、より給与の良い職に就くためのチャンスにつながったのです。NSFによると、2012年の(米国内の)科学・エンジニア職種の労働者の収入の中央値は78,270ドルで、米国の全労働者の中央値(34,750ドル)の2倍以上であったそうです。 STEAM教育とは:STEM+A STEAM教育とは、STEMに芸術分野のArt/Arts(A)を追加した教育方針ですが、「A」には幅広い分野が含まれています。STEMが科学的概念に重点を置くのに対し、STEAMは創造的・芸術的なプロセスを含めて捉えることを重視しています。 STEAMは、2006年にアメリカの教育者ジョーゼット・ヤークマン氏によって提唱された教育概念です。これからの人材育成には、科学技術への理解に加えて判断力や問題解決力が必要であるとして、芸術性・創造性を育むことを目的に「A」が追加されました。芸術と科学技術とのつながりは分かりにくいかもしれませんが、例えば、彫刻を学ぶ学生が彫刻を彫らずに、3次元モデルをデザインするためにコンピューターのプログラムを学ぶというようなものです。STEAM教育は、5つの分野の知識・技術を関連づけながら総合的な知識、教養を身につけ、科学的専門性だけでなく、独創的かつ創造的な考え方を養うことを目指しています。 文部科学省によるSTEAMの定義 STEAM 教育(Science,…

科学を含めた公共財について考える

グローバル公共財の代表―ワクチン COVID-19のワクチン開発が進められていた2020年5月に開催された世界保健機関(World Health Organization: WHO)の総会で採択された決議には、「安全で、質が高く、効果的で、アクセス可能で、安価なワクチンが利用可能になった際には(once safe, quality, effective, accessible and affordable vaccines are available)」、 COVID-19の広範な免疫化は健康のための「グローバル公共財(a…

理工系を選ぶ女性を特別視しない社会に向けて

この10年ほどでジェンダーについての考え方は大きく様変わりしてきました。理工系分野における女子学生の少なさから「リケジョ」という呼び方が登場した際、この言葉は女性研究者の少なさを強調しており差別的だとの批判が出た一方で、この呼称を前面に出して活動を広げる女性や、理工系を目指す女子学生を支援する動きが出てきたことは面白い社会現象だと言えるでしょう。 それでも、世界に比べると日本で理工系を選択する女性の数はまだまだ少ない状況です。今回は、日本の女子学生の現状と、女性が理工系分野を選択しやすくなるための取り組みについてまとめてみました。 日本の女子学生の現状 残念ながら日本にはジェンダーギャップが存在しています。それは、学問分野に限らず、世界経済フォーラム(The World Economic Forum: WEF)が毎年発表しているGlobal Gender Gap Report(世界男女格差報告書)を見ても明らかです。2024年版の報告書の日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中118位。こうした社会風土は、大学の理工系学部に進学する女子学生が極めて低いことの一因にもなっていると思われます。 文科省が公表している学校基本調査(確定値)によれば、2023年度の大学進学率は57.7%と過去最高を更新しており、これを性別で見ると、男子が60.7%(前年度1.0ポイント増)、女子が54.5%(同1.1ポイント増)と、男女差は0.1ポイント縮小してきています。ところが、学部の選択となると割合が変わってしまうのです。数学や科学といった理工系科目に対する苦手意識が原因でしょうか。 経済協力開発機構(The Organization for…

即時オープンアクセス義務化への準備はできているか?

即時オープンアクセス(OA)とは、学術雑誌(ジャーナル)に論文が受理・出版されると同時に、誰もが無料でアクセスできるインターネット上で論文を公開し読めるようにすることです。 2018年9月に、欧州の研究助成機関が助成した研究成果を完全かつ論文発表直後からオープンアクセスとするためのイニシアチブcOAlition Sが、すべての研究をオープンアクセスにすることを目指すプランSを発表して以降、研究論文のOA化が進んできました。 発足以降、cOAlition Sに参加する助成機関はヨーロッパ、米国、オーストラリア、南アフリカに広がり、2022年8月には米国バイデン政権が、遅くとも2025年末までに連邦政府から助成を受けた研究の成果は出版と同時に無料で読めるようにするとの方針を打ち出し、翌2023年5月のG7広島サミットおよびG7仙台科学技術大臣会合の共同声明には、公的資金による研究成果の即時オープンアクセスの支援を含むオープンサイエンスの推進が盛り込まれました。 日本でのOA化に関する基本方針 日本では、前述のG7会合を踏まえ、競争的研究費制度における2025年度新規公募分からの学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた国の方針「統合イノベーション戦略2023」が2023年5月に閣議決定されました。 これに基づき、日本学術振興会がOA化に関する実施方針を定め、科研費をはじめとする研究資金の助成を受けた研究論文は、原則としてオープンアクセスとすることとしました。その後、2023年10月には、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)有識者議員懇談会が議論のとりまとめとして「公的資金による学術論文等のオープンアクセスの実現に向けた基本的な考え方」を公表し、この理念を踏まえ、2024年2月には「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」が決定されています。 この基本方針には、「2025年度から新たに公募を行う即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費を受給する者(法人を含む)に対し、該当する競争的研究費による学術論文及び根拠データの学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務づける」と記されていますが、2025年度という期限が近づくにつれ、OA化への準備が不十分であるとの調査結果が出てきています。 調査結果から見える準備の遅れと財政的支援の必要性 科学技術や学術振興に関する基礎的な事項を調査・研究する国立の試験研究機関である科学技術・学術政策研究所(National Institute of Science and…

日本の研究者は再び世界と肩を並べることが出来るか?

「日本の研究は世界トップレベル」「アメリカに次ぐ世界第2位」だと思っていませんか? 確かにかつては「トップレベル」と評されたこともありました。しかし今、学術研究における日本の地位は急激に下降しています。そう聞くと博士課程に進学することを躊躇したり、研究者になるのを諦めたりしたくなるかもしれませんが、明るい話題もあるので悲観する必要はありません。 世界における日本の研究レベル まず日本の国際的研究レベルは現在どのくらいなのでしょうか。引用数の高い論文の発表数、特にトップ10%補正論文数(論文の被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)がどのくらいかがひとつの指標になります。「科学技術指標2020」(科学技術・学術政策研究所)によると、2016-2018年の年平均で日本の世界ランクはなんと11位でした。アメリカに次ぐ2位どころではありません。1996-1998年の年平均でも世界4位でしたので、日本の研究レベルは急激に下降していると言わざるを得ません。また、単純に論文発表数だけを見ると2018年で日本は世界5位でしたが、2011年以降は下降が続いています。この数字を見る限り、世界と比較した日本の研究レベルは決して良好とは言えません。近年、日本の研究レベルの低下を多くの研究者や学術関係者が訴えてきましたが、ここにきてやっと日本政府も危機的事態を認識し、対策に動き出しました。 10兆円規模の大学ファンド 研究を促進するために研究費は欠かせません。2020年12月、日本政府は日本の大学研究における資金繰りに多大な影響を与える「大学ファンド」の構想を発表しました。それは10兆円規模の大学ファンドを創設し、世界に比肩するレベルの研究開発を目指すというもので(国立研究開発法人科学技術振興機構作成の説明資料)、2021年1月にはこの大学ファンドの創設費用5000億円を含む補正予算が成立しました。これが日本の大学の国際競争力の強化や、博士課程学生などの若手研究者の人材育成、研究施設の整備支援の充実などが進むことが期待されます。 多様化する研究費獲得方法 多くの研究者は、科研費や他の研究助成金などから研究費を得ていますが、近年、研究費の獲得方法も多様化が進んでいます。大学・研究機関の独自の基金、財団や企業からの助成金などが増え、一例ですが公益財団法人 助成財団センターのように助成金情報を発信するサイトもあります。academistのような寄付(クラウドファンディング)による研究費調達という新しい形も登場しているので、選択肢は増えつつあるも受け入れられるようになっていますし、国外の研究機関からの研究助成の情報もウェブサイトで検索できるようになってきています。研究費の獲得方法が多様化するのは、研究の幅を広げることにも役立つでしょう。 国際共同研究 国際的な共同研究に参加することは、高インパクトな学術雑誌(ジャーナル)に、より多くの研究者に引用されるような論文を発表するチャンスを広げます。自分の専門分野に限定せず、分野や国を超えて世界中の研究者と共同研究を行うことで、幅広い研究に関与することも可能です。やり方によっては研究費を持ち寄ることも可能ですし、それぞれの専門分野に応じて作業分担することもできるでしょう。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2020」によると世界で国際共著論文が増えており、日本の国際共著論文の割合も年々増加傾向にあります。2018年時点での日本の国際共著率は35.1%と1981年比で約30ポイント増加していますが、それでも米国(45.4%)や英国(69.4%)に比べて低いので、今後も積極的に国際共同研究を推進していくことが望まれます。 大学ファンドが日本の学術研究をどのように後押し、日本の研究レベルが再び世界と肩を並べることにつながるか、今後の動きにも注目です。 こんな記事もどうぞ エナゴ学術英語アカデミー 日本の研究費に関する事情と未来

日本のAI医療 これからの課題と最新事例【2023年版】

自動翻訳や検索エンジンの最適化、自動車の自動運転や安全運転システム、お掃除ロボットまで、AI(人工知能)は生活の中に入り込み、その役割を広げつつあります。医学、医療・ヘルスケア分野も例外ではありません。医療業界でAI技術がどのように利用されているのか、日本のAI医療の状況について探ってみました。 医療AIへの期待 機械学習・深層学習技術の発展にともない、ニューラルネットワークによるデータの分析と学習を重ねることでAIは同時の判断基準を構築、分類できるようになりました。医療AIとは、このAIの仕組みを医療現場に取り込んだものです。医療現場では、診断、治療法や薬剤の選択など多くの判断が求められるため、医療AIの導入によって、より正確な判断が下せるようになったり、医療現場における人員不足による業務負担の軽減に役立ったりすることが期待されています。 医療AIの活用が期待されるポイント 医療データの収集と活用 医療現場の(管理)業務の効率化 医療の質の向上 患者の負担軽減と情報提供 通常、我々は病気にならないように「予防」し、それでも調子が悪くなったときに医師に「診断」してもらい、その結果に応じて「治療」を受けます。AIはこれらすべての段階で活用されており、医療従事者の人材不足や経験不足が問題となっている現状では、医療AIは患者・医療従事者の双方にとって非常に大きなメリットをもたらしています。さらに、マイナンバーカードの健康保険証利用が促進されているように、健康保険証医療保険制度や医療提供体制を含む医療社会インフラにおいてもAIの活用が見込まれています。 医療データの収集と活用 マイナンバーカードと国民健康保険の紐付けが実現すれば1億2500万人の国民データを集約することが可能になります。AIは蓄積されたデータ量が増えれば増えるほど正確性が増します。社会的な医療システムが確立していない国では同様の方法でのデータ収集ができないので、幅広く国民の医療データが収集できることは日本の医療戦略において実質的な強みとなるでしょう。 AIは、患者が自宅で診断に必要なデータを収集することも可能にします。例えば、大阪大学と東京大学の研究グループは、被験者が休息状態中の脳波や脳磁図(MEG)の波形信号を読み解くことで神経疾患の判定ができる自動診断システム「MNet」を開発しました。MNetがさまざまな神経疾患の診断を補助し、重症度、予後の判定、治療効果の判定などにも応用できると期待されています。 さまざまな産業・業界が連携し、データの収集や健康情報の提供を行っています。しかし、さまざまな手段で集められたデータがどう利用されるのかは気になるところです。日本は、利用可能なデータを収集するインフラの整備を進めている段階にあります。医療を含むさまざまな分野におけるAI開発はまだまだ始まったばかりで、今後大きく展開していく可能性を秘めています。重要なのは、信頼性の高いデータを大規模に収集し、いかに利用可能とできるかであり、日本各地で収集された臨床データをデータベース化すること、データを適切に匿名化し、研究者が容易に利用できるようにすることが必要です。 医療現場の(管理)業務の効率化 医療現場では人材不足の改善を目的としたAI導入も進んでいます。株式会社アルメックスが開発した「Sma-pa…

日本の研究費に関する事情と未来

研究に欠かせないのは資金です。研究費なくしては学術研究を続けることはできません。研究費の獲得は個人研究者にとっても、大学・研究機関にとっても常に頭を悩ませることでしょう。日本の研究費を取り巻く状況といくつかの研究資金を助成する公募情報を紹介します。 国の研究費事情 2021年1月、世界レベルの研究基盤を構築するための大学ファンドの創設費用5000億円を含む令和2年度(20年度)の第3次補正予算が成立しました。そして、3月5日には、2016~20年度の科学技術関係予算が総額28.6兆円(グリーンイノベーション基金事業および「10億円規模の大学ファンド」を含む額)に達し、この5年間の政府研究開発投資額を26兆円と定めていた第5期科学技術基本計画の目標を達成したと内閣府が発表しました。第6期基本計画(21~25年度)では30兆円を目標に掲げています。引き続き重要な分野や効果の高い施策への重点的な資源配分を図るとともに、官民の研究開発投資の拡充を目指すとしており、この数字だけ見れば日本の研究資金は潤沢なように見えますが、研究者に十分な研究費が届いているのでしょうか。 日本の科学技術関係予算は少なくないと言われても…… 科学技術基本計画で目標としていた科学技術イノベーション関連予算の対GDP比1%(第5期科学技術基本計画においては約26兆円に相当)の目標は達成したものの、米中をはじめとする諸外国の投資額の伸びには追いついていない状況です。実際、世界の研究開発費の国別ランキング・推移(UNESCO統計、2018年データの比較)を見ると、トップ3は米国(581,553百万米ドル)、中国(465,162百万米ドル)、日本(171,294百万米ドル)となっており、2位の中国の金額とに大きな開きがあります(集計値については統計の仕方と思われるが文科省が提示している「科学技術指標2020」に示された額と若干の差がある)。同じ統計にある研究者1人当たりの研究開発費ランキングになると、日本の順位は一気に下がって16位。ここでは中国が17位と日本より下回っていますが、近年、中国政府が科学技術推進に力を入れていることを考えると2019年以降のデータでは入れ替わりがあるかもしれません。問題はこの予算がどのように配分されているのか、研究者がいくら使えるのか、という点です。現実問題として「研究予算は厳しい」と考えている大学や研究機関などが多々あります。さらに、研究の生産性は研究費だけでなく、研究インフラ・雇用環境にも左右されます。研究者が大学内の事務手続や、研究費の申請などの事務手続に時間を取られていることが指摘されており、それを裏付ける数字として、大学教員の総職務時間に占める研究時間割合が、2002年から2013年の間に46.5%から35%に減少していたことが示されています。資金に加えて研究時間も不足してしまったのでは研究は立ちゆかなくなってしまいます。政府は、「競争的研究費制度」に関する事務手続のルールが省庁間で異なることが研究者への負担増の一因であるとの指摘を受け、研究者の研究環境の改善等に向けて事務負担を軽減することを目指し、研究費のルールを統一化することを表明しました。この試みが、研究者が研究に集中できる環境の整備につながることを期待します。 研究資金源の多様化 長い時間を要する基礎研究では研究助成金の獲得が難しいため、成果が出やすい研究、社会的なインパクトが大きいと期待されている研究、実用化しやすい研究などの応用研究を選択する研究者もいるでしょう。研究開発への投資額が全体として増えていても、競争を勝ち抜かなければ研究費を獲得できず、しかもすべての研究者が必要十分な研究費を獲得できるわけでもありません。とはいえ、明るい話題もあります。近年は、研究費の獲得方法も多様化が進み、行政機関からの資金だけでなく、大学や研究機関による独自の基金や、財団や団体・企業による研究助成も増えています。寄付による基金の設立や、クラウドファンディングで研究費を獲得することもひとつの手段として受け入れられつつあり、学術系クラウドファンディング「academist(アカデミスト)」には成功を収めた数々のプロジェクトが掲載されています。関心のある人が少しずつでも資金を提供することで研究を支援するというスタイルが、日本でも広がってきています。初めから科研費のような大型の研究助成金に挑むのではなく、民間助成基金やクラウドファンディングを利用して小規模な研究から始め、その研究成果をもってより大型の助成金に応募し、研究を拡大していくことも可能となってきているのです。どのような研究費を獲得し、どのように研究を広げていくか、中長期的な研究費獲得戦略を考えていくことが必要となっています。 研究費獲得のチャンスを探す 一口に研究費といってもさまざまです。政府資金に基づく科学研究費助成事業(科研費)は、人文学、社会科学、自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を発展させることを目的とした「競争的研究資金」です。他にも団体・機関や民間企業が研究助成金の公募を行っているので、大学病院医療情報ネットワークセンター(UMIN)のFIND(研究助成等)や公益財団法人 助成財団センターの助成情報(助成金募集ニュースや助成金情報データ検索)のような公募情報サイトを確認しておくと研究費獲得のチャンスを広げることができるでしょう。 2020年はCOVID-19感染拡大により、国境を超えた移動が制限されたり、大学・研究機関が閉鎖されたりするなどに加えて、研究助成金の応募休止など、研究活動を妨げる出来事が重なりました。それでも、ASEAN諸国を中心に助成・フェローシッププログラムを展開する国際交流基金アジアセンターが、コロナ禍に対応した国境を越えた人の移動を伴わない交流事業への支援に特化したプログラムの実施を表明したり、公益財団法人 トヨタ財団が2021年4月に新助成テーマによる公募開始を予定したりしているなど、少しずつですが動き出しています。チャンスを逃さないように注意が必要です。 自分に必要なプログラムを見つける 若手研究者の中には、研究活動そのものを継続するための資金援助が必要という人もいることでしょう。研究費全体を支援するもの以外にも、(現時点では国外渡航しての学会参加などは制限されているものの)国際的なシンポジウム・セミナーなどに参加する費用を支援するものや、奨学金のような財政援助などもあるので、自分に必要なプログラムを見つけて応募するとよいでしょう。幾つか挙げてみます。 JAPAN-IMF…