ジャーナル選択の基本

電子ジャーナルか紙媒体か – 学術雑誌の特徴比較

1665年に英国王立協会が英語圏最古の学術雑誌(ジャーナル)『Philosophical Transactions』を刊行して以降、多種多様なジャーナルが刊行されています。研究成果をジャーナルで発表することは、研究者としてのキャリアを進めるうえで大きな役割を果たします。ジャーナルは、信頼に裏付けられた学術的知見を広く伝え、論文を入手しやすくさせるための重要な手段です。現在、多くのジャーナルのオンライン化が進み、電子媒体(またはデジタル版)と紙媒体(冊子体)という2つの形式で提供されるようになっています。 紙媒体のジャーナルを閲覧する際は、統合型図書館システム(ILS)が使われますが、近年、ジャーナルを含む資料の電子化が進んでいるのに伴い、ILS以外の電子情報資源管理システム(ERMS)などのシステムを組み合わせて使うことも増えています。紙媒体のジャーナルを電子化した「電子ジャーナル」はオンラインで公開されているので、ネット環境があれば図書館に行かなくても出版された論文や文献、調査資料などを閲覧することが可能です。紙媒体が主流だったときには、印刷されたものやCD-ROMなどでしか読めなかった海外の論文などもオンラインで読むことが可能となっています。この記事では、電子ジャーナルの特徴とその強みを中心に、紙媒体との違いを挙げていきます。 1.アクセシビリティ(論文の閲覧・入手しやすさ) 紙媒体のジャーナルはそのジャーナルを所蔵している図書館で、あるいは購読して閲覧するのが一般的ですが、いつも図書館を利用できるとも限らず、高額な学術ジャーナルを個人で複数購読することも困難です。しかも図書館の蔵書数が少なければ、多くの人が同時に閲覧することはできません。さらに、紙媒体の場合は出版社から図書館や購読者に郵送されてくるため、読者が閲覧できるまでには時間を要してしまいます。その点、電子ジャーナルはオンラインに公開されれば即時に閲覧が可能です。しかも、いつでもどこからでも、複数の読者が同時にアクセスできる点は大きなメリットです。ただし、電子ジャーナルにもオープンアクセス型と定期購読型があり、それによってアクセシビリティには差が生じます。自分の読みたい、あるいは投稿したいジャーナルがどのタイプなのかは確認しておきましょう。 2.引用数 オープンアクセス(OA)の電子ジャーナルの多くは無料で閲覧できるので、その引用数は紙媒体の引用数よりも多くなります。ここ何年かの間に、OAジャーナルに掲載された論文の引用数が、OAではないジャーナルあるいは紙媒体のジャーナルに掲載された論文に比べて高くなることが分かってきました。そして、論文の引用数が増えればジャーナルのインパクトファクターも上がっていくことになります。 3.検索エンジン最適化(SEO)対策 検索エンジン最適化(SEO)とは、特定のキーワードで検索された際に検索結果ページの上位に表示されるようにする手法です。つまり、適切なキーワードを挿入するなどといったSEO対策が施されていれば、オンラインで発表した論文が上位に表示され、より多くの読者に見つけられやすくすることができるのです。論文を広く読んでもらうためには重要な役割を果たすものなので、著者向けのSEOガイドや論文を見つけやすくするためのヒントなどの情報を参考にすると良いでしょう。 4.ハイパーリンクの挿入による情報提供 紙媒体の場合には、巻末に引用文献の一覧を掲載したり、脚注に補足情報を記載したりしますが、電子ジャーナルの場合には文中にハイパーリンクを貼ることで、資料の出典や記載内容に関連する情報を簡単に提供することができます。しかし文中に埋め込まれたリンクは大変便利な反面、読者を間違った方向へ導き、何を読んでいるのか分からなくさせてしまう恐れがあることには留意すべきです。 ハイパーリンクの挿入以外にも電子ジャーナルには、類似のドメインを持つ論文を他のリンクに付けたり、動画を挿入したりすることはもちろん、デジタル広告やその他のクリック可能なコンテンツを入れ込むことも可能です。このように紙媒体ではまったく考えられなかったことが電子ジャーナルでは可能です。 5.原稿のフォーマット 紙媒体と電子媒体のどちらに論文原稿を投稿するのでも標準的な書式(フォーマット)に準じて準備する必要があります。印刷費用のかかる紙媒体では、、電子ジャーナルよりも厳しい字数制限が設けられていることがあります。これは、投稿論文に割り当てることができるスペースの制約によるものですが、字数制限に従わなければ修正を求められたりすることもあるでしょう。電子ジャーナルの場合、掲載論文はPDFまたはHTML形式で公開されます。PDF形式の場合は、紙面で読むのと変わらないイメージになります。いずれの媒体においても、フォント、デザイン、記載文章、ページレイアウト、外観(ページの体裁の美しさ)、文章のレイアウトなどは書式規定に従って作成します。 6.引用文献リストのスタイル…

ジャーナル選択を支援する新たなツール誕生!

近年の出版界における紙から電子媒体への急速な移行は、学術ジャーナルの世界にも、かつてない変化をもたらしています。多くの大学関係者、特に若手研究者は、オンライン化で急拡大したジャーナルの選択肢に圧倒されがちです。「自分の論文をよく読んでもらうにはどのジャーナルに掲載すればいいのか」――。これは研究者にとって死活問題であり、オンライン化の進行が、問題の深刻さに拍車をかけています。 ■ 捕食出版社の跳梁跋扈 研究者を悩ませるのはオンライン化だけではありません。最近では、とんでもない「インチキ出版社」の登場が、学術界で問題視されています。研究者は苦労して仕上げた論文を、できる限り近い専門分野の、かつ研究成果や努力の重要さを理解してくれる学術ジャーナルに掲載したいものです。掲載誌を選択するにあたって重要なのは、投稿すべきジャーナルの質です。しかし、価値ある新しいジャーナルが刊行される一方で、「捕食ジャーナル」と呼ばれる悪質なジャーナルが出現してきているのです。 利益のみを追求し、倫理違反など気にも留めない出版社とそれらが刊行するジャーナルは「捕食出版社」、「捕食ジャーナル」と称されます。捕食出版社は「タイムリーな刊行」などを誘い文句に大量のメールを送りつけ、論文投稿のプレッシャーに追われる無防備な研究者を釣り上げては、捕食ジャーナルへの論文掲載料を巻き上げるのです。この過程に、まともな査読プロセスや編集体制などは存在しません。 ある調査によると、捕食出版社による論文掲載は、抽出した613誌だけでも、2010年から2014年までの期間に6万本から42万本と7倍にも増加しました。「悪貨は良貨を駆逐する」とは、16世紀に英国のトーマス・グレシャムが指摘した経済学の法則です。「名目上の価値が等しく、事実上の価値が異なる貨幣が同時に流通すると、良貨はしまいこまれて市場から姿を消し、悪化だけが流通する」(出典:故事ことわざ辞典)ことから、悪がはびこると善が廃れるとの意味もあるそうです。捕食ジャーナルの出現と勢力拡大を放置しておいては、まともな論文の価値が損なわれ、適切な評価がされなくなってしまいます。学術研究の停滞にまで発展しかねない問題です。 ■ 捕食ジャーナルに対抗する新たな動き とはいえ、すべてのジャーナルをチェックし、その中に潜む捕食ジャーナルを見つけ出すのは困難と言わざるを得ません。ある算定によると、2014年には8000誌もの捕食ジャーナルが展開されていたと推測されており、研究者は自衛手段を講じる必要に迫られています。 このような状況下で生まれたのが、“Think.Check.Submit.”というツールです。主要出版社と業界団体によって2015年に立ち上げられたこのサイトは、研究者たちに論文掲載先に関する具体的な情報を提供して、ガイド役を務めることをめざしています。特に注力しているのが、研究者に簡便なツールを提供してジャーナル選択のプロセスの簡素化を図り、論文に適し、かつ十分に信頼できるジャーナルを選べるようにすることです。 Think.Check.Submitが提供するツールは無料な上、使いやすく設計されています。第1段階では、研究者に投稿先のジャーナルが信頼できるものであるか、自分の研究分野に即したものであるかを「Think(考え)」させます。第2段階では、研究者が確認すべき実質的な「Check(チェック)」リストに誘導します。ここでの設問は「あなた、あるいはあなたの同僚は、このジャーナルを知っていましたか?」あるいは「このジャーナルの編集委員会は正当だと思いますか?」など。有益な判断材料となる個々の設問に回答しながら考えることで、論文掲載候補から捕食ジャーナルを振るい落としていきます。チェックリストの各項目の確認が済んだ段階で、論文の「Submit(提出)」に進める仕組みになっています。 重要なのは、Think.Check.Submitは決して、特定のジャーナルや執筆者を推薦するものではないということです。このサイトは、研究者が成果のさらなる発展とキャリア形成に役立つ論文の掲載先を、自ら選別できるようになることをめざしているのです。 ■ 適切なジャーナル選択がもたらすもの Think.Check.Submitはジャーナル出版コンサルタント会社のTBI Communicationsによって運営されています。研究者は同社が集める膨大な情報を一か所で入手できることで、直接的な恩恵を受けられます。また、このツールがネット上で利用可能なことにより、英語を母語としていない若手研究者や、定評ある研究資料へのフルアクセスができない環境にいる研究者にも、大きな便益をもたらしているのです。しかし、その反面、このような研究者こそ捕食ジャーナルの格好の餌食となりがちなのも事実です。 時と共に学術界全体の意識が向上しており、捕食ジャーナルに対抗する取り組みへの関心が高まっています。こうした取り組みが浸透すれば、出版社やジャーナルを扱う図書館側も恩恵を得ることができるでしょう。捕食ジャーナルへの対抗という意味だけでなく、正当な出版社と研究者をつなぐ役割を果たすことも期待できます。 つまり研究者の意識が高まり、投稿先ジャーナルの選択において注意深くなることは、捕食ジャーナルを排除し、より真っ当なジャーナルおよび出版社を存続させることになり、結果として社会および長期的な政策決定における利益となるのです。…

投稿先ジャーナルの決め方

英文で発行されている海外ジャーナルに論文を掲載させるためには、論文の内容そのものの質を高いものとすることに加え、ネイティブチェックを入念に行うことも大切です。そのうえで、どのジャーナルを投稿先に選ぶかなど、論文投稿の方法も同じくらい重要です。 オープン・アクセス雑誌の躍進も含め、学術雑誌は多様化の一途をたどっています。そのため、自分の論文に最適な投稿先を探すことは、年々難しくなってきているといってよいでしょう。 対応策としては、まず日頃からの情報収集が求められます。 どんなジャーナルがどんな論文を掲載しているか、また自分の関心のある分野を視野に入れた新しいジャーナルが創刊されていないか、いつも注意を払うようにしてください。 情報収集のためには、自分の研究分野に関わる人たちが参加しているメーリングリストに登録することも有意義ですが、最近では、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアでの情報交換のほうが盛んです。 FacebookなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム)で、近い分野にかかわる研究者たちと「友達」になり、関心のある「グループ」に参加しておくといいでしょう。日本ではSNSといえばFacebookが一般的ですが、英語圏ではLinkedinなどを利用している研究者も少なくないようです。英文のジャーナルに投稿する気なら、FacebookでもLinkedinでも、日本人研究者だけでなく、積極的に外国人研究者とつながっておくべきでしょう。短文投稿サイトであるTwitterでも同様です。近い分野に関心を持つ人々や組織のアカウントをフォローしておくといいでしょう。 ただし、ソーシャルメディアの変化はすさまじいほど早いので、数年後にはFacebookもTwitterも有効な手段ではなくなる可能性があります。ソーシャルメディアの動向そのものにも目を配っておいてください。 また、もしあなたが大学などの教育機関に所属しているならば、図書館の端末で、「JSTOR」などさまざまな論文データベースを検索してみるのもいいでしょう。使い方はすぐ慣れると思いますが、わからないことがあればたいてい図書館の司書が教えてくれます。講習会などが開かれることもあります。 このようにつねに情報収集をしておくことで、どのようなジャーナルが存在し、どのような論文が出版されているか、大まかな情報を把握していれば、自分の論文を掲載するジャーナルを探すときには、すぐにその論文のテーマや研究方法に沿った「掲載される可能性のある学会誌」のリストをつくれるはずです。 リストができたら、これらのジャーナルの認知度を比較します。これにはImpact FactorやThe SCImago Journal RankやH-Indexなどが役に立つでしょう。これらの指標にはさまざまな批判もあるのですが、それでも一般的にいって、これらの数値がよければよいほど、そのジャーナルは「より信頼性の高いハイ・インパクト・ジャーナル」と考えられています。それに論文が掲載されれば、当然ながら、より多くの読者に読んでもらえる機会が増えるでしょう。 職場によっては、「ハイ・インパクト・ジャーナル」に論文が掲載された場合には、そうではないジャーナルに掲載された場合よりも、採用や昇進の検討のさい、より高い得点として数えられることがあるかもしれません。…