ジャーナルに選ばれる原稿とは

相対引用率(RCR)は新たな研究評価の指標となり得るか?

学術ジャーナルに掲載されたみずからの論文が、どのような評価を受けるのか。研究者なら誰もがやきもきすることではないでしょうか。現状の評価システムではそれを正しく測定することはできないと考える向きも少なくありません。そんな中、学術界を変えるかもしれない新たな評価指標が、注目を集めています。 ■ 現状の評価システムが抱える問題 昨今、政府機関の奨学金や連邦補助金の審査においても、査読委員会は研究成果の評価に数理的なアプローチを用いるようになってきました。最もシンプルなアプローチは、論文の筆頭著者および共同著者の被引用数を見ることです。加えて、その論文が掲載されたジャーナルのインパクト・ファクター(掲載論文が特定の期間にどれだけ引用されたかを見る指標)やh指数(h-index:被引用数と論文数のバランスで相対的な貢献度を示す指標)*1も、重要な指標としてあげられます。 学術ジャーナルのインパクト・ファクターとは年度ごとに計測される尺度であり、そのジャーナルの平均被引用数に基づきます。多くの場合、これがジャーナルのその分野での重要性を示します。一般的には、インパクト・ファクターが高ければ高いほどそのジャーナルは重要度が高いと見なされます。一方のh指標とはジャーナルの審査ではなく、執筆者それぞれの生産性と影響力の尺度です。h指標は、対象となる学者の最も引用数の多い論文と他の公刊物への被引用数から算出されます。 これらの指標は広く用いられていますが、学術界ではそれぞれの指標に対し、まだまだ不十分さを感じています。まず第1に、シンプルな被引用数だけでは、数字が個々の論文の価値を十分に反映できないという問題です。第2に、インパクト・ファクターは研究者の資金獲得や雇用の機会を左右するのにもかかわらず、ジャーナルの特殊性に縛られがちで、学際的・脱領域的な成果としてはとても限られた分析しかできません。第3に、h指標は個々の論文に重きを置くことをめざしている反面、論文執筆年数の短い若手研究者に不利に働くことが多いと言われています。 このような問題を抱えるがゆえ、多種多様で膨大な数の対象研究者・論文を適正に評価するためには、もっと効果的な評価基準が必要だ、との叫びが絶えません。情報の大量化と研究分野の特殊化・細分化が進むにつれ、個別の分野内での研究者の貢献度を評価するための新たなパフォーマンス測定指標が必要とされてきました。 ■ 相対引用率(Relative Citation Ratio: RCR)の導入 そこに登場したのが、相対引用率(Relative Citation Ratio: RCR)です。これは、米国の国立衛生研究所(NIH)の科学者グループが開発した新しいアルゴリズムです。RCRは、評価対象の論文を審査する際に、その論文が引用された場において同様に引用された他の論文もチェックします。この作業によって、対象論文の被引用数に対する分野の正規化を行い、論文の影響度を測定するというものです。つまり、ある執筆者が他の執筆者の論文を引用する場合、これによってその論文が関連付けられ、研究審査をする責任者などに対し有用な追加情報を提供することになります。NIHではこのRCRを重要な助成管理ツールとして利用しており、毎年100万本以上もの報告が提出されるバイオメディカル分野の研究を支援する機関でも、これを導入する動きが広がりつつあります。この動きは分野を超えて広がると予想されています。 ■ RCRの算出方法…

CiteScoreは有用な測定ツールか?

学術出版大手のエルゼビアが2016年12月、CiteScore™ (サイトスコア) という学術ジャーナルのための新たな評価指標の提供を開始し、話題となっています。これは、ジャーナルに掲載された論文がどのぐらい引用されたか(被引用件数)を示す指標で、研究者にとって自分の論文の影響力を測る目安になるだけでなく、評価にもつながる重要なものです。 ジャーナルの評価指標としてはClarivate Analyticsが提供する「インパクトファクター」が有名ですが(かつてトムソン・ロイターが運営)、そこにサイトスコアというライバルが登場し、インパクトファクターに取って代わることをめざしているのです。 ■ ジャーナル評価指標はなぜ重要か ジャーナル評価指標とは、ジャーナルに掲載された論文の一つひとつが他の論文にどれだけ引用されたかを分析した数値です。この情報は、どのジャーナルを購読するかを決める図書館司書、どのような記事が多くの読者を獲得できるかを見極めねばならないジャーナル編集者、そして論文こそが最も重要な業績となる執筆者自身にとっても、どのジャーナルに投稿するかを決める際にたいへん参考になるものです。 ■ サイトスコアとインパクトファクターの違い サイトスコアもインパクトファクターも、出版された論文の被引用数の平均値を示すのは同じですが、算出方法などに多少の違いがあります。 エルゼビアのプレスリリース によれば、サイトスコアは、世界最大級の抄録・引用文献データベースScopusに追加されたサービスで、これにより、学術コミュニティは5,000を超える出版社のジャーナルの包括的な評価指標に無料でアクセスすることが可能になりました。サイトスコア評価算出の根拠となるScopusには、あらゆる分野の出版社の2万2,000誌以上のジャーナル、5,200万件以上の文献が収録されており、各ジャーナルのサイトスコアは無料で公開されています。サイトスコアの特徴は、論文やレビューのみならず、カンファレンスペーパー、書簡、論説などジャーナル本体以外の引用もカウントすることです。サイトスコアの算出方法は、対象年において引用された回数を、その対象年に先立つ3年間に出版されScopusに収録された文献数で割るというものです。 算出方法(例) 2015年のCiteScoreは、2012、2013、2014年に出版された文献が2015年に引用された回数を、2012、2013、2014年に出版されScopusに収録されている文献数で割ったものです。 (出所:ELSEVIER: CiteScore)…

いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」

学術論文の影響度を測る指標には、インパクトファクター(Impact Factor)やh指数(h-index)などが知られていますが、近年、「オルトメトリクス(Altmetrics)」という新しい論文評価指標が注目されています。オルトメトリクスは、論文の引用数を反映するだけでなく、論文の閲覧数、ダウンロード数、フェイスブックやツイッターなどソーシャルメディアや報道機関でのコメント数など、論文がもつ影響力のさまざまな面を反映しています。オルトメトリクスはインパクトファクターに取って代わることはできるのでしょうか? 専門家たちに聞いてみました。 出版とは本質的にマーケティングそのもの 近年、オルトメトリクスが、とくにジャーナルなどの学術系出版物の認知度を調査・向上させるために最良な方法かどうかについて、多くの賛否両論が交わされています。学術論文、とくに専門的なトピックについての論文の数がここ数十年で急激に増えるにつれて、多くの学者がかねてから指摘してきたように、査読、引用数など多くの伝統的な評価方法がその影響力を失ってきています。より多くの学者が論文発表の場をウェブ上に移すようになるにしたがい、彼らの多くがオルトメトリクスを論文の成否を判断するための新たなマーケティングツールと見なしつつあります。オルトメトリクスを利用することの副産物として、論文内容のクラウドソーシング化が推し進められる可能性が挙げられられます。これにより、学術的な重要性の指標を探すうえでの迅速かつ信頼性の高い手段を得られます。 しかし、学術界の多くの研究者たちは、この指標を非専門的で非学術的なものとみなしています。同様に、彼らは自身の研究への注目を集めるために考案された、より消費者目線に立ったマーケティング手段という考え自体を忌避する傾向にあります。たとえば多くの研究者は、ソーシャルメディアを利用した消費者目線の学術論文マーケティングを、アクセスや注目を集めるための「不正行為」と見ています。多くの者がそのようなマーケティング的な競争が起こる可能性や、論文へのアクセス数自体が論文の品質を的確に示すものではないことを指摘しています。オルトメトリクスの発案者であるEuan Adie氏自身がいみじくも認めてきたように「オルトメトリクスのスコアは注目度を測るものであって、品質を測るものではない」のです。 多くの研究者たちが指摘してきたように、超大手のジャーナル出版社は、ベストなマーケティング能力と、高いオルトメトリクスを得るために十分な資金を持ち合わせています。しかしオルトメトリクスが論文の質を明確に推し量る材料にはなり得ないかもしれず、マーケティングとプロモーションをもとにした単なるアクセス数にすぎないという問題点も、同時に提起されているのです。 出版とは本質的にマーケティングそのものです。研究者や著者は、論文の内容が他の人に読まれ、賞賛されたいために論文を発表するのです。オルトメトリクスは伝統的な引用数ベースの論文評価方法への代替手段ではありますが、はるかに多くの読者に訴えるマーケティング・コンテンツを評価する新しい方法を、出版社や著者に提供するかもしれません。 アメリカでの校正歴25年以上。学術出版社の営業部長 科学には社会的な側面もある 近年、SNSやブログ、ウェブサイトは、科学者たちにとって実験について議論し、データを共有し説明をしたりするための新たな議論やコミュニケーションの場となっています。ツイッターやリンクトイン(LinkedIn)といったソーシャルネットワークが、論文の引用や科学者どうしのコミュニケーションにおける新たな手段として活用されることにより、オルトメトリクスは、科学系出版物を評価し、研究をこれまで以上に可視的かつ利用しやすいものとする新たな方法となります(http://refractiveindex.wordpress.com/2012/10/19/scientists-and-the-web-new-territories-of-science-communication/)。 しかし科学者たちはあまり認めようとはしないものの、科学には、さまざまなグループが実験データについて異なるモデルを適用して説明するさいにしばしば見られるように、社会的側面があります。こうした傾向の中、ブログやソーシャルネットワークの活用により上記のような社会的側面がどのように強調され、広がっていくのでしょうか? そしてオルトメトリクスはどのようにそれらを反映するのでしょうか? 一方、もし科学の世界でより多くの論文へのアクセスが容易になることが歓迎されても、私は引用されるまでにかかる時間とジャーナルでの出版という現状が、先駆的研究の価値を決定するための重要な二大要素であると考えています。これらの要素は科学的手法の本質的部分であり、時間は科学的研究のインパクトを判定する究極の存在なのです。  アメリカでの校正歴38年。微生物学専門 現時点での評価は時期尚早…