エキスパートインタビュー

学術出版界エキスパートや大学発ベンチャーの社長へのインタビューなど、研究成果の出版を援助する最新技術や学術界の動向をお届けします。

【東京大学発ベンチャー】 エルピクセル株式会社

「ライフサイエンス×ITで、研究界に革新を与えたい。」   STAP細胞論文の不正問題が世間で議論を巻き起こしているなか、今春には論文画像の不正検出ソフトを無料公開したというニュースがマスコミの注目を集めた。開発したのは今年の3月に設立された東京大学発ベンチャーのLPixel(エルピクセル株式会社)。 生命科学分野論文の使用画像に不自然な点を検出するソフトウェア「LP-exam」は、複数の手法を組み合わせて元の画像から9つの分析結果を出力し不正検出のサポートをするもので、国内外から高い関心が寄せられている。研究界で顕著となりつつあるビッグデータの問題に対し、世界トップレベルの技術で課題解決に挑む同社。 同時に、7月には研究者間での知識共有や交流のためのプラットフォーム「LP-Tech」をリリースするなど、研究者のための環境作りも進めている。その根底には、島原社長の「研究者のためによりよい環境を作り、研究の世界を切り拓いていきたい」という熱い想いがあった。 ■「学融合」で生まれた独自の技術 学部時代は遺伝子工学を学んでいましたが、生命科学分野では顕微鏡やMRIなど高度化・膨大化する画像データに画像処理・解析技術が追いついていない現状を目の当たりにし、何とかしたいと考えていました。そこで、大学院では異なる研究分野を掛け合わせて新たな領域を開拓する「学融合」を理念に持つ新領域創成科学研究科へ進み、生命科学と情報学の融合という独自の境地を切り拓くことに挑戦しました。 この先10年で全世界の情報量は数十倍になると言われているなか、研究界でのビッグデータへの対策は遅延しています。画像の処理・解析にかける時間や労力を最小限にできれば、より高度な研究に時間を割くことができます。 iPS細胞や遺伝子治療など、今後ますますライフサイエンスの時代を迎えるなかで、研究室で培った独自のアルゴリズムと最先端の技術を活用して研究界を変えていきたいという思いを抱き、創業に至りました。 ■画像不正問題は他人ごとではない メインの研究用画像解析ソフトウェア開発事業では、研究者の方々の要望に対しオーダーメイドで開発を行います。ソフト開発だけにとどまらず、それぞれの研究に対して有効な画像の撮り方から解析方法まで一貫したコンサルティングが私たちの強み。生命科学と情報学の融合という独自価値が高く評価され、創業時からスムーズに事業を進めることができています。 その折にSTAP細胞論文の不正問題に関する一連の報道が流れ、「これは他人ごとではない」という問題意識を抱きました。画像不正問題は、モラルの低下だけでなく制度疲労も原因の一つとして挙げられます。研究に使用する画像の質と数は劇的な進歩・増加している一方、画像が用いられた論文のチェック・レビュー体制は10年前とさほど変わっていない。現状を変えるためには双方の分野に熟知したオンライン版の開発と無料公開に踏み切りました。 無料公開にしたのは、より多くの人に使っていただくことで画像不正の問題を解決したいから。公開後は国内外から多くの反響をいただき、7月にはより高性能なオフライン版の販売を開始しました。今後は英語版も開発予定です。 ■研究者にとってよりよい環境作りへ 7月に、ライフサイエンス研究者向けのソーシャルメディア「LP-Tech」をリリースしました。「LP-Tech」では、ライフサイエンス領域における画像処理ノウハウの発信や、研究者同士の意見交換の場を提供しています。…

Publons CEO アンドリュー・プレストン氏へのインタビュー

「専門家による論文査読を効果的に行うことで、科学を加速化する」をミッションに掲げて2012年に設立されたPublons(パブロン)社は、世界中の研究者や出版社などの学術関係者とともに、査読者の功績を評価する取り組みを進めています。今回お話を伺ったパブロン社の共同創設者兼CEOであるアンドリュー・プレストン(Andrew Preston)氏は、ヴィクトリア大学で物理学の博士号を取得し、ボストン大学でポスドク研究員をされていた経歴の持ち主。研究者から一転してパブロン社を設立された経緯や最近の取り組みを伺いました。 ■まずはパブロン社を設立する前の話を聞かせてください。大学では物理学を専攻されたのですよね? 私は昔から、宇宙の仕組みに関心を持っていました。学びをもっと深めたいと思い、物理学を専攻したのです。宇宙の謎に向き合うことは素晴らしい経験であり、これからもずっと興味を持ち続けていくことでしょう。 ポスドクをやめる際は非常に悩みましたが、今振り返ってみても正しい決断でした。学問の世界から離れることは、ある意味で戻ることのできない一方通行の道を行くようなものです。しかし、決めるのが難しいということは、どちらの選択肢も同じぐらい良いものだということなので、自身の直感にしたがって行動してみるのが良いと思います。 ■それがなぜ、パブロン社を設立するに至ったのでしょう? 査読の本来の意味を取り戻すためです。 研究者として経験を積み、素晴らしい出会いに恵まれ、世界のさまざまな場所でどのような研究がどのように行われているかを知ることができました。そこで論文査読が研究の要であることに気づいたのです。査読者の質によって、論文の質が変わってくるのを目の当たりにしたからです。それによって論文は信頼できるものになる。でも私たちはつい、査読者(レビュアー)の功績を無視して、研究者の出版実績だけを取り上げがちです。レビュアーこそが研究の発展に貢献している、と評価されるべきなのです。 ■パブロン社設立にあたって苦労されたことはありますか? 設立当初、「レビュアーを評価する」という発想はかなり斬新なものだったので、出版業界がその重要性を認識し始めるまでには3年ほどを要しました。現在、出版業界大手7社中4社がパブロンを利用していますが、大学や助成金提供機関がその価値を認めるには、まだ時間がかかるでしょう。 ■パブロン社の具体的なサービス内容を教えてください。 レビュアーがパブロンに登録すれば、論文査読の実績を履歴に登録できるようになります。私たちはレビュアーの実績を日々確認しており、レビュアーは査読作業中でも所定のボックス(1,000以上の学術誌が登録されている)をクリックするだけで、自動的に査読実績を追加できるようになります。 レビュアーは、蓄積された査読実績を公式の記録としてダウンロードできるので、履歴書の提出や実績評価、研究助成金への応募の際に利用することができます。 今や1,000以上の学術誌がわれわれパブロンのパートナーとなってレビュアーの評価を行っています。また9万人以上の研究者がパブロンに査読者として登録し、50万以上の査読履歴が記録されています。 ■レビュアーとして評価を高めるのに必要な要素は何でしょう?レビュアーになるには何から始めればよいのでしょう?…

Kudos協同創設者・チャーリー・ラップル氏へのインタビュー(第1部)

2016年9月、今年も多くの参加者を集めて開催されたALPSP(Association of Learning and Professional Society Publishers, 学協会出版社協会)会議の開催期間中、研究者のためのツールとして急速に成長しているKudosの共同創設者であり営業・マーケティング部長であるCharlie Rapple(チャーリー・ラップル)に、エナゴの欧州地区戦略的提携担当のTony O’Rourke(トニー・オルーク)がインタビューを行いました。チャーリーは、SSP(Society for Scholarly Publishing, 学術出版協会)と提携して出版されている学協会出版社協会の雑誌であるLearned Publishingの共同編集者でもあります。…

【東京大学発ベンチャー】 株式会社ユーグレナ

「ミドリムシで10億人の栄養失調を救い、飛行機が飛ぶ社会に。」   豊富な栄養を含む素材として注目を集め、急速な拡大を遂げている「ミドリムシ(学名:ユーグレナ)」市場。食品売り場にはミドリムシ入りのジュースやお菓子など多彩な商品が並び、市場規模は約100億円にのぼる。 そのミドリムシを世界で唯一屋外大量培養できるユーグレナ社は、新たなステージに向けた取り組みを進めている。ヘルスケア事業では、国内での足場を固めるとともに中国・イスラム圏など世界への本格進出を展開。同時に、環境・エネルギー事業ではミドリムシを原料としたバイオ燃料の実用化に向けた研究開発も推進している。 15年12月には、バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化計画を発表。2020年にはバイオジェット燃料による飛行機のコマーシャルフライト、バイオディーゼル燃料によるバスの公道走行を目指している。ミドリムシと共に歩んできた出雲社長のこれまでの道のりと目指す未来について伺った。 ■世界初、ミドリムシの屋外大量培養に成功 一般の家庭で育った私にとって、学生時代にはベンチャー企業を興すということは選択肢にも入っていませんでした。そんな自分を変えたのが、バングラデシュでの経験です。東京大学在学中にバングラデシュで栄養失調の子供たちに出会い、「これはなんとかしなければ」と考えるようになりました。 そして、同大学農学部に在籍していた鈴木健吾(同社取締役研究開発担当)から研究テーマである「ミドリムシ(学名:ユーグレナ)」を紹介され、その可能性に魅了されました。藻の一種であるミドリムシは体長わずか約0.05mmながら植物と動物両方の性質を持ち、59種類もの栄養素を含んでいます。また、光合成により二酸化炭素を吸収し、バイオ燃料を取り出すことも可能なのです。 当時、ミドリムシ商品を専門に扱っている会社はなく、自分たちでやろうと2005年に起業、同年12月には各大学や企業の協力を経て世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功しました。 ■国内のミドリムシ市場を300億円規模へ 大量培養の成功後、私自身約500社に営業に飛び込みましたが成果が上がらず、2008年に伊藤忠商事からの出資が決まったことが転機となりました。現在では、一人でも多くの方にミドリムシを知っていただくために、大手食品メーカーとの共同開発にて様々な商品を展開しています。同時に12年から自社ブランド「ユーグレナ・ファーム」を立ち上げ、自社製品の強化にも取り組んでいます。立ち上がりは順調で、主力商品である「ユーグレナ・ファームの緑汁」は、定期購入者数が約6万3000人を超えました。現在、ミドリムシ入り商品市場は末端価格で約100億円規模にまで成長しています。私たちは食品や化粧品など商品の形にこだわることなくミドリムシを多くの人に届け、18年には300億円規模への拡大を目指しています。 世界に向けては、14年2月にイスラム圏への輸出が可能となるハラール認証を取得するなど、中国・イスラム圏への市場開拓を進めています。また、同4月からはバングラデシュで約5000人にミドリムシ入りのクッキーを配布していますが、この活動をいずれは100万人に広げ、将来的には10億人の栄養失調の解決に役立つことを目指しています。 ■2020年はミドリムシを世界に発信するチャンス 14年6月から、いすゞ自動車との共同研究により、ミドリムシを原料としたバイオディーゼル「DeuSEL®」を利用したシャトルバスの運行を開始しました。また、15年12月にはバイオジェット・ディーゼル燃料の実用化計画について発表しました。 現在、ミドリムシ由来のバイオ燃料研究開発は、マラソンで言う折り返し地点にまで来ています。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年にはミドリムシでバスが走り、飛行機が飛ぶ社会を実現させ、日本を訪れた外国人に「日本には石油に代わるクリーンエネルギーがある」と各国で口コミしてもらうのが狙いです。…

【日本大学発ベンチャー】 ブルーイノベーション株式会社

「世界で戦えるオンリーワンの無人航空機と強いチームを作りたい。」 近年、全世界で無人航空機(UAV: Unmanned aerial vehicle)の商業利用に向けた動きが活発化している。2013年には、アマゾン・ドット・コムやドミノピザが無人航空機による宅配事業サービスへの参入を発表。無人航空機による新市場は約1兆円にものぼると言われ、現在では欧米諸国はじめ各国が法整備や技術革新を急いでいる。 その中、国内で先行的に無人航空機の運用サービスを手がけているベンチャー企業がブルーイノベーション株式会社だ。2014年にはYahoo! JAPANと連携した360度パノラマコンテンツアプリを提供し国内外から注目を集めた。 海岸の防災・環境コンサルティングを主軸としながら、世界を見据えた無人航空機運用サービスを展開している同社の成長の軌跡と今後の戦略について熊田社長に伺った。 ■開拓者としての研究時代 大学院時代は、差別化できるスキルを身につけるため、学科内では誰も手がけていない「海岸環境工学」を研究テーマに選びました。当時、海洋建築工学科では構造・都市計画の研究がほとんどで、先輩も教授もいませんでした。開拓者としてやってみようという思いはありましたが、修士1年目は模索状態。 そんな時、タイ・ベトナム調査で洪水によるマングローブの倒木に伴う河岸侵食や家屋の崩壊を目の当たりにし、河岸・海岸の防災に興味を抱くようになりました。帰国後、世界で初めて海岸地形と底質粒径の変化が予測できる数値計算モデルを開発しました。 侵食されている海岸の粒度を分析し、どのような砂粒を補給すれば海岸が復活するかが分かるもので、当時は画期的なモデルとして高く評価され、大学より博士号が授与されました。 ■無人航空機との出会い 私の研究は実務分野に答えがあると実感し、大学院時代には海岸防災を中心とした会社を設立しました。現在も「海岸コンサルティング事業」を主軸とし、砂浜の侵食・高潮・津波対策などにおいて現地調査から解析、対策・保全計画の提案、住民協議会運営まで手がけています。顧客は官公庁や第三セクターです。 現地調査のことを我々は〝海岸の健康診断〟と呼んでいますが、その際に欠かせないのが無人航空機です。5年前に東京大学の開発プロジェクトを知り、共同研究を開始しました。無人航空機はGPS誘導によりプログラムされたルートの自動飛行が可能なため、海岸の経年変化を測定するのに適しています。また、高度150m以下は航空法の申請がいらず、災害時などにすぐ飛行できるのも大きな特長です。我々は無人航空機を海岸モニタリングに活用することで、有人機の空中写真撮影に比べ、圧倒的な情報量の取得と低コスト化に成功しました。同システムは日本でも類がなく、共同研究論文は土木学会や航空宇宙学会でも高い評価を受けました。…