著作権の侵害

知的財産権-研究者が知っておくべきこと

知的財産権とは、発明、文学作品、芸術作品、画像、シンボルマークなど、知的創造活動によって生み出された無体物を財産として専有できる権利です。この権利により、知的創造活動の成果から利益を得ることが認められると同時に、他人が不当に「財産」を使用することを防ぐことができます。研究者にとっては、自分の成果を守ると共に、他者の成果を侵害しないためにも押さえておくべき内容です。知的財産権がどう研究活動に関わってくるのかを見てみましょう。 ■ 知的財産と知的財産権 国によって知的財産に含まれるもの、知的財産を管理する法および監督官庁は異なります。日本の場合、知的財産権は、次の2つに大別されます。  著作権およびその他の知的創造物についての権利 文学、学術、芸術、音楽などの創作的活動を保護するための権利です。著作権には、データベース、参考文献、コンピュータプログラム、建築物、出版書籍、製図などの精神的作品の保護も含まれています。  産業財産権 商標権や商号など営業活動に関わる権利です。知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権および商標権の4つがこれに該当します。 ・特許権 発明者に一定の期間、独占的・排他的な権利を与えて、発明を保護しようとするものです。特許を取得していれば、その製品の製造、頒布、販売、商業的使用などを独占的に行うことができます。通常、期間は出願から20年間が対象とされていますが、一部25年に延長可能なものもあります。 ・実用新案権 物品の形状、構造などの考案を保護するものです。出願から10年間が対象です。 ・意匠権 新規性と創造性を有する物品のデザイン(形状、模様、色彩またはこれらの組み合わせ)を保護するもので、期間は出願から20年です。2D(線やパターン)や3D(物体の形状や表面の模様や色彩)の工業デザインが保護の対象となります。 ・商標権 製品またはサービスを識別するために用いられる独自の標識やシンボルマークです。一語でも複数の語でも、数字の組み合わせでもかまいません。図形、立体的形状、動き、音、色彩なども商標として保護されます。商標の出願は、保護の必要な範囲に応じて、国レベルまたは地域レベルで行うことができます。日本の商標権の期間は登録から10年です。…

海賊版論文公開サイトは学術出版モデルを変えるのか

大手学術出版社のエルゼビアが2017年6月、ある裁判に勝訴しました。相手は、Sci-Hub(サイハブ)およびLibGen(ライブラリー・ジェネシス)という、出版社のサイト以外から学術論文を無料で閲覧できる、いわゆる「海賊版論文公開サイト」。彼らが著作権を侵害しているとして、学術出版会の大手が統制に動き始めたのでした。学術出版の仕組みをも揺るがしかねないこの問題に密着します。 ■ 学術出版はオイシイ商売か 学術出版業界を俯瞰すると、特殊なビジネスモデルであることがわかります。学術論文は研究者によって執筆・投稿され、ボランティア研究者による厳しい査読を通り抜けた後に、学術ジャーナルに掲載されます。出版社は論文を掲載したジャーナルを大学や図書館、団体などに販売することで利益を得ていますが、このプロセスで出版社から執筆者および査読者に対価が支払われることはありません。国や公的機関、大学が助成金などの形で研究費を拠出し、査読を行う研究者や編集者の給与を負担し、最後に研究論文が掲載された出版物を購入することで成り立っているのです。国や公的機関にとってはお金を払ってばかりなのです。 一方、出版社にとっては出版物を作成・販売するだけで収入を得られる利益率の高いビジネスのように見えます。確かに一昔前まではよかったのかもしれませんが、現在は投稿論文数の急増、出版コストの増加、購読数の減少、オンライン化およびオープンアクセスへの対応など、深刻な問題に直面しています。そして新たな問題として、海賊版公開サイトが登場してきたのです。 ■ Sci-Hubが突きつけた驚愕の数字 そもそも、既存の出版社に対抗するSci-Hubのような海賊版論文公開サイトとは、どのようなものなのでしょうか。Sci-Hubは、カザフスタンの大学院生であったAlexandra Elbakyanが、「研究論文はオープンアクセスであるべき」との考え方に基づいて構築したサイトで、現在はロシアから運営されているという以外、ホストやサーバーについては公にされていません。通常、出版社が有料で公開している論文を無料で読めるようにしているサイトですが、当然、出版社からは非難されており、2017年6月にエルゼビアが起こした上述の裁判で、米国出版社協会から賠償金の支払いとウェブサイトの閉鎖を命じられました。それにも関わらず、公開されている論文数は増加し続けています。 ペンシルバニア大学の研究者であるHimmelsteinらが2017年3月に調査した結果(2017年10月12日PeerJPreprintsに掲載)によれば、Sci-Hubのデータベースには56,246,220本の論文が登録されており、有料購読となっているジャーナル(クローズドアクセスジャーナル)に掲載されている論文のうち85.2%が無料公開されていることが判明しました。掲載の内訳は、学術誌に掲載されている論文の77.8%、講演要旨集(プロシーディング)79.7%、書籍14.2%でしたが、これには大手出版社のジャーナルに掲載されている論文も多く含まれており、出版社ではエルゼビアの論文が13,185,971本(97.3%)と最多でした。 Himmelsteinらは、クローズドアクセスジャーナルに掲載されているもの(85.2%)がオープンアクセスジャーナル(49.1%)と比べて圧倒的に多いということも発表しています。これは、Sci-Hubが自由なアクセスを制限されている閲覧数の高い有料ジャーナルの論文をより多くカバーしていることを示しています。研究者が論文を閲覧するにはSci-Hubに申請しなければなりませんが、拒否されることはほとんどありません。Sci-HubはBitcoinを通じて寄付を受け付けており、その額はこれまでに68.48ビットコイン、約268,000USドル相当に上ったと推測されていますが、Sci-Hubはツイッターで、この額は正確ではないと反論しています。実態は不明ですが、いずれにせよ、かなりの寄付金を受領しているようです。 Himmelsteinらの調査によって浮かび上がってきたこれらの数字は、学術出版社にとって驚愕の事実だったのです。 ■ 始まった闘争 科学論文へのアクセシビリティを高めると賞賛され、利用者数も拡大するSci-Hub。一方、エルゼビアを筆頭に、複数の出版社や学会が異を唱えています。前述の裁判の判決が出た2017年6月、アメリカ化学会(ACS)もSci-Hubをバージニア州東部地区連邦地方裁判所に提訴し、ACSが著作権を所有するコンテンツの違法配布とACSの商標の違法利用の即刻中止を求めました。同年11月3日に出た判決では、Sci-Hubに4,800,000USドルの損害賠償金支払いと、インターネットサービス業者にもSci-Hubに対して何らかの処置を講じるよう命じられました。Sci-Hubがウェブプロバイダーや検索エンジン、ドメイン登録でブロックされる可能性を含めた判決が出たのは、初めてのことです。…