利益相反

論文掲載への報奨金は学術界にプラス?マイナス?

2017年9月、中国政府による論文掲載への報奨金制度が明らかになりました。中国人科学者の発表論文数が急増した背景に、多くの研究者がScienceやNatureなどの著名な国際学術ジャーナルに論文が掲載された際に報奨金を得たことが発覚。金銭目的に投稿される論文の信頼性や中国の科学全般の公正さについて、疑念を持つ声が上がりました。実際、査読過程で不正が見つかった論文が、多数取り下げられたこともありました。 しかし中国の他にも、カタールや台湾、オマーン、そしてアメリカなど多数の国の研究機関が、論文を発表した研究者に報奨金を支払っています。研究者にとっては研究資金を得ることができ、大学や研究機関にとっては、このインセンティブによって論文投稿が増え、ひいては国全体の学術研究における威信が高まることが期待されています。 ■ 気になる金額は? では、報奨金は一体どの程度の金額なのでしょうか。5000ドル以上を支給する国もあるようですが、やはり高額なのは中国で、最高165,000ドル(約1,730万円)も支払われている――との説があります。 中国の大学に所属するWei QuanとBikun Chen、カナダの大学に所属するFei Shuの3名の研究者がプレプリント投稿した、中国の論文掲載への報奨金制度に関する文献(Publish or impoverish: An investigation of the monetary…

変わる「利益相反」-Natureが新ルール適用へ

学術論文を投稿する際、著者は利益相反(Conflicts of Interest: COI)を開示するように求められます。これは、研究にとってバイアスをもたらす可能性のあるすべての利害関係、つまり研究助成金の出所や謝礼、特許権使用料やライセンス(商標や著作権)などの金銭的関係、および雇用契約などの個人的関係を含む経済的利害関係を開示する必要があるということです。通常、ジャーナルや学会が定めた投稿規定の中にCOIにつき何をどう開示すべきかが記されていますが、国際的には医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors : ICMJE)の規定が受け入れられているようです。 ■ 非経済的利害関係もバイアスになる 経済的利害関係の中で直接的なものとしては、金銭的関係です。研究助成金はもちろん、旅費なども金額にかかわらず、すべて開示しなければなりません。また、個人的関係としては、雇用関係のような人間関係などが含まれます。研究結果が特定の企業の売上に影響を与えるような論文を執筆した著者が、その企業の社員や関係者である場合、経済的利害関係のある利益相反とみなされます。さらに、研究にとってバイアスとなるのは経済的な要素だけではなく、所属機関への忠誠心や個人的な野心など非経済的な要素も影響すると考えられるのです。そこで、ネイチャー・リサーチが出版するジャーナルは、利益相反の開示ルールを強化し、著者に対して、研究の中立性・客観性に疑問を抱かせる可能性のある非経済的利害関係の開示も求めていくと発表しました。 2018年1月31日に発表された記事によると、2月以降、ネイチャーおよびネイチャー・リサーチが出版するジャーナル(Nature Communications,…

否定的な研究結果の出版はなぜ重要か

ほとんどの基礎研究・前臨床研究には再現性がない、と言われています。しかし、再現性のない研究でも文献としては残り続けるため、その結果を再現しようと他の研究者が時間と研究資源を無駄にしてしまいます。この無駄を防ぐため、否定的な研究結果の出版が必要とされています。否定的なデータが出版されることにより、無駄な実験に費やす時間を減らすことができるほか、不適切な手法のために再現できなかった事例の報告としても役立ちます。このような要望に対して、以前に学術英語エナゴアカデミーの記事でも取り上げた、オープンアクセスジャーナルのF1000Researchは否定的な研究結果も積極的に掲載する取り組みを行っています。こういった試みに対し、おおよその研究者は好意的に受け止めているものの、出版はまだ進んでおらず、効果が出てくるのはこれからと考えられています。 専門家たちの意見を伺ってみましょう。 蓋然か、偶然か-否定的データの価値を見極めよ 客観性を目指す科学において、無駄な努力を省き、新しい仮説を立てられるようにするため、否定的な研究結果を出版する必要があることは明らかです。しかし、これは科学哲学の核心に関する問題であり、実用を考えない純粋科学という考え方にかなりの影響を及ぼします。現在支配的な実用を目指す科学において、否定的な研究結果は、間違った考え方を示すもの、期待された効果を得られなかったもの、と見なされることが一般的です。しかし、アインシュタインは原子爆弾を発明しようとしていたわけではないですし、また、100年前の物理学者は自分の研究が現代の情報技術に使われるとはまったく考えていませんでした。それと同様に、弦理論研究者はその数学的モデルが将来どのように使われるかを予測することはできません。 否定的なデータは確かに無駄ですが、存在する否定的なデータを入手できないというのも無駄です。もちろん、否定的なデータにはそれを検証する努力に値しないものもありますし、出版する価値のあるものはさらに少ないでしょう。結果はどうであれ期待できる計画に基づいて行われる臨床試験も多いですし、その一方で、否定的なデータが出たらすぐに方向転換するような基礎研究もあります。生命科学分野の基礎研究は、分子集合の複雑なネットワークを扱っており、システム生物学における研究によって、すべての分子経路はきわめて難解なかたちでつながっていることが示されてきています。このような、生命の操作不可能な複雑さを考えれば、ある分子集合を再現できなくても、それを蓋然性が高いものだと解釈するより、たまたまだと解釈すべき場合があるでしょう。したがって、生命科学の内、より複雑な分野においては、再現可能性に科学的価値を置いて否定的なデータを報告してもあまり実りがなく、研究室の実験ノートに記録しておけばよいという場合もあるでしょう。 博士(癌研究) 豪州にて12年以上の科学・医学文献執筆経験 「否定的な結果」は、「肯定的な結果」と同様に科学を進歩させる 実験によって仮説を検証しようとする際に、その仮説を支持する結果が得られた場合、その結果は出版に値すると見なされます。しかし、その仮説が誤りであることを示す予期しない結果が生じた場合、それが出版されることはほとんどありません。歴史を見ると、否定的な研究結果を出版しなかったことが科学に大きな影響を与えた様々な事例があります。 マイケルソンとモーリーによって行われた実験は、否定的な実験結果が科学的に重要な帰結をもたらした古典的な例です。マイケルソンとモーリーは、異なる慣性系―地球の自転方向とその逆方向―における光の速度を計測し、光の伝搬についてその当時一般的だった理論が予想するように、速度に違いが出るだろうと考えていました。しかし二人は、どの方向でも光の速さは同じであるという結果を得ました。この否定的な結果は、物理学者たちを驚かせ、特殊相対性理論が生まれるきっかけになりました。この「否定的な結果」は、「肯定的な結果」と同様に科学を進歩させたわけです。この実験は、現在の世界にもうひとつの大きな影響を与えています。それは、LIGO(レーザー干渉計重力波観測所)による重力波の検出です。LIGOの検出器は、光のビームがたがいに「干渉する」あり方を突きとめ、検出器の中を光が移動していく際にどう変化するかを明らかにしました。この考え方は、マイケルソンとモーリーが1887年に行った実験の基礎になったものと同じです。 出版社は、否定的な研究結果の出版に対してより前向きになりはじめています。インターネットで誰でも無料で読める学術誌であるf1000Research は、生命科学における肯定的な研究結果と否定的な研究結果の両方を掲載しています。また、Journal of Negative Results…

利益相反

「利益相反」とは、一般的には「ある行為により一方の利益になると同時に、他方への不利益になる」状態を指しますが、研究における「利益相反」は、個人としての利益相反と組織としての利益相反の双方を含みます。具体的には「外部との経済的な利益関係等によって、公的研究で必要とされる公正かつ適正な判断が損なわれる、又は損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態をいう」と定義されています。 英語では「利益相反」を「Conflict of Interest」と表記し、各ジャーナルの「Instructions for Authors」には「Conflict of Interest」の項目が必ずあります。論文を投稿する際はその指示によく従ってください。 研究における利益相反の詳しいことについては以下のウェブサイトをご参照ください。 日本語: 厚生労働省-研究に関する指針について 文部科学省-利益相反ワーキング・グループ報告書 英語: Resources for…

思わぬところに見られる「利益相反」

一研究者として何よりも大切なことの1つとして、客観性の高い研究を行うことがあげられます。そのためにも、自分の研究方法や分析方法に影響を与えかねない要素には、常日頃から注意を払う必要があります。この「自分の研究に何らかの影響を与えかねない要素」のことを、英語ではよく「conflicts of interest(利益相反)」事項と表現されます。「利益相反」というと、賄賂をもらったり買収されたりすることがまず頭に浮かびますが、研究を長く続ければ続けるほど、思わぬところに落とし穴があるものです。ここではよく遭遇する利益相反を4つ挙げてみました。このような場面に遭遇することのないよう、また予期せず遭遇してしまったら、関係者に相談したり利害の対立があることを即座に公表したりするなど、早急に対応をするよう努めましょう。 1. 金銭 前述の賄賂や買収がこれに当たります。お金のために自ら買収される研究者に関してアドバイスできることといえば、「よい弁護士とお友達になっておいたほうがいいですよ」といったところでしょうか? しかし実際には、買収されたり賄賂をもらったりしたつもりがないのに、気がついたらそういうレッテルを貼られてしまっていた、というケースのほうが多いのではないでしょうか? 研究の規模が大きくなればなるほど、いろいろな所から資金が調達されてきます。そのなかには、あなたの研究で特定の結果が出た場合、直接的または間接的に何らかの利益が出る個人や会社や機関があるかもしれません。研究に没頭したい気持ちはわかりますが、自分の研究の信頼性を揺るがさないためにも、資金がどこから出ているのか、いつも注意して確認することが必要です。 多くのジャーナルでは、論文の一部として研究資金がどこから出ているかを明記するよう規定しています。この場合には、金銭に限らず、物品の貸し出しなどどのような形式であっても、そしてどんなに小額でも申告することをお勧めします。もしジャーナルの書式規定として要求されていなくても、「謝辞(acknowledgement)」というかたちで論文の最後に出資元を書いておくほうがよいでしょう。問題は資金を受け取ったことではなく、それを隠したり、それによって影響を受けたりすることだということをお忘れなく。 2. キャリア 自分のキャリアのために、研究者としての行動に客観性を失ってしまうこともあります。 とくに査読者に選ばれたときや、大小にかかわらず学術雑誌の編集委員になった場合には、この点に十分注意を払うことが必要です。 通常、査読者は論文を書いた研究者の個人情報を知らされません。しかし論文の書き方や引用されている文献から、書き手のことがある程度わかってしまうことがあります。自分と同じ分野の同じような研究をしている人の論文を読むときも、違う分野の研究をしている人の論文を読むときも、同じように厳しい目で審査をするよう心がけてください。 とはいっても、「ライバルの論文を読んでベタ褒めする気にはなれない・・・」と思ったら、 編集部に簡単に事情を説明して指示を仰いだり、「客観的に読むことができないので」といって、査読を辞退したりすることも可能です。編集部が最も避けたいのは、ジャーナルの編集に何らかのかたちでかかわった人たちが、自分のキャリアへの利害相反関係を隠すことです。 3.…

被験者の人権保護と“Do the Right Thing”の難しさ

第二次世界大戦中のナチスによる人体実験を教訓に生まれた「被験者の人権保護」という思想は、その後、医学実験における人権保護を念頭に、70余年の月日を経て、現在のかたちへと一般化されてきました。たとえば世界医師会が制定した「ヘルシンキ宣言」などがその一例です。その内容の多くは、「研究者は、被験者が実験に参加するかどうか決める前に、その実験のあらゆるリスクについて説明しなければならない」とか、「被験者の個人情報は守秘されなければならない」など、現在は常識化し、実験にかかわらない一般人にもよく知られている事項が少なくありません。 しかし、簡潔にみえる被験者の人権保護も、実際に研究を始めると一筋縄では行かないのが現実です。国内でごくまれな難病を背負った人に実験参加を依頼した場合、「50代女性」といっただけで誰のことかわかってしまうこともあるでしょう。また特殊な方言を話す人たちの会話を録音した場合、その会話を言語学の学会で、不特定多数の聴衆を前に流してもいいのでしょうか?人類学などでは、被験者(研究対象)の身振り手振りが研究の理解に不可欠で、ビデオデータを公開できなければその価値が半減してしまう研究もあるでしょう。過激にビジュアル化していく昨今の研究発表の流れの中で、本当の意味での人権保護は、今後もどんどん困難になっていくでしょう。 また、被験者や研究に協力してくれた人たちの匿名性と人権の保護は、その研究が発表されたらすぐに、研究者の力の及ぶ世界から、まったく予期しない世界へと広がっていくことも忘れてはいけません。研究が複雑になればなるほど、ほかの分野の有識者に助言を求める場合が多くなります。その有識者の名前を明らかにすれば、その人の株が上がる場合もあるでしょうが、研究結果によっては、非難が集中する場合も考えられます。一度公開された情報を撤回することは不可能に近いものがあります。被験者の了解を得たからといって、気軽に研究に協力してくれた人の情報を公開することは控え、どのようなリスクがあるか、詳しく検討し最善策を考える必要があります。どの程度の匿名性が最適なのかは、その研究分野や研究内容によって違うでしょう。 まず基本的なこととして、自分が所属する研究機関や学会が、研究者が守るべきことをまとめた「倫理指針」や「ガイドライン」を定めており、そのなかで「倫理委員会」へ研究計画を提出して、研究実施の認可を得ることなどが定められていることがほとんどのはずなので、それらをじっくりと読んでから対応してください。また、国(たとえば厚生労働省や文部科学省など)も、さまざまな指針やガイドラインを設けていますので、チェックしてください。 必要であれば、アメリカの大学のウェブサイトにアクセスして、「human subject」などをキーワードにして検索して見つかる文書を読んでみることもよいかもしれません。ほとんどの大学では「被験者保護委員会(Human Subject Committee)」や「研究責任局(Office for the Responsible Conduct of Research)」といった専門機関を設置し、被験者の人権保護問題に関するテストや例題を提供しています。 ただしどのような場合でも最も重要なことは、こうした倫理指針やガイドラインをチェックシートのように機械的に利用するのではなく、一研究者としてあらゆる可能性を考えて最善を尽くすこと、そして、人権保護のためにどれだけのリスクを背負う心積もりがあるか自問し続けるということです。最新情報をもとに、自分の研究がおかれた状況を考慮し、研究者として当然のこと“Do…