学術ウォッチャーが斬る!

捕食出版社、生涯教育にも進出

本連載では、掲載料さえ払えばどんなにひどい原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」や、登録料さえ払えば誰でも「講演者」として発表させてしまう「フェイク・カンファレンス(fake conference)」について書いたことがあります。とりわけカナダの『オタワサン』や『オタワシチズン』に寄稿する記者トム・スピアーズによる調査活動を紹介してきました。 スピアーズは、捕食ジャーナルの出版社として知られるインドのA社が倫理学分野のジャーナル(学術雑誌)を発行していることを知り、昨年秋、アリストテレスの文章を盗用したうえで、それに手を加えてつくったデタラメな原稿を投稿しました。その原稿はあっけなく論文として採択されてしまい、ジャーナルに掲載されることになりました−−掲載料さえ払えば。スピアーズはその経緯を暴露しました。 『オタワシチズン』(2017年6月1日付)にスピアーズが寄稿した記事によれば、その暴露によって、A社はその原稿の採択(受理)を撤回することを余儀なくされたといいます。スピアーズは、A社の弁護士からは「謝罪文を公表することを要求する」と警告され、そのジャーナルの編集委員からは「あなたの論文は執筆の基準に満たしてさえいないと我々は結論づけている」と忠告されたといいます。スピアーズの原稿は、査読を通ったはずなのですが…。 ある日、スピアーズは同僚から「同じ論文を繰り返し採択すると思う?」と尋ねられました。そこで彼は、同じ研究をA社が開催する免疫学の国際カンファレンスで発表するために投稿することにしました。ただし題名は医学っぽく変更しました。「免疫学における新しい倫理的な問題:感染症研究のボランタリティとケタランスの程度」と。「ボランタリティ(Voluntarity)」や「ケタランス(Ketterance)」という言葉は、スピアーズらがでっち上げたもののようです。確かに、辞書を引いても出てきません。 そして結果は……またもや採択だったようです。1499米ドルを払えば、テキサスで開催される国際カンファレンスで、ポスター発表できることになりました。本連載でもお伝えしたように、A社はスピアーズがでっち上げた「空飛ぶブタ」などについての研究を、国際カンファレンスでの講演として採択したこともあります。 スピアーズらは同じデタラメな研究内容を、老人病学の国際会議にも投稿していました。2日後の同じ『オタワシチズン』によると、やはりこれも採択されたそうです。しかもそのカンファレンスは、老人病学や看護学分野における生涯教育(continuing education)に関するものでした。 捕食ジャーナルを出版したり、フェイク・カンファレンスを開催したりする「捕食出版社(predatory publishers)」はこれまで、業績を求める若手研究者を主なターゲットにしてきたはずですが、「生涯教育」にも手を付け始めたということは、そのターゲットが拡大していることを意味する、とスピアーズは『オタワシチズン』で指摘します。 スピアーズはA社に説明を求めるメールを送ったのですが、これまでのところ返事はないようです。 A社はインドのハイデラバードに拠点を置き、700誌ものオンライン・ジャーナルを発行する企業です。最近、カナダの正当な学術出版社B社とC社を買収しました。同社のビジネスモデルをB社やC社も採用するのかが気になります。またA社は世界各地で年間1000件もの「国際カンファレンス」を開催しています。もちろん、日本でも。今年は主に大阪で、37もの国際カンファレンス(2017年6月時点)がA社によって開催される予定となっています。 見知らぬ外国企業から「発表募集(Call for…

「フェイク査読」が発覚したジャーナルは編集委員もフェイク!?

本誌では以前、「偽装査読」あるいは「フェイク査読」と呼ばれる不正行為の実例を紹介しました。そのなかで今年4月、大手学術出版シュプリンガー社が、同社が発行するジャーナル(学術雑誌)の1つ『腫瘍生物学(Tumor Biology)』に掲載された論文107件を、 フェイク査読 を理由に撤回したこと、そのことにはフェイク査読をコントロールしている業者が関係しているらしいことを紹介しました。 学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』によれば、『腫瘍生物学』は、論文の撤回数が最も多いとされている学術ジャーナルであり、しかも今回の撤回は、2015年、2016年に行われた大規模な論文撤回に続く3回目です。『腫瘍生物学』は、腫瘍・バイオマーカー国際学会(International Society of Oncology and BioMarkers : ISOBM)のジャーナルで、去年(2016年)まではシュプリンガー社が発行していましたが、現在は、SAGE社が発行しています。 しかしながら、『サイエンス』誌のニュースブログ『サイエンスインサイダー』によれば、『腫瘍生物学』の問題は論文撤回だけではなかったといいます。 このときに撤回された107本の論文はすべて、中国の研究者たちによるものでした。同誌は、研究者の論文発表を支援する専門業者がある役割を果たしているという「いくつかの証拠」がある、というシュプリンガー社の説明を紹介しています。ただ、撤回された論文の著者たちがそのことを認識していたかどうかはわからない、とのこと。 また、少なくとも1つのケースでは、撤回された論文の著者はそうした業者を利用していないし、「偽装査読者」を提案してもいない、と主張しているといいます。編集者が「偽装査読者」の連絡先情報をデータベースに保存していたため、このようなことが起こった可能性が指摘されています。…

査読システムを欺き、自分の原稿を自分で査読!?

本連載では、どんないい加減な論文でも掲載料さえ払えば載せてしまう「捕食ジャーナル」や、どんないい加減な発表でも参加料さえ払えば発表させてしまう「フェイク・カンファレンス」を取り上げてきました。今回は、ジャーナル(学術雑誌)の査読システムを欺いて、著者が自分の原稿を自分で査読してしまう「偽装査読(peer review rigging)」の例を紹介します。「フェイク査読(fake peer review)」などと呼ばれることもあります。 2012年、『酵素阻害および医薬品化学ジャーナル(the Journal of Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistry)』の編集者は、ある著者が投稿した原稿に対する査読に疑問を持ちました。査読の内容自体は、原稿を好意的に評価したうえで一部の修正を求める、という平凡なものだったのですが、疑問だったのはそれにかかる時間でした。いつもとても早く、24時間以内ということもあったのです。同誌のクラウディウ・スプラン編集長は、その著者に面会しました。その結果、韓国人であるその著者は、査読レポートを自分自身で書いていたことを認めました。 2014年11月26日付の『ネイチャー・ニュース』によると、からくりはこんな感じです。同誌を含めていくつかのジャーナルでは、論文の原稿を投稿した著者は、査読者を指名(提案)することができます。そのことを著者に義務づけているジャーナルもあります。この韓国人著者はそれを利用して、実在の研究者の名前や、ときには仮の名前を挙げておきながら、メールは自分や自分の同僚に届くようにして自ら査読を行っていたのです。この著者の告白によって、論文28件が撤回され、1人の編集者が辞任しました。 他の事例もあります。…

編集者は同性の査読者を選びがち!?

学術界にも、残念ながら一般社会と同じく、あちこちにジェンダーバイアス(男女間の偏り)があります。もっといえば、女性差別があるといっても過言ではないでしょう。 たとえば、少し前の『ネイチャー・ニュース』(2016年10月3日付)によれば、全米科学財団の調査で、アメリカではSTEM(科学、技術、工学、数学)分野において、博士号すべてのうち41パーセントを女性が取得している一方、2012年から13年にかけて連邦予算を使う研究所や研究室にいたポスドク研究員のうち女性はわずか24パーセントであることがわかったといいます。 また、エルゼビア社が2017年に公表した報告書『世界の研究環境におけるジェンダー(原題:Gender in the Global Research Landscape)』では、女性は男性よりも論文発表が少ないこと、筆頭著者になりにくいことなどがわかりました。 最近の調査で、査読においてもジェンダーバイアスが生じていることが明らかになりました。 イェール大学の計算科学者マルクス・ヘルマーらは、オープンアクセス・ジャーナル『eLife』で公表した論文で、「査読(ピアレビュー)は学術出版の礎石であり、査読者はその専門知識のみに基づいて任命されることが不可欠である」と、査読者に求められる条件を確認しています。しかし、査読者は一般的に非公開なので、編集者による査読者の選択・任命にバイアスがないかどうかを調べることは困難でした。 興味深いことに、オープンアクセス・ジャーナルの出版社「フロンティアーズ(Frontiers)」社が発行する一連のジャーナル(学術雑誌)では、編集者と査読者の名前が公表されています。そこでヘルマーらは、同社のジャーナル142誌で、2007年から2015年にかけて公表された論文における編集者9000人以上と査読者4万3000人以上のデータを分析しました(この場合の「編集者(editor)」とは、原稿整理や校正などいわゆる編集作業のプロのことではなく、同分野の専門家としてその論文に責任を持つ立場の者のことです。日本語でいう「編集委員」に近いかもしれません)。 その結果、男性の編集者も女性の編集者も、同性の査読者を選ぶ傾向があることがわかりました。また、その傾向は男性の編集者ではより強く、その結果、女性は査読のプロセスにおいて過小評価されていることも指摘されました。著者らはそうした傾向を「同類性(homophily)」と名づけています。「類は友を呼ぶ」ということです。 ヘルマーは『ネイチャー・ニュース』(2017年3月21日付)の取材に、「科学研究の質は、性別によって決まるわけではありません」、「性別が査読者の選択に影響しているならば、それはジャーナルが最高レベルの査読者を得ていないことを意味します」とコメントしています。 ただし、この研究のデザインについては批判もあります。ヘルマーらがまとめたデータセットでは、査読を依頼された男性と女性の数ではなく、実際に論文を査読した男性と女性の数だけが示されています。以前に行われた、地球物理学分野におけるジャーナルを対象にした研究(『ネイチャー・ニュース』 2017年1月25日付)では、女性は男性よりも頻繁に、査読依頼を断っていることがわかりました。ヘルマーらの分析結果は実態を正確に反映していない可能性もあるのです。…

「責任ある研究活動」のために諮問委員会を

英語圏では、研究不正の防止に向けた取り組みについて、深い議論が続いています。 2017年4月11日、アメリカの有力な学術団体「米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM: The National Academy of Sciences Engineering Medicine)」は、研究不正防止に向けた提言をまとめた報告書『研究公正の育成(Fostering Integrity in Research)』を公表しました。 報告書をまとめたのは同アカデミーの「科学・工学・医学および公共政策・グローバル問題に関する委員会」の「責任ある科学に関する委員会」です。284項におよぶ報告書には、11項目の勧告がまとめられています。本文中には、2014年に日本で騒動になった「STAP細胞事件」も言及されており、「付録」には、米デューク大学のがん研究者アニル・ポッティによる捏造事件など、悪名高い研究不正の事例5件も紹介されています。 『サイエンス』は、11項目の勧告のなかでも4番目に述べられている「研究公正諮問委員会(RIAB :…

研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査

研究不正(research misconduct)の件数は、公式に認定されているよりもずっと多いかもしれません。イギリス放送協会(BBC : British Broadcasting Corporation)が独自調査の結果を3月27日に報じました。 イギリス議会には上下両院に科学技術委員会(Science and Technology Committee)が設置されていますが、下院科学技術委員会は今年1月、同国の立法支援機関である議会科学技術室で研究不正が問題視された(POST note、2017年1月 No.544)ことを受け、研究不正に関する調査を開始しました。同委員会のスティーブン・メトカルフ委員長はBBCに「研究に不正があることがわかった場合、人々に大きな影響を与え、それが不信につながるのです」と、この問題の重要性を語っています。 研究不正についての公式なデータはあまりないのが実状です。 たとえば、領域別に区分された7つの科学者団体から構成される英国研究評議会(Research Councils UK)は、2012年から2015年までの間に33件の研究不正の「申し立て」があったと報告しています。これらのうち5件が正式に不正だと判断され、20件が却下され、8件が調査進行中だといいます。…

「フェイク・カンファレンス」にご用心

アメリカのドナルド・トランプ大統領が選挙キャンペーンで勝利をおさめたことには、ヒラリー・クリントン候補を貶めるためなら嘘も平気で書く「フェイク・ニュース」が貢献したといわれています。 学術界にも「フェイク・ジャーナル」があります。「捕食ジャーナル(predatory journals)」とも呼ばれ、本誌「捕食ジャーナル – 倫理学分野にすら登場」でもお伝えしたように、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナルのことです。捕食ジャーナルやその出版元である「捕食出版社(predatory publishers)」は、疑うことを知らない若い研究者を掲載料目当てに食い物にしている、と批判されてきました。 捕食出版社のビジネスモデルは、ジャーナル(学術雑誌)だけでなく、国際的な学術カンファレンス(会議)にもおよんでいます。そうした「フェイク・カンファレンス」のシステムは、フェイク・ジャーナル=捕食ジャーナルとほとんど同じです。 たとえば、捕食出版社として知られるインドのA社や、カンファレンス専門のトルコのB社は、毎年何千もの「国際カンファレンス」を世界各地で開催しています。パリやドバイ、ラスベガスといった観光地が目立ちますが、ニューヨークやロンドンなどでも開催しています。これらの会社は研究者に向けて発表者を募り、研究発表を希望する者はそれに応募します。アブストラクトなどの応募書類は、査読者が査読することになっており、査読を通過すれば、投稿した者は研究発表を行うことになります。高額な手数料を支払えば、です。 数十分野もの研究者たちを1つのホテルに招待し、別々の会議室で、別々のセッションを開催します。それら1つひとつを「国際カンファレンス」と称し、世界中で、毎月のように行なっているのです。 問題はその質でしょう。 カナダの新聞『オタワサン』は、一般紙であるにもかかわらず、なぜか捕食ジャーナル問題を継続的に報道しています。同紙のトム・スピアーズ記者は以前、前述の本誌掲載記事でもお伝えしたように、デタラメな原稿をジャーナル編集部に投稿して、その査読体制のいいかげんさを暴露したことがあります。 スピアーズ記者は同じことをカンファレンスでも行いました。3月10日付の『オタワサン』への寄稿によると、彼は「カルミ・イシュマール博士」という偽名で、「鳥-豚の生理における飛翔特性の進化」と「サンゴ礁に依存する底生生物および遠洋生物の修復戦略:T. migratoriusおよびG. californianusのケース」という研究発表を応募しました。前者は、空飛ぶブタ(flying pig)の骨や筋肉について研究したもので、後者は、海底に生息する鳥(コマドリおよびミチバシリ)の生態について研究したものです。…

プレプリントを論文の「最終版」に!?

本連載「生命科学分野は「プレプリント」を導入すべき?」でも以前にお伝えしたように、「プレプリント(preprint)」という習慣が学術界に根づき始めています。 プレプリントとは、ジャーナル(学術雑誌)に論文として掲載されることを目的に書かれた原稿を、完成段階で査読の前にインターネット上のサーバーにアップした論文のことをいいます。プレプリントを登録するというこの習慣は物理学分野から始まり、1991年に設立された「arXiv.org」がプレプリント・サーバーの先駆けとして有名です。2013年には、生物医学分野を専門とする「bioRxiv」も設立されました。 この習慣は、あくまでもよりスピーディな情報交換のために始まったものなので、研究者は同じ原稿をジャーナルに投稿し、その原稿が査読を受け、論文としてジャーナルに掲載されることを目指す、ということが前提のはずです。 しかし最近、一部の研究者たちが、プレプリントを最終版とみなし、ジャーナルに投稿するつもりはないと発言して波紋を呼びました。そのことを『ネイチャー』(2017年1月20日号)が伝えています。 2017年1月12日、カリフォルニア大学デービス校の進化遺伝学者グラハム・クープは、Twitterで、bioRxivに投稿したプレプリントの1つは、それが「最終版」で、「公表(publish)」するつもりはない、と述べました。 その論文は、「遺伝的ヒッチハイク」と呼ばれるプロセスについて、2015年に公表されたある研究を批判するものです。 クープはこの論文をジャーナルに投稿せず、このプレプリントを「最終版」とする理由として、この論文は別の論文への応答であり、オリジナルの研究ではないからだと説明しています。しかし、もう1つの理由は「プレプリントが研究者によってどのように認識されているか」を知りたかったからだと書いています。 現行の査読システムにおいては、著者が原稿をジャーナルに投稿し、査読者がその原稿の問題点を指摘、つまり査読します。査読者の指摘に応じて著者は原稿を修正して再投稿し、査読者を納得させることができたら、その原稿は論文として受理(accept)されて出版(公表:publish)」されます。しかしながら、過激な論客のなかには、この査読というシステムは非科学的であり(本連載「査読の歴史 − 査読を科学的なものにしよう!」を参照)、オンライン・ジャーナルクラブ「パブピア(PubPeer)」や、PubMedの掲載記事に対してコメントして共有する「パブメドコモンズ(PubMed Commons)」といった情報交換サイトを通じた出版後査読(post-publication peer review)のほうが有益であると主張する人もいます(本連載「査読 システムに限界、基準劣化のおそれ」を参照)。 シカゴ大学の遺伝学者ヴィンセント・リンチは、クープの提起に応じて、「私の見解ではプレプリントはプリントと同じ(Preprint=print…

研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得

一般的には、研究不正(データの捏造、改ざん、盗用など)が発覚した研究者は、研究の世界から追放されると思われているかもしれません。しかし、2017年1月に発表されたある調査では、研究不正が発覚し、何らかの制裁を受けた後であっても、研究を続けているだけでなく助成金を獲得し続けている研究者が少なくないことがわかりました。 米国イリノイ大学の研究公正官−−アメリカでは、研究機関には研究不正に対応する職員「研究公正官」を配置することが義務づけられています*¹−−カイル・ガルブレイス(Kyle L. Galbraith)は、1992年4月から2016年2月までの間、アメリカの政府機関「米国研究公正局(ORI : The Office of Research Integrity)」によって、研究予算の受領の一時停止など制裁措置を受けた研究者284人を特定しました。 彼はオンラインのデータベースなどを活用して、その284人のうち、何人が研究を続けているかを確認しようと試みました。該当する研究者が公表した論文を「PubMed」で検索したり、彼らが国立衛生研究所(NIH)から得た助成金や研究分野における地位を調べたりしたのです。 その結果、半数近くの134名(47.2%)が研究を続けていることがわかりました。113人は研究職に従事していることがオンライン上で確認され、118人はPubMedに論文が公表されていることも判明しました。 また、約8%にあたる23人は、ORIによる制裁を受けた後にもNIHから助成金を得ており、さらにこのうちの17人の研究者は、彼らが関与する61件の新規プロジェクトに対して1億100万ドル以上の助成金を獲得していることが見えてきました。 彼の調査結果は『人間研究倫理に関する実証的研究ジャーナル(Journal of…

臨床試験の結果をシェアしていないのは誰だ?

以前、本誌「臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開」でも紹介したように、実施されたはずの臨床試験の結果のうち約半数ないし半数以上が公開されていないことが問題になり続けています。2016年8月には、子どもを対象にした臨床試験のうち半数近くが、途中で中止されたか、完了しても公表されていないことが新たに明らかになりました。 「臨床試験」とは、被験者、つまり生きている人間を使って、新薬や医療機器の有効性や安全性を検証することです。したがって、その結果が公開されていないということは、医師や患者が治療方法を決定する際に参考になる情報があるにもかかわらず、それらを参照できないことを意味します。 2016年11月、臨床試験のデータを開示するよう製薬業界を促している研究者や医学ジャーナルのグループ「オールトライアルズ(AllTrials)」は、「誰が臨床試験の結果をシェア(共有)しないのか?(Who's not sharing their trial results?)」というウェブツールを制作・公開して、臨床試験の結果の公開状況を可視化しました。 オールトライアルズは、臨床試験のデータベース「ClinicalTrials.gov」に登録されている臨床試験すべての詳細を定期的にダウンロードし、臨床試験の結果がジャーナル(学術雑誌)に発表、または「ClinicalTrials.gov」に報告されているかを調べ、いずれにも公開されていない場合には、該当の臨床試験データが「欠落(missing)」しているものとしてカウントするよう、ツールを設計しました。 その集計によれば、2006年1月以降、臨床試験の主なスポンサーは、2万5927件の臨床試験を完了したのですが、そのうち1万1714件の結果が公開されていません。「このことは、臨床試験の45.2%の結果が欠落していることを意味します」とオールトライアルは記しています。 スポンサー別に見ると、「結果が欠落している臨床試験」が最も多かったのは、製薬大手サノフィ(Sanofi)です。同社は正式な臨床試験435件を実施しましたが、285件(65.5%)の結果は公開されていません。同社は生物医学のニュースサイト『STAT』の取材に対し、自分たちは「規制要件と自主的開示に関する業界の勧告」に従って、「ClinicalTrials.gov」や「EU-Clinical Trial Register」といったデータベースやジャーナル、学会などで結果を公表している、と反論しています。 2位以下には、ノバルティス ファーマ(Novartis…

捕食ジャーナルのリスト「ビールズ・リスト」閉鎖

いわゆる捕食ジャーナルや捕食出版社のリストとして知られる「ビールズ・リスト(Beall's List)」が、予告なしに閉鎖されました。2017年1月15日のことだと推測されます。 本誌「捕食ジャーナル-倫理学分野にすら登場」でもお伝えしたように、学術界では「捕食ジャーナル(predatory journals)」や「捕食出版社(predatory publisher)」が問題になっています。捕食ジャーナルとは、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナルのことで、捕食出版社とはそのジャーナルを発行する出版社のことです。そのいい加減さは、存在しない研究機関に所属する存在しない研究者の名前で、意味のないデタラメな文章を投稿しても、採択されてしまうことがあるほどです。そのため捕食ジャーナルは、疑うことを知らない若い研究者を掲載料目当てに食い物にしている、と批判されてきました。 コロラド大学デンバー校助教授で図書館員のジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)は2010年、趣味で、捕食ジャーナルと捕食出版社のリストを作り始めました。ビールズ・リストは彼のウェブサイト「学術オープンアクセス(Scholarly Open Access)」の目玉コンテンツでした。 捕食ジャーナルの影響は大きく、フィンランドの研究者らが2015年に発表した調査結果によると、2010年から2014年の間に「捕食」出版が急増し、ビールズ・リストに挙げられているジャーナルに掲載された学術論文の数は、ほぼ10倍近くまで増加したといいます。ビールズ・リストは随時更新されており、今年1月の最新の更新では、1000誌以上の捕食ジャーナルと1000社以上の捕食出版社がリストアップされました。 当然ながら、出版社のなかには、このリストに載せられることに抵抗してきたところもあります。ビールに対して高額の損害賠償を求める訴訟をほのめかした出版社もあります。 ビールはいまのところ、リストの閉鎖に関してどのメディアの取材も拒否していますが、コロラド大学デンバー校の広報担当者は、ビールは訴訟やハッキングではなく、「個人的な決断」によりリストを閉鎖したと各メディアに説明しています。また、ビールはコロラド大学デンバー校の教員として継続勤務するとのことです。 『サイエンス』誌のブログ『サイエンス・インサイダー(ScienceInsider)』などによると、研究者と出版社などをつなぐ学術関係のサービス・プロバイダであるCabell’s Internationalという会社がビールをコンサルタントに迎えて 捕食ジャーナル…

査読者が査読対象を盗用 − 「著者にとって最悪の悪夢」

学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』は、毎日、学術界にとってはあまりうれしくない情報を発信していますが、その同誌が「著者にとって最悪の悪夢」と呼ぶ事態が起きたようです。 2015年6月、タフツ大学メディカルセンターのマイケル・ダンジンガーらは、5年かけて実施した研究の結果を原稿にまとめて、『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』に投稿しました。しかし、その原稿は査読者によって却下されました。ダンジンガーは自分の論文がほかの研究者たちの論文で引用されていないかどうかを探していたとき、『EXCLIジャーナル』に、自分たちの原稿とほとんど同じ内容の論文が掲載されていることを発見し、2016年8月、そのことを『内科学紀要』に連絡しました。『内科学紀要』のクリスティン・レーン編集長は、その論文の共著者の1人に、ダンジンガーらが投稿した原稿の査読者がいることに気づき、その人物に連絡しました。連絡を受けた人物は盗用を認めました。レーンは『EXCLIジャーナル』の編集者にそのことを知らせ、同誌は、2016年9月にその論文を撤回しました。 つまり、査読者が査読対象の原稿を却下しておきながら同時に盗用し、自分自身の研究結果として発表していたのです。 2016年12月、『内科学紀要』は、ダンジンガーが盗用者に宛てた手紙を掲載しました。これは彼が実際にその「査読者/著者」である人物に送ったメールを修正したものだといいます。同時に、レーンの名前で書かれた論説も掲載されました。 ダンジンガーの手紙は「親愛なる盗用者様 私たちの原稿を盗んで自分の論文として公表した査読者への手紙」と題され、「ドクター博士(Doctor Dr.)」宛てに書かれています。 あなたは私たちの原稿の外部査読者として働いてから数カ月後、同じ原稿を別の医学誌で公表しました。あなたは著者名や所属機関を削除し、あなたの共著者やあなたの所属機関の名前に置き換えました。 彼は、自分たちが5年もかけて研究を計画し、被験者を集め、データを収集・分析したにもかかわらず、そうした「少なくとも4000時間の労働の結果」が簡単に 盗用 されてしまった事実を書き記しています。「あなたが確実に知っているはずであるように、窃盗は間違ったことです。科学研究では特に問題です」。そして盗用をした者は、評判や職位、研究費を得る資格などを失うことを、優しく諭します。 あなたがなぜそんなリスクを取るのか、理解することは難しいです。 あなたが医師や科学者になるために、懸命に勉強したことは間違いありません。私はあなたが多くの研究論文を発表したことを知っています。そのことは意味を持ちません。論文を公表することへのプレッシャーがあまりに強いかどうか、あなたが働いている地域や分野の文化が寛容であるかどうか、そのような盗用が真剣に受け止められないのか、あるいは発覚する可能性が低いかどうかにかかわらず、あなたがそんな機会を利用する理由を想像するのは難しいです。あなたが将来、ほかの誰かの研究を盗まないことを希望します。…

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは?

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは? ジャーナル(学術雑誌)の影響力(インパクト)を評価する指標として、「インパクトファク ター」が広く知られています。本誌は以前、このインパクトファクターには多くの問題があると指摘されていることを紹介したことがあります。 インパクトファクターとは、簡単にいえば、そのジャーナルに掲載された論文それぞれが過去2年間に引用された回数の平均値です。たとえば、2015年の『ネイチャー(Nature)』のインパクトファクターは41.456です。『サイエンス(Science)』は33.661、『セル(cell)』は32.242です。 12月6日、学術出版の大手エルゼビア社は、「サイトスコア(CiteScore)」という新しい指標を提供し始めたことを発表しました。 かつてはトムソン・ロイター社、現在はクラリベイト・アナリティクス社が提供するインパクトファクターは、約1万1000誌ものジャーナルをランキングしてきましたが、サイトスコアは、その倍の約2万2000誌を網羅しているといいます。 ただ、サイトスコアが意味することや計算の方法は インパクトファクター と似ており、基本的には引用された回数です。サイトスコアでは、1本の論文が過去3年間に引用された回数の平均値を示します。 エルゼビア社は、このサイトスコアを「ジャーナルの影響力について、より包括的で、より透明性が高く、より最新の見通しをご提供する新しい標準」だと紹介しています。 サイトスコアの最も大きな特徴は、いわゆる研究論文だけでなく、「社説(Editorial)」や「編集者への手紙(Letters to the…

科学を最も蝕んでいるのは「科学的詐欺」ではない!?

国内外で研究不正事件が発覚し続けています。「研究不正(研究活動における不正行為)」にもいろいろあるのですが、よく問題になるのは、存在しないデータをでっち上げる「捏造(Fabrication)」、データを都合よくねじ曲げる「改ざん(Falsification)」、他者のアイディアや文章を不適切に使用する「盗用(Plagiarism)」の3種類です。これらはその頭文字から「FFP」と呼ばれます。「科学的詐欺(scientific fraud)」と呼ばれることもあります。 しかし、研究者たちがFFP=科学的詐欺よりももっと深刻だと考えているのは、むしろ「 お粗末な科学 (Sloppy science)」や「疑わしい研究行為(Questionable research practices: QRPs)」などと呼ばれるものであることが指摘されました。 オランダにあるアムステルダム自由大学の疫学者マックス・エム・ブターらは、「科学知識の妥当性を脅かすとともに、科学者間の信頼に損害を与え、もしメディアで暴露されれば、科学への人々の信頼にも損害を与えるかもしれない」ものとして、「お粗末な科学」やQRPに着目して、研究者たちの意識調査を実施しました。 ブターらの調査対象になったのは、2015年にリオデジャネイロで開催された「第4回国際研究公正会議(the 4th World conference on…

査読 システムに限界、基準劣化のおそれ

生物医学のニュースサイト『STAT』は読者にこう問いかけます。「ゴジラと査読に共通するものは何か? どちらも必然的に自分の体重で崩壊してしまうはずだということだ。しかしどういうわけか、どちらも立っている」。『ネイチャー』によれば、すでに2010年の研究で、「査読システムは崩壊しており、まもなく危機に陥るだろう」と指摘されていたといいます。 しかし今年11月10日に『プロスワン』で公表された新しい研究によれば、今のところ査読者の数は、生物医学分野で毎年公表される膨大な数の新しい論文に間に合っている、といいます。論文は毎年100万件以上公表されており、しかも増加しています。 フランス国立衛生医学研究所の計算物理学者ミカエル・コバニスらは、生物医学の論文データベース「メドライン(MEDLINE)」に収録された論文を調査して、査読に費やされる時間を推計したところ、2015年だけで、6340万時間だとわかりました。もしジャーナル(学術雑誌)が時給75ドルという正当な対価を査読者たちに支払うならば、45億ドルの労働になるといいます。 「活動的な」査読者は毎年平均5件の論文を査読していることもわかりました。もちろん、年間何十件もの論文を査読する者もいれば、たったの1件という者もいます。また彼らの計算では、査読の需要に応じるために、2015年には180万人の査読者が必要とされたといいます。 前述の通り、査読をできる研究者の数は常に査読の需要を上回っているといいます。しかし問題は、労働の配分がきわめて不平等であることです。全体のうち5%の査読者が、全査読時間の30%近くを担っている、ということが今回の研究でわかったのです。 膨大な数の査読を引き受けている研究者のことを「査読のヒーロー」と呼ぶことがあります。コバニスたちは「こうした“査読のヒーローたち”はおそらく過労で、査読基準の劣化を招くリスクがある」と指摘します。 そのうえで、『ネイチャー』が興味深い見解を紹介しています。ニューヨークの出版コンサルタント、フィル・デイビスによれば「いわゆる“危機”は一流のジャーナルには影響していないかもしれない。その一方で、ひどい原稿をたくさん受け取る無名のジャーナルは、査読者を見つけることに苦労しているだろう。『プロスワン』のこの論文はそれらを分析していない可能性がある」。 コバニスらの研究ではそのほかにも興味深いことがわかりました。たとえばアメリカの研究者たちは、シェアで見ると、発表している論文よりも多くの論文を査読しています。中国はその逆で、査読の「輸入国」になっている、と『STAT』は指摘します。 同誌はこう主張します。「査読はきわめて欠陥のあるシステムである。しかし破壊するのではなく、修繕する価値のあるものだ。この最新の研究には、そうした見解を変更するものは何もない」 彼らはいくつかの提案をしています。たとえば査読者たちに支払いをすることです。そうすれば、査読を行う研究者たちは余分な仕事をするために余分な時間を費やしているという感覚を持たずに済むだろう、と。 また、論文の掲載や査読の基準をリセットして、論文の数自体を減らすべき、というある生物学者の意見を同誌は紹介します。 しかし、『STAT』は「もう一つの解決法」として、「もっと多くの、形態が異なる査読に道を開くこと」を提案します。たとえば、「パブピア(PubPeer)」や「パブメドコモンズ(PubMed Commons)」といった情報交換サイトによって、 査読…

査読レポート の公開に肯定的な声は多数

研究者は論文を公表したいとき、自分の研究結果を原稿にまとめ、ジャーナル(学術雑誌)に投稿します。ジャーナルの編集部はその原稿を、近い分野の専門家に送って、掲載する価値があるかどうか、「査読」を依頼します。査読を引き受けた専門家=査読者は、その原稿を読み、データの不足など問題点をチェックし、文書にまとめて編集部に送り返します。編集者はその文書を著者に送り、修正などを求めます(査読者は通常、匿名です)。その文書のことを「査読レポート」または「査読者レポート」といいます。著者は、査読レポートに書かれた査読者の指摘をクリアし、原稿をまとめ直すことができたら、その新しい原稿は論文としてそのジャーナルに掲載されることになります。 いま学術界では、論文を公表するときにその査読レポートも同時に公開する、という実験的な試みが始まっています。たとえば最近、ノッティンガム大学のケヴィン・シンクレアたちが、有名なクローンヒツジ「ドリー」と同じ方法で誕生したクローンヒツジたちの健康状態を観察し続けた結果を『ネイチャー・コミュニケーションズ』で発表したのですが、同時に同誌編集部はその査読レポートを公開しました。 同誌は、2016年に同誌で論文を公表した著者の約60%がその 査読レポート を公開することに同意したこと、それゆえ科学者たちに査読レポートの公開をオプションとして提供し続けること、しかし義務にはしないこと、などを明らかにしています。著者の意識は専門分野によって違いがあり、生態学や進化論では70%以上の著者が同意した一方、原子核物理学や理論物理学では50%を切りました。 また、『ネイチャー』によれば、欧州委員会(EC)が実施した調査では、回答者3062人のうち半数以上が、査読レポートの公開は査読をよりよくする、と答えています。その一方で、査読者の身元を明らかにすることについては査読を悪化させる、と答えています。 学術出版大手のエルゼビア社は過去2年、『農業・森林気象学(Agricultural and Forest Meteorology)』など5誌で、査読レポートの公開を試みてきました。同社は、査読レポートを公開することについて査読者たちはどのように考えているのか、次のような数字をまとめています。 ・95%は、査読レポートの公開は(著者たちに対する)助言に影響を与えていないと答え  た。 ・76%は、自分たちの査読レポートが一般に公開されるという事実によって言葉遣いが変わ  ることはなかったと答えた。 ・45%は、自分たちの名前を明らかにすることに同意した。…