機械翻訳には負けない――翻訳者に求められるもの
グローバル化の急激な進行により、近年、コミュニケーションやビジネスに必要とされる言語の数が一気に増加しました。このような社会的ニーズ、そしてIT技術の発達により、言語をメモリーとアルゴリズムを使って翻訳する機械翻訳が登場したわけですが、驚くような「誤訳」を目にした経験がある人も多いのではないでしょうか。今回は機械翻訳の可能性ならびに翻訳者に求められるものを考えます。 ■ 機械は人間を凌駕するか 自動翻訳(機械翻訳)の進化の早さは驚異的とも言えます。簡単な内容であれば、ごく自然に訳してくれるまでになりました。即時性と利便性が高いため、公共機関や宿泊施設などでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて機械翻訳機能を搭載した人型ロボットや音声案内を設置する動きが加速しています。 このまま翻訳技術やAIが進化すれば、機械翻訳は人間の翻訳者の代用になるのでしょうか?「否」との答えが多く見受けられます。どんなに機械翻訳が発達しても、プロフェショナルな人間の翻訳者は必要とされ続けると言われており、その理由として以下の4点があげられます。 1.言語とは、数学的アルゴリズムだけで処理できるものではない 2.人にしかできない翻訳がある 3.機械翻訳による誤訳の恐れ 4.誤訳は誤解の元 ■ 言語はアルゴリズムだけで処理できない すべての言語には文脈があり、それはコンピュータには読み取るのが難しいものです。また、言語はその使用者の文化と社会環境と強く結びついており、これらは「生きて」絶えず変容しているため、単純なアルゴリズムに落とし込むことができません。有機的な言語を無機的なアルゴリズムだけで処理すると、無理が生じるのです。 文法や語彙に共通性のある言語同士なら、機械翻訳をしやすいものがありますし、翻訳する方向(A語→B語、B語→A語)によってやりやすさが異なる言語もあります。例えば、英日と比較して日英のほうが難しいと言われますが、それは日本語に助詞や同音異義語が多く、その上、主語が省略されることが多々あることから解析しづらいのが一因です。解析できない部分は「推定」されるため、誤訳の可能性が高くなります。統計的な手法を使う機械翻訳では「推定」か所が多ければ多いほど誤訳の確率が高くなるのは否めません。しかしこれが翻訳者であれば、同音異義語であっても文脈から意に合った訳語を当て、主語の省略に対しても適宜補足することが可能です。翻訳は、単純なアルゴリズム解析だけで対処できるものではないのです。 ■ 人にしかできない翻訳がある 機械翻訳とは「力技」とも言えます。人の生活に密着した言語の変換処理を、コンピューターに蓄積されたデータと格段に進化した処理速度によって可能にするためです。 一方で、人が行う翻訳は、知識と経験に裏打ちされた「技能」と言えるのではないでしょうか。この翻訳者の「技能」こそが、人にしか持つことができない能力です。「外国語がわかる人であれば翻訳もできる」、「言語がわかれば誤訳など簡単に見つけられる」、あるいは「翻訳の正誤の確認は身近なネイティブにやってもらえば十分」との声があることは確かですが、翻訳や校正には訓練が必要です。言語に詳しいだけでなく、その言語の背景やTPOに応じた適切な表現方法、文法、綴り字、句読法などをマスターし、正確な文章に仕立て上げる能力が必要です。 ■ 機械翻訳による誤訳が顧客流出につながる…