翻訳者

メンタープログラム – 先達の知恵を活用

メンタープログラムもしくはメンター制度という言葉を耳にされたことはありますか?一般的には、先輩と後輩がペアになってスキル向上や人材育成を図る手段として知られています。 知識や経験豊かな先輩社員(上司とは別)をメンター、後輩社員(新入社員)をメンティーとして、業務上の課題の相談・アドバイスや精神面のケアを行う制度として、近年、企業にも広く浸透しつつあります。 メンターにとっては後輩の指導育成を行うことで管理業務を学ぶチャンスとなり、メンティーにとっては不安や悩みを相談しながら業務に必要なスキルやマインドを学ぶことができるため、組織におけるキャリア育成には効果的と言われています。そしてこのプログラム、個人事業者であることが多い翻訳者・通訳者の間にも広がりつつあるのです。 ■ メンターの起源は古代ギリシャ メンタープログラムの起源は、古代ギリシャにまでさかのぼります。「メンター」という言葉は、ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物「Mentor(メントール)」に由来します。メントールは、主人公オデュッセウスが息子テレマコスの養育を任せ、トロイ遠征ではギリシャ連合軍を勝利に導く助言を行ったとされる老賢人で、ここから「助言者」「教育者」などの意味で使われるようになったそうです。 現代のメンタープログラムは、従来の組織的な管理体制では行き届かなかった精神的なサポートや、自発的な判断力を養うことに重きを置いて行われていますが、では翻訳者・通訳者が自身の仕事を進めるにおいて、これを取り入れるメリットは何でしょうか? ■ 言語業界のメンタープログラム  言語の分野でよく知られるメンタープログラムには、アメリカ翻訳者協会(American Translators Association; ATA)によるプログラムと、翻訳者ネットワークの ProZ.com によるプログラムがあります。 1. アメリカ翻訳者協会…

翻訳者と通訳者-こんなに違う「伝える」シゴト

最近、成田空港に導入された「メガホンヤク」をご存知ですか?「ドラえもん」のポケットから出てくる道具のようだと話題になったメガホン型の翻訳機で、日本語を英語、中国語(北京語)、韓国語にして再生することができます。空港など外国人の多い場所で係員のアナウンスを多言語に変換し、誘導などを補佐するものですが、話者の発言を他の言語に置き換えるにも関わらず「通訳機」ではなく、その名はずばり「ホンヤク(翻訳)機」。英語でも Megaphone Translator と紹介されています。メガホンと翻訳をかけた絶妙なネーミングですが、このメガホンが話者の発する言葉を「通訳」するのではなく、事前に登録された言葉(文章)に置き換える「音声翻訳」を行うものであることから、この名前になったものと思われます。 似たようなイメージで見られがちな「翻訳」と「通訳」。この違いは何なのか。翻訳者と通訳者に求められるスキルや必要な訓練に違いはあるのか。あらためて整理してみましょう。 ■ 翻訳と通訳は完全に別モノ 表面的には、翻訳者は「書き言葉」を、通訳者は「話し言葉」を扱っているという違いがありますが、根本的な部分で翻訳と通訳に求められるスキルは異なります。翻訳者に求められるのは、原文の言語(ソース言語)を理解し、その文化的文脈に沿って、辞書や参考資料、CATツール(コンピュータ支援翻訳ツール)などを用い、正確に他の言語(ターゲット言語)に置き換える能力です。一方、通訳者は現場で話者が話す言葉を同時あるいは逐次に変えていく必要があるため、卓越した聞き取り能力と短時間に効率的なメモを取るテクニック、人前で話す力が求められます。特に同時通訳の場合、ターゲット言語へのアウトプットはソース言語の発話から5~10秒以内です。ほとんど瞬間的とも言える時間の制約の中で、話者の言葉を聞きながら、即座に情報をまとめて的確な言葉に置き換える力が必要です。 求められる正確さにも違いがあります。翻訳は、下調べを重ねて内容を十分に理解した上でテキストを作成します。原稿を納品前に推敲する時間がある分、訳文には高いレベルの正確性が要求されます。通訳は、話者の話した内容を脚色せず「言語変換」に徹します。正確さよりも、時間(瞬間的な対応)と意味が伝わることが重視されます。 また、それぞれの仕事が必要とされる場所も異なります。最近は、外国人旅行者や居住者が増え、多方面で翻訳・通訳の仕事が増えています。ビジネス文書の翻訳など産業翻訳と呼ばれるものの他に、小説の翻訳(文芸・出版翻訳)や海外ドラマなどの翻訳(映像翻訳)、比較的新しいものとしてはゲーム翻訳や観光客向けホームページのための多言語翻訳などの需要が増えています。 一方、外国人観光客を案内する「通訳ガイド」の需要も増えています。通訳は、人と人を直接つなぐので、コミュニケーションをとることが好きな人や人前に出て話すのが得意なタイプに向いていると言われます。 ■ 翻訳には緻密さ、通訳には大胆さ 通常、翻訳者・通訳者は自分自身の母語と他の言語の置き換えを行います。翻訳は、多くの場合、どの言語をどの言語に(例えば、日本語から英語、または英語から日本語)するか、事前に「方向」を確定させます。求められるのは、元の原稿の内容に精通する専門性や語彙の豊富さ。時間をかけて、正確かつわかりやすい言葉の置き換えを行います。 一方、通訳はいわば「生中継状態」。話す内容が事前に大まかに決まっていても、話の進み方次第で臨機応変に対応しなければなりません。それだけではありません。話し手が強調する部分は話し方を大げさに、笑いを取ろうとしている部分などはニュアンスが言語間の文化を超えて伝わるよう、思い切った言葉選びをする必要も。優秀な通訳者は、一つひとつの単語、文章を「訳す」のではなく、概念を理解するや否や、素早くターゲット言語で「説明」しているとも言えます(頭の中では2つの言語が同時に飛び交っているのかもしれません)。 あいまいな表現が多い日本語を、具体的な表現で説明することが多い外国語にどう置き換えれば、より分かりやすく伝えられるか。これも、翻訳者と通訳者が共に頭を悩ませる難題です。語彙の面でも、外来語だけでなく外国語やカタカナ語(技術関連用語や新語など)が氾濫し、どこまでが一般に通用するのか、あいまいになってきています。翻訳の場合、メッセージに込められた背景、ニュアンス、表現まで考慮した上で、ターゲット言語のネイティブが読んだ際に違和感なく理解できる文章にしなければなりません。通訳と違って読者を特定できないため、カタカナ用語や専門用語を使う際には、日本語に置き換えるか注釈をつけるなどの工夫が必要となります。一つひとつの文章を正確かつ適切に訳すことにより、メッセージを伝えることが重要なのです。 一方、通訳であれば、発話全体の意味を捉えて、聞き手にとって分かりやすい(と推定される)近似的な言い回しに「訳す」ことでしょう。聞き手が理解できるものであれば、一般的ではないカタカナ語を使うこともできます。そもそも、ソース言語とターゲット言語の単語レベルですら意味が完全に一致するとは限らないので、一言一句ではなく話の筋が伝わることが重要視されるのです。…

機械翻訳には負けない――翻訳者に求められるもの

グローバル化の急激な進行により、近年、コミュニケーションやビジネスに必要とされる言語の数が一気に増加しました。このような社会的ニーズ、そしてIT技術の発達により、言語をメモリーとアルゴリズムを使って翻訳する機械翻訳が登場したわけですが、驚くような「誤訳」を目にした経験がある人も多いのではないでしょうか。今回は機械翻訳の可能性ならびに翻訳者に求められるものを考えます。 ■ 機械は人間を凌駕するか 自動翻訳(機械翻訳)の進化の早さは驚異的とも言えます。簡単な内容であれば、ごく自然に訳してくれるまでになりました。即時性と利便性が高いため、公共機関や宿泊施設などでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて機械翻訳機能を搭載した人型ロボットや音声案内を設置する動きが加速しています。 このまま翻訳技術やAIが進化すれば、機械翻訳は人間の翻訳者の代用になるのでしょうか?「否」との答えが多く見受けられます。どんなに機械翻訳が発達しても、プロフェショナルな人間の翻訳者は必要とされ続けると言われており、その理由として以下の4点があげられます。 1.言語とは、数学的アルゴリズムだけで処理できるものではない 2.人にしかできない翻訳がある 3.機械翻訳による誤訳の恐れ 4.誤訳は誤解の元 ■ 言語はアルゴリズムだけで処理できない すべての言語には文脈があり、それはコンピュータには読み取るのが難しいものです。また、言語はその使用者の文化と社会環境と強く結びついており、これらは「生きて」絶えず変容しているため、単純なアルゴリズムに落とし込むことができません。有機的な言語を無機的なアルゴリズムだけで処理すると、無理が生じるのです。 文法や語彙に共通性のある言語同士なら、機械翻訳をしやすいものがありますし、翻訳する方向(A語→B語、B語→A語)によってやりやすさが異なる言語もあります。例えば、英日と比較して日英のほうが難しいと言われますが、それは日本語に助詞や同音異義語が多く、その上、主語が省略されることが多々あることから解析しづらいのが一因です。解析できない部分は「推定」されるため、誤訳の可能性が高くなります。統計的な手法を使う機械翻訳では「推定」か所が多ければ多いほど誤訳の確率が高くなるのは否めません。しかしこれが翻訳者であれば、同音異義語であっても文脈から意に合った訳語を当て、主語の省略に対しても適宜補足することが可能です。翻訳は、単純なアルゴリズム解析だけで対処できるものではないのです。 ■ 人にしかできない翻訳がある 機械翻訳とは「力技」とも言えます。人の生活に密着した言語の変換処理を、コンピューターに蓄積されたデータと格段に進化した処理速度によって可能にするためです。 一方で、人が行う翻訳は、知識と経験に裏打ちされた「技能」と言えるのではないでしょうか。この翻訳者の「技能」こそが、人にしか持つことができない能力です。「外国語がわかる人であれば翻訳もできる」、「言語がわかれば誤訳など簡単に見つけられる」、あるいは「翻訳の正誤の確認は身近なネイティブにやってもらえば十分」との声があることは確かですが、翻訳や校正には訓練が必要です。言語に詳しいだけでなく、その言語の背景やTPOに応じた適切な表現方法、文法、綴り字、句読法などをマスターし、正確な文章に仕立て上げる能力が必要です。 ■ 機械翻訳による誤訳が顧客流出につながる…

翻訳ツールにできること、人間にしかできないこと

この10年ほどの間、まさに目覚ましい進化を遂げたIT技術により、世の中はとても便利になりました。特に、PCの普及というハード面からアプリケーションの多様化というソフト面での拡充により、携帯電話やオンラインショッピングなど、かつては夢物語でしかなかったコミュニケーションが現実化しています。 これと同時に、翻訳に関連する技術も進化してきました。その一つがCATツール(Computer-Aided Translation tools:コンピューター翻訳支援ツール)です。今回は、CATツールの利便性、そして限界に焦点を当ててみます。 ■ CATツールとは? まず、CATツールとは何かという基本に立ち返ってみましょう。 CATツールとは世界中で利用されている翻訳支援ソフトウェアの総称で、専用のデータベース(翻訳メモリ)に訳語を記憶し、テキスト中に同一もしくは類似の用語が出てきた際にデータベースに登録された訳語を再利用できるようにし、翻訳作業のスピードアップと生産性の向上を図るものです。品質の維持と効率化が図れることから、グローバル市場向けの翻訳やローカライゼーションには、CATツールの使用が発注条件になっているものも見られます。大量の情報を短時間で翻訳するためには、ツールの活用が不可欠になってきているのです。とはいえ、CATツールの利用だけで翻訳の質が保証されるのでしょうか? ■ CATツールにできること-翻訳メモリで作業を短縮&効率化 CAT ツールは、翻訳者の効率的な業務遂行を支援するものです。CATツール上では原文が細かい分節に区切られ、訳文が、いわゆるTM(Translation Memory:翻訳メモリ)に保存されます。以後、テキスト中に同じ語句を含む文章や類似の文章が出てきた場合、文節単位でTMから訳文を転用することが可能になります。 繰り返される部分があれば自動的に訳文案が挿入されるため、翻訳者は語句の検索やコピー&ペーストの負担から解放され、結果として作業時間の短縮および訳語の統一につながります。 CATツールを通じて辞書や専門用語事典の照会もできるため訳語の正確性も増し、用語集の作成に時間を取られることもありません。同時に、複数の翻訳者が作業に関わる場合でも用語の整合性が確保できるのです。用語だけではありません。原文を訳しやすいように分割し、原文と訳文が並列に記載されるバイリンガルファイルを作成してくれるので作業の効率化も図られます。 しかし、このように有用なCATツールでも、万能とは言いがたい部分があるのです。 ■ CATツールにまだできないこと-文意の再構築…