研究者

研究者向け・生産性を高める時間の使い方

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は生産性の高い研究生活を送るために日々どう時間を使うべきか、ミューバーン准教授が伝授します。 今年もすっきりしない年明けとなりました。 この原稿を書いている1月中旬、ここオーストラリアでは新型コロナの変異株オミクロンが猛威を振るっています。エッセンシャルワーカーたちが罹患したり、隔離されたりしたために物流にも影響が及んでおり、スーパーマーケットに行っても何が手に入るかわからないという事態です。先日は何の問題もなく果物や野菜が買えたのに・・・ (訳者注:オリジナルは2022年2月2日に投稿されたもの) (上のTweet:キャンベラの皆さん。Crace(キャンベラ郊外の町)のスーパーマーケットSupabarnの青果売り場です。) もちろん、毎度のことながらトイレットペーパーは品薄で(トイレットペーパー不足の混乱さえなければコロナ禍にあることすら忘れそうです)、残念なことに肉とオイスターソースは購入できませんでした。 (上のTweet:さすがのSupabarnでも肉の棚はガラガラ。私はベジタリアンと一緒に住んでいるのでひき肉がなくても大丈夫だけど。) (下のTweet:オイスターソースの棚は、見事に空っぽ。みんなが、このソースの美味しさにハマってしまう気持ちもわかるけど。幸い、海鮮醤の最後の1本を手に入れられたのでそれを堪能しておきます。) オーストラリア人のツイッター上には、政府やテニス選手、あるいはお互いに向かってありとあらゆることをまくし立てる書き込みが氾濫し、まるで、「教室に鳥が飛び込んで来た(※オーストラリアの作家Colin Thieleの詩”Bird in the…

初めての相手へのお願いごとメール – 失敗例と成功例

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。人と連絡を取るのに便利な電子メールですが、手軽な一方で失礼な文面になってしまったりしませんか。会ったことのない相手にメールを送ることもあるでしょう。今回は、失敗例と成功例から面識のない相手にメールでお願いごとをする時に気をつけたいことや、忙しい相手に依頼を検討してもらいやすくするかを説明してくださいました。 もはや電子メールなしのコミュニケーションは考えられませんが、簡単に連絡を取ることができる反面、失敗するのも簡単です。 人間とは不思議な存在です。高い社会性を持ちながら、それぞれ特有の個性を持っています。愛情にあふれているかと思うと、地位や権力をめぐって争うことも少なくありません。そして、中産階級的なのに独特の言語や作法を持つ学術界は、社会的挑戦の場と言えます。学術界で効果的なメールを送るには次に記すようなスキルが求められるのです。すべて簡単なことのように見えますが、これらを侮ると相手を怒らせてしまうことになりかねません。 面識のない研究者に対してメール、いわゆる「コールドコール」を送る理由はいくつか考えられます。 現在のプロジェクトに関してのサポートや助言を求めたい 講演依頼やデータ、自分では入手できない論文の提供を依頼したい 仕事の依頼 相手への敬意を伝え、つながりを築きたい Twitterで尋ねたところ、同業者や一般人からの不適切で専門外の内容に関するメールに対して不満を抱いている研究者が驚くほど多くいました。迷惑メールの送信者の中で最もタチが悪いのは学生だ―とは言いませんが、一般的な学術関係者の受信トレイの中で、どのようなメールが嫌がられているかを知っておくのは良いことでしょう。例えば以下のようなものです。 あなたの最新論文に自分の研究が引用されていないことに対する文句のメール 理論や研究結果が間違っていると指摘するメール(その研究に反駁する論文を書くより、メールを送る方がはるかに容易です) 学術的専門知識を疑うメール(女性考古学者のCatherine…

研究プロジェクトを終わらせるためのマインドセット

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。博士課程で研究を続ける中で、研究が終わらないんじゃないか……と不安になったことがある人は少なくないはずですよね。今回は、ミューバーン准教授が研究プロジェクトを終わらせるために必要な考え方、マインドセットについてのヒントをご紹介します。 ざっくりと言って、人は3つのタイプに分類できると思います。 設定した時間内に終わらせるつもりで研究プロジェクトを始める人 終える時期を気にせずにプロジェクトを始める人 期限を過ぎるまでプロジェクトの期限を意識しない人 もしあなたが博士号取得を目指しているのに上の3つのタイプの2番目に当てはまると自覚されているのであれば、幸運を祈ります。頑張ってください!熱意を持ってじっくりと博士課程に取り組み、自分のスケジュールでそれを完了させるための十分な時間とリソースがあるという人も中にはいるでしょう。しかし普通の人はそれほど恵まれてはおらず、経済的な理由はもちろん、その他さまざまな理由で決められた時間内に研究を終えなければなりません。 昨年、私は「心で叫んでも、研究続行– プロジェクト管理と不確実性」という記事の中で、さまざまな種類のプロジェクトの不確実性に対処する方法を紹介しました。しかし、資金が尽きる前に研究プロジェクトを完了させるには、戦略だけでは足りません。必要なのは「研究プロジェクトを終わらせるためのマインドセット」と呼ぶべきものです。 経験豊富な研究者の多くはこうしたマインドセットを持ち合わせています。彼らは自分たちの仕事に情け容赦もなく実用的なアプローチをとります。生産性がないと判断すれば、躊躇せずに、その時点で行っているやり方を止めることができるのです。そして、こうした研究者の論文が学術雑誌(ジャーナル)に出版されます。というのも、彼らはジャーナルが求めることを過不足なく行っているからです。自分たちの「意見」あるいは視点にこだわらないため、バッサリと(かつ効果的に)自身の論文を編集できます。彼らの特徴は、ひとつの研究を効率的に終わらせ、すぐ次の研究に着手することです。もちろん次の助成を得ることにも抜かりありません。 私は学生の時に、こうした百戦錬磨の研究者たちが立ちはだかっているということに気づきました。私自身、彼らのことを理解していたとは思えませんし、正直かなり批判的でした。学部で成功していたひとりの研究者のことを、研究の手を抜いて、質に気を配っていないとひそかに思っていました。研究自体より、助成金獲得に関心があるように私の目には映っていたのです。実際の作業のほとんどは、働きすぎで不機嫌なリサーチアシスタントたちが担っていました。ところが、私自身10年以上にわたり、限られた予算で多くの関係者やリサーチアシスタントを抱えて研究プロジェクトを遂行してきた今では、この研究者のことが少し理解できるようになりました。彼ほど偏屈ではありませんが、研究について前よりも感情に左右されることなく、冷静で効率的に編集できるようになっています。 古代ローマにおける英雄ユリウス・カエサルが言ったとされる名言に、「経験することはすべてにおける教師である。(Experience is…

研究者がベストセラー作家になるには

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はミューバーン准教授の知人、研究者であり、同時にベストセラー・ノンフィクション作家でもあるリン・ケリー博士が、どうやって博士課程の研究を元に「売れる本」を書いたのか、の紹介です。 私は、執筆や出版を生業とする人々に囲まれていますが、リン・ケリー博士は、私の知人の中でもとりわけ多くの本を執筆・出版している人です。私と彼女は公私ともに長い付き合いがあり、彼女が博士号取得前からノンフィクションを書いていたのを知っているので驚くべきではないのかもしれませんが、私の知る限り、博士課程の研究から学術書(『Knowledge and Power in Prehistoric Societies』)とベストセラーのノンフィクション(『 』)の両方を書いた唯一の人物です。 学術書は読む気にはなれなかったので『The Memory Code』を読んでみたところ、本当に引き込まれてしまいました。説明は難しいのですが、ストーンヘンジのような場所とオーストラリアのアボリジニに古くから伝わる記憶法を結びつけ、口承文化において知識がどのようにして物に記録されるかを示しています。恥ずかしながら、過去200年間にオーストラリアのアボリジニの知識や文化が計り知れないほど失われたことを私が本当に理解するには、誰かに自分たち(白人)の歴史と結びつけて示してもらう必要があったのです。リンがそれをやってくれました。自分たちの方法を惜しみなくリンに教えてくれたアボリジニの長老たちには頭が上がりませんし、逆境の中、人々が伝統を守り続けていることは本当に感謝すべきことです。 深い敬意を示さずにはいられません。 彼女の著書『The…

不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(前編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。2021年は不安な時だからこそ、具体的に博士課程で起こり得る問題を予想して実践的に準備しようというインガー准教授のメッセージを前後半でお届けします。(元記事は2021年1月6日に投稿されたものなので、新年の挨拶から始まっています。) あけましておめでとうございます。 2020年、無能な政治家や、がめつい企業の運転するバスに乗り合わせたばかりに、崖っぷちにさらされた無力な乗客のような感覚になることがよくありました。気候変動に関しては常々「崖っぷち感」を感じていましたが、パンデミックはその感覚を悪化させたのです。私は2020年を通じてとてつもない不安を抱えていたので、仕事を含むすべての作業に悪影響を及ぼしていました。 2021年に状況が改善されるとしても、こうした不安の原因となっている問題の多くが霧消することはないでしょう。今年、どんな準備するのが良いのか考えてはみるものの、たくさんの抱負を掲げたところで役に立つとは限りません。 (こうした不安について、自分も当てはまると思う人は、これからお伝えする注意事項を読んで参考にしてみてください。) 無力感や、それがもたらす不安は嫌なものです。抗不安薬(精神安定剤)もある程度は効きますが、気持ちを落ち着かせるためだけに多くの時間とエネルギーを費やさなければなりません。私の場合、雇用と結婚生活を維持するためには冷静さを保たなければならないので、さまざまな戦略を用いています。優しい夫が買ってくれたデッキチェアに座ってセラピストにすすめられたマインドフルネスを実践することもそのひとつ。この夏、特に今年の前半にコロナがオーストラリアを襲った後は、このデッキチェアは私にとって欠かせない物となりました。   View this post on Instagram…

学者なりに燃え尽き症候群を引き起こす完璧主義を分析してみた

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。なんとメンタルヘルスに悩む学生を支える側のインガー准教授ご自身が、働き過ぎのストレスから健康を損なってしまったようです。問題解決に向けて自己分析をされていますが、その方法とは? 昨年、長年の過労がたたって体調を崩しました。 概ね15年もの間、週50時間から60時間働いてきた私の中の何かが、ある時ふと弾けてしまったのです。仕事中に突然涙があふれたり、不安発作が起きたり、疲労感や気分変動に襲われたり……といった症状が急速に悪化してしまいました。そのまま進んでいたらうつ病になってしまったかもしれませんが、幸いにもそこまで悪化する前に行動を起こすことができました。 メンタルヘルスの問題を抱えている博士課程の学生を10年以上見てきたのに、自分自身の燃え尽き症候群に気付きませんでした。正直、かなり面食らったことに、ベッドにこもって、何にも誰にも関わりたくないという強い誘惑にかられていました。健康とバランスを取り戻す方法を見つけ出すには、いろいろ試したものの1年という時間を要することに。つらい1年でしたが、自分の限界を知り、過労が健康に及ぼす影響について考えるきっかけになったと思えば、良い経験でした。 症状改善に役立ったことの1つはセラピーです。セラピーを受けた結果、自分が心理学的に言うところの「反すう(rumination)」、つまり現在の状況や過去の出来事を自制できないほど何度も繰り返して考えてしまう思考パターンに陥る傾向があり、そのことで、物事に集中することや、その瞬間に居合わせていることが困難になってしまうことが自覚できました。私はいつも頭の中で「……だけど、もしかしたら?」と用心深く自問して、結果的に不安を募らせてしまう――まるで、自分の心と格闘しているような気分をずっと味わってきたのです。 博士課程の学生(そして研究者たち)にとって、メンタルヘルスが大きな問題である理由の一つがようやくわかりました。私たちには長年にわたる論争を経て積み重ねてきた考え方が染みこんでいます。私は、自分自身と向き合い、将来うまくいかなくなるかもしれないことについて入念に考えを組み立てておくことが得意です(言い添えておくと、その時点でのわずかな兆候を元にしてできる範囲です)。習慣付いてしまっている考え方を打ち消すために私がやっているのは、私に試練を与えるためだけにひょっこり出てくる古い考えに凝り固まった学内の重鎮たちでいっぱいの退屈な学術セミナーにあえて出席していると想像してみることです。そんな状況でどうやって反論するかって?「黙ってて」と言うのも大分上手になってきました。 セラピストが私に勧めたことのひとつは、自分の中の完璧主義的な傾向を探ることでした。私は今まで自分を完璧主義者だと思ったことはありませんでしたが、それは完璧主義であることは 「動きが取れない」状態だと考えてきたからだと思います。これまでに、失敗を恐れて動けない―あるいは、何度も何度もやり直しをしてそれまでに行った作業をすべて消してしまう学生たちにたくさん出会ってきました。でも、私はまったく逆で、どうでもいいことをこなすのも得意ですし、プロジェクトを完了させることもできます。 私の考えが及ばなかった点は、仕事上だけでなく、人生における自己基準がとんでもなく高いという点です。私は受けられる量以上に多くの、そして困難なプロジェクトを引き受けて、それらの難しいプロジェクトをやりきろうとするあまり、自分でもバカみたいと思えるほど長い時間を費やすのです。そのあげくに、十分な仕事ができていないのではと毎回心配する……。これはいわゆる自分を過小評価してしまう心理傾向の「インポスター症候群(障害とは診断されないとは言っても)」ではなくて、むしろ学術界という超批判的な世界で生き抜くために身についてしまった反応ではないかと思っています。 セラピストにこの問題について研究してみるように勧められたので、「機能型」完璧主義と「適応型」完璧主義に関する文献を探してみました。それらから見えてきた傾向は以下のようなものです。思い当たる方もいるのでは? 必要でない場面でも、常に高い目標を目指す 健康と幸福を犠牲にしてでも、常にベストを尽くしたいと欲する…

不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(後編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。前編は不安を学者らしく捉えようとする姿勢についてでした。後半は博士課程で起こり得る問題の想定と対処についてです。 前編はこちら 想像力・創造力こそ、人類が多くの危機を生き延びるのを助けてきました。創造性は、「想像できる未知の出来事」に備える大まかな計画を立てる上で役立つのです。博士課程の間に起こりうる問題には次のようなものが考えられるでしょう。 問題のある指導教官 予期せぬ健康上の問題 大学による学校あるいは学部の閉鎖 人間関係の問題 実験の失敗 現地調査の実行不可 リソースの入手・利用不可 「想像できる既知の出来事」、つまり日々の問題は些細なことに見えますが、しっかりと解決に取り組むべきです。問題には、自分が進むべき道に関することもあれば、家族に関することもあるでしょうし、仕事に関することはほぼ全てに影響を及ぼすことでしょう。ここでは、文化的、技術的なありがちな問題の数々、「逆風」を取り上げたいと思います。 役割の曖昧さ:どこまでが自分の責任か明確に分からないことにより博士課程の研究が困難になることがあります。博士課程では、学生自身が独立して研究することを求める一方で、指導教官は研究の質と進捗を監督する責任を有しており、そのために避けて通れない対立が生じることがあります。役割の曖昧さは、同じ研究に従事する博士課程の学生と有給の研究助手の間の基本的な立場の違いにおいても生じます。学生が研究者になることを目指している場合、誰が博士課程における研究の質と進捗の最終的な決定者なのか?良好な関係にある指導教官と学生でも、この問題では苦労するかもしれないし、既に苦労しているかもしれません。役割の曖昧さは、それだけで1つの記事が書けるほどの複雑な問題ですが、ここでは、それによるストレスが、精神衛生上、好ましくない結果をもたらす可能性があるとだけ述べておきましょう。…

学術書や論文のインデックス作成方法

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、インガー准教授が学術書を執筆中にインデックス(索引・見出し)をどうつけるか考えたときのお話です。ここで紹介された本は、インガー准教授が他2名と共著で作成し、2018年12月に出版されています。 読者の皆様。私は今(2018年4月時点)、Shaun Lehmann(ANUの学生向けにさまざまな授業を行ってきた)とKatherine Firth(メルボルン大学で学生向けブログThesis Boot CampのResearch Degree Insidersをとして記事を執筆している)と3人でOpen University Pressより刊行予定の書籍『Writing Trouble(How to…

心で叫んでも、研究続行 – プロジェクト管理と不確実性(前編)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、コロナ禍で研究の不確実性を実感した2020年を振り返っての記事です。インガー准教授の心の叫びや、プロジェクト管理に付きまとう不確実性と対処方法を前後編でお届けします。 2020年。何という一年だったのでしょう。皆さんにとってはどうか分かりませんが、世界が混乱に陥った年、私にとっては仕事に集中することは難しい一年でした。学生や同僚たちの前で平静さを保つために、私は声に出さずに心の中で叫んでいました。まるで、真面目な顔で遊園地のジェットコースターに乗っている日本人が、感染防止のために叫び声を抑えるように。もちろんマスク着用です。 とはいえ、コロナ禍に限らず、いかなる時も研究は大変です。計画通りに進むことはありません。学術研究というものは、綿密な計画を立てたとしても大きく逸脱してしまうものなのです。 私は、周りからは効果的に研究を行っている、生産性の高い研究者だと目されているようですが、想定通りに進行したプロジェクトはいまだかつて一つもありません。大抵、なんとか期日に間に合わせます――とは言っても、提出を約束した日から1、2か月遅れて出している状況で、いつも最後はがむしゃらに仕上げることになります。 こんなハメに陥っているのは、私だけではないはずです。学生の多くは、博士課程を卒業するのに3.5年ではなく(訳者注:日本では博士課程卒業に要する年数は3年と言われているが国や大学院、学部によって差があります)、約5年を費やしています。そしてオーストラリア国立大学(ANU)でも約20%の学生しか予定通りに卒業することができないのです。決して学生たちが怠けているわけではありません。これをお読みの皆さんの中にも、日々苦労しているにもかかわらず、博士課程の進行に遅れが生じているという方もいるでしょう。 計画通りに進まないのはPhD課程だけではありません。複数の著者との共著書籍の出版プロジェクトなども遅れがちです。担当した章を予定通り、つまり期日から1カ月遅れで提出したところ、著者たちの中で私が最初に原稿を出したと編集者に感謝されました。それが1年半前。以降、その書籍の刊行については、なしのつぶてです。おそらく、他の著者の原稿がまだなのでしょう。 研究者は、なぜ提出期日に間に合わせることができないのでしょう? 期日を守るための適切な訓練を受けていない、というのが一つの理由でしょう。大学としては、博士課程まで進んだ学生は、しっかりしていて、頭の中も整理された状態で作業ができて当然だとみなしているのだと思います。これはかなり雑な決めつけです。例えば学生当時の私の専門分野は建築でした。学部生だった5年の間に建物を建てるためのプロジェクト管理について学んできたと思われるでしょうけれど、実際のところは、ほとんど何も教わりませんでした。プロジェクト管理の手法を覚えることができたのは、建築事務所に出入りをしていた10年ほどの間です。例えば、プロジェクト管理や生産管理に用いられるガントチャートの使い方を学ぶことができました。ガントチャートとは、下図のようなプロジェクトの各タスク(工程)のタイムラインを可視化するものです。 これに類するものを作成したことのある人も多いことでしょう。博士課程の学生には、定期的にガントチャートを作るよう勧めています。グラント(助成金)への応募に際しては、助成機関に対しプロジェクト完了の日程を現実的に見積もる能力を示すため、こうしたガントチャートが必要になります。まずこれを見て応募者をふるいにかけるという機関もありますので、ガントチャートの作成能力は大切です。興味のある方は、Research Whispererでシンプルなグラントチャートの作成法が紹介されているので参考にすると良いでしょう。 ガントチャートは有用です。 でも、実際に研究プロジェクトを管理する上で万能とは言えません。…

心で叫んでも、研究続行 – プロジェクト管理と不確実性(後編)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年の心の叫びの前編は、研究には不確実性が付きものだということでした。後編は、前編の後半で紹介されたMeyerらの論文から無秩序な不確実性への対処戦略の紹介です。 前編はこちら Meyer、Pich、Lochによる論文には、無秩序な不確実性に対処する戦略がいくつか示されています。私が自分でそれらの方法すべてを試した中で、自分なりに有効だと思う方法を見出したので、そのうちの幾つかを紹介しましょう。 自問自答:情報ギャップはどこだ? 研究分野の情報サイト、データ、ツールなどにアクセスできていますか。必要な情報に辿り着くには研ぎ澄まされた直感や経験が重要になります。不確実な状況では指導教官からの情報を頼りがちですが、普段から類似した研究プロジェクトに従事した経験を持つ多くの人々の話を聞いておくようにしましょう。彼らは若手研究者が陥りやすい落とし穴について教えてくれるはずです。 複数の実験や調査、手法を並行して試して、どれが有効を見定める 例えばインタビュー調査を行うのであれば、調査結果を補足できるような分析がないかチェックしておきます。実験を行うのであれば、長時間かかる実験を行う前に、短時間で完結できる実験を複数手がけるようにします。もちろん、こうした実験の記録を取ることも忘れずに。数々の実験が後々になって有用だとわかったのに正確に記録されていなかったがために、もしくは適正な倫理承認を取っていなかったがために、論文に書き込むことができなかったとなっては悔やみきれません。実験を行う時には、着実に準備し、しっかり記録を残しましょう。 研究には、反復とフィードバックから学び続けることが不可欠だと念頭に置いておく 論文原稿に書かれない作業がたくさんあることは肝に銘じておきましょう。徒労に終わる多くの作業をこなすことは、研究には付きものです。決して失敗ではありません。 研究プロジェクトの多くは事前に完璧な計画ができていたわけではない――としても、計画すること自体の重要性は変わらない 実験計画を作成することは、研究プロジェクトがどのような過程をたどるかを確認する指標となります。確認作業を行うことで、何がうまく行かなかったのか把握することもできます。研究者は、コストをかけたとしても収支がプラスに転じることはないと頭では分かっているのに、投入したコストを回収しようとより多くのコストを投入し続けてしまうコンコルド効果(またはサンクコスト効果、sunk cost…

寄稿執筆者によるPhDアドバイス記事もたくさん紹介しています

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。「THE THESIS WHISPERER」では、ミューバーン准教授以外の執筆者によるPhDアドバイス記事も掲載しているのですが、今回は、准教授がどのように執筆依頼や寄稿によって記事掲載をしているのかのお話や、それら記事の紹介です。 この「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」のブログは2010年の6月から書き続けており、この記事を公開する時点でおよそ9年になります。ブログを始めた理由のひとつが、学生に見せられるオンラインのリソースが欲しかったということです。当時、私は研究指導を4年ほど行っていて、博士課程の学生から同様な質問を繰り返し受けていました。「HOW DO I START MY DISCUSSION CHAPTER?(考察はどのように始めれば良いのですか?)」「THEORY…

分かりやすい論文を書くコツ-抽象度を用いた文章構造

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、情報を分かりやすく伝え、魅力的な文章や論文を書くコツを、ペンシルベニア州立大学のエリック・ハイオット教授の提唱する、抽象度を用いた文章構造という視点から解説いたします。 1、2か月前に投稿した‘The Uneven U’という記事で私は、ハイオット教授(Eric Hayot)の著書『The elements of academic style: writing for the…

効率的な研究を行うための、アナログとデジタル作業の使い分け

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、効率的な研究活動においてアナログとデジタルでの作業をどのように使い分けしていくのが良いかについて、実際の例を用いながらご紹介いたします。 告白します。私は“職人的な”ものにめっぽう弱いです。作家ものの陶器が並ぶ雑貨店や地産地消の蜂蜜を取り扱う食糧品店、豆の原産地にこだわったコーヒーを提供するレンガ造りのカフェなどがたまらなく好きなのです。50歳近く(私自身も信じられないのですが)にもなると、流行に気付いた時点でそれは過ぎ去った流行になってしまっています。職人的なものというのは既に流行遅れかもしれませんが、ありがたいことに、50歳ぐらいの人間には、流行に捉われるいわれはありません。そして職人的な雰囲気を好きなだけ味わえるカフェや食品店、雑貨屋さんを私はいくつも知っているのです。 家庭用品や食品、コーヒー等では職人気質のものを堪能できますが、少なくとも私のカウンセリング経験からすると、職人気質のすばらしさを、研究の現場でも語れるかについては確信が持てません。私はANUに在籍する学生に一対一のカウンセリングするため週に1時間の枠を設けています。面会者の多くは、何らかの理由で期限内に研究を終えられないのではないかというストレスを抱えています。指導教官との関係や、研究対象の範囲、非効率な作業方法など、様々な要因があります。 私にとって特にやっかいなのが非効率な作業方法に起因する問題です。この問題の修正は、本来は簡単なことなのですが、皆が抵抗するのです。作業方法を修正する以上のエネルギーを注いで抵抗する人が実際にいるのです。問題は知識不足や意識の低さではありません。彼らは、情報の処理や取扱方法の非効率さをいったんは認めるものの、次の瞬間には、これ以外の方法では作業できないとなどといった主張をするのです。 こうした「職人気質」に私はいらだちを覚えてしまうのですが、自分たちがなぜ抵抗しているのかを気づかせてあげなければ、人の考えは変えられないということも分かってきました。勝手知ったるやり方にこだわるのは習慣によるところありますが、その核心は作業の楽しみです。カル・ニューポート氏(Cal Newport)がその素晴らしい著書 『So Good they can’t ignore you』で述べていますが、楽しみは、スキルが身について初めて得られます。テニスなどのスポーツは、まだ練習を始めたばかりの最初の10週間よりも10年間プレーした後の方がずっと楽しめます。同様に卓球でも、ボールをネットの向こうに打ち返すような基本動作ができたぐらいでは、まだまだしっくりきません。…

学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。前編では、学術界でのキャリア形成において、人脈がどのように役立つかについてお話しました。後編では、どういった人脈を形成すべきかとそのネットワークの広げ方をご紹介します。 この記事の前編はこちら ブログのおかげで、世界中の様々なネットワークとのつながりができました。解決したいことがある場合やアイデアに関する意見を求めたい場合、大抵はその分野の専門家にメールで問合せでき、これは大きな恩恵です。#circleofnicenessの親しい友人からは、情報源やリソース以上の大きな助力を得ています。お互いに助けを求め、お互いに助け合う関係なのです。私は、常に友人たちの状況を気に掛け彼らの目標達成の手助けをしたいと考えています。また、将来発生しそうなチャンスやトラブルに関し、迅速な情報提供も心掛けています。知っている人々の情報も共有し、誰を頼るべきか、そして誰を避けるべきかを判断できるようにもしています。 このような会話を「ゴシップ」と一蹴してしまうのは、社会の複雑さを矮小化する見方だと思います。多くの人々(特に女性や慢性疾患を抱えた人たち、そしてマイノリティとされる全ての人たち)にとっていわゆる「ゴシップ」は、階層的で競争の激しい業界を生き残るための重要な社会的情報です。私の場合、前職でいじめに遭ったときには、友人たちがまさに生命線となり、心身を保って日々を生き抜く上で代えがたい存在でした。自分を気に掛け、アドバイスをくれる友人を持たない人々が他人の仕打ちで苦しんでいるのも見てきました。こうした経験がきっかけとなり、私自身は周囲のライフラインになるよう心掛けています。 ですから、私は友達と親密な関係の維持に努めます。では、友情と内輪びいきの境界線はどこにあるのでしょうか?これに答えようとすると社会性に関する複雑な問題に触れてしまうため、ほとんどのワークショップが、ネットワーク作りにおける友情の要素をあえて取り上げないのが実情です。でもここは勇気を持って、これについて考えてみましょう。 まず、全ての社会的ネットワークがみな同じではないということを認識することが大切です。就職の際、どのような友人関係がより多くの「幸運」をもたらすかについての研究が行われていますが、その結果は興味深いものです。友人のジェラルディン(Geraldine)が教えてくれた、マーク・グラノヴェッター博士(Mark Granovetter)の著名な論文「The strength of weak ties」は示唆的です。1973年に発表されたこの論文は、社会学の手法である社会ネットワーク分析を援用し、個人同士の小さなつながりが、いかにしてより大きなスケールの社会構造を生み出かを解析した先駆的な研究結果です。 グラノヴェッター博士は、強固な社会的絆は強い感情を伴うもので、相互の信頼が基盤になると述べています。悪いことが起きた時に相談したい相手は、その人に悪いことが起きた際にこちらに相談に来るような人のはずです。そして、信頼し合うことで相手との親密さが生まれてきます。さらに、自分が信頼を寄せる複数の相手がお互いのことを知っていれば、強力な友人の輪が生まれます。これが #circleofniceness の本質です。複数の友人の輪の構成員が知り合いになったり、信頼し合ったりすることでより大きな輪が形成されます。親密さにも程度はあるでしょうが、あなたの友人の輪にいる人は皆、あなたのお葬式の際に心から悲しんでくれるような人々です。…

学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、学術界でのキャリア形成において「大事なのは知識より人脈」という程、ミューバーン准教授が人脈形成を大事にする理由と、どの様な人脈形成が役立ち、そしてどのようにそのネットワークを広げていくかについてのお話です。2回に分けて掲載します。 (オリジナル記事は2020年2月に公開されていますので、最初に登場する森林火災は2019年秋ごろからオーストラリアで深刻になっていたものです。) 最初は森林火災の最新状況についてです。前回のブログに対し、たくさんの暖かい応援メッセージをいただきました。私たちが呼びかけたP2マスク募金へ寄付をしてくださった皆さまも本当にありがとうございました。無事に目標を達成し、3500枚ものマスクを配布することができました。さらに、残りの金額約$1500は地元のアボリジニのコミュニティに寄付をしました。 今までのところ、Survived the Australian ‘Red Summer’ (オーストラリアの「レッドサマー」)を乗り切り家族も自宅も無事です。前回の投稿の後、様々な出来事がありました。1月20日には、ゴルフボール大の雹が首都を襲い、ANUのキャンパスには特にひどく降りました。 10分間続いた嵐は信じられないほど猛烈で、構内全域の車のウインドウや、校舎の窓と採光窓が破壊されました。キャンパスの建物120棟のうち80棟が被害を受けました。幸いにもACT(オーストラリア首都特別地域)内で死者はでませんでしたが、数人がこの雹で骨折したとのことです。 パニック映画に出てくるような雹を目の当たりにするのは恐ろしい体験で、ソーシャルメディアで見ていてもそれは伝わってきました。雹(Hail)とアルマゲドン(Armageddon)を合わせた造語#hailmageddonのハッシュタグでこの天災が拡散された際、私は偶然にもHelen Swordが主催するAt…

学術界の外はサーカス。成功に必要なのは、ピエロの靴? 後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。前編では研究者が学術界を出るのがどれだけ想像がつかないことなのかを話しました。この後編では、それまでの経験を活かして研究者がビジネスで「成功」するヒントが詰まった本を紹介します。 古代ローマの詩の分野で博士号を持つクリストファー・L・カテリーン(Chris Caterine)博士は、研究者がビジネスで成功するためのガイドを書くにうってつけの人物でしょう。理系の大学院生は、「売り物になる」技術スキルを持っていることが多く、自らをデータサイエンティストに変身させることができます。残念ながら、人文系の大学院生は、学術界の外の雇用者に対し自らのスキルが役立つことを納得してもらうのに苦労します。『Leaving Academia: a practical guide』の中でカテリーン博士は、バックグラウンドに関わらず、自身のリサーチスキルを活用できる仕事を見つけるためのプロセス全般を説明しています。 カテリーン博士は、学術界の外の仕事への道筋を、ブラックホールを見つめることに対比させながら話を始めます。 「そこに何かがあることは分かっていても、すべてを謎に包み込んでしまうブラックホール、事象の地平面の向こうを見ることはできない。そして、引力のせいで、その境界面は、引き返すことのもはや不可能な限界地点となっている。事象の地平面を越えた者は、不可逆的かつ完全に姿を変えでもしない限り、帰ってくることができないのである。こうした特質のせいで、学術界を離れることは途方もない、恐ろしいこととなっているのである。」 彼は、人々は恐れと未知という2つの要因により、外縁にさえ近づかないのだと述べています。私の経験上、これは正しいと思います。博士課程にいる限り、しきたりをよく知っている学術界だけが、自分の全世界となるからです。低賃金・不安定であっても、やりがいと面白みにより、多くの人がそこに居続けるのです。私自身9年以上そこで頑張ってきましたし、行き詰まった感覚も十分に理解しています。学術界を離れることについて熟慮するということは、自分の職業上のアイデンティティを再考し、新たな仕事関連のネットワークを構築することと同じです。どこから始めていいかさえ判然としないのです。 この本には実に多くのヒントが含まれます。「恐怖」と題された第1章では、「外縁、境界面へとアプローチする」感覚が臨場感を持ってつづられています。彼は、学術界で打ち砕かれる夢や、学者としてのキャリアを追求する上で迫られる苦汁の選択について嫌というほど理解しているのです。新たな一歩を踏み出すため、知人の一人もいない町で仕事を始められるか?その見返りに何がえられるのか?この章は、あたかも「学術界で夢を追い続ける」人物の語りかけのようです。私は、不安との闘いと投薬治療について書いたことがありますが、他の仕事に就いていた場合でも薬物治療が必要になったかは疑問です。この本を読んでみて、あんな犠牲を払う価値があったのかと考えさせられました。 研究職は快適な精神生活を送ることのできる仕事と考えられがちですが、それは20年以上も前の話です。学術界では大量の仕事を非常に不安定な立場でこなすことを求められるのです。私の息子は、とても幼いころから「お母さんはお父さんより沢山働くのに、給料が少ない」という理由で研究者にはなりたくないと言っていました。息子が気付いていたのは、「成果」を出さねばならないという恒常的なプレッシャーに対応するために私が長時間働いているということでした。仕事量のせいで趣味に割ける時間は限られています。実際、私の趣味のほとんど(ブログ投稿や本のためのライティング、ポッドキャスト配信等)は、形を変えた仕事のようなものです。…