研究室の荒波にもまれて

研究紹介ポッドキャストの始め方

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、研究を紹介するポッドキャスト番組の始め方をご紹介します。 この記事は、ケイティ・リンダー博士がポッドキャスト配信について書いてくださったものです。以前、研究者がポッドキャスト配信をすることの利点について述べましたが、今回は、ポッドキャストを始めるための実践的な戦略を提示しています。私もやってみようと思います!ケイティのポッドキャスト「Research in Action」をまだお聞きになったことがない方は、ぜひ一度聞いてみてください。 ケイティ・リンダー博士は、オレゴン州立大学eキャンパスの研究ディレクターであり、ポッドキャス番組、「Research in Action」と「You've Got This」のパーソナリティを務めています。彼女は、@Katie_Linder、@RIA_podcast、@YGT_podcastのアカウントで積極的にツイートしています。最近では、『The Blended Course Design…

学術論文翻訳サービスと料金を読み解くには?

学術論文の翻訳会社を探す際、会社によってサービスオプションや料金体系が異なり、自分の希望する予算とサービスを選ぶのに苦労するかもしれません。 ここでは、翻訳サービスの違いと選ぶ時のポイントをご紹介します。 機械翻訳と翻訳者による翻訳の違い 最初に検討すべきは、論文を機械翻訳するか、それとも翻訳者に依頼するか、またはその両方を組み合わせるかということです。機械翻訳は最も安価な選択肢ですが、機械には言語のニュアンスや文化的な問題を扱うことに限界があるため、誤訳が生じることを前提にすべきです。逆に、翻訳者のみで翻訳を行う場合は、コストは高くなりますが正確さが期待できます。 限られた予算内で確実に正確な翻訳にしたい場合は、機械翻訳と人間の翻訳者による校正を組み合わせた機械翻訳ポストエディット(MTPE)をおすすめします。 投稿支援サービス 学術論文の場合、論文投稿をスムーズに行うためのサービスがあります。これらのオプションを付けることで料金は上がりますが、長期的には役に立つことでしょう。以下のようなサービスがあります。 - ジャーナル選択 学術論文の翻訳会社はターゲット市場を熟知しているので、ジャーナル選択をサポートしてくれる最強の味方です。トピックと要件に最も適したジャーナルを絞り込むサポートを提供する翻訳会社を探しましょう。 - プレ査読 事前査読付きの論文翻訳サービスを利用すれば、論文を出版社に投稿する前の段階で一歩先に進めます。投稿前にプレ査読を選択することで、査読者が原稿に目を通し、必要な修正を提案することができます。著名な学術誌の査読経験者が実際の査読プロセスや基準に沿った模擬査読を行うことで、論文の完成度を高めアクセプトの可能性を向上させることができます。 - 盗用・剽窃チェック…

恐怖の博士口頭試問

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士号取得のラスボス、博士口頭試問がテーマです。準備万端で当日に望める事前準備についてご紹介します。 口頭試問(Viva)は、イギリス、ヨーロッパ、ニュージーランドでは一般的な慣習です。オーストラリアでは、口頭試問はあまり一般的ではありません。 オーストラリアの学生のほとんどは、博士号取得前に最終プレゼンを行いますが、現在多くの大学が、試験の一環として口頭試問の導入を議論しており、今後より一般的になると予想されます。 アメリカでは、口頭試問は「ドクター・ディフェンス」と呼ばれ、博士課程の学生には審査委員会の審査を受けるという難関が待ち受けます。アメリカの制度はあまりにも違うので、実体験がない私は、様々な課題を解決する具体策を書くことはできません。ですので、アメリカの同僚が記事を書いてくれることを、いつもありがたく思っています。 この記事は、作家であり、編集者、ライティングコーチ、論文の校正支援、スピリチュアルカウンセラーなども務めるノエル・スターン(Noelle Sterne)博士 (コロンビア大学)が執筆しました。彼女は、さまざまな媒体で学術研究、執筆技術、精神世界などについての記事やエッセイを400以上発表しています。大学の教員や作家を対象にワークショップや講演を行い、博士号候補者の学位論文の完成を支援しています。彼女のハンドブック、『Challenges in Writing Your Dissertation: Coping…

学会を乗り切る処世術

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー(Inger Mewburn)教授のお役立ち情報コラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、「学会」です。目まぐるしい学会のスケジュールを乗り切るコツを紹介します。 この投稿は、タスマニア大学のプロジェクトオフィサーであるイモジェン・ウェグマン博士によるものです。彼女の研究は他分野にまたがり、1ヶ月の間にデジタル人文学会議、歴史セミナー、GISシンポジウムなど複数の学会に出席することもあるそうです。また、ホバート市での月例公開歴史イベント「A Pint of History」の共同創設者としてイベントを主催しています。アンビヴァート(Ambivert=両向型)であると公言する彼女は、人を好きになったり嫌いになったりを繰り返しながら、自分の限界を知ることになったそうです。 学会に出席するまでに発表者は、論文の募集を見つけ、アブストラクトを提出し、受理され、学部の助成、あるいはいつもより多くバイトを入れるなどして資金調達し、参加登録を済ませ、チケットを手配し、可愛い(狭い?)宿を予約し、発表の場で映える靴まで選ぶなど、様々なことを行います。 私が初めて学外で参加した学会は、大都市の大きな大学で行われた大規模なものでした。博士課程に入学して1年半経った頃で、同僚以外に研究を発表することは未知の領域でした。学会の1週間、何人もの教授たちとの世間話や過密なスケジュールを手探りでこなし、なんとか無事生還して、今ここでその経験をお伝えできています。それ以来、私は世界中の学会に出席し、その世にも恐ろしげな環境で生き残り、さらには成長する術を学び続けています。指導教員は皆さんにアブストラクトや論文を書く指導をしてくれますが、私は、皆さんが学会での社交に備える手助けをできればと思います。 Twitterのハッシュタグを見つける 私が初めて学会に参加した時は、Twitterでライブ放送はまだ始まったばかりでしたが、ハッシュタグを見つけたときの興奮と、#twitterstoriansの集まりに招待されたときの感動を覚えています。ほとんど知り合いがいない状態での参加でしたが、初日のモーニングティーで、すでに何人か話し相手がいることは心強かったです。 すべての学会でTwitter上の活動があるとは限りませんし、そもそもTwitterを利用していないかもしれませんが、素晴らしいアイスブレーキングになりえます。講演がライブ配信されたり、非公式のソーシャルイベントが企画されたりして、同じ学会がTwitter上でも並行して盛り上がります。「お会いするのは初めてですが、Twitterで相互フォローしています」と自己紹介することは、学術の世界ではよくあることなのです。Twitterの使用頻度は分野によって異なりますが、国を跨いだアドバイス、励まし、コラボレーションのネットワークを開くきっかけになります。学会のハッシュタグは、学術研究業界に入るための有効な手段ですので活用してみてください。 モーニングティーで一人の人を見つける 多くの人が、知り合いがいない状態で学会に参加します。すぐに知り合いができるので、誰かに話しかけると、その人が別の人を紹介してくれて、会話の輪が広がっていきます。これがネットワーキングです。一人の人と知り合うと、別の二人を紹介され、そのうちの一人がその日の晩に飲みに誘ってくれるなどです。驚くような共同研究の計画には至らないかもしれませんが知り合いはできます。中には友人になる人もいるでしょう。名刺を持っていけば、手軽に情報交換することができます。人間関係ができ始めれば、付き合いに時間を費やすようになりますが、いずれ始めなければなりません。…

論文執筆テクニック―主張に対するリスクヘッジ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、執筆した論文の添削でよく指摘される「独自の主張のなさ」に対する対処法を解説します。 このブログ記事は、オーストラリア国立大学(ANU)の同僚であるショーン・レーマン(Shaun Lehmann)とブログResearch Voodooのキャサリン・ファース(Katherine Firth)との新しい共著書のアイデアを発掘するためのシリーズの1記事です。 この共著書「How to Fix Your Academic Writing Trouble…

論文執筆の傾向は4タイプに分類できる?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、論文執筆の傾向を分析するという試みです。インガー教授の傾向分析が執筆スランプを回避するヒントになりますように! 恥ずかしいカミングアウトですが、私は自己啓発本が大好きです。特に空港の書店で見つけると、ついつい手にとってしまいます。いつも自己啓発本コーナーで自然に足が止まり、持ち帰っても家に置く場所がないペーパーバックを2冊握りしめて飛行機に搭乗します。最近ひそかに購入した本は、グレッチェン・ルービン(Gretchen Rubin)の『苦手な人を思い通りに動かす』です。店頭でドヤ顔で手に取り、「ああ、なんて非科学的。」なんて心の中で嘲笑しながら読み始めました。何ページかめくって、「うわー、この馬鹿っぽいクイズ!」とつぶやきながら。 でも、買ってしまうんです(批判しないでね)。 南オーストラリア大学への往復の機内で読了して、驚きました。ルービンの(ほとんど非科学的な)理論を簡単に説明すると、人間のモチベーションは4つのカテゴリーに分類されるという話です。 オブライジャー(指示待ちタイプ):周囲の期待に応え、自分の期待に逆らう。 レブル(わがままタイプ):周囲の期待に抵抗し、自分の期待にも逆らう。 クエスチョナー(変人タイプ):周囲の期待に抵抗し、自分の期待に応える。 アップホルダー(堅物タイプ):内なる期待、外なる期待両方に応える。 ルービンの“理論”と呼ぶものによれば、これらの傾向は重複していることもあり、レブル的な傾向を持つオブライジャーや、クエスチョナー的な傾向を持つアップホルダーにもなり得るといいいます。その重なりを下図で表現しています。 グレッチェン・ルービンの4つの傾向の図 ルービンの“研究”によると、ほとんどの人は「オブライジャー(指示待ちタイプ)」であり、自分のためだけに物事を行うのは難しいそうです。もしあなたが、運動仲間がいないとジムに行くのが続かないタイプなら、オブライジャーだそうです。それに対して、「アップホルダー(堅物タイプ)」は、運動仲間に誘われることを喜びつつも、健康に良いとわかっているので、自分ひとりでジムに行くこともできる人です。一方、クエスチョナー(変人タイプ)は、自分の中の期待にしか応えられないので、運動仲間には向いていません。クエスチョナーは、誰かを喜ばせるためだけに、寒い朝からジムには行きません。一方、かわいそうなレブル(わがままタイプ)は、ジムに行きたかったとしても、すべての期待に、自分の期待にさえ逆らいます。レブルは誰かとジムに行く約束をした途端に気が変わり、周囲を(そして自分自身を)困らせ、姿を現さないでしょう。…

論文執筆用の第二の脳をつくる

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー(Inger Mewburn)教授のお役立ち情報コラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、情報整理術。教授の「第二の脳」を大解剖します。 本題の前に、ビッグニュースです!長く読んでくださっている皆さんは、私が ANU のチームと PostAc という機械学習を利用した研究者のための求人検索エンジンの開発に何年も取り組んできたことをご存知かと思います。 オーストラリアでは7校にサービスを提供していますが、国際的な拡大を目指しています。まもなくイギリスの大学でもPostAcの注文の受付を開始予定です。とリリースの最新情報はこちらに登録してご確認ください。 さて、本題です! 私はアカデミックな仕事用のノートの取り方の問題に取り憑かれています。この問題については、このブログでもこちらの記事でお伝えしてきました。友人のジェイソンとは、Podcast On The Regで何度もこの問題について話しています。特に、この回とこの回、直近ではこの回です。…

PhD(博士課程)の乗り切り方は十人十色

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士号取得の道のりがいかに多種多様かというテーマでお届けします。研究方法や進捗を周りと比べることが難しい中、やっていることに自信が持てない学生必見です。 以前、博士課程の学生に対する悪いアドバイスがいかに多いかについて書きました。アドバイスが的外れだったり不適切だったりする理由の1つは、PhD学生と一括りに言っても、年齢、分野、研究内容など多くの違いがあるからです。進捗を他人と比較することは特に不毛な行為です。エリー・ウッド(Ellie Wood)の投稿が博士課程の学生の多様性について素晴らしく言い当てているので、このメッセージは繰り返し発信すべきと思い、ここでご紹介します。 エリー・ウッドは、エディンバラ大学の博士課程に在籍しています。彼女の研究は、社会科学と自然科学の両方の手法を用いて、タンザニアの農村地域の森林破壊の原因や生態系サービスへの影響について研究しています。エリーは自身の学際的な研究を効果的で公平な保全に役立てたいと考えています。研究の傍ら、科学コミュニケーションにも興味を持ち、スコットランド内と他地域のアウトリーチプロジェクトにも可能な限り参加しています。こちらがエリーのLinkedInとTwitter(@EllieWood24)です。Helena.wood@ed.ac.uk あてにメールで連絡することもできます。博士課程に進むことは悪夢だと思っていますし、口に出しても言っています。頻繁に。多くの学生にとって、博士課程での研究の苦労は、ぼやきネタの定番です(もし、あなたがぼやいてなくても、私がみんなの分までぼやいてます)。 たしかに、博士号はいつもいつも辛いというわけではありません。しかし、間違いなく辛いです。時には悪夢です。悪夢が襲ってくるタイミングや種類は人それぞれなので、周りの人の経験とは全く違う恐怖体験をすることもあるかもしれません。人と違う経験をしていることが孤立感を生み...悪夢の恐ろしさを増幅させるのです。こういう孤独を感じている人や、周りの人と違う博士号の経験をしている人に、声を大にして、大丈夫、正常ですよ、と伝えたいです。こういうウヨウヨとうごめく不気味な考えをお互いの脳から追い出し、楽しいことで頭をいっぱいにする方法があります(昆虫学者さんはどちらにしてもウヨウヨうごめく物で頭がいっぱいかも⁉)。 私たちの背景がそれぞれ異なることを思えば、博士課程の体験が非常に多様であることは驚きではありません。学生の年齢は、大体15歳から95歳までです。異なる文化的背景を持ち、異なる人生経験、訓練、教育、仕事を経ています。私の博士号は分野横断的なものなので、プロジェクト内でも分野ごとに私自身の知識や造詣のレベルは様々です。私は生物学の学士号を取得し、現在は生態学と社会科学を半々で研究しています。つまり、プロジェクトの半分は、ある程度の知識とスキルを持ち、残りの半分は知識やスキルがゼロの状態からスタートしたことになります。これは、楽しいことでもあり、恐ろしいことでもあります。 私のことはこれぐらいにして、話を戻しましょう。学際的な博士課程でなくても、自分が何をしているのか分からないと感じることはありますし、分からないと感じることが、実はとても素晴らしく生産的なこと*であり、実際、斬新な研究の核心となると指摘する人もいます。そもそも私たちは、これまでにない課題を研究することになっていますよね? 私のシェアハウスの同居人2人と私は全員博士学生で、比較的近い分野の研究をしていますが、やり方も研究方法も作業スケジュールも全く異なります。私は博士課程の1年目のほとんどを読書だけに費やしました。これは素晴らしい特権でありますが、2週目から研究室でデータを収集しているクラスメイトを見たときには、震えました。それでも、私の博士号はこのように進める必要がありましたし、あなたの博士号もそうかもしれません。 また、学生によって担っている責任も異なります(研究、講師、課外活動、私生活など)。人それぞれでいいんです。博士課程は非常にストレスの多いものであると同時に、多くの場合は柔軟性があり、子供を保育園に預けたり、勉強と同時に仕事をしたりと、他にもすべきことがある場合にはとても便利です。たとえ、9時から5時で働く同期に対して後ろめたい気持ちがあったとしても、柔軟性をフル活用すればいいのです。全く同じ境遇の学生なんて絶対にいないし、比べるだけ無駄なので、気にしないでください。 博士課程の学生は多様で面白い集団です。でも、自分があまりに人と違って異質な存在であることに悩むときには、何らかのサポートが必要です。また、自分が軌道から外れていないかどうかを見極めることも大事です。経験や知識を共有し合い、自分が経験していること、やっていることがこれでいいのか、大丈夫なのかを語り合う必要があります。 ありがたいことに、私たちに様々な違いがあったとしても、博士号取得者たちの共通体験の蓄積というものがあって、私たち自身も発信し共有できます。最近読んだ「The…

博士課程(PhD)の失敗は成功の原動力

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン教授のコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、失敗について。PhD時代、何度失敗してもバッターボックスに立ち続けた筆者。失敗が成功の源となった博士課程のストーリーを紹介します。 失敗。博士課程を経ることで失敗にもうまく対処できるようになる——と思いたいものです。私は平凡な学生でしたが、建築学科に入学するまで自分がどれほど平凡であるかに気づきませんでした。控えめに言って、才能なしでした。周りからも率直にそう言われましたし、よく泣きました。ときには大きな教室の大勢の前で。…一種の暴露療法とも言えるでしょうか。5年ほどかかりましたが、私はアカデミズムでの失敗に対処する術を学びました。多少の精神的な傷は負いましたが、おかげで上手くあしらえるようになりました。 でも、私とは違って、博士課程に入学するまでずっと輝かしい人生を送ってきた学生の場合はどうでしょうか。そういう学生によく出くわしますが、壁にぶち当たるのが遅ければ遅いほど、ダメージが大きいように思います。私の息子は11年生(高校2年生)で壁にぶつかり、兆候に気づいてすぐにセラピストのところに連れて行きました。最初は行きたがりませんでしたが、今では感謝され、「超音速」とまでは行かないけど、「巡航速度」ぐらいで壁にぶつかったな、と冗談で言っています。息子の言うとおり、超音速スピードで壁にぶつかりたくはない……でももしそうなったらどうしたらよいでしょう? この記事では、ジャスティンが超音速で壁にぶつかったときの話をしてくれます。今回の投稿内容について警告ですが、内容には自傷行為の描写が含まれています。この先はご自身の判断で読み進めてください。おすすめのページにメンタルヘルスに関する資料も紹介していますのでご覧ください。 ジャスティン・フェフェール(Justin Pfefferle)は「第二次世界大戦中のイギリスにおけるシュルレアリズムとドキュメンタリー」というテーマで博士論文の公聴会審査を合格し、2015年にマギル大学で博士号を取得しました。現在ドーソン大学英語学科の教授でビショップ大学の英語の非常勤教授でもあります。彼は、大西洋におけるモダニズム文学、批評理論、文化研究、そして映画学など、さまざまな分野、領域をまたいで教鞭をとり研究しています。いまは“Adaptogenic Narrative in the Long Midcentury: 1938-1962”という仮タイトルで本を執筆中です。4つのソフトボールチームに所属する、失敗も多い張り切り屋です。 以下、ジャスティンの文章です。…

PhD(博士課程)学生がみんな疲れている原因は?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士学生の間で蔓延している疲弊感と、教授自身が疲れにどのように向き合っているかの対処法をご紹介します。 この記事では、うつ病や不安感についてお話します。もし今日のあなたのためにならなさそうなら、遠慮せずにページを離れてくださいね、別の記事でお会いしましょう。 今から言うことを、特権的な白人女性っぽくなく伝えるにはどうしたらいいか、ずっと考えていたのですが、無理なので、そのまま言います。 私、すごく疲れてます。 しょっちゅう睡眠不足であることも事実ですが、肉体的にだけでなく、心の奥底にある疲れのことです。仕事帰りに、夜、外出したり、何かをしたりするのをためらうような疲れです。 具体的には、こんな疲弊感です。 創造性を妨げるような疲れで、文章を書いたり、新しいプロジェクトを立ち上げたりするのが難しくなるのです。私はまだ物事に喜びを感じるし、よく笑いますが、ただ......疲労感がぬぐえません。もっと眠れば治るだろうと、たまに午後6時に寝ますが、効果はないようです。 この疲れ方は変だな、うつの疲労感とも違うような気がするけど…と思いつつ、念のため主治医を訪ねました。意外なことに、診察の結果、私の精神状態はここ数年で一番良いそうです。主治医は、抗不安薬の減薬プロセスまで説明してくれたので、試してみることにしました。減薬の結果、疲れは残りましたが、不安は戻らず、問題なく薬をやめることができました。(抗不安薬をやめることが目標だったということではありません。薬を飲むことを恥ずかしいとも一切感じていません。ずっと薬を飲み続けていても幸せでしたし、必要ならすぐにでも薬を再開します)。 この疲れは、うつの疲労感とは違う感覚です。疲れが伝染するような感じとでも言いましょうか。周りのみんなもとても疲れているように見えるのです。私が最初にこの疲れに気づいたのは、博士課程の学生たちの間ででした。学生たちはパンデミックの間、私たちの開催するオンラインワークショップをライフラインのように捉え、2020年には参加者が400%に増加しました。2021年には通常通りに戻り、その後、みんなパタリと姿を見せなくなりました。 イベントには、常に申し込み人数と参加人数の間に差があります。申し込みシートで「参加する」をクリックする人と実際にワークショップに参加した人の差を「コンバージョン率」と呼びます。イベント主催者としては、コンバージョン率が50%あれば上出来です。私たちのコンバージョン率は、パンデミック初期には70%まで上昇しましたが、2021年には50%に戻りました。ここまでは想定通りです。しかし、今年はさらに下がり、30%、時にはそれ以下になることもありました。 心配になった私は、オーストラリア国内外の他の研究支援団体と連絡を取り合いました。すると、どこも同じような状態でした。博士課程の学生が、勉強会に参加しなくなったというのです。私たちは、博士課程の学生が姿を見せなくなった現象について、次のような仮説を立てました。ロックダウン疲れ、やる気の低下、社会との断絶、希望の見えなさ...。パンデミック前も学術研究界の就職市場は厳しかったですが、その向こうに現れた市場はさらに悪いようです。不確実で、低賃金で、不安定です。 このような現実を考えると、アカデミックな職種で成功するための専門的な能力を身に着けたとしても無意味だ、と思えるかもしれませんね。たとえ参加することに価値を見いだしたとしても(そうであってほしいと願います)、時間を見つけることはおそらく難しいでしょう。みんなあまり話したがらないですが、博士課程の学生にとって金欠は常に深刻な問題です。コロナ禍はその状況をさらに悪化させました。博士号取得のための奨学金は、今までも貧困ラインギリギリを行ったり来たりしてきましたが、今年の初めにはインフレで大打撃を受けました。学生は生活費を稼ぐために、もっともっと働かなければならなくなったのです。…