研究室の荒波にもまれて

学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。前編では、学術界でのキャリア形成において、人脈がどのように役立つかについてお話しました。後編では、どういった人脈を形成すべきかとそのネットワークの広げ方をご紹介します。 この記事の前編はこちら ブログのおかげで、世界中の様々なネットワークとのつながりができました。解決したいことがある場合やアイデアに関する意見を求めたい場合、大抵はその分野の専門家にメールで問合せでき、これは大きな恩恵です。#circleofnicenessの親しい友人からは、情報源やリソース以上の大きな助力を得ています。お互いに助けを求め、お互いに助け合う関係なのです。私は、常に友人たちの状況を気に掛け彼らの目標達成の手助けをしたいと考えています。また、将来発生しそうなチャンスやトラブルに関し、迅速な情報提供も心掛けています。知っている人々の情報も共有し、誰を頼るべきか、そして誰を避けるべきかを判断できるようにもしています。 このような会話を「ゴシップ」と一蹴してしまうのは、社会の複雑さを矮小化する見方だと思います。多くの人々(特に女性や慢性疾患を抱えた人たち、そしてマイノリティとされる全ての人たち)にとっていわゆる「ゴシップ」は、階層的で競争の激しい業界を生き残るための重要な社会的情報です。私の場合、前職でいじめに遭ったときには、友人たちがまさに生命線となり、心身を保って日々を生き抜く上で代えがたい存在でした。自分を気に掛け、アドバイスをくれる友人を持たない人々が他人の仕打ちで苦しんでいるのも見てきました。こうした経験がきっかけとなり、私自身は周囲のライフラインになるよう心掛けています。 ですから、私は友達と親密な関係の維持に努めます。では、友情と内輪びいきの境界線はどこにあるのでしょうか?これに答えようとすると社会性に関する複雑な問題に触れてしまうため、ほとんどのワークショップが、ネットワーク作りにおける友情の要素をあえて取り上げないのが実情です。でもここは勇気を持って、これについて考えてみましょう。 まず、全ての社会的ネットワークがみな同じではないということを認識することが大切です。就職の際、どのような友人関係がより多くの「幸運」をもたらすかについての研究が行われていますが、その結果は興味深いものです。友人のジェラルディン(Geraldine)が教えてくれた、マーク・グラノヴェッター博士(Mark Granovetter)の著名な論文「The strength of weak ties」は示唆的です。1973年に発表されたこの論文は、社会学の手法である社会ネットワーク分析を援用し、個人同士の小さなつながりが、いかにしてより大きなスケールの社会構造を生み出かを解析した先駆的な研究結果です。 グラノヴェッター博士は、強固な社会的絆は強い感情を伴うもので、相互の信頼が基盤になると述べています。悪いことが起きた時に相談したい相手は、その人に悪いことが起きた際にこちらに相談に来るような人のはずです。そして、信頼し合うことで相手との親密さが生まれてきます。さらに、自分が信頼を寄せる複数の相手がお互いのことを知っていれば、強力な友人の輪が生まれます。これが #circleofniceness の本質です。複数の友人の輪の構成員が知り合いになったり、信頼し合ったりすることでより大きな輪が形成されます。親密さにも程度はあるでしょうが、あなたの友人の輪にいる人は皆、あなたのお葬式の際に心から悲しんでくれるような人々です。…

学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、学術界でのキャリア形成において「大事なのは知識より人脈」という程、ミューバーン准教授が人脈形成を大事にする理由と、どの様な人脈形成が役立ち、そしてどのようにそのネットワークを広げていくかについてのお話です。2回に分けて掲載します。 (オリジナル記事は2020年2月に公開されていますので、最初に登場する森林火災は2019年秋ごろからオーストラリアで深刻になっていたものです。) 最初は森林火災の最新状況についてです。前回のブログに対し、たくさんの暖かい応援メッセージをいただきました。私たちが呼びかけたP2マスク募金へ寄付をしてくださった皆さまも本当にありがとうございました。無事に目標を達成し、3500枚ものマスクを配布することができました。さらに、残りの金額約$1500は地元のアボリジニのコミュニティに寄付をしました。 今までのところ、Survived the Australian ‘Red Summer’ (オーストラリアの「レッドサマー」)を乗り切り家族も自宅も無事です。前回の投稿の後、様々な出来事がありました。1月20日には、ゴルフボール大の雹が首都を襲い、ANUのキャンパスには特にひどく降りました。 10分間続いた嵐は信じられないほど猛烈で、構内全域の車のウインドウや、校舎の窓と採光窓が破壊されました。キャンパスの建物120棟のうち80棟が被害を受けました。幸いにもACT(オーストラリア首都特別地域)内で死者はでませんでしたが、数人がこの雹で骨折したとのことです。 パニック映画に出てくるような雹を目の当たりにするのは恐ろしい体験で、ソーシャルメディアで見ていてもそれは伝わってきました。雹(Hail)とアルマゲドン(Armageddon)を合わせた造語#hailmageddonのハッシュタグでこの天災が拡散された際、私は偶然にもHelen Swordが主催するAt…

学術界の外はサーカス。成功に必要なのは、ピエロの靴? 後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。前編では研究者が学術界を出るのがどれだけ想像がつかないことなのかを話しました。この後編では、それまでの経験を活かして研究者がビジネスで「成功」するヒントが詰まった本を紹介します。 古代ローマの詩の分野で博士号を持つクリストファー・L・カテリーン(Chris Caterine)博士は、研究者がビジネスで成功するためのガイドを書くにうってつけの人物でしょう。理系の大学院生は、「売り物になる」技術スキルを持っていることが多く、自らをデータサイエンティストに変身させることができます。残念ながら、人文系の大学院生は、学術界の外の雇用者に対し自らのスキルが役立つことを納得してもらうのに苦労します。『Leaving Academia: a practical guide』の中でカテリーン博士は、バックグラウンドに関わらず、自身のリサーチスキルを活用できる仕事を見つけるためのプロセス全般を説明しています。 カテリーン博士は、学術界の外の仕事への道筋を、ブラックホールを見つめることに対比させながら話を始めます。 「そこに何かがあることは分かっていても、すべてを謎に包み込んでしまうブラックホール、事象の地平面の向こうを見ることはできない。そして、引力のせいで、その境界面は、引き返すことのもはや不可能な限界地点となっている。事象の地平面を越えた者は、不可逆的かつ完全に姿を変えでもしない限り、帰ってくることができないのである。こうした特質のせいで、学術界を離れることは途方もない、恐ろしいこととなっているのである。」 彼は、人々は恐れと未知という2つの要因により、外縁にさえ近づかないのだと述べています。私の経験上、これは正しいと思います。博士課程にいる限り、しきたりをよく知っている学術界だけが、自分の全世界となるからです。低賃金・不安定であっても、やりがいと面白みにより、多くの人がそこに居続けるのです。私自身9年以上そこで頑張ってきましたし、行き詰まった感覚も十分に理解しています。学術界を離れることについて熟慮するということは、自分の職業上のアイデンティティを再考し、新たな仕事関連のネットワークを構築することと同じです。どこから始めていいかさえ判然としないのです。 この本には実に多くのヒントが含まれます。「恐怖」と題された第1章では、「外縁、境界面へとアプローチする」感覚が臨場感を持ってつづられています。彼は、学術界で打ち砕かれる夢や、学者としてのキャリアを追求する上で迫られる苦汁の選択について嫌というほど理解しているのです。新たな一歩を踏み出すため、知人の一人もいない町で仕事を始められるか?その見返りに何がえられるのか?この章は、あたかも「学術界で夢を追い続ける」人物の語りかけのようです。私は、不安との闘いと投薬治療について書いたことがありますが、他の仕事に就いていた場合でも薬物治療が必要になったかは疑問です。この本を読んでみて、あんな犠牲を払う価値があったのかと考えさせられました。 研究職は快適な精神生活を送ることのできる仕事と考えられがちですが、それは20年以上も前の話です。学術界では大量の仕事を非常に不安定な立場でこなすことを求められるのです。私の息子は、とても幼いころから「お母さんはお父さんより沢山働くのに、給料が少ない」という理由で研究者にはなりたくないと言っていました。息子が気付いていたのは、「成果」を出さねばならないという恒常的なプレッシャーに対応するために私が長時間働いているということでした。仕事量のせいで趣味に割ける時間は限られています。実際、私の趣味のほとんど(ブログ投稿や本のためのライティング、ポッドキャスト配信等)は、形を変えた仕事のようなものです。…

素直に成功を喜べない?燃え尽き症候群になるその前に

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。自身の成功を素直に喜べなくなってしまう「インポスター症候群」は燃え尽き症候群の前兆かも。今回はミューバーン准教授が研究者だからこそ感じて当然なプレッシャーとどう付き合っていくべきかをアドバイスします。 失敗は嫌なものです。 そして私の場合、失敗を避けようとするあまり働きすぎてしまいます。同じ立場の誰よりも自分にハードワークを課してしまうのは、仕事が好きだからというよりも、失敗が怖いからということが大きいのでしょう。不安によって私は良き職員となっているのですが、同時にその不安は私を燃え尽き症候群の予備軍にしてしまっています。 他人事ではない。 そんな風に感じられる方も少なくないはずです。そんな人は特に、地球規模のパンデミック下において、失敗を避けようとする態度が何をもたらすかを真剣に考えた方がよいでしょう。 以前は自分のことを完璧主義者と呼ぶのに抵抗がありました。私は、ひどく雑なところもあり、細かいことが苦手で、「許容範囲」で、仕事を仕上げることもあります。私の家は片付いていますが、これはパートナーの衛生基準が私よりずっと高いおかげです。しかし、心理テストを行うたびに出るのは、顕著な完璧主義者という結果です。 実際、ひどくだらしない完璧主義者というのも存在するのです。分かりづらいので、私は自分のことを失敗回避の完璧主義者だと考えることにしています。 自分の失敗回避の完璧主義的傾向は、整理整頓が出来ることとは関係のないことが分かってきました。私が望んでいるのは、いえ、私が必要としているのは、自分の仕事の価値を認められることです。それに失敗したと思うだけで、理屈抜きの羞恥心と恐怖心に襲われてしまうのです。こうした感情を極力抱かないように「完璧」になるまで仕上げようとするのですが、問題はどこまでやっても「完璧」と思えることがないのです。 この完璧主義の一種は「適応障害」ではありませんが、健全なものとも言えません。私は締め切りに遅れたからといって自分を罰するようなことはありませんが、誰かが良いと言ってくれるまでは、自分がだめな人間であることが「バレてしまわないか」心配なのです。他人に認められるとつかの間の安堵感が得られるのですが、次の仕事が始まると完璧主義思考に陥ってしまうのです。 一方で、何かを達成しても喜びはそれほど感じられません。もちろん、私も一定程度は成功がもたらす称賛をどこかで求めていて、だからこそ大変な仕事をしているのでしょう。ただ、実際に褒められると、非常に居心地が悪いのです。スピーチ前の紹介で著名人呼ばわりされたり自分の成果を並べ立てられたりすると、たじろいでしまいます。誰か他の人のことのように思え、その人が成し遂げた偉業に対する称賛を代わりに受け止めなければならないように感じるのです。 学術界は、私みたいな失敗回避の完璧主義者的傾向を培養し拡張させるシャーレのような場所なのではないかと考えています。私と同じ種類の人間が無数にいるからです。 私が開催しているライティングのワークショップや集中講座の生徒にも、こうした傾向の学生や研究者がいます。彼らの多くは「完璧」に仕上げるための「法則」を躍起になって求めています。(私には、それに対するアドバイスはほとんどできません。)そして多くの場合疲れ果て、燃え尽きています。このような理想の高い生徒たちの作業を褒め、目標に近づきつつあると伝えると、彼らはすぐに、自分たちはまだまだだと返してきます。彼らは勤勉すぎるほど勤勉で、途中で引き下がるということができません。やりすぎだなどと指摘すれば狼狽さえするのです。そして自分の成果に満足することはなく、プロジェクトをやり遂げる前に、より困難なプロジェクトに取り組み始めたりもします。…

COVID-19が収まるまでPhDを中断する?前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に拡大し、あらゆる人間活動に影響を与える中、ミューバーン准教授からのコロナ禍でPhDを継続するか止めるか悩んでいる人へのメッセージです。2回に分けて掲載します。 最近、10年のブログ作成生活で初めて更新を一時中断する事態となりました。 私は毎週更新するタイプのブロガーではありませんが、クリエイティブなインスピレーションを与えことは好きです。なので、常に6か月分ぐらいのネタを準備しておくのですが、ここオーストラリアでは3月の半ばに非常事態に突入し、2020年に予定していたものをすべて計画通りに投稿するには、「世界中で通常通り物事が進んでいる」状況下でこそ可能なのだと気づいたのです。私たちの生活が「通常」に戻るのはいつになるのでしょう?分かりません。そのため、私はネタを保留しています。中には投稿されるものがあるかもしれませんが、当面皆さんに読んでもらうのは無理そうです。  このブログはパンデミック状態での最初の投稿ですので、この厳しい状況下のPhDについて取り上げてみます。コロナ禍が終息したときには不要な情報になるかもしれませんが、その時には私たちが現在直面している多くのことは「史上初の恐ろしい事態」として記憶されていることでしょう。  私は今年、毎月第1水曜日にブログを投稿すると約束し、そのスケジュールを守ろうとしてきました。いつものように実用的で思慮深いブログを提供できるようにと思っていますが、それについて今コメントすることは控えておきます。従来は誰でも私の確認を待たずにコメントを投稿できるようにしていますが、これは大変な作業を要します。今は、挑発的なメッセージの投稿や論文代筆業者の広告に対処する時間や余力がありません。この投稿記事について議論が行われるとすれば、社会のどこかで行われることになると確信しています。  ご理解に感謝します。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している中、PhDの途中で諦める(退学)べきか?もしくは一時中断(休学)すべきか? 今回のコロナ感染拡大のようなパンデミックの状況に置かれたとき、PhDを継続するのか、中断するのかは「苦渋の決断」で正解はありません。どちらにも良い点と悪い点があることに疑いの余地はありません。特に、奨学金を受給している学生は、PhDに留まりたいと思うかもしれませんが、現在直面している博士課程での停滞は、将来予期せぬ結果をもたらすかもしれません。また、PhDをすぐにでも断念したいと思っている学生は、どんなに絶望的だと思えたとしても、今回が進路を変えるのに最適なタイミングではないかもしれません。 (COVID-19に関する研究に従事している人たちは、とても忙しい時を過ごしていることでしょう。皆さんの研究活動に感謝します。継続してください!) もちろん、私はすべての問いに対する答えを持っているわけではありません。それでも、読者の皆さんに自問自答してほしい質問を幾つか持っています。この投稿記事が、現在起こっていることが個々のPhDプラン(将来の予定)に及ぼす影響について考える助けになればと思っています。PhDプランは、不確実なウイルス抑制までに要する時間によって、一層複雑かつ解決困難になっていきます。オーストラリア国立大学(ANU)は、オーストラリア国内での感染ピークが収まると期待される6月末まで閉鎖されています。しかし、ロックダウンや学校閉鎖は先が見えず、さらに長期におよぶ可能性もあります。実際には、ワクチンができるまで、国際的な移動やグローバルサプライチェーンには影響が残り、経済的低迷がいつまで続くかほとんど分かっていません。 この投稿では、研究の段階や学生を支援する仕事の有無、PhD取得者の長期雇用の見込みなどに関連する題材を取り上げていきます。すべてを考える必要はありませんが、これらはさまざまな状況下でPhDを継続するかについて助言を求めている多くの人々と私が話し合っている項目です。 ここではオーストラリアの詳細に焦点を当てていますが、このブログがよく読まれている国でも、多くの所見は役に立つと思います。私が現時点で考えられる最良のアドバイスを書いておくので、どうか読んでみてください。だって、私はPhDを終了させるのを助けるプロですから。私は自分の経験をもとに、できるだけパンデミックがもたらす学業の中断による影響を考え、穏当と思える幾つかの予想をたててみたので、役立てるとともに力になれれば幸いです。…

学者のためのニッチマーケティング

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は論文被引用数を上げることにもつながる研究者自身のニッチな読者層とのコミュニケーション方法についてのお話です。 ガーディアン紙の“私は真面目な学者で、プロのインスタグラマーではない”という記事が私のいるオンラインコミュニティで波紋を呼びました。 記事では、ソーシャルメディアに携わる人間は自己顕示をしているに過ぎないという主張がなされています。これに対し、Tseen Khooは謙虚を装ったあざとい自慢についての記事を「Research Whisperer」というブログに投稿し、Sophie Lewisは「学者でありながら楽しくブログする」という記事を自らのブログに書いており、これ以上あれこれ言う余地はないように思えます。 しかし、ガーディアン紙の記事とそれに対する反応は、自己宣伝という概念について多くの学者が抱いている不快感に関して(再度)考えさせられるきっかけとなりました。 出版はそれがゴールではなく、読んでもらうための活動も重要 ソーシャルメディアに関しては多くの否定的な意見がありますが、しかしそれ自体は新しいコミュニケーション技術のひとつに過ぎません。コミュニケーションの中身は変わっていないのです。学術界は常に騒々しいアイデアのマーケットです。自分や自分の研究に人々の注目を集めることは、次の仕事を見つけたり、共同研究を行ったり、あるいは次の助成金を獲得したりする上で不可欠です。そのためにソーシャルメディアが役立つのであれば、使うべきだと私は考えます。 アイデアのマーケットが機能している最も具体的な例として、出版と‘インパクト’という漠然とした概念を取り上げてみたいと思います。 世界中の政府は、研究者たちに研究資金に見合った価値を生み出させるよう、私たちが研究を広める仕事を行っているかを様々な方法で計っています。そうした施策は、政府から大学を通じて、論文を出版することへのプレッシャーとして研究者たちに降りてくるのです。出版すればそれでいいという訳ではありません。出版することにより、評価や測定が可能なある種の「インパクト」を起こす必要があるのです。学術的なインパクトを計る最も簡単な方法は引用です。つまり、その論文が誰の論文によって言及されているかです。 研究の成果と生産性を計ることに関する問題については多くの議論がなされています。しかし、数字が存在すれば昇進期間や採用判断に適用されますので、被引用件数を完全に無視することは出来ません。…

稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる(3)

ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナショックで研究者求人の減少を目のあたりにしているミューバーン准教授が意を決して、自身の収入源を赤裸々に明かしながら学術の仕事で生計を立てるための考え方を語ります。こちらは3部作コラムの3本目。それまで仕込んできた方向性をどう収入に結び付けるかのヒントを解説します。 >> 前回(3部作コラム・2本目)はこちら 3)収入に結び付く活動の、方向性を決める 私の場合、収益化の戦略において、研究者としての判断により商売的な算段を優先することはありません。 キャッシュフローの問題を解決するには広告がひとつの対策となりますが、その効果を発揮する為には、オンラインでの自分のイメージとの整合性に注意を払う必要があります。Googleの広告は奇抜なコンテンツもページに表示してしまいます。私も少し試してみましたが、ユーザーが親しみを覚えず、クリックされなければ、ほとんど無駄になってしまうという結論に達しました。また、この10年で有料広告に関する様々なオファーも断ってきました。悲しいことに、アプローチの多くは、倫理的に了解出来ないもの(論文代理執筆)や私のやっていることとはまったく関係ないもの(インターネットバンキング等)でした。 将来的には広告を掲載するかもしれません。しかし、それはクリックした人が“インガー、これを紹介してくれて本当にありがとう”と言ってくれるようなものでなければなりません。例えば、Scrivenerというソフトを開発した開発会社Literature and Latteなどの広告であれば、喜んで掲載します。実際、私はブログを通じて、博士課程の修了者の就職支援の製品、PostAcのプロモーションを行っています。(大学を通じて何かを商業化する際のご多分に漏れず、これを通じて金銭的な見返りが得られるとしても、何年も後のこととなるでしょうけれど。) パートナーシップは長期的な視点で考える パートナーシップは、直接収入をもたらすというものというより、チャンスを生み出す方法です。最近、韓国や日本、中国等でサービスを提供するグローバルの翻訳会社のユレイタスで「研究室の荒波にもまれて」を翻訳してもらう契約を結びました。この契約は、お互いにとってのメリットとなるものです。この契約によって私が対価を得ることもありませんし、自社で翻訳を行うユレイタスもコンテンツを販売することは出来ません。それでも、私たちはそれぞれ異なる方法でベ利益を享受します。私の側では、書いたものが、より多くの読者を得られます。翻訳されなければ、英語を解さない読者層とは接点を持てないのです。一方のユレイタスの側では、自社の翻訳能力を示す良質なコンテンツアーカイブを持つことができます。 このユレイタスとの契約ついては悩みました。幸い東南アジアで翻訳ビジネスを行っている知り合いがいたため、助力を得てしかるべき調査を実施しました。ユレイタスが信頼に足る会社で、論文の代理執筆をしてないことを確認しなければならなかったのです。論文の代理執筆業者とブランド連携すれば、私の信頼は失墜します。このユレイタスとの関係が今後何をもたらしてくれるか、興味深く見守っていきたいと思います。これまでの経験から、得られる利益というものは次第に明らかになっていくものだということを私は知っています。自分の専門性を収入に結び付けるには、長期戦で取り組まなければならないのです。 自身のコンテンツで稼ぐ方法は書籍だけではない…

稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる(2)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナショックで研究者求人の減少を目のあたりにしているミューバーン准教授が意を決して、自身の収入源を赤裸々に明かしながら学術の仕事で生計を立てるための考え方を語ります。こちらは3部作コラムの2本目。生計を立てるために検討すべきことや仕込むべきことを解説します。 >> 前回(3部作コラム・1本目)はこちら 1)仕事における「ミッション」を明確に打ち立てる  研究が世界を変えると心から信じている。博士課程の学生は頭が良く想像力に富んでおり、世界の問題の多くを解決するには彼らが必要となる。しかし学生が何をなすべきかを見失ってしまうことは珍しくない。私の役割は可能な限りの方法で彼らをサポートすることである。  上記が私のミッションです。私の行う全ての仕事は、有償、無償にかかわらず、これが根本にあります。このミッションを明確にすることは、役に立ちます。単にモチベーションが上がるだけではありません。ミッションは、自分の仕事の重点が定まり、それにより、私の存在は次第に他の人々に認知され、理解してもらえるようになりました。この認知されるということがチャンスをもたらしてくれるのです。  私は、博士課程の学生サポートに関する多くのことを行っています。大半は無償で、一部は対価を得ています。このミッションに軸を据えることで、オンラインでの知名度を上げて、仕事の中心が定まり、私が研究教育の専門家として認知されることにつながりました。ミッションにフォーカスすれば、自分の専門分野に関連した問題に他の人々が直面した際に、お呼びが掛かる存在になるのです。問題解決の対価が支払われれるケースも出てくるでしょう。 これはあくまでもセオリーですが、ツールやテクニック、あるいは(あえて言いますが)知識ではなく、専攻分野における問題解決にフォーカスしたアプローチこそお金を稼ぐ手段としては有効であると私は考えています。ですから、「自分の知識で何ができるのか」、「どの様な問題を誰のために解決してあげられるのか」、「問題を解決への対価を払う人はいるのか」などを考えてみてください。 サービスを受けた人が必ずしもそのサービスへの対価を支払う人ではないということも重要です。これが次の2番目のポイントにつながります。 2)役立つコンテンツを作りインターネット上で無償提供する  長期間に渡る完全な無償提供には、継続性がないということを認識がありますが、インターネットで無償コンテンツを掲載することでその分野での問題解決の専門家であると立ち位置を確立できる可能性があります。この「研究室の荒波にもまれて(原題:The Thesis…

稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる(1)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナショックで研究者求人の減少を目のあたりにしているミューバーン准教授が意を決して、自身の収入源を赤裸々に明かしながら学術の仕事で生計を立てるための考え方を語ります。こちらは3部作コラムの1本目。  今年の2月に深刻なコロナ危機に襲われた際、この記事を塩漬けにしました。記事は教員としての収入を、学術に関連した‘副業’で補う方法に関するもので、3月時点で、全てが最悪の状況になりつつあり、時宜にかなったものと思えなかったからです。オーストラリアの大学で後期が始まる時期になり、多くの人が仕事を失っている中、この記事も役に立つのではと思います。そこでこの記事を整理した上で、私達が直面する現在の状況を反映させて手を加えました。  私を含む多くの研究者は、いわゆる学術のハンガーゲーム、‘ギグエコノミー(Gig Economy)’の環境でキャリアをスタートします。時給ベースや単発の仕事を複数掛け持ちして糊口をしのぐというのは珍しいことではありません。これを「ポートフォリオキャリア」と呼ぶ人もいますが、実際には不安定・不確実な仕事を美化しようとしているとしか私には思えません。 これは左派と右派を含む歴代政権が十分な予算を投じて来なかったことが原因です。最近のMcCathyとWienkによるオーストラリア数学研究所(AMSI)の報告から引用した、学術関連の仕事に対する博士号取得者の数の増加を示した図を見てみましょう。 私が1989年に建築学科に入学した頃に比べ、現在は9倍の学生がいますが、教員の数は9倍に増えたわけではありません。政府は、公的予算の削減により学術界に対して‘効率化’を強いてきました。大学への資金は年々増加していますが、費用の増加には追いついていません。大学は経営を成り立たせる為、学期間の休校期間の給与を払わない「季節労働者」を利用せざるを得ない状況になっています。 20年前は、臨時教員(Casual teaching)とRA業務が学術キャリアのスタートとして見られていました。今や非常に多くの人が、臨時教員や非常勤講師として学術キャリアを終えるようになってきています。(私は臨時教員の業務を指す、Casual Teachingの「カジュアル」という言葉に非常に抵抗があります。彼らは仕事に対して決して「カジュアル」なスタンスではなく、情熱的かつ献身的臨んでいるのです。) 学術的な仕事は清掃作業員よりずっと‘良い’と見られます。このため私達の業界とその他の業界の‘ギグエコノミー’との間の明確な比較が行われたことはほとんどありませんが、条件にあまり違いはありません。清掃会社や介護施設、食肉加工場で働く人たちは、コロナのクラスターを発生させたと非難されますが、欠勤して収入を逸するような余裕のない人々に対してこうした非難を浴びせるのはフェアではありません。これには臨時教員の仕事にも同様ことが言えます。私はある時期6つの大学を掛け持ちしており、病気で休むようなことはしませんでした。ですから、非正規雇用の教員・研究者も‘スーパースプレッダー’に簡単になり得るのです。Zoomがなければ、大学のキャンパスも‘ホットゾーン’となっていたはずです。 学術キャリアのこのステージを生き残るのは困難で、指針となるものはほとんどありません。わなにはまっているような感覚にさせられる状況なのです。先輩の研究者たちは、この状況を脱するには論文を書くしかない、と言うかもしれません。しかし、論文で埋め尽くされた履歴書は、雇用を縮小するシステムの中においては意味をなしません。現状の危機を前提とすれば、少なくともしばらくの間は不安定な雇用状況はより不安定になる可能性が高いでしょう。 もちろん辞めてしまうということもできます。しかし、学術界とのつながりを持ちながら、現在のこの悪い状況をやり過ごすにはどうすればよいでしょうか。手段のひとつは、学術以外の収入源を持ち、やりくりすることです。しかし学術的スキルを活用しインターネットで収入を得ることは、ハードルが高く、ほとんどの人が始めるノウハウを知りません。ここで昨年末に、博士課程の生徒のJulietからもらった手紙を見てみたいと思います。次のような内容です。…

リサーチの補助ツールとしてのダイアグラム

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はダイアグラムで文献レビューを行い、そこから論文テーマのアイデアを探す方法についてのお話です。 文献レビューの執筆には正直苦労します。読み込みが充分かいつも不安で、重要な部分を見逃して “間違ったこと”を書いてしまうのではないかと思ってしまうのです。10年間以上、論文を書いているのに、そのような思いが消えません。膨大な量の文献を前にして思考停止に陥る博士課程の学生の気持ちが痛いほど分かるのです。ですから、そうした学生たち、そして自分自身が、どうすれば救われるか、いつも考えています。 以前の投稿で、スパイダー・ダイアグラム(情報を整理し線画などで幾何学的に図示する手法)を使って文献レビューを行う方法に触れました。このテクニックはトピックが明確に設定されている場合には有効ですが、嗅覚が必要になるようなケースではどうでしょうか?レビューの全体像を自分で決めてかからなければならないような場合です。 博士課程に入りたての学生が文献検索を行う際や、既存のプロジェクトに新たな分野の文献を取り入れる際には、私と同じような人であれば、行き当たりばったりになりがちです。 私の場合、有用な情報がヒットするのを期待して、Google Scholar等のデータベースに何十個かの検索文字列を入力します。引用文検索で、特定のトピックに関する議論が確認できます。1つの検索文字列での完全一致検索が終わったら、あいまい検索も使用して取りこぼしのないことを確認します。 これは根気のいる作業で、正直あまり体系立った方法ではありません。 最近は、Jonathan Downie博士に勧められたKristin Lukerの著書『SalsaDancing into…