研究を推進する

GRIMとSPRITE:論文のエラーを探すツール

あなたが優秀な若手研究員で、ある研究に日夜取り組んでいるとします。 作業の合間にちょっと一息と、自分と同じ研究分野の最新動向を検索し始めると、自分の研究によく似た論文に関する記事が目に留まりますが、その論文は研究不正を理由に取り下げられたとのこと。そのような記事を見てしまうと、自分の研究は大丈夫だろうか?同様に論文が却下される事態をどうすれば避けられるのか?などと不安になってしまうことでしょう。 研究不正と疑われることを防ぐ対応策のひとつとして、自分のデータはもちろん、引用する出版済み論文のデータの正確性についても確認しておくことが不可欠です。科学研究データの信頼性が揺らぐことで生じる「再現性の危機(replication crisis)」は、学術コミュニティにおいて大きな問題です。今回は、研究不正を防ぐのにも役立ちそうな研究論文のエラーを探し出すための2つの方法をご紹介します。 GRIM(グリム)とSPRITE(スプライト) 再現性の危機への認識が高まる中、2016年にポーランドのPoznań University of Medical Sciences のポスドク(当時)だったJames HeathersとオランダのUniversity Medical Center Groningen…

研究の品質管理の重要性

品質管理により、科学研究の良し悪しに違いが生じます。では、研究における品質管理とは何でしょうか?答えは簡単です。研究室における「規準」を監視・維持することです。ここでは研究における品質管理がいかに重要かを見直してみましょう。 品質管理に関わる基準 品質管理とは、研究室内のあらゆる問題を見つけ出し、これによる影響を弱めて許容誤差範囲内に収めるよう、修正や調整、あるいは改善を行うことです。また、研究方法に一貫性があるようにしたり、実験結果の正確性を確保したりすることも含まれます。学術研究の品質には、正確性、信頼性、安全性、有効性など、さまざまな意味が含まれます。品質管理(Quality Control)と似ているものに品質保証(Quality Assurance)がありますが、この2つは品質マネージメント(Quality Management)の一環でありながら、若干意図が異なります。品質管理が、「どのように改善するのか」といった問題への対応として必要な変更を提案するための監視を行うプロセスなのに対し、品質保証は、適切な基準にのっとって研究が行われたか、品質管理における要求事項と結果を確かめるプロセスです。ただし、いずれも研究の「質」の確保に重要な役割を担うものです。 品質管理にあたって目安となる基準のひとつに、Good Laboratory Practice(GLP)があります。日本語では「優良試験所基準(規範)」や「優良研究所基準」などと呼ばれている、医薬品や医療機器、化学物質などの承認申請や登録申請のために行われる非臨床安全性試験実施に関する基準です。GLPは製薬会社の不正に対する査察を経て、米国医薬食品局(FDA)が定めた基準であり、該当する被臨床安全性試験データの信頼性の確保を目的として1979年から米国で適用されました。1981年に経済協力開発機構(OECD)がGLP基準を制定したことで国際基準として認識され、1982年には日本でもGLP基準が文書化、翌年から適用されています。さらに1997年には薬事法に基づいたGLP省令が定められ、その後も適宜改正されています。GLP省令には、「運営管理者は、試験施設の運営管理、計画書等や標準操作手順書(SOP)の作成・記録・保存を行う」といった基本的な事項から、生データの管理まで幅広く記載されています。他にもGood Manufacturing Practice(GMP)と称される医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準などもあり、研究室の品質管理においてこれらの法的な基準(法令・規制要求基準)を満たすことも大変重要です。 品質管理のベスト・プラクティス 基準について把握できたら、次は実際の品質管理です。品質管理のベスト・プラクティス(模範的な活動)として参照になるのがLaboratory Quality Management(LQM)です。LQMは、研究室の活動の一貫性を阻害する要因を管理・制御する仕組みを組織内に実現するのに役立ちます。ほとんどのLQMは、国際標準化機構によって策定された試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項(General…

専門家からみた「あなたの論文はあなたの形式で」

学術誌では通常、参考文献の付け方など原稿のスタイルが投稿規定で細かく決められています。しかし大手出版社のエルゼビア社では、投稿者がそうした形式にこだわらず論文草稿を投稿できる“Your Paper, Your Way(あなたの論文はあなたの形式で)”という方針を打ち出しています。まずは“Your Paper, Your Way”の提唱者で、『Free Radical Biology & Medicine(フリーラジカル生物学・医学)』編集長のケルビン・J・A・デイビーズ博士の見解を聞いてみましょう。  *     *     *  他誌でも“Your Paper, Your…

定性的研究におけるバイアスの避け方

研究者が自分にとって望ましい結果を得ようとして、研究におけるバイアス(偏り)が生じてしまうことがあります。多くの場合、研究者は自分の考えや作業にバイアスが入り込んでいることを自覚していません。自覚の有無にかかわらず、研究におけるバイアスの存在は研究の公平性に大きな影響を与え、研究成果の価値を損なう危険性があります。 今回は研究者同士の会話から定性的研究におけるバイアスの問題を考えます。 定性的研究におけるバイアスの問題 「バイアスは、定量的研究よりも定性的研究でより重大な問題だと言われます。」 「どうしてですか?」 「定性的研究のほうが、研究者の経験と判断にかかっている要素が大きいからです。それに、収集するデータには主観が影響するし、調査対象の人や状況に依存する面も大きいのです。このため、定量的研究よりもバイアスを避けるのがはるかに難しくなります。」 「バイアスを避ける策はありますか?」 「まず、あらゆる研究にバイアスは存在すると認識することからはじめるのが良いでしょう。そして、どのようなタイプのバイアスが自分の調査に入り込みそうか予測して、それを極力避けるようにすることです。」 バイアスのタイプ 「避けるべきバイアスにはどのようなタイプがあるのですか?」 「ひとつは研究デザインにおけるバイアスですが、研究デザインを立案する時点からバイアスに注意しなければならないことに研究者は気づかないものです。さらに、研究対象を選ぶ時点で生じる選択バイアスと、調査対象に対して生じるバイアスとに大別できます。前者は対象者の選択が母集団を正しく代表していないときに生じる偏りであり、標本数や調査対象者の範囲などが要因になりえます。母集団から標本をどれだけ抽出するのか、抽出方法をどうするかにより、標本が母集団の傾向を正しく反映しないものになる場合があります。調査対象から特定の年齢層や人種・民族を除外する、あるいはデータが入手しやすいとの理由のみで調査対象を選出する――このように意図的な標本の抽出を行えば、結果に偏りが生じる原因となります。例えば、データを取りやすいからと大学生だけを調査対象としてデータを集めたのでは、その集団は多くの共通の特性を有しているため、結果として偏った傾向を示してしまうでしょう。」 「なるほど。その他にはどんなバイアスがありますか?」 「他にもたくさんあります。研究手法においてもバイアスは生じます。アンケート調査で回答時間を短くしてしまうと、回答者はあわてて本心とずれた回答をしかねず、バイアスがかかることになってしまいます。また、測定方法におけるバイアスもあります。使用する計測機器が狂っていたり、使用法を誤ったりすると、データの収集や測定プロセスにエラーが起こり、結果に系統的な誤差が生じかねません。」 「注意しなければならないバイアスがたくさんあるようですね。」 「今すぐ思いつくだけでも、あと三つあります。ひとつはインタビュアー(面談者)によるバイアスです。インタビュアーが、回答者(被験者)の回答内容に影響を与えることもあります。例えば、インタビュアーが無意識のうちに、ボディーランゲージや声のトーンなどで回答を誘導してしまったり、被験者に与える情報に差が生じてしまったりするケースで、回避するのはとても困難です。逆に、調査対象者に要因のあるバイアス(被験者バイアス)もあります。例えばアンケートの回答者は、設問に対して事実ではなくても自分が正しいと思う回答をする傾向があり、結果に偏りが生じることがあります。三つ目は、レポーティング(報告)におけるバイアスです。これは研究者自身の手の及ぶ範囲を超えて生じてしまうバイアスであり、前向きな研究結果や興味をそそる内容は、否定的な結果や面白みの少ない結果に比べて頻繁に報告されやすいというものです。そして、報告回数・頻度が高くなれば、より広く知られることになり、この結果が重要なものと見えてしまうという事態を招くことにもなるのです。」…

調査研究におけるサンプリングの重要性

研究を進めるためには具体的な計画が不可欠です。研究の対象、測定・評価方法、評価期間など決めなければならないことは多々あります。研究計画は慎重に検討しておく必要があります。同様に重要なのは、研究における調査対象の抽出( サンプリング )です。大方の調査では、限られた調査対象から得られる回答(データ)をもとに全体を推定します。調査の対象となる特性を持つ全体を母集団、母集団の性質を忠実に反映するように母集団から抽出される部分を標本(サンプル)と呼びます。サンプル数が多いほど、母集団の性質をより確実に反映する確率が高くなりますが、調査結果の信頼性を高めるにはサンプルの数とともにランダム性も大事な要素であると覚えておきましょう。以下に、サンプリングについてまとめてみます。 サンプリングの方法-確率抽出法と非確率抽出法 ひとつの例として以下のような調査を考えてみます。 炭坑での労働が健康におよぼす悪影響を調べたいとします。炭坑労働者全員を調べることは実質的に不可能なため、調査対象を絞ってデータ収集することが必要となります。この調査では、ある地域の炭坑労働者を調査対象としてサンプルに設定します。 このように母集団(炭鉱労働者)からサンプル(調査対象)を選ぶ方法としては、確率抽出法と非確率抽出法の2つに大きく分けられます。 1. 確率標本抽出法 母集団から標本を適当に選んだのでは、その調査結果の評価が難しくなります。また、一定の偏りが生じるような抽出法は避けるべきです。そこで、母集団を構成している全て(成員)が一定の確率で(必ずしも同じ確率でなくてもよい)調査対象となるように選ぶ抽出法が確立標本抽出法です。これにはいくつかの手法がありますが、最も広く利用されるのは母集団のどの構成要素にも等しい抽出確率を付与する単純無差別抽出法です。他に、層別抽出法(層化抽出法)、クラスター抽出法(集落抽出法)、系統抽出法などがあります。上述の地域を限定して炭鉱者のサンプルを選出した例は、クラスター抽出法です。 2. 非確率抽出法 確率標本抽出法とは異なり、確率的でない基準に基づき調査対象を選ぶ方法です。サンプルに選ばれる確率が不均等なので、標本誤差(サンプルを無作為抽出して調査した結果にともなう誤差)を統計的に推定することはできません。研究者が、調査研究の目的等に応じて選択的にサンプルを選びたい場合にこの方法が採用されます。非確率抽出法には、機縁法・縁故法、応募法、インターセプト法、割り当て法、有意抽出法などがあります。 質的調査、量的調査とサンプリング サンプリングをした対象者からデータが得られたら、次は分析です。それには、言葉による説明などを行う質的調査と、情報を数量化して捉える量的調査の2つがあり、双方の特性を理解した上で、どちらが自分の研究に適しているか総合的に判断する必要があります。…

情報過多社会を生きるためのコツ

インターネットやSNS(Twitter、Facebookなどのソーシャルネットワーキングサービス)の普及に伴い、私たちは知りたい情報を簡単に手にいれ、興味ある話題について最新の動向を常に把握することができるようになりました。一方で、洪水のように流れ込む大量の情報を前に、多くの人が振り回され、集中力を削がれているのも事実です。自分の処理能力を超える量の情報に直面する、いわゆる 情報過多 の状態に置かれているのです。スマートフォンを持っている人なら誰でも身に覚えがあると思いますが、ひとたび検索をし始めるとキリがなく、仕事の生産性が上がるどころか下がってしまうこともあります。このような情報過多の状況にどう向き合うかは、研究者の皆様にとっても喫緊の課題ではないでしょうか。情報の洪水から身を守りつつ、大切な情報を見逃さずに拾い出すにはどうしたらよいのでしょうか。 情報過多がもたらす弊害 すでに研究者が一生かかっても処理しきれない量の膨大な情報が溢れています。毎年200万件を超える研究論文が発表されていますし、2万8000誌以上の学術誌が毎号、新しく重要な発見を公表しています。このような状況では、自分の研究に関連する最新動向を把握しようにも、何から手をつければよいのか見当もつきません。SNSに及んでは、もはや決して追いつけないと思うほどの、お知らせやメール、最新情報が続々と送信されてきます。 このような状況において、多くの研究者は「論文を執筆するにあたって、いったい、自分はどこまで調べればよいのだろう」と途方に暮れてしまいます。しかも、大量の情報に囲まれ続けているうちに、最新情報に触れ続けていないと何か見落としているのではないか、置いていかれるのではないか、成功を逃すのではないかといった恐怖(fear)を感じるようになるとして、FOMA(fear of missing out)という言葉も生まれました。この現象の原因はSNSに限らず、常に最新の情報を追い続けていないと不安になるというものです。研究者であれば、何か大切な記事や研究を見落としているのではないか、という心配に取り付かれてしまいがちです。これが、ストレスになり、作業効率を低下させ、肝心な研究がおろそかになるという悪循環を招きかねません。情報が氾濫する現代で不要な不安感を持たずに健全な精神状態を保つには、自分にとって何が大切なのかを見極める力が必要です。 溢れる情報の中から本当に必要な情報を見つけ出す FOMAのような現代病とも呼べるような不安を抱える人は世界的に数多く存在しているので、むやみに悲観する必要はありません。むしろ、多くの人の共通の悩みであるがゆえに、情報過多の状況に対処する、もしくはそういった状況に陥らないよう工夫するコツもたくさんあります。ここでいくつか紹介します。 思い切って無視する 振り返れば、毎日目にする大量の情報は、ほとんどに大した意味はなく、自分に関係のない類のものではないでしょうか。新着情報を思い切って無視することにすれば、何か見落としているのではないかという不安からも解放されます。 情報管理ツールを利用する フィルターの活用は非常に有効です。ScienceOpen…

革新的な研究に特許調査は欠くべからず

研究者は誰でも、自分の研究を重要で、革新的で、独自性が高いものにしたいと望んでいます。既に他の研究者が取り組んでいる内容と重複する研究を行うことは、貴重な時間や研究費の無駄使いです。研究成果の特許出願を念頭においている場合は特に、既存の研究や特許申請状況の事前調査を欠かすべきではありません。 特許調査を行わなかった失敗例 特許調査を行なわなかったために失敗した実例証言を見てみます。 私は、一流の研究者で構成されたチームで、最先端技術の研究を進めていました。このチームで独創的な発明をしたと思ったのです。ところが検索したところ、別の人がすでに特許を取得していた内容であることが判明しました。研究につぎ込んだ何年もの時間と研究資金が無駄になったのです。 私たちは独自性の高い発明を見つけたいと思ったのですが、その発明を決定付ける部分はすでに特許化されていました。技術に対する特許使用料を支払うか、研究をゼロから再スタートさせるかの選択を迫られました。 博士論文の研究で、特定の化合物を作り上げようと何ヶ月も費やしていました。しかし、ある大企業がすでにこの化合物の生成に成功していたことを知りました。その大企業は、無償で少量の化合物を提供してくれました!もっと早く知っていれば、大変な時間と研究資金を無駄にしなくて済んだのに。 特許調査も文献調査の一環として実施すべし 特許は発明を保護するための権利です。発明者が特許権を取得すると、自身の特許発明の実施を一定期間独占できる権利であり、他人(第三者)は無断でその特許発明を実施することはできなくなります。貴重な時間と研究費に影響するのにもかかわらず、学術研究者が特許権の調査を怠るのは、なぜでしょうか? 理由に挙げられるのは、多くの研究者が学術文献の調査のみを行っていることです。特許出願される発明が、論文として学術雑誌(ジャーナル)に投稿されるとは限りません。研究成果として発表されないケースも多いのです。学術研究者の多く、とくに特定の分野の研究に長く従事している研究者は、その分野の情報に精通していると思ってしまい、学術文献だけを調査しがちです。これと対照的に、実際の事業に関わる研究者は、時間と費用の制約から学術ジャーナルに投稿することは稀ですが、自らの発明を保護するために特許出願に注力し、そのための準備として事前調査も怠りません。この差が、特許調査への取り組みに表れていると言えます。 学術研究者は、文献調査の一貫として特許調査を行うことを心がけるべきなのです。 特許調査における問題 最近までは、特許検索はほとんどの人にとってハードルが高いものでした。欧州特許庁(EPO)や米国特許庁(USPTO)、日本の特許庁などは、無償で利用できる特許データベースを公開しています。日本では特許庁所轄の独立行政法人が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で特許公報を無料で検索・照会することが可能です。しかし、データベースによっては検索条件が限られていたり、使いこなすことが難しかったりすること、特許の多くが複雑で難解な法律用語で書かれていること、さらに一部の特許は画像や遺伝子シーケンスのようなテキスト以外の記述法で記されていることなどが研究者の利用拡大を阻む要因ともされています。とはいえ、近年は産学官が連携する研究や、その結果として学術界(大学)で得られた知的財産(研究成果)を産業界(企業)に提供して活用させる技術移転が盛んになっています。一例ですが「近大マグロ」で有名になったマグロ養殖技術。近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖化に成功し、日本の養殖業界にも貢献しているもので、もちろん特許および商標登録されています。このような研究から活用までを見通して考えれば、研究に先立って特許調査をしておくことは大切です。そのためには、特許の記述法や構成を理解しておく必要があります。学術研究者も、文献調査だけでなく、特許調査にも意識を広げていくことが求められています。 特許調査の新しい方法 特許庁の提供するサービス以外にも、簡単に特許調査ができる新しいサービスが出てきています。例えばGoogle Patentは、一部の国の特許情報には制限があるものの、世界知的所有権機関(WIPO)をはじめとする欧州、米国、日本、中国、カナダ、韓国などでの出願も収録されている特許文献の検索サービスです。複雑な検索条件も使えて、検索データをフィルタリングすることもできます。他にも、クラリベイト・アナリティクスが提供するDerwent…

論文提出前の読み直しと推敲・校正の重要性

やっと仕上げた論文原稿の問題を指摘されると不愉快になるものです。しかし、文法の間違いなどが、論文全体の評価に悪影響を及ぼすことを指導教員はよく認識しているからこそ、注意してくれるわけです。指摘された箇所を修正することはもちろん、原稿の見直し、推敲・校正するスキルを向上することは大切です。これを怠って間違いを見落としてしまったり、完成度の低い論文を提出してしまったりすると、研究成果そのものへの大きなマイナスとなってしまいます。 推敲と校正は極めて重要 推敲と校正は、文章を仕上げる上で欠くことのできない作業です。この一手間をかけることにより、文書が的確に、伝えたい考えが明晰に表現できるようになるのです。推敲と校正を同じようなものと考えている学生や論文執筆者を多く見かけますが、両者の意味は明らかに異なります。推敲は文章を読み直して、不適切もしくは不明確な部分を修正したり、文全体の構成や記述の順番を変えたり、内容を改めたりする作業です。一方、校正は、用語や誤字脱字、文法などの誤りや記述上の不備をチェックして修正する作業です。推敲や校正の手始めに、指導教員の指摘をじっくりと読んでみると良いでしょう。どういう点を注意して見るべきかが分かるはずです。 推敲作業 推敲は大変な作業ですが、必ず習得すべきことです。このスキルを向上させるにはさまざまな要素が関っていますが、手始めに注意すべきこととしては以下が参考になるでしょう。 文書構成 イントロダクション(序論)とコンクルージョン(結論)を明確にする 段落構成 段落ごとに内容を明確に転換させること 段落ごとに、その段落の中心をなす考えを示すこと 主題 論文の主張を、明確に、散漫にならずに書き記すこと 論文の中心となる主張を支える明確な論拠を示すこと 明瞭性 必要な場合には定義と論拠を明示することで、論文とそこに記述している考えを明確にする…

研究プロジェクトの要、進捗報告

研究に限らず、何事においても進捗管理・報告を行うことは作業を進める上で不可欠です。単独で研究を進めていたとしても、研究業務は、所属する研究組織全体の中のひとつの歯車であることを忘れてはいけません。上位の管理者にとって、研究資金提供者への報告を行うためにも、組織内で並行して進められている数々の研究プロジェクトの進捗を把握することが必要なのです。では、研究者としてどのような進捗報告が求められているのか、どうすればよい進捗報告が書けるかを考えてみましょう。 目標設定の5ポイント「SMART」 まず、作業を進めるためには目標を設定しておく必要があります。その際にどのような目標を立てるのかの助けとなるのが「SMART」です。SMARTとは、目標設定時に押さえておくべき5つのポイントの頭文字、S:Specific(明確な)、M:Measurable(計測可能な)、A:Attainable(達成可能な)、R:Realistic(現実的な)あるいはRelevant(関連性のある)、T:Time(期限付きの)をとった目標設定の指標です。SMARTの要素を踏まえた目標を設定することによって、行動しやすくなり、さらにPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回しやすくすることにつながります。その結果、目標に向かってPDCAのどの段階にいるかが分かりやすくなり、段階を踏まえた進捗報告が作成できるようになるのです。 進捗報告を作成する頻度 次は、進捗報告です。進捗報告を行う頻度は、業務の内容や状況に応じて上位の管理者が設定する指示に従うことになります。報告の際は、進捗状況を確認するだけでなく、自主的により細かいチェックを行うこともお勧めします。定期的な状況確認のタイミングと内容としては次のような例が挙げられます。 日次: 毎日、研究室内を歩き回って、研究チームのメンバーと軽くおしゃべりして、お互いの進捗を把握しつつ情報交換する。毎日、数分のミーティングをするのも一案です。自分自身については、その日の「やるべきこと」を確認します。 週次: 研究チームとは、週に一度、一緒にコーヒーを飲んだり抄読会を開いたりして交流し、その機会に進捗を口頭で報告しあうことも有用です。進捗報告だけだと業務報告のような堅苦しいものになりがちですが、勉強会のような形にすることで、メンバーが自主的な立場で対等に参加する雰囲気となり、進捗報告や問題点の報告をめぐって前向きで自由闊達な意見交換につながりやすくなります。問題を抱えているメンバーがいれば、話し合いをする時間を別途設けることもできます。 月次: 各人が進捗報告を書きます。個々のメンバーと個別で面談をし、状況の確認を行います。 進捗報告に記すべき内容と目的 研究の進捗報告に盛り込むべき内容は、その時点までに得られた結果、進行中の実験、今後の計画および予想される問題などで、研究計画の全体をカバーするものであるべきです。そして、目標を達成し、適切かつ十分な情報に基づく決断および修正を行うかの判断を行う際の根拠とするためには、研究計画を定期的に見直す必要があります。 進捗報告の目的のひとつは、研究資金の提供者に対して、状況を伝えることです。研究に関わる人が求めている情報には、以下のようなものがあります。 研究がどのように進められているか。その進捗はどうか。…

伝わる研究論文を書くために―鍵は文章力

研究論文の執筆で大切なのは、自分の研究内容や考察をわかりやすく正確に読者に伝えること。分かってはいるものの、なかなか満足できる論文を書き上げられない・・・・・・。そんなときには、論文執筆の落とし穴にも注意してみてください。 論文執筆の落とし穴 研究論文を執筆するときに陥りがちなのが、自分の伝えたい内容に気をとられるあまり、それを表す文章の書き方(句読点の使い方や文法)にまで意識が及ばない、ということです。しかし、読者に研究成果を分かりやすく伝える論文を書くには、文章力も非常に重要です。簡潔かつ、読者にしっかりと内容が伝わるような文章が書けるようになれば、きっと満足のいく論文を書き上げることができるでしょう。 研究者は長文好き? 一般の読者、あるいは他分野の研究者にとって難解であろう研究成果をできるだけ分かりやすくしようとすると、おのずと文章は長く、複雑になりがちです。しかし、それではよい論文には仕上がりません。難しい内容をいかに分かりやすく読者に伝えられるか、ここが腕の見せ所なのです。 例えば次の文章を読んでみてください。 In botany there are many factors that affect the…