査読の世界

お高い掲載却下率に打ち勝つためには? (1)

「論文をジャーナルに掲載してもらうには、どうしたらよいですか?」と聞かれれば、その答えはおおむね、以下の3つとなるでしょう。 ①よい研究をする ②英作文が上達するように努力する ③論文の書き方をマスターする しかし、これらは誰もがしていること。ほかの人より抜き出るためには何をしたらよいのでしょうか? 高い却下(リジェクト)率に打ち勝つために、これから2回に分けて裏技をご紹介します。 1. 上等な鉄砲でも打たなければ当たらない とりあえず、「いつも査読中の論文がある」状態を保ちましょう。 現職を維持するために特定数以上の論文を出版する必要がある方は、とくに気をつけてください。無我夢中で頑張るのではなく、数字を出してジックリと計画を立てるべきでしょう。まず自分の論文の却下率を計算してください。投稿数が少ない場合は、学会内の平均却下率をインターネットで調べるか、各ジャーナルの掲載率から割り出せばよいでしょう。あとは年間何本の論文を出版しなくてはいけないかを考え、投稿数を逆算します。たとえば、年間2つ以上の出版が求められる職に就いていて、自分の却下率が50パーセントの場合、毎年、4つ以上の論文を投稿しなければいけないということになります。このように、論文の却下を「運が悪かった」と考えず、現実問題として対応しようとすると、いかに投稿数が重要かがわかると思います。 2. 共同研究をする 投稿数を増やすために欠かせないのが共同研究です。とくに、自分より出版経験の長い研究者との共同研究は、ジャーナルに掲載される可能性が高くなるだけでなく、今後のためにもよい勉強になるはずです。 また、論文を書く段階になって、誰の名前を最初にするかという問題が持ち上がると思いますが、共同研究者とは今後も長いお付き合いになることを念頭において、相手の気持ちを考えた大人の対応を心がけてください。 ただし研究を始める前に、仕事の分担を明確にすることをお忘れなく。それを怠ると、問題が生じたとき、トラブルのもとになることがあります。2014年の「STAP細胞事件」では、問題発覚後、共著者たちが互いに責任を押し付け合う姿が見られましたが、そういう事態は避けたいものです。 3.…

よくある「却下(リジェクト)」のシナリオ

論文がジャーナルに掲載されるまで、通常、平均2回は却下されるといわれます。今回は、ジャーナル編集部でよく聞かれる愚痴をあげ、その対応策を考えてみました。投稿する前の自分の論文を編集者の目で見ることができ、それに応じて原稿を作成することができれば、それだけ掲載のチャンスが高くなるのではないでしょうか? 1. 編集者の怒り 「メールの件名欄に研究者の名前を書く」とか、「1ページ目に研究者の名前と論文のタイトルを書き、論文自体には研究者の名前を書かない」とか、投稿規程はそんなに難しいものじゃないのに……。自分がちょっと楽をしたいからって、簡単な規程にも従わないで論文を送りつけてきて! 毎日何十も投稿論文がある中で、この論文にだけ時間をかけるなんて、ほかの研究者に対しても不公平。編集委員に見てもらう必要もないわ」 【対策】投稿規程上の小さなミスで論文が却下されることはまずありません。しかしあまりのミスの多さに、編集者に「あなたの個人秘書扱いしないで!」と思われたら、その場で却下(リジェクト)されることもあります。投稿規程は最初から最後まで読んで、できる限り従うように努力しましょう。 2. 編集者の困惑 「この論文の論旨は、3年前に頻繁に討論された題材と同じ。使われている略語や専門用語も、ヨーロッパ系のジャーナルで使われているもので、私たちが使っているものとは少し違う。本当にこのジャーナルのことを知っていて掲載してきたのだろうか?」 【対策】論文を読む前から編集者を不安がらせないように、気をつけましょう。以前そのジャーナルで取り上げられた題材と似ている場合は、「この論文と以前の論文の違いは読んでくれればわかる」とは考えず、必ずカバーレターで説明しましょう。また投稿前に、そのジャーナルの過去半年の発行物を読んで、読者がどのような興味を持っているか調べましょう。 3. 編集者の悲鳴 「この論文、いったい誰に査読してもらったらいいんだろう……」 【対策】編集者といっても、その分野のすべての領域に詳しいわけではありません。とても特殊な研究の論文のために、査読者を選ぶのは大変な作業となります。このような場合、査読者は、キーワードや参照文献をもとに選ばれることが多いようです。キーワードには、自分の論文の特徴がすぐにわかるような語を選びましょう。また、参照文献には、自分の論文ばかりではなく、自分の研究の意義を正当に評価できる研究者の論文を取り込むように努力しましょう。 4. 査読者の嘆き…

新しいタイプの査読

一般的な査読誌(査読のあるジャーナル)では、編集委員会が事前に選出した功績のある研究者たちから、投稿されてきた論文1つひとつに適した研究者が数名ずつ選ばれ、論文の査読(ピアレビュー、Peer-Review)が行われます。この方法は、ジャーナルに掲載される論文の品質向上や品質管理に欠かせないものと考えられてきました。しかし、これまで行われてきたこの査読という制度について、その過程に費やされる時間やコストの上昇、また出版後に研究者間で意見の交換をする場がないことなど、さまざまな欠点が指摘されており、新しい方法を開拓しようという動きが見られます。そこでこの記事では、新しい査読方法をいくつか取り上げて紹介してみます。 投稿前レビュー(プレ査読) 研究者が投稿前に、何らかの形で自分の論文の査読を誰かに依頼することです。その研究分野で功績のある研究者が、若い研究者から頼まれて、まだ草稿段階の論文を読んで意見を寄せることはよくあることです。この投稿前レビューは、本を出版するときにもよく行われることです(「あとがき」にそのことが書かれていることがしばしばあります)。最近では、この方法をジャーナルにも取り入れようという動きがあります。コーネル大学のarXivなどがそのいい例ですが、正式に投稿する前の論文をインターネットで掲載し、そのサイトを見た人たちから意見を求めるのです。また、投稿前のレビュー(プレ査読)をサービスとして提供する会社も出て来ました。 掲載後の読者による意見交換 ジャーナルの編集部が主導する査読を割愛し、読者にゆだねる方法です。ここでは編集部によってある程度の品質管理は行われるものの、基本的には誰でもジャーナルのウェブサイトに論文を投稿できます。査読は、ウェブサイトを訪れた誰もがコメントを残すという形式で行うことができます。 読者による意見交換後の掲載 読者による査読を経て、編集部が掲載を決定する方法です。投稿された論文は、編集部が主導する査読を経ずに、まずジャーナルのウェブサイトに公開されます。それを読んだ読者は、自分の名前を明記すれば誰でも、その論文に対する意見や評価を書き込むことができます。編集局はこれらの読者の反応を考慮して、どの論文を実際の学会誌に掲載するかを検討します。 掲載直前の一般公開による意見交換 ジャーナルの編集委員会による選抜を経たうえで、オンラインで不特定多数の人からの査読を受けてから、掲載を決める方法です。編集委員会の選抜を通過した論文は、まずジャーナルのウェブサイトに掲載されます。ここでは一定期間、インターネットを通して、無記名で不特定多数の読者が査読者として、論文を書いた研究者と意見交換をすることができます。この期間が終了次第、研究者はもう一度論文の推敲を行い、その語、ジャーナルでの掲載にいたります。 投稿前および後の査読 従来通りの編集委員会による査読を経て、読者の意見を聞くことができる形式で掲載される方法です。従来の「掲載されてしまったらそれでおしまい」といった形式から、「掲載された後がおもしろい!」といった形式に進化したものだといえるでしょう。査読過程を経て掲載された論文は、オンライン上のフォーラムで、意見交換の場が提供されることになります。『PLoS One』がそのよい例です。 以上のほかに、「Pubpeer」などジャーナルとは独立したウェブサイトで、読者による意見交換(掲載後査読)が行われることがあることも、研究者なら知っておきたいところですね。

論文の ピアレビュー (査読)レポートとは?

昨今、研究論文の書き方を解説するガイドブックはたくさん出版されていますが、査読レポートの書き方に関しては、まだまだあまりよく知られていません。そこで今回は、査読レポートを書くときの注意点をまとめてみました。 まだ査読を依頼されたことのない人も、「自分には関係ない!」などといわずにご一読ください。ときとして査読者は、投稿論文とジャーナル編集部を結ぶ唯一の「点」となりえます。査読者からジャーナル掲載の推薦を得るためも、自分の論文がどのように評価されていくのかをよく理解するチャンスです。 1. 書き出しには必要事項を忘れずに 自分の名前およびメールアドレスとともに、査読をしている論文のタイトルと著者名も忘れずに明記してください。また、もし編集局より「manuscript number(原稿番号)」を教えられていたら、それも書きましょう。 2. レポートの目的を常に意識すること 査読レポートは、投稿された論文に対する査読者の見解を、その論文を読んでいないかもしれない編集者へくまなく簡潔に伝えることが第一の目的です。研究に欠陥はないか、分析が詳細に渡って行われているか、仮説から研究結果まで一貫性があるか、また論文が読みやすく書かれているか、広範囲に渡って評価をしましょう。その際、ただの感想文にならないようにするために、自分の意見を述べるときにはどうしてそう思うのか、論文から具体的な箇所を引用しながらまとめるようにしましょう。 3. 論文の質を高めるための査読を 査読に慣れない人は、どうしてもその研究の欠点や不足している点に注目しがちです。査読を依頼されたら、現実的な制限を考慮したうえで、その研究の斬新さと質、学会における重要性や問題性を評価しましょう。査読とは、いかに専門分野のことを熟知し、一論文内の不足点をいくつ見つけられるか、といった“査読者の実力テスト”ではないということをお忘れなく。 4. レポートの書き方 その論文の問題点(改善が必要な点)を簡潔にまとめてください。題名からアブストラクト(要約)、背景、方法、結論、ディスカッション(課題)に至るまで、すべての部分について問題点がないかどうかチェックしてください。書き方は箇条書きでかまいません。コメントすべき部分が書かれているページの番号を併記してまとめると、著者にも編集者にも読みやすい査読レポートができます。…

査読者の苦悩

国際的に認められた学会誌の査読者になるのは大変なことですが、その任務を全うするのはもっとたいへんなことです。自分の研究や家庭のこともあり、無償の査読の仕事が二の次になることもあるでしょう。ジャーナルの編集者のなかには、査読者が「もうすぐ終わるから」といい続けたため、他の査読者に依頼することもできず、半年以上もズルズルと査読作業が長引き、投稿してきた研究者には怒られ・・・という痛い思いをした人もいます。このようなことがないようにするためにも、いったん査読を引き受けたら、不必要な負担がかからないよう、気をつけましょう。 査読作業にはとくにマニュアルがあるわけではなく、自分に適した方法を作り出していく必要があります。以下、さまざまな人たちの意見を取り入れた提案をさせていただきます。 1. まず、大きな問題から取り組む まずは論文を一通り読み流して、掲載を考慮するべきか却下するべきかを決めましょう。そのジャーナルの傾向とまったく違う、研究方法に穴がある、または表現があまりに稚拙であるなどの理由で、掲載の却下(リジェクト)を編集部に提案するなら、これ以上時間を費やす必要はありません。 2. 掲載可能だが大きな問題がある場合 一通り読んだ後、掲載は可能だが、分析方法や結果への導き方に大きな問題があると思われた場合には、その点に気をつけて、もう一度論文を読みましょう。このさい、編集部への提案理由が書けるように、必要事項とページ番号をメモしましょう。 3. 大きな問題もなく、掲載できる この場合には、もしあなたに時間の余裕があれば、関連する先行研究の文献を紹介したりするなど、より細かい指導をしてあげたいものです。しかしこれはあくまでも「あなたに時間があれば」の話です。迅速に対応できない場合は、細かな指摘は避け、どうして掲載に値すると思うのか、その理由を簡潔に述べて編集部に報告しましょう。 4. 報告書は箇条書きで 日本人の私たちの場合、英語で「報告書」を書くだけで大変な作業です。最初に、自分の名前と査読した論文のタイトルおよび著者名を明記したら、自分がその論文の掲載を、(1)推薦しない、(2)条件付きで推薦する、(3)無条件で推薦する、かを書きましょう。理由は箇条書きでかまいません。その際、各箇条書きの最初か最後に、該当するページ番号を書けば、編集部の作業も軽減されますのでお忘れなく。

「掲載後査読」はアリ? 専門家たちの見解は……

科学の世界では「掲載後査読(post-publication peer review)」が話題になっています。日本では、小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダーが「STAP細胞」の作成成功を『ネイチャー』で報告したのですが、ご存知の通り、残念ながらこの研究は現在、不正(捏造・改竄・盗用)を疑われています。その発端となったのは「PubPeer」という研究者どうしが情報交換するオンラインコミュニティへの匿名希望者からのある投稿でした。このPubPeerを含む「掲載後査読」という新しいシステムについて、エナゴブログ編集部が専門家3人の見解を聞きました。(エナゴブログ日本版編集部)  *   *   *  伝統的な査読プロセスは、科学出版における重要な手続きです。しかし、それはもはや不完全であることも知られています。そのため科学者も出版社も、査読のもつ意義を最大限に引き出し、その本当の目的に見合うものとするために、新しいモデルを検討しています。 新しいモデルのうち1つは、科学論文が出版された後にもそれを批評することです。「掲載後査読」を、科学論文の質を向上させる絶好のチャンスととらえる科学者が増えています。科学ジャーナルのオンライン出版によって、科学者たちは、発表された論文についての見解を「コメント」や「レビュー(査読・再評価)」というかたちで共有し、オンラインで議論できるようになっています。しかし、発表された論文にコメントするためのプラットフォームがいくつもあることによって、研究者たちが特定の論文や記事についてのコメントすべてを一カ所にまとめることが難しくなっているという問題もあります。 医学文献検索システムとして知られる「PubMed」は、読者からの膨大なリクエストに応じ、そうしたコメントを一カ所にまとめるシステムへ向けたステップとして、「PubMed Commons」というフォーラムを開設しました。 PubMed Commonsによって、PubMedに登録されている論文すべてについて、コメントを投稿できます。登録したユーザーは、その論文にアクセスする誰もが閲覧できるコメントを加えることができます。「PubMed Commonsは、科学的な話題について、オープンで建設的な批評と議論を行うためのフォーラムです。科学コミュニティによるレベルの高い交流によって、PubMed Commonsはさらに成長するでしょう」。より詳しくは、PubMed Commonsを参照してください。 発表された論文へのコメントを集める取り組みとして、もう1つ挙げられるのは「PubPeer」というオンラインコミュニティです。 PubMed…

「この人には査読されたくない」と指定してもいいですか?

「尊敬できない」、「以前、侮辱されたことがある」、「この分野に関しての考え方が根本的に違う」……。どんな正当な理由があるにしろ、この狭い学界という世界で 「この人にだけは査読されたくない」という人間関係はつくりたくないものです。しかし、実際にそういう人がいたとしたら、どうしたらよいのでしょうか? 万が一にも自分の論文がその人へ廻されたら、絶対に公平な評価はしてもらえない……。そんなときには、編集部に理由を話して、少し考慮してもらえないかお願いした方がよいのでしょうか? 残念ですが、名指しで「この人には査読されたくない」というのはあまりお勧めできません。まず、メールやカバーレターが、事務作業をボランティアでしている大学院生に廻される可能性を考えてください。どんなに合理的な理由があったとしても、「○○さんは△△さんが嫌いらしい」などと、いい加減な噂を広げられるかもしれません。 また、お願いの仕方によっては、編集部へ仕事の仕方を指導しているように聞き取られかねません。編集部としては、より深い知識をもち、公平に掲載価値を評価してくれる査読者をいつも選んでいると自負しているはずです。それを、匿名が基本の査読制度の中、「この人がいい」だとか「この人はいや」だとか言われても、感じのよいものではありません。最悪の場合、ワガママで子どもじみた人だという印象を与えかねます。 では、神頼みで何もせずに論文を投稿するしかないのでしょうか?ここは上手に、編集者に「この人には査読させられないな」と思わせるようなカバーレターを書くことに専念しましょう。査読して欲しくない人の研究論文を引用し、仮に同じ分野の研究でも、視点や問題に対するアプローチの方法がまったく違い比較の対象にならないことを強調するのもよいでしょう。また逆に、査読に適した研究者の論文を多数紹介することによって、編集者にほかの候補者を示唆するのも効果的です。

投稿論文の査読中に新しいデータが出てきたら?

ジャーナルによる査読期間は、ときには1年近くに及ぶこともあります。そのため、論文の草稿をジャーナルに投稿した後も関係のある研究を引き続き行っていると、最初の論文の査読中に新しいデータが積み重なる可能性も出てきます。このような場合、どうしたらいいでしょうか? 最初の論文と違う結果が出た場合には、まず2つの結果を多角的に比較しましょう。最初の結果に何かしら欠陥があることがわかったら、編集部に連絡を取り、事情を説明して論文掲載を辞退させてもらいます。このさいには、査読者へのお詫びも忘れずに。 それに対して自説をより強く立証する新しい結果が出た場合には、まず、新しい結果のみで1本の論文が書けるかどうか自問してください。たとえば「より多くの被験者を対象に同じ実験をしたら、まったく同じ結果が出た」というような場合は、新しい論文として発表するよりも、現在査読中の論文の補足(または差し替え)データとして使うほうが有意義でしょう。 この新しいデータが論文の信憑性を大きく向上すると考えられる場合、自分から審査を辞退する必要はないでしょう。編集部に短い手紙を書き、「現状をお知らせしたい」と言って新しいデータについて説明し、査読中の論文がどれだけ信憑性のあるものか、また学術界にどれだけ貢献できる発見なのかを説明したあと、「結果をお待ちしております」と締めくくるのもよいでしょう。 新しい結果の分析が新しい1つの論理を成立させるような場合は、査読中の論文を辞退して、より融合的な論文を書くこともできます。しかし、査読中の論文はそのままにして、新しい論文を書く方が合理的かと思われます。この場合には、本文でも脚注でも構いませんのでこれまでの過程と結果を明記したうえで、新たなデータがどのような意義をもつのかを説明するのが得策です。また、新しい論文が最初の論文の査読中に書き上がった場合には、投稿時のカバーレターに、関連した論文がどこのジャーナルで査読中であるのか、また新しい論文がその論文とはどこが違うのかを明確に記しましょう。

査読者になることのススメ

一般的にいって、誰が学術雑誌の査読者になるかと問えば、「その研究分野において国際的に認められた研究者であるとともに、論文の出版数が多いなど生産性、 客観的な観察力、論点を明確に示すことのできる語学力のある人」という答えが返ってきます。しかし現実には、限られた人員で構成された編集委員会が、 学術界のすべての分野の最新情報に精通しているというわけではなく、また分野によっては研究者自体が少なく、査読をさばけないという状況も多々あり、編集委員会はいつも査読をしてくれる信頼できる研究者を捜しています。 そこでお勧めするのが、自分が好きでよく読む学会誌に、査読者として自薦することです。査読者はほぼまちがいなく無償の仕事ですので、金銭的には得になるようなことはありません。また、査読をしたからといって、今後自分の論文が掲載される可能性が上がるというわけでもありません。時間もかかりますし、期限も限られています。英語圏の学会誌でしたら、英語力によっては自分が書いた査読の英文を、編集員会に提出する前に誰かに読んでもらわないといけないかもしれません。 人の論文を読み、公平な視点で一研究者が一研究者を評価するという作業は、学生時代に授業の一貫として論文を読み、理想論を振り回して批評をしたことなどとは大違いだとすぐにわかるでしょう。研究にかかる時間や運営費など現実問題を考慮し、学術界の向上という大きな視点から、その論文が何を貢献できるかを念頭に置いて、批判ではなく評価をする必要があります。また一読者として読むのとも違い、学術誌編集部としての視点が求められます。その学術誌が追求している目標を考慮し、査読をしている論文の主旨や研究方法と比較したうえで、「この学会誌の読者が読むべき論文か?」を評価しなくてはなりません。たいへんなことですが、この査読作業が、次回自分が論文を書くときに役に立つことはいうまでもないでしょう。 まずは、自分の論文を掲載してくれた学術誌の編集部にメールしてみましょう。自分の論文がその学会誌でいつ掲載されたかを含め簡単に自己紹介をした後、査読者になる意思があること、どのような分野の論文であれば査読できるかを明記しましょう。履歴書を添付するのもよいでしょう。 昨今では学術誌のウェブサイトで査読者の応募をしているのをよく見かけます。興味のある学術誌のウェブサイトを頻繁に訪れ、そのような求人に応えるのもよいでしょう。 また、学術出版大手のエルゼビア社はそのウェブサイトで、査読の意義や歴史、査読者のガイドライン、査読者への支援などについて、多くの情報を提供しているので一読することをおすすめします。

査読者は「違いの出た研究」に好意的になりがち?

「AとBはまったく違いがない」という研究結果は、「AのほうがBより効果(影響)がある」という研究結果と同様に重要な発見のはずです。ではどうして、学術雑誌は「AのほうがBより効果(影響)がある!」という論文のみであふれているのでしょうか? 人間は、物事を比較することによって世界を把握する生き物です。たとえば、空間を仕切る壁に穴を開け、私たちが簡単に出入りできるものを「ドア」と呼び、そうではないものを「窓」と呼びます。同じ四足動物でも、「ミャー」と鳴けば「猫」と呼び、「ワンワン」と鳴けば「犬」と呼ぶ。つまり人間は、五感を駆使して物事を比較し、それらを区別・区分することによって初めて、自分たちの周りの真実を理解することができるのです。そのため、ハッキリした違いを心地よく感じ、重要視する傾向が生じます。 そしてその人間性は、研究者の中にも息づいています。ある研究でAとBを比較し、「まったく違いがない」という結論に到達すると、「何かが違うのではないか?」と執拗に比較を続けてしまいます。 2009年に学術雑誌『ネイチャー(Nature)』で発表された研究結果によると、その傾向はどんなに経験を積んだ査読者にも根深く存在するようです。 この実験では、まったく同じ実験の論文を用意し、その結果だけを「AよりBが優れている」としたバージョンと「AとBは同じだ」としたバージョンを作成し、複数の人に査読してもらいました。ここで注目したいのは、その論文の実験方法には、いくつかの小さな問題やミスが含まれていたということです。査読者はこのミスに気づいたでしょうか? 「AとBは同じだ」という結果の論文を読んだ人たちは、期待通りに実験方法の小さなミスや問題に気づき、さまざまな改正案を出しました。ところが、同じぐらい優れた査読者であるはずなのに、「AよりBが優れている」という結果の論文を読んだ人たちは、これらのミスや問題にまったく気づかなかったのです。つまり、査読者も人間で、「物事に違いがあること」をよしとし、鵜呑みにする傾向があるということです。 人(査読者)を騙す必要はありません。しかしここで紹介した実験結果を無視する理由もないでしょう。この結果を踏まえ、論文投稿者としてできることは、「比較対象を明確に表現すること」ではないでしょうか?