論文投稿の基礎知識

論文の盗用・剽窃を避けるコツ-後編

本記事の前編で、盗用・剽窃の定義や、他人の文献を引用する際のコツをご紹介しました。しかし、研究者が注意しなければならない盗用・剽窃は、単なる文字のコピーに限りません。後編では、盗用・剽窃と捉えられかねない、直接引用と間接引用、パッチライティングについて見てみます。 ■ これも盗用・剽窃?-直接引用と間接引用 他人の文章を、それが他人の文章であることを示すことなく書き写すことさえしなければ問題にならないと思いがちですが、盗用・剽窃とは「テキスト」のコピーだけではありません。他人の発想や考え方、データをコピーすることも含まれます。そもそも文章とは発想や考えをまとめたものであるため、その「考え」自体を真似たり、それを記した文章を適切に引用することなく自分の文章に書き写したりすることは、許されません。 では文章や「考え」を引用するにあたって取るべき適切な対応とは、どのようなものでしょうか。引用の仕方である「直接引用」と「間接引用」のそれぞれで見てみましょう。 直接引用 直接引用とは、他人の文章を自分の論文中に、該当文章が引用であることが明確になるように引用符を付けて「原文どおりに」再現することです。引用により定義付けをしたり、明確化させたり、あるいは主張を裏付けたりする場合に有効です。 以下の例文のカッコの中の文章が、他人の文章から引用した部分です。 象は、地上で一番大きな哺乳類で、体重は8トンぐらいあります。象は、「巨大な体と、大きな耳と、長い鼻を持っていて、その鼻で、手のように物を掴んだり、ホルンのように警笛を鳴らしたり、腕のように上げて挨拶をしたり、ホースにして水を飲んだり、シャワーを浴びたりします。」(出典:https://www.worldwildlife.org/species/elephant) この引用部分は、象の外見を言葉で説明したものです。視覚的イメージを維持したまま書き換えるのは困難なので、カッコを付けて示すとともに、出典を書き添えることによって、外部からの引用であることを明確にしています。英文の場合はカッコの代わりに引用符(“”)を使って外部からの引用であることを示します。 間接引用 間接引用(言葉の書き換え)とは、他人が書いた文章を自分の言葉に書き換えて記述することです。言葉を置き換えるのだから盗用・剽窃にはあたらないと考えがちですが、直接引用と同様に、書き換えた場合も出典元を明示しなければなりません。また、元の文章の意味するところ、基本的な考え方を変えないように注意する必要があります。 例えば、以下のような表現です。 象は、地上で一番大きな哺乳類で、体重は8トンぐらいあります。その大きくて、ひらひらした耳は、体を冷やしたり、虫をよけたりするのに役立ちます。頭から地面まで伸びた長い鼻は、道具として使われるほか、水を飲んだり、シャワーを浴びたりするのに使われます。(参照:https://www.worldwildlife.org/species/elephant) ここでは、情報が別の言葉に書き換えられていますが、2つの例文を比較すると直接引用の文のほうが、象の描写がより明確に表現されていることがわかります。 これらの引用方法は一長一短です。直接引用は、考えを説明したり、明確にしたりするのに有効ですが、頻出すると、文章の独自性が薄れてしまいます。一方の間接引用は便利ですが、うまく書き換えなければ明確に内容を伝えることができません。間接引用をする際には、引用文の背景にあるメッセージをしっかりつかみ、引用文を参照せずに書き換え文を作ってみて、元文と書き換えた文の意味が同じ内容となっているか読み比べてみる――という手順を経ることで、よりわかりやすい文章となり、盗用・剽窃を防ぐことができるようになるでしょう。…

論文の盗用・剽窃を避けるコツ-前編

研究論文を書く時、文献を集め、自説を裏付けるエビデンスを揃えるのに苦心される方が多いのではないでしょうか。既存の考えや価値観を参考にしつつ、的確な所見を加えることは大切ですが、その時、盗用や剽窃(ひょうせつ)の間違いを犯さないように注意しなければなりません。 盗用・剽窃とは、他人の文章や考え方を許可なく使用あるいは部分的に使用し、自分のものとして発表することです。意図的かどうかを問わず、適切な手続きを取らずに引用されたことをいい、自分自身の過去の論文等の利用も含みます。盗用・剽窃は、学術的かつ倫理的に重大なルール違反です。発覚すれば、論文の撤回や執筆者の信用失墜を招きかねません。 近年の学術出版界では、この盗用・剽窃が大きな問題となっており、盗用・剽窃が原因で論文が撤回されることが多くなっています。論文の投稿・発表に際して思わぬ問題を起こさないために、研究者は盗用・剽窃について、よく理解しておかなければなりません。 ■ 故意でなくとも……  国によっては、言葉の出所や考えのもとになった事実について、出典を明示することにこだわらないところもあります。しかし、学術界の世界的な倫理規範においては、適切な参考文献の表示は大前提です。すべての研究者は、この規範を順守しなければなりません。にも関わらず、盗用・剽窃が多数発生しているのはなぜなのでしょう。理由は「意図せぬ」盗用・剽窃です。特に、英語を母国語としない研究者が注意しなければいけないことがあります。自身の研究成果を英語で書き記す際、うまく表現できないと、ついつい参照論文の通りに書いてしまいがちではないでしょうか。剽窃の意図がなくとも、他の研究者が書いた文章をそのままコピーすれば剽窃にあたります。論文をチェックする編集者は、文法的に間違いの多い論文の中に、部分的に完璧な文章があると、それは剽窃である可能性が高いと見抜きます。 言語のハンディとは別の落とし穴もあります。IT技術の進歩により、情報入手が手軽になったことがあげられます。デジタル時代の今日、研究者はインターネット上で、他者の資料やデータを簡単に閲覧できるようになりました。オープンアクセスのプラットフォームをのぞけば、多種多様な研究論文にアクセスすることも可能です。これにより、デジタル化された文書から文章やデータをコピーすることが容易になり、検索した結果を「つい」借用することにつながりがちなのです。これも盗用・剽窃に当たります。 執筆した文章が「偶然」同じ表現となるような、偶発的な盗用・剽窃であったとしても、それが意図的でないことを証明することは困難です。研究者は疑いがかからないよう、初めから自衛手段を講じなければなりません。ここでは前後編にまたいで、いくつかの有効な手段と事例を紹介します。 ■ 盗用・剽窃対策5つのポイント  1 間接引用する ・参照文献を逐語的に引用せず、自分の言葉に置き換える。 ・自分の言葉に言い換えるために、参照文献の内容を十分理解することが大切。 ・参照文献の文章を部分的に切り抜き、それをつなぎ合わせるのも剽窃になるので、注意すること。 2 直接引用には引用符を 他者の論文から文章をそのまま使う時は、引用符を付けて引用すること。引用符の中の文章は、一言一句、元の文章そのままにする必要がある。 3 引用のルールを知る…

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(後編)

前編では、カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらが捕食ジャーナルに掲載された論文の「責任著者(corresponding author)」の所属国を調査した結果、最も多かったのがインド、次がアメリカであったことなどをお伝えしました。後編では、論文著者たちの捕食ジャーナルに対する認識と、捕食ジャーナルの特徴について見てみましょう。 モーハーらは、捕食ジャーナルで論文を発表した著者たちが所属する研究機関の責任者16人を選んで問い合わせのメールを送りました。「著者たちに警告した」、「対策を検討している」などと返信してきた研究機関もあれば、返信がなかったところやメールが戻ってきてしまって届かなかったところもありました。 また、彼らは著者87人にも直接メールを送ったところ、18人から回答を得られました。そのうち2人は、投稿するジャーナルが捕食ジャーナルである可能性を認識していたと答えました。4人はビールズ・リストの存在を知っていました。そして、3人が捕食ジャーナルでの採択以前に、ほかのジャーナルに原稿を投稿したことがあると答え、7人が、どのジャーナルに投稿するかについて何らかのガイダンスを受けたことがあると答えています。自分たちの研究が引用されたことがあると答えた著者も7人いました。 モーハーらは、捕食ジャーナルに論文を掲載することは「非倫理的である」と主張し、それらの問題点を「貧弱な査読と貧弱なアクセス」とまとめています。本連載でも伝えたように、適当に言葉を並べただけの無意味な原稿を投稿しても、捕食ジャーナルの編集部はそれを論文として採択してしまうことが広く知られています。また、そうした論文はパブメド(PubMed)などの論文データベースに収載されないことがあるので、見つけにくいことも指摘されています。 彼らは、捕食ジャーナルを通常のジャーナルと区別することは難しい、と指摘します。しかし一方で、彼らは以前に『BMCメディスン(BMC Medicine)』に投稿した論文で捕食ジャーナルの特徴を分析し、以下の13点にまとめたことがあります(彼らの箇条書きに筆者が加筆)。 1. その対象範囲には、生物医学的なトピックと並んで非生物医学的なテーマが含まれる。 2. そのウェブサイトにはスペルや文法のエラーがある。 3. 画像が歪んでいたり、ぼやけていたりする。未許可のものである可能性もある。 4. そのホームページは読者ではなく著者らをターゲットにした言語で書かれている。…

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(前編)

本連載では、どんなにひどい原稿でも、掲載料さえ払えば査読らしい査読なしで掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」について、何度も取り上げてきました。最近では、「フェイク・ジャーナル(fake journals)」と呼ばれることもあります。 捕食ジャーナルで研究成果を発表する者たちは、主としていわゆる開発途上国の医師や研究者だと思われてきました。実際のところ、そうした捕食ジャーナルに投稿される論文の著者がインドなどのアジアに集中することを明らかにした調査もあります。ただ筆者は「日本人も少なくないのではないか?」と思ってきました。 カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらは、そうした論文の共著者たちのなかでも、ジャーナル編集部や読者など外部との窓口役を果たす「責任著者(corresponding author)」の所属国に着目すると、インドの次に多かったのはアメリカであることなどを、『ネイチャー』への寄稿で明らかにしました。 この調査の対象となったのは、1907件の論文です。モーハーらは、捕食ジャーナルのリストとして知られ現在は閉鎖されている「ビールズ・リスト(Beall’s List)」などを参考にして、生物医学分野の捕食ジャーナルを発行している出版社の中から、1誌だけを発行している出版社41社と、複数誌を発行している51社を選びました。その上で、これらの出版社が発行するジャーナル計179誌に最近掲載された論文3702件から、純粋な生物医学研究と体系的レビュー(複数の論文のデータを統合して分析する研究)を抜き出したところ、1907件が残ったのです。 彼らの調査で、そうした論文では、主流のジャーナルに載った論文に比べて、ガイドラインが守られていない傾向があることが浮かび上がりました。たとえば、臨床試験を報告する論文では「登録情報」が書かれていないこと、体系的レビューでは「バイアス(偏り)」のある可能性が評価されていないこと、動物実験では「盲検化(ある動物が実験群であるか比較対照群であるかを実験者がわからないようにすること)」に関する情報が書かれていないこと、などが明らかになりました。 また、倫理委員会の承認を得ていることを明記した論文が、主流のジャーナルでは70%を上回る(ヒトを対象とした研究で70%以上、動物を対象とした研究で90%以上)のに対し、モーハーらが調査した捕食ジャーナルでは40%に留まりました。さらに、資金源を書いていない論文は、約4分の3に上りました。責任著者の所属国は、インド(27%)、アメリカ(15%)、ナイジェリア(5%)、イラン(4%)、日本(4%)など世界103カ国に広がることもわかりました。 モーハーの調査とは別に、シンクタンクである民主主義・経済学研究所(IDEA : Institute for Democracy…

捕食出版社、生涯教育にも進出

本連載では、掲載料さえ払えばどんなにひどい原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」や、登録料さえ払えば誰でも「講演者」として発表させてしまう「フェイク・カンファレンス(fake conference)」について書いたことがあります。とりわけカナダの『オタワサン』や『オタワシチズン』に寄稿する記者トム・スピアーズによる調査活動を紹介してきました。 スピアーズは、捕食ジャーナルの出版社として知られるインドのA社が倫理学分野のジャーナル(学術雑誌)を発行していることを知り、昨年秋、アリストテレスの文章を盗用したうえで、それに手を加えてつくったデタラメな原稿を投稿しました。その原稿はあっけなく論文として採択されてしまい、ジャーナルに掲載されることになりました−−掲載料さえ払えば。スピアーズはその経緯を暴露しました。 『オタワシチズン』(2017年6月1日付)にスピアーズが寄稿した記事によれば、その暴露によって、A社はその原稿の採択(受理)を撤回することを余儀なくされたといいます。スピアーズは、A社の弁護士からは「謝罪文を公表することを要求する」と警告され、そのジャーナルの編集委員からは「あなたの論文は執筆の基準に満たしてさえいないと我々は結論づけている」と忠告されたといいます。スピアーズの原稿は、査読を通ったはずなのですが…。 ある日、スピアーズは同僚から「同じ論文を繰り返し採択すると思う?」と尋ねられました。そこで彼は、同じ研究をA社が開催する免疫学の国際カンファレンスで発表するために投稿することにしました。ただし題名は医学っぽく変更しました。「免疫学における新しい倫理的な問題:感染症研究のボランタリティとケタランスの程度」と。「ボランタリティ(Voluntarity)」や「ケタランス(Ketterance)」という言葉は、スピアーズらがでっち上げたもののようです。確かに、辞書を引いても出てきません。 そして結果は……またもや採択だったようです。1499米ドルを払えば、テキサスで開催される国際カンファレンスで、ポスター発表できることになりました。本連載でもお伝えしたように、A社はスピアーズがでっち上げた「空飛ぶブタ」などについての研究を、国際カンファレンスでの講演として採択したこともあります。 スピアーズらは同じデタラメな研究内容を、老人病学の国際会議にも投稿していました。2日後の同じ『オタワシチズン』によると、やはりこれも採択されたそうです。しかもそのカンファレンスは、老人病学や看護学分野における生涯教育(continuing education)に関するものでした。 捕食ジャーナルを出版したり、フェイク・カンファレンスを開催したりする「捕食出版社(predatory publishers)」はこれまで、業績を求める若手研究者を主なターゲットにしてきたはずですが、「生涯教育」にも手を付け始めたということは、そのターゲットが拡大していることを意味する、とスピアーズは『オタワシチズン』で指摘します。 スピアーズはA社に説明を求めるメールを送ったのですが、これまでのところ返事はないようです。 A社はインドのハイデラバードに拠点を置き、700誌ものオンライン・ジャーナルを発行する企業です。最近、カナダの正当な学術出版社B社とC社を買収しました。同社のビジネスモデルをB社やC社も採用するのかが気になります。またA社は世界各地で年間1000件もの「国際カンファレンス」を開催しています。もちろん、日本でも。今年は主に大阪で、37もの国際カンファレンス(2017年6月時点)がA社によって開催される予定となっています。 見知らぬ外国企業から「発表募集(Call for…

臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開

臨床試験の結果の公開には2つの方法があります。1つはいうまでもなく、ジャーナル(学術雑誌)で論文として出版(publish)することです。もう1つは事前に臨床試験のデータベース「ClinicalTrials.gov」に登録し、その結果を報告(report)することです。 ClinicalTrials.govは、アメリカの国立衛生研究所の国立医学図書館(NLM)が運営する世界最大の臨床試験のデータベースで、臨床試験とその結果を登録することを奨励しています。現在、ClinicalTrials.govには世界170カ国以上から約20万件の臨床試験が登録されています。一方で、これまでの調査により、実施された臨床試験のうち、結果が出版されてたのは全体のわずか25〜50%、ときには終了後何年経っても出版されないままであること、多くの臨床試験の結果がすぐに報告されていないことなどが明らかにされています。 イェール大学医学部のハーラン・クルムホルス教授の研究チームは、2007年10月から2010年9月までにアメリカの主要な研究機関51カ所によって実施され、ClinicalTrials.govに登録されている臨床試験4,347件の結果のうち、過去2年間でどれだけ出版・報告されたかを調査しました。その結果、4,347件の臨床試験のうち、終了から2年以内に出版されたのはわずか29%(1245件)、ClinicalTrials.govに結果を報告されたのはわずか13%(547件)であることが明らかになりました。また、研究機関によって、臨床試験結果の公開の比率には、際立った差があることもわかりました。研究の開始から結果の公開までの平均時間には2倍の差があり、研究機関における公開率には3倍以上の差があることが判明したのです。 研究チームはこの結果を論文にまとめ、『英国医学ジャーナル(BMJ)』で報告しました。 研究終了から24カ月以内に公開された臨床試験の割合は、医学研究機関の間で16.2%(6/37)から55.3%(57/103)まで及んだ。研究終了から 24カ月以内に出版された臨床試験の割合は、医学研究機関の間で10.8%(4/37)から40.3%(31/77)に及んだ。一方、ClinicalTrials.govに報告された結果は、1.6%(2/122)から40.7%(72/177)に及んだ。 そのうえでチームはこう結論しています。 このような、タイムリーな出版や報告の欠落を修正するためには、新たなツールやメカニズムが必要とされる。このような欠落は研究活動を阻害し、エビデンス(根拠)に基づく臨床判断を損なうおそれがあるからである。 臨床試験の結果が公表されないことについてはずっと以前から問題になってきました。(日本語で手軽に読める論考としては、ベン・ゴールドエイカー著『悪の製薬』(忠平美幸ほか訳、青土社)の第1章「行方不明のデータ」などがあります。) 臨床試験は被験者を副作用などのリスクにさらして実施するものです。したがってその結果を公開しないことは、被験者や社会に対する責任を果たしていないことになります。何よりも、わかっているはずのことが公開されていないことは、患者や社会の利益を損ない、実害をもたらす可能性もあります。一刻も早い改善が望まれます。

研究成果の「誇張」は、プレスリリースにもある

研究 成果において、科学や医療に少し詳しい人であれば、新聞やテレビ、ネットメディアのニュースが正確ではなく、しばしば結果を「誇張」していることに気づいていら立ったという経験があるでしょう。その責任は誰にあるのでしょうか? 記者でしょうか? それとも科学者でしょうか? カーディフ大学の心理学者ペトロク・スンナーらは、2011年にイギリスの主要な大学20校が出した、生物医学や健康に関係する科学研究についてのプレスリリース462本と、そのもとになった査読付き研究 論文、そして全国紙の記事668件を分析しました。スンナーらは、「誇張」には3つのタイプがあることに注目しました。第1に、読者に対して行動を変えるよう助言(アドバイス)するもの、第2に、相関が見られるだけのデータにもとづいて因果関係があると主張するもの、第3に、動物実験での知見を人間についても推測するもの、です。 彼らがプレスリリースを査読付きジャーナルに掲載された研究論文と比較したところ、そのプレスリリースの40%には、誇張された「助言」が含まれていることがわかりました。また33%には誇張された「因果関係」が書かれていました。36%には「動物実験からの推測」が含まれていました。 そしてプレスリリースに誇張が含まれている場合には、ニュース記事にも誇張が含まれるという傾向があることもわかりました。プレスリリースに助言が含まれている場合、ニュース記事の58%に誇張が含まれていました。因果関係が含まれている場合には81%、動物実験からの推測が含まれている場合には86%の記事に誇張が含まれていました。一方、プレスリリースに誇張が含まれていない場合、記事に誇張が含まれているのは、助言については17%、因果関係については18%、動物実験からの推測については10%にとどまりました。 一方で、プレスリリースにおける誇張がニュースの理解を後押ししているという証拠はほとんどなかったといいます。また、プレスリリースにおける誇張と記事における誇張との間に「因果関係」が見出されたわけではない、ともいいます。彼らは調査結果をまとめ、2014年12月、『BMJ(英国医学ジャーナル)』に掲載された論文で下記のように指摘しています。 ニュースが誇張されていたり、センセーショナルだったり、警告的だったりすることで、メディアやジャーナリストを非難することがよくあるが、われわれの知見の核心は、調査で見つかった誇張のほとんどは最初からメディアで生じたわけではなく、研究者や彼らが所属する研究機関が作成したプレスリリースの文章にすでに存在していた、ということである。 有名な医師・研究者・コラムニストであり、『悪の製薬』(青土社)など邦訳された著書もあるベン・ゴールドベイカーは、同じ号の『BMJ』に寄せた論説で「プレスリリースは科学出版の一部である」と主張します。 ジャーナルはプレスリリースに対応しなければならないし、プレスリリース中の虚偽については、コメンタリーやレターを出す必要がある。学術論文に対するコメンタリーやレターと同じように。 薬や治療法へと発展する可能性のある研究は、報道のされ方次第では、人々の行動に影響をおよぼすことがあります。研究者はその責任をメディアに押し付けるのではなく、科学コミュニティの問題としてとらえる必要がある、ということでしょう。

論文のエラー訂正や撤回について統計学者が苦言

論文 のエラー訂正や撤回について、アラバマ大学の生物統計学者デーヴィッド・A・アリソン氏は苦言を呈しています。それは2014年夏、同氏がファーストフードを食べることが子どもの体重にどれだけ影響するかを評価した論文を読んでいたところ、ある数理モデルを応用したその分析は影響を10倍も過大評価していることに気づきました。肥満の専門家でもある同氏は、同僚らとともに問題点をまとめて、その論文が掲載されているジャーナルの編集部に書簡を送りました。数カ月後、書簡の主張は受け入れられ、その論文は撤回されたといいます。 アリソン氏らは、そのようなエラー(ミス、間違い)が自分の専門分野のほかの論文でもあるかどうか調べたところ、残念ながら多数を発見してしまい、そのうち25件については同様に著者またはジャーナル編集部に書簡を送ったといいます。彼らはそのほかにも10件以上のエラーを認識したといいますが、あまりに時間がかかってしまうので、中止せざるを得なかった、と『ネイチャー』誌に寄稿した論評で述べています。 すでにジャーナルに掲載された論文をあらためて精密に評価することを「掲載後査読(post-publication review)」といいます。アリソン氏らは「私たちが行なった掲載後査読のうち、あまりに多くのものが、実際には検死(post mortem)だった」と振り返ります。 アリソン氏らは、「よくあるエラー」が3つある、といいます。第一に「クラスター無作為化試験における研究デザインや分析の誤り」。第二に「メタアナリシス(メタ分析)における計算間違い」。第三に「不適切なベースライン比較」。より詳しくは、専門誌『肥満(Obesity)』に投稿中の論文で紹介されるとのことです。 科学というものは、基本的には「自己訂正(self-correction)」にもとづいて存在するものであるはずだが、科学出版業界は訂正に積極的でない、とアリソン氏らは苦言を呈します。彼らによれば「ある出版社は、掲載された論文の撤回を先導する著者には1万ドルを請求するつもりであると決めている」といいます。 アリソン氏らは、エラーが見つかった論文を修正したり撤回したりすることについて、現状では6点もの問題があることを挙げています。 1. 編集者たちがスピーディで適切なアクションを取ることができないか、それに積極的でないこと 2. 懸念の表明をどこに送るべきかがはっきりしないこと 3. 不適切なエラーを認めたジャーナルが論文の撤回を発表することに積極的でないこと…

研究論文が却下される10の理由(3)

本ブログでは、論文が却下される10の理由を考えていますが、本日はその第3回です。今回はよく見落としがちな点を2つあげてみました。 7. 研究結果と研究者の利害関係は? 研究の規模や影響力が大きくなればなるほど、いろいろな所から助成金が集まってきます。研究者として、主観や私的利益を廃し、限りなく論理的に研究をデザインし、結果を分析するのは当たり前のことです。しかし、たまたまその結果が、助成金を出してくれた会社に好意的な結果となった場合、ジャーナルの編集者や査読者の猜疑心をあおることになります。こうした問題は「助成金を出してくれた団体の会長が、 ある製薬会社の重役も兼任していた」など、助成金にはあまり関係のないところで人脈がつながっている場合でも同じです。 このような場合、論文内で「研究内容とその結果の分析を明確な説明・発表する」こと以外に、「研究の公平性を訴える」ことも重要なポイントとなります。その点を踏まえて、もう一度自分の論文を読み直してみてください。また、第三者に論文を校正してもらう機会がある場合は、事情を説明してから読んでもらうことをおすすめします。 研究者として、自負を持って論理的な研究を心がけている人ほど、このようなことをバカバカしいと思いがちです。しかし、不必要な疑いを回避するために利害関係を明示しないことは、逆に研究者として自殺行為となりかねます。利害関係はつねに明確に記しておく必要があります。 8. 投稿先のジャーナルの指針と編集委員の趣向 研究者は、最新の論文はいつも敏感にチェックしますが、それを掲載しているジャーナルそのものの目的や経営方針には無頓着になりがちです。しかし、いざ自分の論文を投稿するさいには、このことが重要になってきます。 論文を投稿するさいに「ジャーナルの指針を確認し、それが自分の論文に沿ったものかどうかを確認すること」というのは、よくあるアドバイスの1つです。それでも論文が却下された場合は? 実は、忘れられがちなことの1つに、編集委員たちの存在があります。つまり編集委員が代われば、その編集委員の好みが多少は投稿論文の選択に影響することも否めない、ということです。 査読者からのコメントが届いたら、まずジャーナルの指針とともに編集委員たちの略歴にも目を通しましょう。そうしてからコメントを読むと、査読者の指摘がより明確に理解できるかもしれません。

研究論文が却下される10の理由(2)

本ブログでは、論文が却下される10の理由を4回に分けて考えています。今回はその第2回。もう少しテクニカルな側面を考えてみたいと思います。 4. 統計があればいいというわけではない 専門分野によって差があるとはいえ、昨今、統計的な調査結果を使わない論文は少なくなってきました。統計的な調査結果がない論文は主観的だと思われる傾向があるからでしょう。しかし、統計的有意差がみられたからといって、論文の信用性が上がるわけではありません。逆に、本当はよい研究でも、不用意な統計の使い方によって信用性を失う場合もあり、それだけの理由で査読者から低い評価を受けることがあります。 統計的な調査結果を使用する場合は、使用の有無だけでなく、たとえば臨床系の研究であれば、被験者数や被験者のグループ分けに適した統計方法などを再検討してみてください。 5. 新しい研究論文が引用されていない 引用されている研究論文がすべて1900年代のものではありませんか? 有名な研究論文は古くなっても引用する価値がありますし、逆に引用しないことで信頼を失う可能性もあります。しかし、引用している研究論文がすべて10年も前のものでは、どんなによい研究でも、「この10年の間に何か重要な発見はなかったのか?」と編集者の不信感を煽ってしまうことになります。 直接関連した内容の論文が出版されていない場合、学会でのパネル発表や博士論文など、出版に至っていない研究でもかまいません。「私はいつもこの研究に関して最先端の情報を集めています」ということをアピールしましょう。 6. 仮説がない 研究者のなかには「仮説を立てること自体が、主観的に研究対象を見ていることになるのでは?」という意見もあります。しかし現実的には、編集者や査読者は数多くの論文を読まなくてはならないので、一目見ただけで「この人はどうしてこの研究を行ったのか?」がわからなければ、「わかりにくい論文」と考えて、後回し(または却下)することになります。 論文が却下される要因の1つとして、「どうしてこの研究を行ったのか?」と「その仮説を検証するために、この研究デザインがどうして最適なアプローチなのか?」が簡潔にまとめられていないことが考えられます。この2点を短い文で表現し直してみてください。それぞれを2〜3行でまとめることが望ましいです。