論文投稿の基礎知識

オープンアクセスと従来型の出版、どちらを選ぶか

多くの研究者は、研究発表の場といえば、長年にわたって学術界において一般的であった購読制のジャーナルを思い浮かべます。しかし、著者にとってのオープンアクセス(OA)出版の大きなメリットが知られるようになるにつれ、OAが急速に主流になりつつあります。 ふたつの出版形態には多くの共通点がありますが、その利点は明らかに異なります。どちらが自分に合っているかを判断するために、両方の出版スタイルについて見ていきましょう。 従来の学術出版とは 伝統的なジャーナルは、大学やその他の組織が出版物の購読料を支払い、それにより所属する人がアクセスして情報を閲覧できるものです。通常、大学などの図書館で雑誌の印刷版を探すか、大学や提携機関などを通じて電子版にアクセスします。従来の学術ジャーナルは長年にわたって学術界において唯一無二の存在であったため、現在でもオープンアクセス・ジャーナルよりも権威があると見なされることがあります。 オープンアクセス出版とは 購読制の出版モデルとは異なり、オープンアクセス・ジャーナルには、誰でも無料でアクセスできます。論文著者がOA出版に抱く最大の懸念は、伝統的なジャーナルでは読者の購読料で賄われる料金が、著者側の負担となることです。 両モデルの共通点は? 出版費用の負担という点以外では、OAジャーナルと従来の出版ジャーナルは、以下のような多くの共通点があります。 査読プロセス OA誌も従来のジャーナルも、同じ査読プロセスを採用しています。OA型・従来型に関わらず、定評のあるジャーナルは査読プロセスを明確に定義しており、査読者の名前や資格などの詳細な情報も開示しています。 ジャーナル・インパクト・ファクター(JIF) 従来の学術誌と同様に、OA出版物もインパクトファクター(IF)で評価されています。IFでジャーナルを相対的な重要性に応じてランク付けすることで、研究者はその出版物が自分の研究にどれだけ役に立つかを判断します。 倫理基準 OA誌も購読制学術誌も、利益相反、守秘義務、剽窃チェックなどの倫理に関わる明確な方針など、厳しい倫理基準に従うことが求められます。さらに、どちらのタイプのジャーナルも、出版倫理委員会(COPE)に加入できます。 品質管理…

オープンアクセスの費用はなぜ高い?論文掲載料(APC)の価値

膨大な時間を費やして学術論文を完成させ、研究を世界と共有するため、オープンアクセス(OA)誌で論文を公開しようとする際、論文掲載料(APC)の高さに疑問を持つかもしれません。 オープンアクセス出版に掲載料がかかる理由と、それがコストに見合うものかについての考え方について解説します。 オープンアクセスの費用はなぜ高い? OA出版の最大の特徴は、読者に無料で研究論文が公開されることです。 この出版形態は、ユーザーが定額料金を支払うか、各論文をダウンロードする際に料金を支払うことで論文にアクセスできる従来の方式とはまったく異なります。 OA方式であれ、従来の方式であれ、ジャーナルの出版費用は誰かが負担しなければなりません。オープンアクセスの場合、料金は読者ではなく著者が支払います。 論文の出版に関連する諸経費には、以下のような使途があります。 事務と運営 論文を投稿する際に支払う投稿料の一部は、ジャーナルの運営費に充てられます。 編集と校正 一流のジャーナルであれば、厳密な編集・校正プロセスを経て論文が掲載されます。投稿先が品質保証プロセスを実践しているジャーナルか事前に確認しましょう。 盗用・剽窃のチェック ほとんどのジャーナルの必須要件となっている剽窃チェック。投稿前にも剽窃チェックツールを使って自分で確認している著者がほとんどですが、ジャーナル側でも投稿された論文がオリジナルであり、引用が適切にされていることを確認します。 査読プロセスの管理 同じ分野の研究者から査読を受けていることが、出版後の論文の信頼と評価にとって不可欠です。出版社は、適正な査読者をアサインし査読プロセスの進行を管理しなくてはなりません。…

オープンアクセス・ジャーナルの種類と選び方

論文を書き終えたら、出版するジャーナルを選び、研究を世界の人と共有する時です。投稿先ジャーナルの選択肢を絞る際、次の点が重要です。完成した研究論文に、誰もがアクセスできるようにしたいか否か。もし無料公開するなら、オープンアクセス・ジャーナルを選びます。 オープンアクセス(OA)出版を選んだ論文は、ほとんどの場合、無料で一般公開されます。これは、従来のクローズドアクセス方式(購読型)のジャーナル出版とはまったく対照的です。 ここでは、それぞれの研究発信に適したOAジャーナルの見つけ方をご紹介します。 OAジャーナル早わかり オープンアクセス方式は、当初は斬新な方式でしたが、今では主流の出版形態となり、学術研究界では当たり前とされています。かつてはクローズドアクセス出版が主流で、読みたい記事は大学図書館などで読む必要がありました。OAは、基本的にアクセスできる人を限定しないので、より多くの読者に素早く情報を届けることができます。 また、OAジャーナルはオンラインでの公開のため、雑誌の同じ号に掲載されるすべての論文の準備が整うまで出版できない紙媒体のジャーナルよりもはるかに迅速な出版が可能です。つまり、クローズドアクセス型の出版物よりも早く研究成果を読者に届けられるです。 オープンアクセス・ジャーナルの種類 オープンアクセス・ジャーナルが普及するにつれ、以下のようないくつかのタイプのOA出版が発展してきました。 メガジャーナル:最小限の論文掲載費(article processing fee)で全文無料公開が可能。査読付きのジャーナルで、扱う分野も広範囲にわたり、短期間で出版できる。 - ハイブリッド・ジャーナル:有料の購読サービスを提供し続ける一方で、著者が論文をオープンアクセスにするかを選択できる。OAを選択した場合、論文の掲載料を支払うケースが多い。 - 遅延型オープンアクセス:公開制限期間中は論文へのアクセスを有料とし、その後サイト上で無料公開する。…

よく練られた研究論文のアウトラインの書き方

研究論文を書き出そうとしているところですか?研究結果を得るための実験に数ヶ月を費やした後、研究室主催者(PI : Principal Investigator)や指導教員から、学術雑誌(ジャーナル)に投稿するための論文を書き始めるように言われたかもしれません。研究論文の書き方について研究仲間や先輩と話して助言をもらっても、どう書き始めればよいのか、なかなか考えはまとまらないものです。 研究論文を書くことは、研究者の多くが頭を悩ませる、手間と時間を要する作業です。いずれは論文を書かなければならないと分っていながら、追い込まれるまで手を付けず、先延ばしにしがちです。そして、インターネットで書き方を検索したり、先輩にアドバイスをもらったりしながら、何度も書き直しつつ何とか論文を書きあげるのです。研究論文を書き上げて発表することは、研究者にとって自分の研究や結果を他者に伝え、理解してもらうためでもありますが、簡単ではありません。 今回は、論文を効率的に書くための助けとなるアウトライン(概要)の作成方法についてまとめてみました。 研究活動において論文を出版する目的は、学術研究を促進し、研究への支援(助成金)を獲得することでもありますが、論文執筆の主たる目的は、自分の仮説と研究データを科学コミュニティに示し、コミュニティが特定の分野における理解を深めるのに寄与することです。研究論文とは、研究の仮説から、プロトコル、方法、結果、結論、そして考察までを網羅する研究プロセスの正式な記録なのです。 だからこそ、しっかりとした構成に沿って書き進める必要があり、そのためにはアウトラインを作成することが重要です。 研究論文のアウトラインとは 研究論文のアウトライン(概要)は、学術研究論文を書く際の基礎になります。アウトラインは、IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)形式に準じて組み立てるのが一般的ですが、論文の種類によって異なることもあります。アウトラインは、読者に対して論文の内容を簡潔に伝えられるよう、以下の項目で組み立てます。 1.…

論文を書籍として出版してみよう-9つのステップ紹介

論文が出来ていればそのまま書籍として出版できると思われがちですが、そんな簡単なものではありません。論文と、書籍として出版するための原稿では、構想から出版に至る過程でさまざまな違いがあります。特定の読者に向けて書かれる論文は、多くの点で書籍とは異なるのです。特定の研究分野に関する自分の論文は、より多くの読者にも興味を持ってもらえるかもしれない―という場合には、論文を書籍として出版することを検討してみるのも良いでしょう。 この記事では、論文を書籍として出版するための手順について解説します。 論文と書籍原稿の違い まず、論文と書籍として出版するのを前提に書かれる原稿の違いを見てみましょう。論文は、研究者が何年もかけて執筆するものです。行った研究について書かれた論文は、学術雑誌(ジャーナル)に掲載・公開されます。しかし、そうした論文の中には、より多くの読者に向けた書籍として出版されるものもあります。論文を書くにも書籍用の原稿を書くにも努力と時間が必要ですし、同じぐらいの文章量を書くことになるとしても、この2つはいくつかの点で異なっています。 論文は常に疑問や仮説から書き出しますが、書籍は冒頭の文章で読者の関心をつかむ必要があります。ざっくりと言えば、論文は問いかけから始め、書籍は答えから始めるということです。 別の大きな違いは読者です。論文の内容はもちろん、形式や言葉遣いは、学術関係者が読むことを前提に書かれています。一方の書籍は、より多くの読者に届けることを意図して、学術界関係者以外の読者にも理解しやすいよう、より分りやすい言葉遣いや形式で書かれます。 役割も異なります。論文は研究活動の成果を報告するものですが、書籍は研究とその研究の社会への影響について読者に関心を持ってもらうための媒体と言えます。 論文は書籍として出版するには 論文と書籍の構成が同じになる必要はありません。そもそも論文と書籍では読者が異なるので、書籍の執筆目的と同様に書き方を変える必要があるからです。書籍を特定のコース(学科)の参考図書にする意図で作成する場合は、そのコースの講義摘要を考慮し、取り上げる題材を決めます。論文は、題材のほとんどを網羅しているかもしれませんが、既存の参考図書や資料とのギャップを埋める必要はあるでしょう。 さらに、ひとつのコースのためだけでなく、焦点が異なる複数のコースの参考図書として書籍を作成したいと考えるならば、読者のさまざまな関心を考慮する必要があります。 ほとんどの論文には、相互参照(クロスリファレンス)、脚注、参考文献一覧が付いています。論文を書籍として出版する際には、専門的すぎる学術用語を使わないようにするとともに、一般的な読者向けに文献一覧を簡略化しておきます。 論文を書籍として出版する際に考慮すべきこと • 書籍を作成する目的と解決を目指す問題 •…

Paper Mill:学術出版に新たな論文不正

Paper Millという言葉を耳にしたことはありますか?ここで話題にするのは、製紙工場ではなく、もっとタチの悪いものです。学術出版におけるさまざまな不正行為が摘発されていますが、「論文工場」とも揶揄される「論文代筆業者(Paper Mill)」による論文の量産に対する疑惑が浮上しています。 学術研究の出版履歴は、研究者としてのキャリアアップ、テニュア(終身雇用資格)獲得、さらに将来の研究プロジェクトへの資金調達にも多大な影響を及ぼします。少しでも多くの論文を出版しなければとのプレッシャーが、研究者を架空の研究論文を購入して出版するといった不正な行動に追い込んでしまうことがあります。データの改ざん、画像操作、査読のでっち上げなどが学術的な不正行為と見なされていますが、このような不正行為の数は増加する一方で、学術出版における大きな問題となっています。研究コミュニティは研究の公正さを維持するべく対策や警戒を強化していますが、研究不正や学術的な不正行為は止まらず、Nature Publishingグループ、Wiley、Taylor & Francisなどの大手出版社で受理された論文からも不正が発覚している状況です。そして、盗用、研究倫理問題、オーサーシップ(著者)に関する問題などに加わったのが、論文代筆業者による組織的な論文の量産という新たな不正です。学術コミュニティは既に対策に乗り出しています。 論文代筆業者とは? 論文代筆と言っても、問題なのは単なる論文の代筆・ゴーストライティングのレベルではなく、依頼に応じて科学論文を作成・販売する違法組織のことです。キャリアアップのため、あるいは昇進の条件を満たすために論文の出版数を必要とする研究者が、このような業者の作成した論文を購入しているようです。このサービスは純粋な商業目的ですので、研究者はすぐに投稿できる状態に仕上がった論文のオーサーシップを手に入れるのに高額なお金を支払います。他にも、実際に研究を行わず、苦労することなく国際的な学術雑誌(ジャーナル)に論文を発表したいと考える研究者もこのサービスの利用者となり得ます。これではもはや「研究」論文ではないのでは……と思ったら、中には実在の研究室を持ち、実際に実験を行い、データを取り、画像を撮影することまでやっている論文代筆業者までいるそうです。となると、「論文工場」という呼び方が的を射ていると言えます。しかも、これらの業者が生成したデータを購入して、他の実験に利用している著者もいるということです。まるで、工場から部品を購入するようなものです。 代筆業者が作成した論文の特徴 代筆業者が作成した論文には、仮説、実験戦略、本文および構成における類似、さらに画像の複製・重複利用、あるいは不正利用といった点で特有の特徴があります。ひとつひとつ見てみましょう。 1.代筆業者が作成した論文は、形式に準じて書かれているため、あまり他では見られない文章の類似性があります。また、ほとんど同じ表現が使われていたり、洗練されているとは言い難い使われ方をしていたりすることもあります。これらを念頭に、次の2つの例文を見比べてみてください。 A. This study…

論文の公表は焦らず慎重に

近年、学術論文の公開スピードが以前よりも速まっています。学術出版における電子化や、オープンアクセスの拡大、プレプリントサーバーの利用などに後押しされ、研究者は新しい研究結果を少しでも早く公開しようとしています。重要な成果は、研究者間で共有されたり、一般公開されて共有されたりしていますが、特に新型コロナウイルス感染症に関する研究では、一刻も早く研究結果を発表することがこの感染症の治療・感染防止に役立つと同時に、研究の重複を防いで効率化を図ることにもつながるため、公開が急がれています。 研究論文の出版を急ぎたい理由は人それぞれでしょう。短期間で出版リストを充実させるチャンスと捉える研究者や、現状では感染症関連研究の成果により多くの注目が集まっているからという研究者もいるでしょう。どんな理由であれ、研究者は迅速に論文を公表する方法を模索しています。 少しでも早く論文を公開するためにはどうすればいいのか? 多くの研究者は、査読を経ずに論文を公開することができるプレプリントサーバーを利用しています。BioRxivのようなプレプリントサーバーには、論文の公開および論文へのアクセス(閲覧)が無料で、かつ迅速に公開できるというメリットがありますが、一方でここに掲載される論文は査読を経ていないので、「悪質な科学研究(bad science)」を拡散する可能性が捨てきれないというデメリットもあります。 コロナ禍において、認知度の高い学術雑誌(ジャーナル)のいくつかは、投稿された論文が出版までに要する時間を短縮する取り組みを進めてきました。同時に、査読プロセスがあまり厳しくないために評価が低めのジャーナルが、少しでも早く論文を公開したいと急ぐ研究者を引きつけているのも事実です。 研究論文の公開においてスピードを優先すべきなのでしょうか。あるいは、従来同様、研究者は高品質な研究出版を目指して努力すべきなのでしょうか? もちろん、研究成果を迅速に共有することはよいことです。しかし、研究の質を犠牲にしてまで公開を急ぐことはすべきではありません。 速さか品質か 学術論文の発表を研究の質よりも優先すべきでない理由はたくさんあります。このことは、プレプリントサーバーへの投稿でも、ジャーナルへの投稿でも同じです。 まず、仕上がった論文を見直すために十分な時間をとることが極めて重要です。この点は学術出版における肝心要であり、「良質な科学研究(good science)」のためには不可欠なことです。どんなときでも悪質な科学は良くないのですが、特にパンデミック下のような非常事態ではさらに悪い影響を及ぼすことが懸念されます。誤った結果や紛らわしい結果が、人の健康に直接的な害を及ぼしかねないからです。 研究者は、適切な査読プロセスを有する評価の確定したジャーナルに自分の研究論文を投稿すべきです。プレプリントサーバーに公開する場合でも、研究結果を自分と共同研究者で注意深く確認してから投稿すべきです。 やってはダメなことは 研究成果を少しでも早く公開したいという気持ちは理解できます。しかし、研究成果の質に妥協すべきではありません。特に、コロナ関連の研究は急ぎすぎているのではないかとの指摘にもあるように、慎重な対応が求められています。ここでは、やってはダメなことを確認しておきましょう。 急ぎすぎは禁物 良質な科学研究のアイデアをまとめ、研究を実行し、得られた結果を論文にまとめるには数ヶ月あるいは数年を要することが一般的です。しかし最近では、このプロセスをたった数日で済ませてしまう研究者がいます。このような場合、重視しているのは(論文を公開するという)目的であり、科学研究のプロセスではありません。彼らは、刺激的でニュースになりやすい結果を見つけることに注力し、科学研究におけるプロセスをおざなりにしがちです。また、急ぎすぎると、サンプルサイズが少ない、結果を選択的に報告するといった研究の方法で問題を起こしてしまう可能性も捨てきれません。…

否定的な結果をジャーナルに投稿する/しない?

「失敗は成功の元」と言われますが、多くの技術研究は、初期段階での失敗を乗り越えて進められてきました。曖昧さのない仮説に基づいてよく考えられた実験であっても、結論がでなかったり、否定的な結果になったりすることがあります。にもかかわらず、研究コミュニティは肯定的な結果、つまり成功事例だけを快く受け入れがちです。Daniele Fanelliという研究者が、さまざまな分野の論文を掲載している学術雑誌(ジャーナル)の4000以上の論文を分析した結果、肯定的な結果が出版されている傾向が強く示されました。これでは、科学的客観性がリスクにさらされているとも言えます。良い結果でなければ出版できないとなれば、科学者にとって論文出版がさらなるプレッシャーとなってしまうでしょう。さらに、肯定的な結果を示した論文を掲載しようとすることが、結果の偽造、情報操作、捏造といった非倫理的な行動を誘発してしまう可能性すら否定できません。 否定的な結果を公表することは、肯定的な結果を出することに比べると、出版費用や原稿を作成するのにかかる労力と時間などで割に合わない気がする――費用対効果が低いと見えるかもしれません。論文として出版すれば引用され、人の目に触れる可能性は高まりますが、一般的には研究に厳密さが欠如していたために否定的な結果になったと見られることが、研究者に結果の公表をためらわせるひとつの要因でもあります。肯定的な結果を発表する研究者の方が有能だというのが誤解とわかっていても、否定的な結果を発表するのを躊躇してしまう気持ちは否定できません。とはいえ、否定的な結果にも価値を見いだすことが、研究者が未開拓の研究に踏み込むことを奨励することにつながるはずです。 否定的な結果を出版することも大切 どのような研究結果においても重要な要素が3つあります。それは、再現性(reproducibility)、頑健性(robustness)、普及可能性(translatability)です。論文が出版されれば、世界中の研究者が、そこから新たな仮説を立てるきっかけとなることもあります。よって、妥協のない、信頼できる科学研究を進めるためには肯定的・否定的な結果ともに公表されることが大切なのです。さらに、否定的な結果を公開することは、状況に応じて研究計画を修正するのにも役立ちます。研究資材、時間、資金そして研究者の労力を無駄に費やすことを防ぐことができるだけでなく、サンプルサイズ、処理配分、あるいは報告ミスといった研究における失敗要因を特定することもできるでしょう。 なぜ否定的な結果になるのか 否定的な結果となるには理由があるはずです。では、なぜ否定的な結果になるのか?ありがちな理由を挙げてみます。 元々の仮説に不確かな部分があった。間違った/不正確な前提に基づいた仮説を立ててしまった。 研究デザインに不具合があった、使用した試薬に間違いがあった、または不適切な統計手法を利用したなど、技術的なミスがあった。 研究者が、出版済の論文に書かれていた発見について確認できなかった。 否定的な結果を公表しないことへの懸念 否定的な結果が上述の理由の1つ目と2つ目に起因する場合には、出版論文としての質が確保できません。通常、研究者は仮説を立てる段階、あるいは誤った資材を使用した段階でミスに気付き、研究/実験を中断します。なので、否定的な結果ながら投稿に辿り着く場合には、残る3つ目の理由、既に出版されていた研究結果とは一致しない結果が得られたものがあります。特に、影響力の高い、高インパクトジャーナルに掲載された論文に記された発見と異なる結果となったときには、その結果を公表することに不安を感じるでしょう。しかし、高インパクトジャーナルに出版された論文であっても、他の研究者が学ぶ機会を提供していることには変わりはありませんし、実験を繰り返した結果、否定的な結果となる可能性がないとも言えません。後から考えれば、否定的な結果を公表することが不必要な資金提供や科学の進歩を遅らせるのを防ぐことにもなるでしょう。出版界に内在する肯定的な結果のみを出版するというバイアスは、科学的偽造データを増やすことにつながりかねないと懸念されます。 否定的な結果を出版するための基準とは 研究者が否定的な結果をジャーナルに出版する場合には。十分な注意が必要です。掲載するデータは、厳しいデータ手法に則って分析し、否定的な結果を統計的に証明するものであるべきです。実験手順は、何度試しても同じ結果が得られること、技術的なミスではないことを示す必要があります。さらに、研究の方法と生データは論文を読んだ誰もが入手できるようにしておかなければなりません。そして最も大切なことは、高インパクトを得られる可能性が高いもののみを公表するようにすることです。可能であれば、同僚研究者、自分と同等のスキルを有する研究者、該当分野の専門家に共同研究者となってもらい、協力して実験を行うとよいでしょう。そうすることによって、間違いやすい点や研究デザインのバイアスを拾い出すのに役立つでしょう。共同研究者の確認を経ても否定的な結果となることが確認された場合には、より結果に確信が持てる上、高インパクトジャーナルで受理されるチャンスも高まります。 否定的な結果をフォローするための新しい取り組みも始まっています。Center…

ハイブリッドOAはダブルディッピングか

読者から購読料を徴収する従来の定期購読式の学術雑誌(ジャーナル)とは異なる出版形態である、オープンアクセス(OA)ジャーナルが広まっています。OAジャーナルは、購読料をとらずに掲載に必要なコストを回収するため、論文掲載料(Article Processing Charge : APC)を論文執筆者から徴収しています。OAジャーナルの新たな類型として存在を増しているのが ハイブリッド・ジャーナル 。これは、定期購読式のジャーナルが一部のコンテンツを無料で公開する、あるいは著者が投稿論文を出版する形式として従来の定期購読式かOAのいずれかを選択するという形態です。ハイブリッド・ジャーナルの場合、論文をOAで公開するコストについては執筆者が追加料金を支払うものが多くなっています。 ハイブリッド・ジャーナルは出版料の二重取りか ハイブリッド・ジャーナルでは出版料の二重取りが発生するケースがあることが議論されています。 執筆者から論文をOAにするための掲載料を徴収 さらに大学図書館などの購読者から、OAジャーナルの購読料を徴収 このケースでは、執筆者と購読者両方から料金をとっていることになるため、二重取りになります。つまり、出版社は著者や研究助成機関に論文掲載料を課金する一方で、大学図書館や読者にも購読料を課金する――「ダブルディッピング」とも言われる二重払い問題です。これに対する出版社の反論は、OA論文の掲載料相当分については購読料を割引しているというもの。しかし、この割引が適正に行われていることを確かめるのは、実際には難しいのが現状です。というのは、大学をはじめとする大規模な研究機関は多数のジャーナルを購読しており、多くの場合はそれらを「一括」する特別料金で購読契約しているのです。この場合、ひとつのジャーナルの料金を正確に特定することが可能でしょうか?大学図書館などが年間購読料を支払っている場合、ハイブリッド・ジャーナルの中でOAを希望した著者にAPCを課すことは二重取りになってしまうのではないでしょうか? ハイブリッド・ジャーナルは高いのか 論文をハイブリッド・ジャーナルでOA化する場合、出版社は著者に対しても論文掲載料を請求します。その額はタイトルや出版社によって違いがありますが、一般的には1論文あたりUS$1,500~5,200とも言われ、フルOA(すべての論文をOAで公開)にする場合の掲載料に比べてはるかに高いと指摘されています。さらに、投稿した論文が複数の一括契約に含まれている場合、大学図書館などは知らないうちに該当の論文に対して二重払いをしたことになりかねません。ダブルディッピングは余計なコスト負担を強いるものであり、研究成果へのアクセスにも影響を及ぼすことにつながっているのです。 著者に追加費用の負担を課すだけでなく、ハイブリッドOA論文に対する読者のアクセスが十分に保証されていないケースがあることも問題視されています。過去には、論文が完全に公開されるまでに数ケ月から一年かかるものもありました。一定期間経過すれば掲載論文を無料でアクセス可能にするジャーナルもあることも考えあわせると、公開までに時間を要するハイブリッド・ジャーナルへの論文掲載は利用者にとって「無駄なコスト」を要するものです。…

論文の自主撤回は研究者の経歴にマイナスか?

自分の研究の間違いに気づいた時、沈みこむような思いを感じた経験はありますか?例えば、実験を続けてきたサンプルのラベルに付け間違いが起こってしまい、細胞株が想定していたものとは異なっていたとしたら・・・・・・既に論文にして発表した実験の結論は、正しくなかったことになります。まったく想定外のこととは言え、自分の研究成果が学術界を意図せずミスリードしてしまうだけでなく、自分の実験を再現するために他の研究者の時間と労力を無駄にさせてしまうことになることでしょう。さらなる悪影響が生じる前に、論文を自主的に撤回しますか?論文を撤回すると、誤った研究結果を発表したことが学術界の知るところとなるほか、研究者としての経歴にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 論文撤回の影響 研究結果を発表・報告することを目的に出版された論文を修正する方法には、訂正と撤回があります。訂正はあくまでも修正のレベルであり、論文に記された実験の結果の信頼性が疑われるような深刻な間違いなどが見つかった場合には、撤回となります。過去における論文の撤回の多くは研究者による不正に伴うものであり、学術雑誌(ジャーナル)の編集者が撤回を行います。一方、研究者が自分の間違いや重大な問題に気づき、自ら編集者に論文撤回を申請することもあります。自分の非を認めて自主的に論文を撤回することが歓迎されたとしても、不名誉な印象はつきまといます。今後、撤回論文の研究者が発表する論文を他の研究者は信頼して引用してくれるでしょうか? 研究資金の獲得に影響する恐れはあるのでしょうか?学術界で職を得ることができるでしょうか?論文撤回が否定的に見られる以上、不安は山積みです。 有難いことに学術界は、意図しない誤りによる撤回には寛容な姿勢を示す傾向があります。撤回を通じて研究者は誤りから学ぶことができ、同時に、ジャーナルは不適切な論文を除外することができるので、関係者にとっては有益です。従って、長期的に見れば、自主撤回を推奨することは学術界のためになるのです。 研究履歴に「論文を自主撤回した」記録が残ることで疑念を持たれるとしても、逆に自分の長所に変えてしまうこともできます。つまり、自主撤回は、その研究論文の執筆者が次のような資質を備えていると言えるのです。 誠実であること 自分を省みることができ(自省的)、自分の研究も批判的にみることができること 自分の考えに対し、批判を聞く耳があること 自分の誤りから学べること 自主撤回は推奨されるべき 発表した論文の間違いを執筆者が認めて撤回しなければ、その誤りは修正されないままとなってしまいます。そう考えれば、論文の撤回は推奨されてしかるべきことでしょう。とはいえ、研究不正を隠すため、あるいは不正行為に基づく研究を発表したとの疑惑を回避するために自主撤回することも考えられます。一、二度程度であれば自主撤回を悪用して不正を切り抜ける不誠実な執筆者がいるかもしれませんが、度重なれば学術界から疑念を持たれることになります。 不適切な研究論文が淘汰されることは望ましいことです。そして、学術誌は確実に自主撤回の悪用を最小限に抑える仕組みを考慮しつつ撤回に関する方針を作成することでしょう。学術界にとって自主撤回は確かな利益となりえるのです。 自主撤回するには ほとんどの著者は論文の撤回を自ら率先して行いたいと思いません。それでも間違いに気づいたら、学術雑誌の定める撤回のガイドラインに従って申請を行いましょう。ガイドラインとは、学術出版に従事する人たちが一定の質を確保し、その分野での一貫性を保持することに資するものです。学術雑誌により多少の違いはありますが、全般的な考え方は同じです。撤回の場合の手順は次の通りとなります。 共著者がいれば、その全員に、間違いと自主撤回の意向を伝える。…