ジャーナル選択

オープンアクセス出版の論文掲載料(APC)に関する5つの懸念

学術研究の成果をインターネット上で公開し、誰もが読めるようにするオープンアクセス(OA)出版は、知識を広く知らしめるものです。OA出版は科学研究の世界における革新であり、関係者間のとイノベーションを促進することで、知識へのアクセスに対する障壁を取り除くことを目的としています。しかし、課題も残されています。従来の購読モデルでは、論文へのアクセスが制限され、講読コストは高いため、利用の可能性も限られていました。OA出版は、無制限に研究成果へのアクセスを認めることで、このハードルの高さに対処しており、多様なバックグラウンドを持つ研究者が恩恵を受け、科学的知識の発展に貢献できるようになっています。学術論文をオープンアクセス化することは、科学コミュニティにとっていくつかの利点があります。 OA出版のメリットが認識されている一方で、高額な論文掲載料(Article Processing Charges; APC)を理由に論文のOA出版を控える研究者もいます。エナゴアカデミーが実施したOAに関する調査によると、57%の研究者がAPCを徴収するOAプラットフォームでの出版を控えていることが明らかになりました。 オープンアクセス出版のさまざまなモデル OA出版は、ジャーナルや出版社が論文をオープンアクセス化する際の処理方法から、大きく3つのモデルに分けられます。 ダイヤモンドOA:ダイヤモンドOA、またはプラチナOAと呼ばれるオープンアクセス出版モデル。一般的には、大学や研究機関などが運営資金を提供しているので、読者は購読費・ライセンス費用を支払うことなく、出版後すぐに論文にアクセスすることができる。 ゴールドOA:ゴールドOAとは、論文掲載後、すべての人が論文の最終版にアクセスできるようになるモデル。通常、論文を投稿した著者か所属機関が、論文が受理された段階で学術雑誌(ジャーナル)に論文掲載料を支払う。 グリーンOA/セルフ・アーカイブ:グリーンOAは、一定の制限期間経過後、原稿をリポジトリで公開することで、誰でもアクセスできるようにするモデル。このときの論文の著作権は、出版社あるいは学会などの団体にある。ほとんどのOAジャーナルおよびハイブリッド・ジャーナルはグリーンOAモデルを採用している。 APCとは APCとは、論文を掲載する際の処理費用、論文掲載料です。著者は、自分の研究論文を誰もが利用できるようにするため、ジャーナルや出版社にAPCを支払わなければなりません。ジャーナル制作費の負担を読者から著者に転嫁することで、読者は購読料を支払うことなく論文を読むことが可能になります。 科学出版におけるAPCの役割 OA出版を維持するため、多くのジャーナルや出版社は、出版プロセスにかかる費用を賄うべく著者にAPCの支払いを求めます。この料金は、ジャーナルの評判、論文の長さ、補足資料の有無などの、さまざまな要因によって異なるだけでなく、ジャーナルや書籍といった出版物ごとにも異なることもあります。APCは代替的な収入源としての役割を持つ一方で、OAの本来の目的と相反して障壁となる可能性が捨てきれません。 APCを支払うタイミング…

同じジャーナルに2本以上の論文を投稿するのはNG?

とある学術雑誌(ジャーナル)編集部の話しです。編集部にとって、次々に新しい論文が投稿され、しかもそれぞれが優れているというのは嬉しいことです。ところが、ある著者がよく書けている論文を同時に4本投稿してきた場合、編集部としては、好意的に受け止めながらも、同じ著者の論文を1つの号にまとめて掲載するかどうかは悩ましいところです。編集部は悩んだ結果、まず2本の論文を掲載して、残りは後日掲載することとしました。著者はこの対応に満足し、さらなる研究を続けています。 学術出版界には、研究者なら誰もが恐れる "Publish-or-Perish(出版か死か)"と言われるほどの混乱とプレッシャーが存在しています。だからと言って、研究者は、すべての研究論文の投稿先を1つのジャーナルに絞るべきでしょうか?特定のジャーナルに絞って論文を投稿することは、学術的なキャリアに影響を与えるのでしょうか?投稿先を絞ることにメリットはあるのでしょうか?次の論文を投稿する前に、投稿先の問題について考えてみましょう。 複数論文の投稿はリジェクトを避けるための安易な手段か 若い研究者たちは、学術出版界で自分のキャリアを切り開こうとしています。研究論文の投稿先の選択肢はたくさんある中、ジャーナルを1誌に絞るべきでしょうか?この質問に対する答えは、研究分野、投稿先候補のジャーナル、個人の好みなど、多くの要因によって異なってきます。すべての研究論文を1つのジャーナルに掲載すれば、その雑誌の評判を高め、学術界における知名度を上げることにつながるかもしれません。とはいえ、その雑誌のインパクトファクターや読者層を考慮することも重要です。自分の研究を幅広い読者に届けたいのであれば、複数のジャーナルで出版するのが最善の選択かもしれません。最終的に、どこで出版するかは、安心感や出版しやすさだけでなく、自分自身や研究にとって何がベストかを考えた上で決めるべきでしょう。 同一著者からの複数の投稿を編集者はどのように考えるか 最近の動向として見られる同一著者が同じジャーナルに複数の論文を投稿する傾向について、ある有名な雑誌の編集部が話し合いを行いました。編集部の中でも複数論文の投稿が雑誌の品質低下を懸念する社員もいれば、単に著者が投稿システムをうまく利用しているにすぎないと考える社員もいて、意見は分かれました。 そこで編集者たちは、ジャーナルの読者にアンケートを取り、この問題に対する意見を聞くことにしました。その結果、大多数の読者が同一著者の複数の投稿によってジャーナルの質が低下していると感じていることが判明しました。そこで編集部は著者が1つのジャーナルに複数の同時投稿をすることを禁止するポリシーを導入することにしました。この決断は、この特定のジャーナルの読者で顕著に現れた結果の可能性もありますし、編集者や読者によっても意見は異なるでしょう。結局のところ、論文を発表するということは、読者に知識を広めることが重要な目的であり、出版することだけが目的ではないのです。 1つのジャーナルに複数の論文を投稿する理由 著者が複数の論文を1つのジャーナルに投稿する理由を挙げてみます。「数打ちゃ当たる」ではないですが、多数の論文を投稿すれば、1つぐらいは受理(アクセプト)されると期待するかもしれません。あるいは、投稿する際の手間を減らしたいという思惑もあるかもしれません。理由はどうあれ、複数の論文を投稿されるジャーナル側にすれば面倒な側面もあり、好意的に受け取られるとは限りません。著者自身が投稿先を熟考していないような論文を、編集者が読むのに時間を費やすべきだとは思わないでしょう。1つのジャーナルに複数の論文を投稿しようと考えている人は、もう一度、そのジャーナルが最適の投稿先なのかを考えてみてください。投稿先を絞ることが出版につながることよりも、むしろ出版のチャンスをつぶしてしまう可能性が高いかもしれません。 ただし、場合によっては、著者が編集者とすでに良好な関係を築いていて、自分の論文に公正な審査が行われると確信できることもあります。こういった場合は、複数の論文を投稿することで、論文が受理される可能性を高めることができる場合もあるでしょう。もちろん、著者がひとつのジャーナルに複数の論文を投稿する場合、投稿プロセスが1回で済むので、時間と労力の節約になります。複数の論文を1つのジャーナルに投稿することには利点もありますが、それでも各論文はそれぞれの良し悪しによって審査されることを心に留めておくことが大切です。そのため、論文を投稿する前に、それぞれの論文が最高の品質であることを確認しておく必要があります。 特定のジャーナルに複数の論文を投稿することは著者の評判に影響するのか ケンブリッジ大学の研究チームが実施した最近の研究によって、著者が特定のジャーナルにのみ論文が掲載されている場合、研究者としての評判に影響することがわかりました。1つのジャーナルにしか発表していない研究者は、複数のジャーナルに発表している研究者よりも、他の研究者から論文を引用される可能性が低いことが明らかになっています。この研究の筆頭著者であるアリス・サリバン博士は、この調査結果は、1つのジャーナルにしか論文を発表しない研究者は、複数のジャーナルに論文を発表する人に比べて研究者としてのステータスが高い人物ではないという「シグナル」を自ら他の研究者に送っていることになると述べています。さらにサリバン博士は、この調査結果はジャーナルの評価方法にも影響を与える可能性があり、1つのジャーナルにしか発表しない研究者に対する「評価の偏り(バイアス)」につながる可能性があると述べています。ただし、1つの投稿先にしか発表しないことと、他の研究者からの論文の引用が少ないことの間には直接的な因果関係が見いだせなかったので、論文の投稿先を限定することが、直接的に研究者としての評価にマイナスの影響を与えるかどうかは、定かではありません。 著者が投稿した論文をジャーナルにリジェクトされてしまうことは学術出版ではよくあることです。著者はリジェクトされた論文を別のジャーナルに投稿し、それでも駄目ならまた別のジャーナルに―というように投稿先を変えていくことがあります。一方で、1つのジャーナルに複数の論文を投稿することもあります。なぜ、このようなことをするのでしょうか? 論文を出版する、つまりジャーナルに論文が掲載されることが、研究者としての評判に大きな影響を与えることは間違いありません。結局のところ、同じジャーナルに何度も掲載されれば、その雑誌の読者の目に留まるようになるのです。特定のジャーナルに投稿することは悪いことではありませんが、そのジャーナルにしか投稿していない場合は問題です。融通が利かないと思われる可能性がありますし、他のジャーナルでは出版できないのではないかと疑問視される可能性もあります。限られたジャーナルで発表するやり方でも確かに評価は上がりますが、研究者として幅広い能力があることを示すためにも、他のジャーナルでも論文を発表することが重要なのです。…

電子ジャーナルか紙媒体か – 学術雑誌の特徴比較

1665年に英国王立協会が英語圏最古の学術雑誌(ジャーナル)『Philosophical Transactions』を刊行して以降、多種多様なジャーナルが刊行されています。研究成果をジャーナルで発表することは、研究者としてのキャリアを進めるうえで大きな役割を果たします。ジャーナルは、信頼に裏付けられた学術的知見を広く伝え、論文を入手しやすくさせるための重要な手段です。現在、多くのジャーナルのオンライン化が進み、電子媒体(またはデジタル版)と紙媒体(冊子体)という2つの形式で提供されるようになっています。 紙媒体のジャーナルを閲覧する際は、統合型図書館システム(ILS)が使われますが、近年、ジャーナルを含む資料の電子化が進んでいるのに伴い、ILS以外の電子情報資源管理システム(ERMS)などのシステムを組み合わせて使うことも増えています。紙媒体のジャーナルを電子化した「電子ジャーナル」はオンラインで公開されているので、ネット環境があれば図書館に行かなくても出版された論文や文献、調査資料などを閲覧することが可能です。紙媒体が主流だったときには、印刷されたものやCD-ROMなどでしか読めなかった海外の論文などもオンラインで読むことが可能となっています。この記事では、電子ジャーナルの特徴とその強みを中心に、紙媒体との違いを挙げていきます。 1.アクセシビリティ(論文の閲覧・入手しやすさ) 紙媒体のジャーナルはそのジャーナルを所蔵している図書館で、あるいは購読して閲覧するのが一般的ですが、いつも図書館を利用できるとも限らず、高額な学術ジャーナルを個人で複数購読することも困難です。しかも図書館の蔵書数が少なければ、多くの人が同時に閲覧することはできません。さらに、紙媒体の場合は出版社から図書館や購読者に郵送されてくるため、読者が閲覧できるまでには時間を要してしまいます。その点、電子ジャーナルはオンラインに公開されれば即時に閲覧が可能です。しかも、いつでもどこからでも、複数の読者が同時にアクセスできる点は大きなメリットです。ただし、電子ジャーナルにもオープンアクセス型と定期購読型があり、それによってアクセシビリティには差が生じます。自分の読みたい、あるいは投稿したいジャーナルがどのタイプなのかは確認しておきましょう。 2.引用数 オープンアクセス(OA)の電子ジャーナルの多くは無料で閲覧できるので、その引用数は紙媒体の引用数よりも多くなります。ここ何年かの間に、OAジャーナルに掲載された論文の引用数が、OAではないジャーナルあるいは紙媒体のジャーナルに掲載された論文に比べて高くなることが分かってきました。そして、論文の引用数が増えればジャーナルのインパクトファクターも上がっていくことになります。 3.検索エンジン最適化(SEO)対策 検索エンジン最適化(SEO)とは、特定のキーワードで検索された際に検索結果ページの上位に表示されるようにする手法です。つまり、適切なキーワードを挿入するなどといったSEO対策が施されていれば、オンラインで発表した論文が上位に表示され、より多くの読者に見つけられやすくすることができるのです。論文を広く読んでもらうためには重要な役割を果たすものなので、著者向けのSEOガイドや論文を見つけやすくするためのヒントなどの情報を参考にすると良いでしょう。 4.ハイパーリンクの挿入による情報提供 紙媒体の場合には、巻末に引用文献の一覧を掲載したり、脚注に補足情報を記載したりしますが、電子ジャーナルの場合には文中にハイパーリンクを貼ることで、資料の出典や記載内容に関連する情報を簡単に提供することができます。しかし文中に埋め込まれたリンクは大変便利な反面、読者を間違った方向へ導き、何を読んでいるのか分からなくさせてしまう恐れがあることには留意すべきです。 ハイパーリンクの挿入以外にも電子ジャーナルには、類似のドメインを持つ論文を他のリンクに付けたり、動画を挿入したりすることはもちろん、デジタル広告やその他のクリック可能なコンテンツを入れ込むことも可能です。このように紙媒体ではまったく考えられなかったことが電子ジャーナルでは可能です。 5.原稿のフォーマット 紙媒体と電子媒体のどちらに論文原稿を投稿するのでも標準的な書式(フォーマット)に準じて準備する必要があります。印刷費用のかかる紙媒体では、、電子ジャーナルよりも厳しい字数制限が設けられていることがあります。これは、投稿論文に割り当てることができるスペースの制約によるものですが、字数制限に従わなければ修正を求められたりすることもあるでしょう。電子ジャーナルの場合、掲載論文はPDFまたはHTML形式で公開されます。PDF形式の場合は、紙面で読むのと変わらないイメージになります。いずれの媒体においても、フォント、デザイン、記載文章、ページレイアウト、外観(ページの体裁の美しさ)、文章のレイアウトなどは書式規定に従って作成します。 6.引用文献リストのスタイル…

オープンアクセス・メガジャーナルの魅力とリスク

インターネットを介してだれもが自由にアクセスすることのできる学術誌(ジャーナル)であるオープンアクセスジャーナルは、伝統的な購読型の学術ジャーナルに比較して、読み手には無料で研究成果にアクセスできるというメリットがあります。また、著者側にも、幅広い読者に研究成果に触れてもらうことができるというメリットがあることから、オープンアクセスジャーナルの果たす役割は大きいと考えられています。 このオープンアクセスジャーナルは、オンラインという特徴から、掲載論文数や刊行頻度に決まりがなく、掲載論文数が増大した結果、大量の論文を掲載する「オープンアクセス・メガジャーナル」の出現につながりました。このメガジャーナルとは、論文掲載においてどのような特徴があるのでしょうか。 ■ オープンアクセス・メガジャーナルの特徴 メガジャーナルの特徴としては、主に以下の4点があげられます。 ・査読の対象範囲が限定的 多くの場合、メガジャーナルでは科学的な妥当性の確認など最低限の査読を行います。研究内容が新しいか、重要か、といった評価は行いません。 ・扱う分野が広範囲 メガジャーナルでは、伝統的な学術ジャーナルと異なり、特定の学問分野や領域に特化せず、広く掲載します。 ・比較的安価なAPC 伝統的な学術雑誌と比べて、大量の論文を扱うため、論文掲載料(Article Processing Charges:APC)を低く抑えることができます。 ・短期間での出版 査読範囲が限定的であることから、掲載までに必要な時間が短いとされています。 メガジャーナルに掲載されることは、著者にとって投稿してから短期間で掲載でき、かつ、多数の幅広い読者に見てもらえる可能性が広がるという点で魅力的といえるでしょう。…

今、人気のオープンアクセスジャーナルは

出版界の オープンアクセス 化は、学術研究の知名度と影響力を高めると同時に、学術界でタイムリーに知識を広めることに役立っています。2015年に国際STM出版社協会が発表した報告書『The STM Rreport』によると、2014年には、英語で書かれている査読付き学術ジャーナルは28000誌以上、英語以外の言語で書かれている査読付き学術ジャーナルは6400誌以上ありました。そして、オープンアクセスジャーナルのディレクトリを提供するサイトDOAJ(Directory of Open Access Journals)上のオープンアクセスジャーナルの数も、増加の一途をたどっています。123におよぶ国の論文が掲載されており、英語で書かれているのが7245誌、英語以外の言語で書かれているのが2845誌。学術誌のオープンアクセス化が英語圏以外の国々にも急速に進んでいることは明らかです。 このようにオープンアクセスジャーナルの数が増えてくると、それぞれのジャーナルの性質や影響力を多面的に比較・評価することが重要になってきます。そのための指標として、最も一般的に使用されてきたのはImpact Factorですが、研究者はSJR(SCImago Journal Rank)も参考にして、自身の研究分野に最適なジャーナルを選択しています。ここでは、主な分野ごとによく引用されるオープンアクセスジャーナルを、SJRの指標に基づきリストアップしてみました(下図)。 上の図には、2016年のSJRに掲載された3780誌の中から引用スコアの高かった代表的なオープンアクセスジャーナルの名前と、それぞれの分野におけるオープンアクセス論文の割合「オープンアクセス・アウトプット(OA Output)」を示しています。このOA…

ジャーナル選択を支援する新たなツール誕生!

近年の出版界における紙から電子媒体への急速な移行は、学術ジャーナルの世界にも、かつてない変化をもたらしています。多くの大学関係者、特に若手研究者は、オンライン化で急拡大したジャーナルの選択肢に圧倒されがちです。「自分の論文をよく読んでもらうにはどのジャーナルに掲載すればいいのか」――。これは研究者にとって死活問題であり、オンライン化の進行が、問題の深刻さに拍車をかけています。 ■ 捕食出版社の跳梁跋扈 研究者を悩ませるのはオンライン化だけではありません。最近では、とんでもない「インチキ出版社」の登場が、学術界で問題視されています。研究者は苦労して仕上げた論文を、できる限り近い専門分野の、かつ研究成果や努力の重要さを理解してくれる学術ジャーナルに掲載したいものです。掲載誌を選択するにあたって重要なのは、投稿すべきジャーナルの質です。しかし、価値ある新しいジャーナルが刊行される一方で、「捕食ジャーナル」と呼ばれる悪質なジャーナルが出現してきているのです。 利益のみを追求し、倫理違反など気にも留めない出版社とそれらが刊行するジャーナルは「捕食出版社」、「捕食ジャーナル」と称されます。捕食出版社は「タイムリーな刊行」などを誘い文句に大量のメールを送りつけ、論文投稿のプレッシャーに追われる無防備な研究者を釣り上げては、捕食ジャーナルへの論文掲載料を巻き上げるのです。この過程に、まともな査読プロセスや編集体制などは存在しません。 ある調査によると、捕食出版社による論文掲載は、抽出した613誌だけでも、2010年から2014年までの期間に6万本から42万本と7倍にも増加しました。「悪貨は良貨を駆逐する」とは、16世紀に英国のトーマス・グレシャムが指摘した経済学の法則です。「名目上の価値が等しく、事実上の価値が異なる貨幣が同時に流通すると、良貨はしまいこまれて市場から姿を消し、悪化だけが流通する」(出典:故事ことわざ辞典)ことから、悪がはびこると善が廃れるとの意味もあるそうです。捕食ジャーナルの出現と勢力拡大を放置しておいては、まともな論文の価値が損なわれ、適切な評価がされなくなってしまいます。学術研究の停滞にまで発展しかねない問題です。 ■ 捕食ジャーナルに対抗する新たな動き とはいえ、すべてのジャーナルをチェックし、その中に潜む捕食ジャーナルを見つけ出すのは困難と言わざるを得ません。ある算定によると、2014年には8000誌もの捕食ジャーナルが展開されていたと推測されており、研究者は自衛手段を講じる必要に迫られています。 このような状況下で生まれたのが、“Think.Check.Submit.”というツールです。主要出版社と業界団体によって2015年に立ち上げられたこのサイトは、研究者たちに論文掲載先に関する具体的な情報を提供して、ガイド役を務めることをめざしています。特に注力しているのが、研究者に簡便なツールを提供してジャーナル選択のプロセスの簡素化を図り、論文に適し、かつ十分に信頼できるジャーナルを選べるようにすることです。 Think.Check.Submitが提供するツールは無料な上、使いやすく設計されています。第1段階では、研究者に投稿先のジャーナルが信頼できるものであるか、自分の研究分野に即したものであるかを「Think(考え)」させます。第2段階では、研究者が確認すべき実質的な「Check(チェック)」リストに誘導します。ここでの設問は「あなた、あるいはあなたの同僚は、このジャーナルを知っていましたか?」あるいは「このジャーナルの編集委員会は正当だと思いますか?」など。有益な判断材料となる個々の設問に回答しながら考えることで、論文掲載候補から捕食ジャーナルを振るい落としていきます。チェックリストの各項目の確認が済んだ段階で、論文の「Submit(提出)」に進める仕組みになっています。 重要なのは、Think.Check.Submitは決して、特定のジャーナルや執筆者を推薦するものではないということです。このサイトは、研究者が成果のさらなる発展とキャリア形成に役立つ論文の掲載先を、自ら選別できるようになることをめざしているのです。 ■ 適切なジャーナル選択がもたらすもの Think.Check.Submitはジャーナル出版コンサルタント会社のTBI Communicationsによって運営されています。研究者は同社が集める膨大な情報を一か所で入手できることで、直接的な恩恵を受けられます。また、このツールがネット上で利用可能なことにより、英語を母語としていない若手研究者や、定評ある研究資料へのフルアクセスができない環境にいる研究者にも、大きな便益をもたらしているのです。しかし、その反面、このような研究者こそ捕食ジャーナルの格好の餌食となりがちなのも事実です。 時と共に学術界全体の意識が向上しており、捕食ジャーナルに対抗する取り組みへの関心が高まっています。こうした取り組みが浸透すれば、出版社やジャーナルを扱う図書館側も恩恵を得ることができるでしょう。捕食ジャーナルへの対抗という意味だけでなく、正当な出版社と研究者をつなぐ役割を果たすことも期待できます。 つまり研究者の意識が高まり、投稿先ジャーナルの選択において注意深くなることは、捕食ジャーナルを排除し、より真っ当なジャーナルおよび出版社を存続させることになり、結果として社会および長期的な政策決定における利益となるのです。…

相対引用率(RCR)は新たな研究評価の指標となり得るか?

学術ジャーナルに掲載されたみずからの論文が、どのような評価を受けるのか。研究者なら誰もがやきもきすることではないでしょうか。現状の評価システムではそれを正しく測定することはできないと考える向きも少なくありません。そんな中、学術界を変えるかもしれない新たな評価指標が、注目を集めています。 ■ 現状の評価システムが抱える問題 昨今、政府機関の奨学金や連邦補助金の審査においても、査読委員会は研究成果の評価に数理的なアプローチを用いるようになってきました。最もシンプルなアプローチは、論文の筆頭著者および共同著者の被引用数を見ることです。加えて、その論文が掲載されたジャーナルのインパクト・ファクター(掲載論文が特定の期間にどれだけ引用されたかを見る指標)やh指数(h-index:被引用数と論文数のバランスで相対的な貢献度を示す指標)*1も、重要な指標としてあげられます。 学術ジャーナルのインパクト・ファクターとは年度ごとに計測される尺度であり、そのジャーナルの平均被引用数に基づきます。多くの場合、これがジャーナルのその分野での重要性を示します。一般的には、インパクト・ファクターが高ければ高いほどそのジャーナルは重要度が高いと見なされます。一方のh指標とはジャーナルの審査ではなく、執筆者それぞれの生産性と影響力の尺度です。h指標は、対象となる学者の最も引用数の多い論文と他の公刊物への被引用数から算出されます。 これらの指標は広く用いられていますが、学術界ではそれぞれの指標に対し、まだまだ不十分さを感じています。まず第1に、シンプルな被引用数だけでは、数字が個々の論文の価値を十分に反映できないという問題です。第2に、インパクト・ファクターは研究者の資金獲得や雇用の機会を左右するのにもかかわらず、ジャーナルの特殊性に縛られがちで、学際的・脱領域的な成果としてはとても限られた分析しかできません。第3に、h指標は個々の論文に重きを置くことをめざしている反面、論文執筆年数の短い若手研究者に不利に働くことが多いと言われています。 このような問題を抱えるがゆえ、多種多様で膨大な数の対象研究者・論文を適正に評価するためには、もっと効果的な評価基準が必要だ、との叫びが絶えません。情報の大量化と研究分野の特殊化・細分化が進むにつれ、個別の分野内での研究者の貢献度を評価するための新たなパフォーマンス測定指標が必要とされてきました。 ■ 相対引用率(Relative Citation Ratio: RCR)の導入 そこに登場したのが、相対引用率(Relative Citation Ratio: RCR)です。これは、米国の国立衛生研究所(NIH)の科学者グループが開発した新しいアルゴリズムです。RCRは、評価対象の論文を審査する際に、その論文が引用された場において同様に引用された他の論文もチェックします。この作業によって、対象論文の被引用数に対する分野の正規化を行い、論文の影響度を測定するというものです。つまり、ある執筆者が他の執筆者の論文を引用する場合、これによってその論文が関連付けられ、研究審査をする責任者などに対し有用な追加情報を提供することになります。NIHではこのRCRを重要な助成管理ツールとして利用しており、毎年100万本以上もの報告が提出されるバイオメディカル分野の研究を支援する機関でも、これを導入する動きが広がりつつあります。この動きは分野を超えて広がると予想されています。 ■ RCRの算出方法…

CiteScoreは有用な測定ツールか?

学術出版大手のエルゼビアが2016年12月、CiteScore™ (サイトスコア) という学術ジャーナルのための新たな評価指標の提供を開始し、話題となっています。これは、ジャーナルに掲載された論文がどのぐらい引用されたか(被引用件数)を示す指標で、研究者にとって自分の論文の影響力を測る目安になるだけでなく、評価にもつながる重要なものです。 ジャーナルの評価指標としてはClarivate Analyticsが提供する「インパクトファクター」が有名ですが(かつてトムソン・ロイターが運営)、そこにサイトスコアというライバルが登場し、インパクトファクターに取って代わることをめざしているのです。 ■ ジャーナル評価指標はなぜ重要か ジャーナル評価指標とは、ジャーナルに掲載された論文の一つひとつが他の論文にどれだけ引用されたかを分析した数値です。この情報は、どのジャーナルを購読するかを決める図書館司書、どのような記事が多くの読者を獲得できるかを見極めねばならないジャーナル編集者、そして論文こそが最も重要な業績となる執筆者自身にとっても、どのジャーナルに投稿するかを決める際にたいへん参考になるものです。 ■ サイトスコアとインパクトファクターの違い サイトスコアもインパクトファクターも、出版された論文の被引用数の平均値を示すのは同じですが、算出方法などに多少の違いがあります。 エルゼビアのプレスリリース によれば、サイトスコアは、世界最大級の抄録・引用文献データベースScopusに追加されたサービスで、これにより、学術コミュニティは5,000を超える出版社のジャーナルの包括的な評価指標に無料でアクセスすることが可能になりました。サイトスコア評価算出の根拠となるScopusには、あらゆる分野の出版社の2万2,000誌以上のジャーナル、5,200万件以上の文献が収録されており、各ジャーナルのサイトスコアは無料で公開されています。サイトスコアの特徴は、論文やレビューのみならず、カンファレンスペーパー、書簡、論説などジャーナル本体以外の引用もカウントすることです。サイトスコアの算出方法は、対象年において引用された回数を、その対象年に先立つ3年間に出版されScopusに収録された文献数で割るというものです。 算出方法(例) 2015年のCiteScoreは、2012、2013、2014年に出版された文献が2015年に引用された回数を、2012、2013、2014年に出版されScopusに収録されている文献数で割ったものです。 (出所:ELSEVIER: CiteScore)…

プレプリントを論文の「最終版」に!?

本連載「生命科学分野は「プレプリント」を導入すべき?」でも以前にお伝えしたように、「プレプリント(preprint)」という習慣が学術界に根づき始めています。 プレプリントとは、ジャーナル(学術雑誌)に論文として掲載されることを目的に書かれた原稿を、完成段階で査読の前にインターネット上のサーバーにアップした論文のことをいいます。プレプリントを登録するというこの習慣は物理学分野から始まり、1991年に設立された「arXiv.org」がプレプリント・サーバーの先駆けとして有名です。2013年には、生物医学分野を専門とする「bioRxiv」も設立されました。 この習慣は、あくまでもよりスピーディな情報交換のために始まったものなので、研究者は同じ原稿をジャーナルに投稿し、その原稿が査読を受け、論文としてジャーナルに掲載されることを目指す、ということが前提のはずです。 しかし最近、一部の研究者たちが、プレプリントを最終版とみなし、ジャーナルに投稿するつもりはないと発言して波紋を呼びました。そのことを『ネイチャー』(2017年1月20日号)が伝えています。 2017年1月12日、カリフォルニア大学デービス校の進化遺伝学者グラハム・クープは、Twitterで、bioRxivに投稿したプレプリントの1つは、それが「最終版」で、「公表(publish)」するつもりはない、と述べました。 その論文は、「遺伝的ヒッチハイク」と呼ばれるプロセスについて、2015年に公表されたある研究を批判するものです。 クープはこの論文をジャーナルに投稿せず、このプレプリントを「最終版」とする理由として、この論文は別の論文への応答であり、オリジナルの研究ではないからだと説明しています。しかし、もう1つの理由は「プレプリントが研究者によってどのように認識されているか」を知りたかったからだと書いています。 現行の査読システムにおいては、著者が原稿をジャーナルに投稿し、査読者がその原稿の問題点を指摘、つまり査読します。査読者の指摘に応じて著者は原稿を修正して再投稿し、査読者を納得させることができたら、その原稿は論文として受理(accept)されて出版(公表:publish)」されます。しかしながら、過激な論客のなかには、この査読というシステムは非科学的であり(本連載「査読の歴史 − 査読を科学的なものにしよう!」を参照)、オンライン・ジャーナルクラブ「パブピア(PubPeer)」や、PubMedの掲載記事に対してコメントして共有する「パブメドコモンズ(PubMed Commons)」といった情報交換サイトを通じた出版後査読(post-publication peer review)のほうが有益であると主張する人もいます(本連載「査読 システムに限界、基準劣化のおそれ」を参照)。 シカゴ大学の遺伝学者ヴィンセント・リンチは、クープの提起に応じて、「私の見解ではプレプリントはプリントと同じ(Preprint=print…

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは?

ジャーナル(学術雑誌)の影響力(インパクト)を評価する指標として、「インパクトファク ター」が広く知られています。本誌は以前、このインパクトファクターには多くの問題があると指摘されていることを紹介したことがあります。 インパクトファクターとは、簡単にいえば、そのジャーナルに掲載された論文それぞれが過去2年間に引用された回数の平均値です。たとえば、2015年の『ネイチャー(Nature)』のインパクトファクターは41.456です。『サイエンス(Science)』は33.661、『セル(cell)』は32.242です。 12月6日、学術出版の大手エルゼビア社は、「サイトスコア(CiteScore)」という新しい指標を提供し始めたことを発表しました。 かつてはトムソン・ロイター社、現在はクラリベイト・アナリティクス社が提供するインパクトファクターは、約1万1000誌ものジャーナルをランキングしてきましたが、サイトスコアは、その倍の約2万2000誌を網羅しているといいます。 ただ、サイトスコアが意味することや計算の方法は インパクトファクター と似ており、基本的には引用された回数です。サイトスコアでは、1本の論文が過去3年間に引用された回数の平均値を示します。 エルゼビア社は、このサイトスコアを「ジャーナルの影響力について、より包括的で、より透明性が高く、より最新の見通しをご提供する新しい標準」だと紹介しています。 サイトスコアの最も大きな特徴は、いわゆる研究論文だけでなく、「社説(Editorial)」や「編集者への手紙(Letters to the Editor)」、「訂正(Correction/Retraction)」、「ニュース」など、引用可能な記事すべてを数えていることです。「これらは学者からはあまり引用されていないので、平均を下げる」と『ネイチャー・ニュース』は指摘します。周知の通り、『ネイチャー』や『サイエンス』といったトップジャーナルには、研究論文以外の記事が大量に掲載されています。これらが点数に大きく影響するのです。たとえば医学における「トップジャーナル」として知られる『ランセット』は、インパクトファクターでは44点で、全体の4位ですが、サイトスコアでは、わずか7.7点に落ちてしまい、200位以下になってしまいます。 同誌は「このような違いは、出版社の行動に大きな影響を与える可能性がある」とも指摘します。つまりサイトスコアが普及すれば、出版社のなかには、研究論文以外の記事を掲載することをやめたり、ウェブサイトやほかの出版物に掲載したりするようになるかもしれない、ということです。 『サイエンス』の編集長は、自分たちはそうした「非研究コンテンツ」に誇りを持っており、被引用数にのみもとづく指標は、それらを「過小評価するだけでしょう」と同誌にコメントしています。…